ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

城の案内(一)

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「ではこれから城の中を案内する。何か質問があればいつでも聞いてほしい。わざわざ断る必要はない」

 使用人たちを連れて城の中を順番に説明して歩く。こういう仕事は本来はハンスがやるはずだったんだろうな。大広間から貴賓室のあたりを通って、それから裏の方、そして使用人棟の方を回って戻ってくる順番でいいか。

「旦那様、この城はいつ建てられたのですか?」
「先月だ。昨日カレンの顔は見たと思うが、彼女の父親のクラースが、結婚祝いに立派な家を贈ると言って建ててくれたんだが……少々立派すぎてな」
「解雇されたときは、まさかお城で働けるとは思いませんでした」
「俺もこの土地を領地として貰ったときは、まさか城に住むとは思っていなかった。せいぜい小さい屋敷を建てようと思ったくらいだ」

 これでもかなり慣れたが、ようやく人が増えて住む場所らしくなった。



「これだけ広いのに全く寒くないのですが、何か仕掛けでもあるのですか?」
「城全体に魔道具が仕込まれているそうで、年中快適な室温になっているそうだ。使用人棟はみんなが来ることが決まってから建て増ししたが、同じようになっているはずだ」
「寒くても寝るときは毛布に包まれば大丈夫だと思っていましたが、これらな快適です」
「衣食住には困らないようにしたいと思っている」

 これもクラースが予備の柱をたくさん作って置いていってくれたからだ。ただ予備の数が多く、場所を取って仕方ないので今は空き部屋に入れてある。一般の家用のものは共同の資材置き場にある。こちらは家を建てるときに大工たちが使っていいことになっている。



「ここは大広間ですか?」
「使い道が思いつかないが、何かいい案があれば教えてほしい」
「どうしてこれほど広く作られたのでしょうか?」
「さっき言ったクラースが、『大広間は城の格を表す』と言っていたから、そのつもりなんだろう。俺は男爵だと言ったはずだが」
「これまで多く貴族のお屋敷行ったことがありますが、どの大広間よりも広いですね」

 そんなものを男爵に用意されても困るが、今さらここをなくすわけにもいかない。まあ生涯に一度くらいここでパーティーをすることがあれば作られた甲斐もあるというものだが、どうなるか。



「このあたりには応接間、居間、貴賓室などがある。そしてそこの廊下の先が来客棟になっている」
「ここはしっかりと管理しなければいけませんね」
「そうだな。貴賓室は最初は用意していなかったが、来年の春にはレオナルト殿下の行啓がある。それで少し前に慌てて内装を整えた」
「調度品も素晴らしいですね」
「このあたりは全部借り物だな。食器類もそうだ。クラースの家の物置から借りてきた」
「物置……」
「言いたいことは分かるが、物置と書かれていたから物置だろう」

 宝物庫と呼ぶには雑然としていたし、とりあえず買ったものを順番に詰めていただけのようだった。ただ、まとめて作らせて買い取っていたようだから、同じものが近くにあって探すのは楽だった。



 城の案内は東側が終わった。これから北側の裏の廊下から西へ回る。

「裏側の廊下のあたりには台所や食堂、風呂などがある。元々使用人の部屋なども作られていたが数が足りなくてな」
「この城の規模を考えますと、四〇人でも少なく感じますね」
「そうだろうな。建てている途中でどんどん大きくなったらしい。使用人ゼロの状態でいきなりこの城に住めと言われたんだ。もちろんありがたいことだし、感謝しているのは間違いないが、戸惑いの方が大きかったな」
「旦那様の奥様たちだけでは寂しいですね」
「ああ、特に最初は俺とカレンの二人がポツンといただけだった。夜は足音だけがカツーン、カツーンと響いてなあ……」
「……」

 怖いとかそういうことはないが、びっくりするくらい寂しいぞ。



「このあたりが元々使用人のためのホールや部屋があったところだ。今のところ一部は荷物置き場になっているが、片付けて使えるなら使ってもらってもかまわない」
「ホールは休憩や食事のために使わせていただきます。他は使い方を考えます」
「ああ、使い方はすべて任せる」

 ホールと小さな台所と使用人の部屋がいくつか。俺が使うことはないだろう。彼らに有効的に使ってもらえばいい。



「台所は基本的にはクラースが魔道具を仕込んでくれたから、調理道具は問題ないはずだ。煙突はないが、煙はあそこに付いている魔道具で減る」
「使いやすそうですね。ですがこれは台所ではなく厨房と呼ぶべきでは? なかなかこの広さはないと思います」

 ハイデの屋敷の台所よりもずっと広いが……台所と厨房の違いは何だ? 広さか?

「そうか? それなら厨房でもいい。呼びやすいように呼んでくれ」



「このあたりは風呂がある。全部で四つ、そちらの二つが使用人用になっている。男女で分けて使ってくれ」
「我々も使ってよろしいのですか?」
「ああ、ここはこの国でも一番北だからそれなりに寒くなるだろう。そう思って風呂だけはしっかり作ろうと思ったらクラースが気を利かせてくれた。湯を張るのはやってもらおうと思う」

 同じ大きさの風呂が四つある。使用人の部屋は少なかったのに風呂は多いというのは謎だ。

「お湯を張れるのですか?」
「ああ。浴槽の外で軽く体を洗ってから入る風呂だ。城の中は寒くはないが、それでも場所によっては多少は風が冷たいからな」
「旦那様、あれは?」
「何かいますね」

 何人かが浴槽の端で動いているものを見つけた。あいつらだ。

「森の掃除屋を二匹ずつ入れている。魔物の一種だが、生きている人には手を出さない弱い魔物だ。汚れを取ってくれるから掃除はあまり必要ないと思う」
「大丈夫なのですか?」
「ああ、人に害はないし、あいつらも湯に入っても問題ない。ただ湯を捨てるときに流されないようにだけ気をつけてくれ。一応引っかかるようにはなっているが」
「分かりました」
「それに、どうやらこちらの言っていることが分かるらしい。思った以上に頭がいいぞ」

 そう言った瞬間、少し体を持ち上げたと思ったら色が少し濃くなった。やはり褒められるとああなるようだ。そしてそれを見た使用人たちがみんな微妙な顔になった。
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