ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
103 / 345
第一章:領主一年目

ザーラが見たドラゴネット

しおりを挟む
「町があるのに……ものすごく整っているのに……何もないですね。不思議です。でもお城があります」
「エクセンと比べると、色々と違いがあるだろう」

 ザーラはエクセンを出たことがなかったらしいのであの町しか知らないそうだが、パッと見ただけでも違いはいくらでもある。俺だって作り始めたときは違和感があったが、何もない場所にそれなりの町を作ろうとすると、こうするしかなかった。

 普通なら人が少しずつ集まって家を建て、周りを開墾し、そして集落の近くに店などが増え、というように徐々に外へ外へと広がる。だがドラゴネットはまず中央から東西南北にまっすぐ道を作り、そこを軸にして家や農地をまとめて用意したから、そこだけ見ると非常に整っている。だがそれ以外がない。

「この広場を中心にして、見たら分かると思うがあちらが農地だ。この道沿いには数が少ないが店がある。南側は職人街だ」
「それなら宿屋は広場の南側の角がいいと思います」
「やはりそちらか」
「はい。あまり町の入り口に近いと食材の買い出しに手間がかかりますし、宿泊客としても、泊まって町の雰囲気を知るなら真ん中あたりが分かりやすくていいと思います。買い込むのも楽でしょう」

 白鳥亭も町の中心にあった。エクセンには門前宿はなかったな。宿屋はもう一軒あったように思う。

「これはお客様から聞いたことですが、大きな町なら並んで入るのに時間がかかって疲れるので、その場合は門前に宿がある方がありがたいそうです。そんなに並ぶのですか?」
「ああ、五万人も一〇万人も暮らす町なら、町に入るために商人の馬車が列を作る。入るために金が必要だし、場合によっては荷物を調べることもある。貴族はそのあたりの手続きが免除されるが、そうでなければ一時間も二時間も待つこともある」
「そうなのですね。私は自分では見たことがありませんので」
「この町でそれを見ることはないだろう、当分はな」

 六〇〇人程度の町に何十人も商人が来ることはない。だがいずれはたくさんの人を呼び込むために、今のうちにしっかりと町を作ることが大切だと思っている。

「ところで、あれは何を掘っているのですか? かなり広いですが」
「ああ、あれは運河を掘っているところだ。この町は周りを堀が囲んでいて、そこから水を引いて船で物や人を運ぶことになる予定だ」

 カレンが大まかに掘って、岸壁は石を積んで固めている。底は軽く魔法で固めるだけだ。

「すごく広いで——あ、爆発した」
「……やったか。少し待っていてくれ、直してくる」
「私も行きます」

 広場から南に向かったあたりの作業現場で派手に土が散らばっていた。カレンが頭から土を被っている。怪我はなさそうだ。

「カレン、大丈夫か?」
「ごめんなさい。怪我はないけど、ちょっと調節を間違えた」
「怪我がなければいい。工夫こうふたちに怪我はいないか?」
「俺たちは大丈夫っす」

 普通なら爆発の中心にいたカレンが大変なことになるだろうが、カレンは頑丈だ。この仮の姿だが、あくまで見た目だけの話なので、頑丈さは竜と変わらない。

 竜の鱗は剥がれると剣でも簡単には傷が付かないくらい硬いが、生えている間は少しくらいの硬さになっている。さすがに生えている鱗に切りつけたりしないが、それでもそう簡単には折れも割れもしない。まあそれくらいカレンは頑丈だ。

 頑丈なら何をしてもいいわけでもないので、妊娠してからはある程度は行動を制限している。多少は体を動かさないと落ち着かないそうだから運河を掘ることは許可しているが、不用意に飛び跳ねたりしないようにだけは言っている。羽を出して飛ぶのは問題ない。

「あれ? エルマー様、娘さんができてたんですね」
「なあ、フリッツ。俺を何歳いくつだと思ってるんだ?」
「いや、麦が一〇日で育つんだから、エルマー様が蒔けば一か月あれば育つかもと思って」
「それもそうか……と言うわけがないだろう。俺は気にしないが、言った相手が他の貴族なら不敬で首を刎ねられるぞ」
「へい、気をつけます」

 ザーラは赤い癖毛をしているから、俺と兄妹きょうだいに見えるかもしれないが、いきなり父娘おやこに、されるとは思わなかった。

「あれ? そう言えば麦が……」

 ザーラが麦畑に気付いたようだ。

「ああ、この町は麦がおよそ一〇日で育つ。だから月に二回収穫することになっている」
「月に二回?」
「ああ、蒔いてから一〇日で育つ。フリッツ、今で五回目だったか?」
「蒔いたのは九月に二回、一〇月に二回、それで今ですね。年内に全部で八回いけるかどうか」
「全部で八回?」

 何を言われているのか分かっていない顔だ。それが普通だろう。嬉々として八回とか言っているが、みんな最初のころに戸惑っていたのが嘘のようだ。

「ところで、娘さんでないならどなたで?」
「ああ、とりあえずここにいる者たちには先に紹介する。お隣エクセンにある白鳥亭の娘のザーラだ」
「あっ、はい、ザーラといいます。よろしくお願いします」
「広場の南に食事もできる宿屋を作ることになるから、その準備のために来てくれることになった」
「結局呼んできたのね」
「どちらかと言えば、親父さんに押しつけられた感じだな」
「母は『娘をよろしくお願いします』と言っていました」
「その話はいい。それよりもまた一軒建ててもらうことになるから、途中でそちらに少し人を回してくれるか?」
「分かりました。親方たちに伝えておきます」



◆ ◆ ◆



「中も本当にお城なのですね」

 ザーラの感想に笑いそうになる。巨大な城の中に入ったら実は張りぼてで、中にあるは小さな小屋だった、というのは笑い話としては面白い。

 彼女は隣の領地から来てもらった客人ということになるので、来客棟に泊まってもらうことになる。世話役の女中を付け、とりあえず部屋に入ってもらうことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない -

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
25歳の春、転生者クルシュは祖国を出奔する。 彼の前世はしがない書店経営者。バトル漫画を何よりも愛する、どこにでもいる最強厨おじさんだった。 幼い頃の夢はスーパーヒーロー。おじさんは転生した今でも最強になりたかった。 その夢を叶えるために、クルシュは大陸最大の都キョウを訪れる。 キョウではちょうど、大陸最強の戦士を決める竜将大会が開かれていた。 クルシュは剣を教わったこともないシロウトだったが、大会に出場することを決める。 常識的に考えれば、未経験者が勝ち上がれるはずがない。 だがクルシュは信じていた。今からでも最強の座を狙えると。 事実、彼の肉体は千を超える不活性スキルが眠る、最強の男となりうる器だった。 スタートに出遅れた、絶対に夢を諦めないおじさんの常勝伝説が始まる。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

処理中です...