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第二章:領主二年目第一部
共存共栄
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「おはようございます」
白鳥亭に入るとザーラが荷物を持って待っていた。
「ああ、おはよう。数日だったが、実家はどうだった?」
「はい。私が厨房に入って、少しは家族孝行をできたかと思います」
「ここは年末年始だろうが客が来るからな」
店内にはパッと見ただけでも数人、地元民ではなさそうな客がいる。
俺がザーラたちに休みを与えたのは、エクセンとは違ってさすがに年末年始にドラゴネットまで商人は来ないからだ。トンネルができたとは言っても、まだ話はそれほど広がっていない。たまにトンネルを通って来てくれる商人もいるようだが、まだその程度だ。
「では行くか」
「はい、あなた」
「それは違う」
「母にはグイグイ行くように言われました」
年が変わってもそこは変わっていなかった。マルクさんたちに挨拶すると、店の外から赤髪亭まで移動した。
「それじゃあな。きちんと利益は出ているんだから無茶はするな」
「はい。ありがとうございます」
おかしな押し方をする場合があるが、根は真面目で元気な少女だ。小さいのに頑張っていると一部で人気があるようだ。今年も赤髪亭を盛り立ててくれるだろう。
ザーラと別れて城に戻ったが、アンゲリカとヘルガの話し合いは、俺が戻るまでには終わらなかったようだ。さすがにいつまでも待っているわけにはいかないので仕事に戻ったが、結局夜になっても二人に会うことはなかった。
◆ ◆ ◆
昼前、カサンドラが俺の執務室に来ているところに二人が戻ってきた。カサンドラを見た瞬間に二人は「えっ⁉」という顔をして、カサンドラの方は「あら」と言っただけだが、二人の表情が険しくなった。
元々カサンドラは俺との距離が近かったが、あの瞬間から雰囲気が変わったからな。気怠そうなのは変わらないが。
「旦那様、カサンドラさんと何かあったようですが、その件は後で話を聞くといたしましょう。あれから先ほどまで話し合った結果ですが、私とヘルガさんは共存共栄を目指すことになりました」
「共存共栄?」
「あたしとアンゲリカさんで旦那様のお相手をしつつ、旦那様に迷惑がかかりそうな相手はできる限り排除するという方針になりました。おそらくこの方もこちら側に入るのでしょうが」
二人とも目の下に隈ができている。文字通り寝ていないのだろう。
「二人とも目の下に隈ができているぞ。今日のところは無茶はするな。それにしても排除とは穏やかじゃないな」
「ですが、カリンナとコリンナが裸で寝室に飛び込もうとしたらどうしますか?」
「そうだな。二人ともよろしく頼む。あの二人を止めてくれ」
「あたしとアンゲリカさんは交互でもかまいませんし一緒でもかまいません。よろしくお願いします」
「分かった。それなら……そうだな、アンゲリカの部屋も城の二階に用意しよう。いつでもいいから好きな部屋を選んでくれ」
ふう。まあ喧嘩をせずに済んだか。
「そうそう、アンゲリカさんと……あなたはヘルガさんでしたか、お二人にはまだ話していませんでしたが、私と、そしておそらくもう一人アメリアさんも加わります。四人で協力するとしましょう」
待て、カサンドラ。ようやく火が消えかけたのに薪を焼べるな。
「いつの間に増えたのですか?」
「誰?」
「アメリアさんは機織りをしている女性です。私のこの服の生地を織ってくれたのも彼女ですね」
「では、アルマさんが言っていた、胸元がガバッと開くという服もその人ですか?」
「胸元がガバッ……ああ、アルマさんが言ったならおそらくそうですね。アメリアさんは機織りと染めの両方、ドーリスさんは染め、デリアさんとフリーデさんは仕立てです。この町で作られている衣服の多くはその四人が作った物ですね」
「では今からさっそく作ってもら……」
そこまで言いかけてヘルガが倒れ込んでしまった。ろくに休んでいなかったのに、ここに来ていきなり夜に俺の相手をして、そして夕方から午前中までアンゲリカと話し合っていたようだし、そろそろ体力も限界だろう。無理はするなと言った先からこれだ。
「とりあえずこれは部屋に放り込んでおく。アンゲリカも寝てないだろう。店を開けるつもりなら無茶はするな。それとカサンドラは……」
「今からお相手をしましょうか?」
「昼前から何の話だ。いや、そろそろアメリアと話ができるようにならないか?」
「それがなかなか頑固なようで。もう一度伝えておきすけど」
いつものようにふらっと来てふらっと帰って行く。カサンドラは気の長いエルフらしくがっついてはいないので、待つと言ってくれている。あまり待たせるのも失礼だろうとは思うが、今は色々と余裕がない。
「それで旦那様、アメリアさんが嫌と言うつもりもありませんが、そうなのですか?」
「ああ、どうも俺のことが気になっているらしいが、俺の顔を見ると逃げてしまうから話もできない。カサンドラに間に立ってもらっているが、どうなるか全然分からないな」
「旦那様が口説き落としたわけではなかったのですね」
「余計なことを言うのはどの口だ?」
「この口です」
そう言って唇を突き出す。
「余計なことを言わないように、旦那様の口でしっかりと塞いでください」
「仕方がないな」
両手が塞がっているので身を乗り出すようにしてアンゲリカに顔を近付ける。
「あのー、あたしの顔の前でいちゃつかないでくれますか?」
下を見るとヘルガが俺の顔を見上げていた。
「起きていたのか?」
「さすがに起きました。すみません、旦那様」
「とりあえず部屋まで連れて行く。アンゲリカも少し寝ておけ」
「腕枕をしていただけるなら」
「あ、あたしにもお願いします。右はアンゲリカさん、左はあたしで」
「俺は仕事があるんだが」
白鳥亭に入るとザーラが荷物を持って待っていた。
「ああ、おはよう。数日だったが、実家はどうだった?」
「はい。私が厨房に入って、少しは家族孝行をできたかと思います」
「ここは年末年始だろうが客が来るからな」
店内にはパッと見ただけでも数人、地元民ではなさそうな客がいる。
俺がザーラたちに休みを与えたのは、エクセンとは違ってさすがに年末年始にドラゴネットまで商人は来ないからだ。トンネルができたとは言っても、まだ話はそれほど広がっていない。たまにトンネルを通って来てくれる商人もいるようだが、まだその程度だ。
「では行くか」
「はい、あなた」
「それは違う」
「母にはグイグイ行くように言われました」
年が変わってもそこは変わっていなかった。マルクさんたちに挨拶すると、店の外から赤髪亭まで移動した。
「それじゃあな。きちんと利益は出ているんだから無茶はするな」
「はい。ありがとうございます」
おかしな押し方をする場合があるが、根は真面目で元気な少女だ。小さいのに頑張っていると一部で人気があるようだ。今年も赤髪亭を盛り立ててくれるだろう。
ザーラと別れて城に戻ったが、アンゲリカとヘルガの話し合いは、俺が戻るまでには終わらなかったようだ。さすがにいつまでも待っているわけにはいかないので仕事に戻ったが、結局夜になっても二人に会うことはなかった。
◆ ◆ ◆
昼前、カサンドラが俺の執務室に来ているところに二人が戻ってきた。カサンドラを見た瞬間に二人は「えっ⁉」という顔をして、カサンドラの方は「あら」と言っただけだが、二人の表情が険しくなった。
元々カサンドラは俺との距離が近かったが、あの瞬間から雰囲気が変わったからな。気怠そうなのは変わらないが。
「旦那様、カサンドラさんと何かあったようですが、その件は後で話を聞くといたしましょう。あれから先ほどまで話し合った結果ですが、私とヘルガさんは共存共栄を目指すことになりました」
「共存共栄?」
「あたしとアンゲリカさんで旦那様のお相手をしつつ、旦那様に迷惑がかかりそうな相手はできる限り排除するという方針になりました。おそらくこの方もこちら側に入るのでしょうが」
二人とも目の下に隈ができている。文字通り寝ていないのだろう。
「二人とも目の下に隈ができているぞ。今日のところは無茶はするな。それにしても排除とは穏やかじゃないな」
「ですが、カリンナとコリンナが裸で寝室に飛び込もうとしたらどうしますか?」
「そうだな。二人ともよろしく頼む。あの二人を止めてくれ」
「あたしとアンゲリカさんは交互でもかまいませんし一緒でもかまいません。よろしくお願いします」
「分かった。それなら……そうだな、アンゲリカの部屋も城の二階に用意しよう。いつでもいいから好きな部屋を選んでくれ」
ふう。まあ喧嘩をせずに済んだか。
「そうそう、アンゲリカさんと……あなたはヘルガさんでしたか、お二人にはまだ話していませんでしたが、私と、そしておそらくもう一人アメリアさんも加わります。四人で協力するとしましょう」
待て、カサンドラ。ようやく火が消えかけたのに薪を焼べるな。
「いつの間に増えたのですか?」
「誰?」
「アメリアさんは機織りをしている女性です。私のこの服の生地を織ってくれたのも彼女ですね」
「では、アルマさんが言っていた、胸元がガバッと開くという服もその人ですか?」
「胸元がガバッ……ああ、アルマさんが言ったならおそらくそうですね。アメリアさんは機織りと染めの両方、ドーリスさんは染め、デリアさんとフリーデさんは仕立てです。この町で作られている衣服の多くはその四人が作った物ですね」
「では今からさっそく作ってもら……」
そこまで言いかけてヘルガが倒れ込んでしまった。ろくに休んでいなかったのに、ここに来ていきなり夜に俺の相手をして、そして夕方から午前中までアンゲリカと話し合っていたようだし、そろそろ体力も限界だろう。無理はするなと言った先からこれだ。
「とりあえずこれは部屋に放り込んでおく。アンゲリカも寝てないだろう。店を開けるつもりなら無茶はするな。それとカサンドラは……」
「今からお相手をしましょうか?」
「昼前から何の話だ。いや、そろそろアメリアと話ができるようにならないか?」
「それがなかなか頑固なようで。もう一度伝えておきすけど」
いつものようにふらっと来てふらっと帰って行く。カサンドラは気の長いエルフらしくがっついてはいないので、待つと言ってくれている。あまり待たせるのも失礼だろうとは思うが、今は色々と余裕がない。
「それで旦那様、アメリアさんが嫌と言うつもりもありませんが、そうなのですか?」
「ああ、どうも俺のことが気になっているらしいが、俺の顔を見ると逃げてしまうから話もできない。カサンドラに間に立ってもらっているが、どうなるか全然分からないな」
「旦那様が口説き落としたわけではなかったのですね」
「余計なことを言うのはどの口だ?」
「この口です」
そう言って唇を突き出す。
「余計なことを言わないように、旦那様の口でしっかりと塞いでください」
「仕方がないな」
両手が塞がっているので身を乗り出すようにしてアンゲリカに顔を近付ける。
「あのー、あたしの顔の前でいちゃつかないでくれますか?」
下を見るとヘルガが俺の顔を見上げていた。
「起きていたのか?」
「さすがに起きました。すみません、旦那様」
「とりあえず部屋まで連れて行く。アンゲリカも少し寝ておけ」
「腕枕をしていただけるなら」
「あ、あたしにもお願いします。右はアンゲリカさん、左はあたしで」
「俺は仕事があるんだが」
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