ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
97 / 345
第一章:領主一年目

さらなる発覚

しおりを挟む
「ありません」
「私もですっ」
「何がだ?」
「アレです」
「毎月のアレですっ」
「毎月のアレ……アレ? そうなのか⁉」

 開口一番何がないのかと思ったが、エルザとアルマから、月のものが来ないと報告があった。予定日からしばらく経ってもないと。

「やりました! これでお母さんです!」
「頑張って育てますっ!」
「二人とも、よかったわね」
「本当によかった。俺もほっとした」

 やはりあの薬が効いたんだろう。子供を作ることについてはあまり考えていなかったが、まさか俺に病気なり何なりがあるとは思ってもみなかった。もしカレンと出会っていなくて、そのせいでクラースとも知り合っていなかったら、例えエルザを妻として迎えていても子供ができなかったわけだ。カサンドラのところに絶対妊娠できる薬があるが、それを使っても無理だった可能性はある。

 カレンが竜の姿に戻れなくなってから一か月ほどになるが、まだ姿は変えられない。やはり子供ができていると考えていいだろう。ちなみにカレンにはそもそも月のものはないそうだ。

「こういう言い方もどうかと思うが、カレンはちょっとやそっとでは怪我もしないだろう。だが二人はそうではないだろう。とりあえずしばらくは無茶はしないように」
「分かりました。安全第一で生活します」
「カサンドラさんに相談しますねっ」
「ああ、頼ってやってくれ」

 この町は王都と違って健康なやつが多いから、あまり健康相談などはないそうだ。それでやや暇を持て余し気味らしい。せいぜい張り切って麦を刈ったり家を建てたりして筋肉痛になるくらいだそうだ。

「そうなると、アンゲリカ一人じゃきつくなるんじゃない?」
「ん? 別にそうでもないだろ?」
「三人分なら大変なんじゃない?」
「え? なんで三人分なんだ?」
「あれ? えーっと……?」

 ん? もしかして普段自分が頑張っているのをそのまま全部アンゲリカに向けるとか思ってないか?

「あの、カレンさん、アンゲリカさんが全員分を一手に引き受けると思っていませんか?」
「えっ? ち、違ったの?」
「さすがに壊れますよっ」

 俺が思い浮かべた疑問をエルザが口にしてくれた。やはりそうだったか。カレンはどうも自分が思っていたのと違ったらしい。それはそうだろう。俺がカレンの相手をするときはほぼ全力だったからな。アルマが言うように、さすがにアンゲリカが壊れる。

「俺としてはカレンと激しくするのは嫌いじゃないぞ。ただ人それぞれだと思う。誰もが常に全力というわけにはいかないだろう。だからアンゲリカに三人分させることはない」

 わざわざこんなことを言うのも気恥ずかしいが、言うべきことは言わなければならないだろう。

 カレンは最初から常に全力だった。俺はあの精力剤のような水薬ポーションを飲まなければ耐えられなかったほどだ。そのうち少しずつ慣れたらしく、服用する回数が減った。

 エルザとアルマがこちらに来て最初のころは四人ですることも何度かあった。そのときはなぜかエルザもアルマもあの水薬を飲んでいた。そのときは俺も飲んだ。そうでなければ体が保たなかったからだ。

 そのうちエルザもアルマもあの水薬の服用をやめたので、てっきり手持ちがなくなったと思っていたら、どうやら自分の考えてやめたようだ。そのうち四人みんなでというのはなくなったな。二人とも体力に限界があるということを知ったんだろう。俺もカレンの激しさに完全に慣れたのか、あの水薬を飲むことはない。

 カレンは常に全力だった。夜の生活もそれ以外も。それを放っておけばどんどん俺に愛人を押しつけそうだから、それはそれで後々に問題になる。その都度不要だと言っているが、このあたりでキッチリと説明しなければならない。

 ちなみにカレンの頭の中では、おそらくカレン自身とエルザとアルマが妻で、他は愛人ということになっている可能性が高い。妻と愛人の境目はよく分からない。先着順か?

「なあカレン、当然俺は妻を大切にする。もちろん愛人だってそうだ。妻も愛人も何も違わない。扱うならできる限り平等に接したい。だから俺自身の目の行き届く範囲にしたい。俺に妻や愛人が増えすぎて、俺が他のみんなを構って、もし自分だけ構われなければ嫌だろう」
「もちろん」

 自分ができないなら他の者たちに任せたらいい。そのために俺に愛人を持たせる。カレンはそう考えていた。だが増やせばいいというわけじゃない。

「愛人にだって人生がある。子供が欲しいかもしれない、いらないと言うかもしれない。俺と一緒にいたいかもしれないし、俺から離れたいと思うかもしれない。だがそれは彼女たちの人生だ。俺が勝手に決めることはできない」

 カレンが子供を産んだ後の話にも繋がる。その愛人が子供を産みたいのか、そうでないのか。俺だけではなく彼女たちの問題でもある。子供のことを気にしないのなら、それこそ王都にでも行って娼婦を抱けばいいわけだ。愛人にするなら生活を保障しなければならない。そういうことも説明する。

「俺のことを考えてくれるのは嬉しいが、俺は今のままでも十分幸せだ。だから妻も愛人も、俺が必要だと思えば増やす、そうでなければ増やさない。それは俺に決めさせてくれ、頼む」
「……ごめんなさい」
「カレン、お前が悪いことをしたんじゃない。もっと早めにきちんと説明するべきだった。俺のことを思ってくれたことは嬉しい。だからこれからは何かを決める前にきちんと話し合おう」
「……うん、分かった」

 落ち込んだカレンを抱きしめる。相変わらず小柄だ。こうなる前にきちんと言っておくべきだったな。だがこういう機会でもなければわざわざ愛人についての話し合いの機会を作ろうなんて思わなかったからな。父親になるという覚悟を持って、もっとしっかりと家族のために先のことを考えないといけない。

「私ももっと早めに言うべきでしたね」
「ごめんなさいっ」
「いや、俺が変化に気付くべきだった。俺とできないことに責任を感じていたんじゃないのか?」
「……うん」
「俺はカレンが好きだし、カレンは俺が好きだろう。それは何も変わらない。だが俺のことが好きだからといって常に俺のことを一番に考える必要はない。まずは自分のことだ」
「難しいわね」
「ああ、難しい。俺だって自分のことを考えて、それからカレンとエルザとアルマのことを考える。その上でアンゲリカのことも考えることになる」
「じゃあ、もう無理は言わない。ちゃんと行動する前に考えるから、もしダメなら止めてね」
「それは任せておけ」

 クラースから頼まれたのも理由の一つだが、カレンと一緒にいたいと思ってその道を選んだのは俺だ。生きている限りは一緒にいる、その考えはあのときと変わらない。



◆ ◆ ◆



「分かりました。では定期的にお城の方へ確認に向かうことにします」
「よろしく頼む」

 エルザとアルマの妊娠の件でカサンドラのところに相談に来た。そうしたら定期的に城の方へ様子見に来てくれることになった。農婦たちにも妊婦はいるので、そちらの方に行くこともあるそうだ。その帰りに寄ってくれると。

「それとは別に、一つ個人的に相談があるんだが」
「それでしたら寝室の方でお待ちください。身を清めてまいります」
「そっちの話じゃない」

 本題に入るまでに時間がかかるのが問題だな。

「カサンドラはアメリアとは以前からの知り合いだそうだが、彼女のことは知っているのか? 何とは言わないが個人的なことについてだ」
「個人的なことはあまり聞いたことはありませんが、そうですね……何か隠している事があるようですね。ひょっとして、そのあたりのことについてですか?」

 この話しぶりだとカサンドラは気付いてそうだが、俺の口から詳しく言うのはダメだろうな。なんとかこう、はっきり言わずに上手く言えればいいが。

「ああ、何があったとか何を言ったとか詳しくは言えないが、彼女と話をしたときに、彼女の過去のことに少し踏み込んでしまってな。そうしたら先日道で目が合った瞬間に逃げられてしまった」
「あらら」
「それで、カサンドラが避けられていないなら間に立ってもらえないかと思ってな。実はカサンドラもそのことに気付いているかもしれないと言ってしまったんだが」
「私は今日も話をしましたので大丈夫だと思います。では、それとなく彼女と話をしてみますね」
「すまないが頼む」
「いえ、頼られて悪い気はしませんが……私も頼りにできる殿方がそろそろ欲しいのですが」
「こんな未熟な領主をあまり頼りにしないでくれ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない -

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
25歳の春、転生者クルシュは祖国を出奔する。 彼の前世はしがない書店経営者。バトル漫画を何よりも愛する、どこにでもいる最強厨おじさんだった。 幼い頃の夢はスーパーヒーロー。おじさんは転生した今でも最強になりたかった。 その夢を叶えるために、クルシュは大陸最大の都キョウを訪れる。 キョウではちょうど、大陸最強の戦士を決める竜将大会が開かれていた。 クルシュは剣を教わったこともないシロウトだったが、大会に出場することを決める。 常識的に考えれば、未経験者が勝ち上がれるはずがない。 だがクルシュは信じていた。今からでも最強の座を狙えると。 事実、彼の肉体は千を超える不活性スキルが眠る、最強の男となりうる器だった。 スタートに出遅れた、絶対に夢を諦めないおじさんの常勝伝説が始まる。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

処理中です...