ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

文字の大きさ
上 下
55 / 345
第一章:領主一年目

驚愕の事実

しおりを挟む
「これであらためてエルマー殿と一緒に暮らせるわけですね」
「感激ですっ」

 簡単な夕食を済ませ、そのまま食堂で話をする。話す内容は明日以降のこと。

「私はエルマーの手伝いをすることになるわね」
「私は昼間は教会の方に行くことにします。どのように使うかのチェックですね」
「私も教会に行きますっ。中を見るのが楽しみですっ」

 エルザの言葉に続いたアルマが妙に前のめりだ。こんな子じゃなかった気がするが、俺が知らなかっただけなんだろうか。

「それでっ、エルマー様。子沢山の話ですっ。子供は何人作ればいいですか?」
「ちょっと待て、アルマ。いきなりその話か?」
「はいっ。兄弟姉妹は多い方が楽しくありませんかっ?」
「それはたしかにそうだが、いきなりする話でもないだろう」

 あまりの押しの強さにさすがの俺も少し腰が引ける。エルザでも乗り移ったか? まあ軍学校時代に好き勝手していたことを考えると偉そうなことを言える立場にはないと思うが、一応年長者としてはきちんと言っておく必要はあるだろう。

 俺は一人息子だったし、アルマがどうかは分からないが、王城にいたのを孤児院に預けられるくらいだから恵まれた環境じゃなかったのは間違いないだろう。兄弟姉妹が多ければ楽しいかもしれない……いやいや、自分で勝手に流される方へ向かってどうする。

「エルマー、とりあえず今日はアルマと二人でゆっくりしたら? 私もエルザも自分の部屋で寝るから」
「ありがとうございますっ」
「あ、おい、カレン。何かあったのか?」
「ん? 別に何もないわよ。エルマーが好きな人は仲間よ。だから順番ね」
「はい、私もそれでいいと思います。明日はカレンさんか私か、そのあたりはまた決めましょう」
「そうそう、急ぐことは何もないからね。じゃあ二人とも、ごゆっくり」
「エルマー様、アルマ、おやすみなさい」

 二人とも、言いたいことだけを言って寝に行ったか。アルマは俺の方をじっと見ている。この子を異性として好きとか嫌いとか、そもそも考えたことがなかったんだが。

「こんなところに立っているのもおかしな話だな。部屋に行くか」
「はいっ」



◆ ◆ ◆



「エルマー様、ありがとうございました」
「いや、礼を言われるようなことはしていないと思うぞ。むしろこちらがありがとうと礼を言うべきだろう」
「いえいえっ、こんな貧相な体ですが、喜んでもらえたようで安心し——いえっ、そうではなくて、無理して付いてきた形になったので、嫌われたらどうしようかと思っていました」
「その体で貧相と言ったらカレンが拗ねるぞ」

 二人でベッドの中で抱き合いながら、お互いに礼を言ったり謝ったりするという不思議な格好だ。先ほどまでよりもずいぶんとアルマも気安くなったな。

 アルマは預けられたときよりもずぶん背が伸びて、カレンよりも背は高いし出るところも出てきた。女らしい体つきに変わる年頃なんだろう。カレンはあれからも胸を大きくする運動などをしているが、半分諦めているらしい。半分なのは女のプライドだそうだ。クラースも無理だと言っていたから無理なんだろうが、それでも諦めきれないらしい。

「お前を嫌う理由なんてないだろう。孤児院にいた子供の中では一番懐いてくれていたからな」
「初めて会ったときに頭を撫でてくれましたよね。あのときに優しい人だなって思いました」
「意識してやったわけじゃないと思うが……」

 学外の演習から戻ってきて、その足で孤児院を覗いたらそこにいたので声をかけたんだったか。初めて会った……というべきか、なあ。

「実はあの頃、孤児院で会った少し前に、王城で王太子殿下の誕生パーティーがあったんだが、あの場を覗いていなかったか?」
「えっ⁉ もしかして気付いていましたかっ?」
「やっぱりそうだったか。少し遠かったから顔までははっきりとは分からなかったが、その髪の色が印象に残ってな。あれからすぐに孤児院で見かけたから何かあったんだろうとは思ったが、それを聞くのもどうかと思って気付いていないふりをしていたんだが」

 さすがの俺でも気落ちしている女の子に根掘り葉掘り聞くような趣味は持ち合わせていない。預けられる前に事情を聞いて、それで状況が良くなるのならいくらでも話は聞くが、預けられた後になって話を聞いても慰めることくらいしかできない。

「あれから……四日後か五日後か、それくらいに王城を出ました。それからしばらくは別のところにいて、それから孤児院に入ることになりました」
「そうか、苦労したんだろう」
「苦労はそれほどでもないのかもしれませんが、気分的に疲れることは色々ありました。聞いてもらえますか?」
「ああ」



 アルマは王城の使用人の子供として生まれた。母親は産後の肥立ちが悪く、彼女が生まれてしばらくすると亡くなった。それからは別の使用人が自分の子供と一緒に育ててくれたそうだ。それからは下働きの下働きのような仕事をしながら王城内で教育を受けた。

 俺が殿下の誕生パーティーに参加したとき、アルマは入り口から中を除いて、そこで殿下と俺を見た。俺の髪の色は特徴があるからすぐに覚えたらしい。だがそのときは接点ができるとまでは考えていなかった。

 それから数日経ち、仕事の最中に廊下を歩いていると、殿下から小部屋に案内され、そこで殿下の腹違いの妹だと伝えら——

 ⁉⁉

「ちょ、ちょっと待て‼ 殿下の妹⁉」
「はいっ。そう言われました」



 ……‼



 そうだそうだ。王女は三人だと思っていたら、あのとき殿下は「急に四人目の妹が」とか口にして、慌てて誤魔化していた。うっかりと漏らしてしまったみたいだが、あれがアルマのことだったのか。

「このことを知ってるのは他にはいるのか?」
「国王陛下と王太子殿下だけです。あのとき聞いた限りでは王妃様も知らないとか。絶対に口外しないようにと言われていましたので、これまで細かいところはぼかしていました。でもエルマー様の妻になって以降も隠し続けるのは問題だと思いまして」
「あー、そうだな。だがこのことは他人には絶対に言うなよ?」
「はいっ、それは分かっています」

 それからもアルマの説明が続いた。殿下が声をかけたのは、自分の妹だと伝えるためというよりも、あのヒキガエル伯爵がアルマを狙っていたからだそうだ。あいつから見たら自分の孫よりも若いだろうに。孫がいたかどうかは知らないが。

 名前をカリーナからアルマへと変え、殿下の知り合いの家に一時的に預けられ、そこからさらに孤児院にやってきた。あの孤児院を選んだのは、殿下がそこなら安全だと言ったからだそうだ。すぐ横の屋敷には俺がいるとは言わなかったらしいが、殿下なら俺がアルマを守ると考えても不思議じゃない。

 そうこうしているうちにヒキガエル伯爵が死んだのを知って、さらに俺に感謝するようになったと。

 別に俺がやったわけじゃないし指示も出していない。まあ形としては殿下にちょっかいを出してきたから対処しているうちに勝手に死んだようなものだから、完全に無関係とは言えないが、アルマの頭の中では俺が倒したことになっているんだろうな。

「しかし殿下の妹となると……一度会って話をしないといけないだろうな」
「すみません。ややこしいことになってしまって」
「いや、お前が原因じゃないだろう。面倒なことになった原因は大公とヒキガエルだ。二人ともこの世にはいないから、もう迷惑をかけられることもないとは思うが……あいつらのことだからなあ。何か中途半端にやりかけた迷惑行為が残っている可能性もある。まあここに来たからにはもう安心だろう。大丈夫だ、何があっても俺が守ってやる」
「エルマー様……」

 単に疲れただけか、それとも今まで話せなかったことを口にして安心したのか、アルマはそのまま眠ってしまった。俺はアルマを抱きしめたまま寝ることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない -

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
25歳の春、転生者クルシュは祖国を出奔する。 彼の前世はしがない書店経営者。バトル漫画を何よりも愛する、どこにでもいる最強厨おじさんだった。 幼い頃の夢はスーパーヒーロー。おじさんは転生した今でも最強になりたかった。 その夢を叶えるために、クルシュは大陸最大の都キョウを訪れる。 キョウではちょうど、大陸最強の戦士を決める竜将大会が開かれていた。 クルシュは剣を教わったこともないシロウトだったが、大会に出場することを決める。 常識的に考えれば、未経験者が勝ち上がれるはずがない。 だがクルシュは信じていた。今からでも最強の座を狙えると。 事実、彼の肉体は千を超える不活性スキルが眠る、最強の男となりうる器だった。 スタートに出遅れた、絶対に夢を諦めないおじさんの常勝伝説が始まる。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

拝啓神様。転生場所間違えたでしょ。転生したら木にめり込んで…てか半身が木になってるんですけど!?あでも意外とスペック高くて何とかなりそうです

熊ごろう
ファンタジー
俺はどうやら事故で死んで、神様の計らいで異世界へと転生したらしい。 そこまではわりと良くある?お話だと思う。 ただ俺が皆と違ったのは……森の中、木にめり込んだ状態で転生していたことだろうか。 しかも必死こいて引っこ抜いて見ればめり込んでいた部分が木の体となっていた。次、神様に出会うことがあったならば髪の毛むしってやろうと思う。 ずっとその場に居るわけにもいかず、森の中をあてもなく彷徨う俺であったが、やがて空腹と渇き、それにたまった疲労で意識を失ってしまい……と、そこでこの木の体が思わぬ力を発揮する。なんと地面から水分や養分を取れる上に生命力すら吸い取る事が出来たのだ。 生命力を吸った体は凄まじい力を発揮した。木を殴れば幹をえぐり取り、走れば凄まじい速度な上に疲れもほとんどない。 これはチートきたのでは!?と浮かれそうになる俺であったが……そこはぐっと押さえ気を引き締める。何せ比較対象が無いからね。 比較対象もそうだけど、とりあえず生活していくためには人里に出なければならないだろう。そう考えた俺はひとまず森を抜け出そうと再び歩を進めるが……。 P.S 最近、右半身にリンゴがなるようになりました。 やったね(´・ω・`) 火、木曜と土日更新でいきたいと思います。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

上流階級はダンジョンマスター!?そんな世界で僕は下克上なんて求めません!!

まったりー
ファンタジー
転生した主人公は、平民でありながらダンジョンを作る力を持って生まれ、その力を持った者の定めとなる貴族入りが確定します。 ですが主人公は、普通の暮らしを目指し目立たない様振る舞いますが、ダンジョンを作る事しか出来ない能力な為、奮闘してしまいます。

処理中です...