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第一章:領主一年目
トンネルの開通と記念式典の準備
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トンネルが開通した。とりあえず照明は十分明るいから不安は感じないだろう。距離があるのは仕方がない。[消臭]の魔道具を設置したから馬糞の臭いで困ることもないだろう。それにトンネル内の掃除もダニエルさんが作った魔道具で対処することになった。
トンネル内に魔道具で水を流して汚れは側溝に流してしまう。そのためにトンネル内の床をほんのわずかだが、中央を高くして端の方を低くした。試しに馬車を走らせてみたが、ホルガーが言うには全く分からなかったそうだ。側溝はドラゴネット側を低くすることによってそちら側に水を流し、大きな浄化槽に一度溜め、そこを森の掃除屋できれいにする。場合によっては森の掃除屋たちが勝手にトンネル内をきれいにしてくれるかもしれない。
俺は穴を掘ったり塞いだりしただけで、魔道具は全てダニエルさんが作ったものだ。彼は俺が素材を提供したからだと言うが、素材があってもそれだけでは俺には何もできない。コツコツと作業を進めてくれた彼には頭が上がらない。しかも行ったり来たりの不便な生活をさせてしまった。この恩に報いるには、それなりに謝礼を渡さないといけないと思っていたが、少し事情が変わった。
「今後はこの町でお世話になろうと思います。客ではなく、他の職人たちと同じように部下と思ってください」
「こちらとしては嬉しい限りだが、いいのか?」
「はい、大切な人ができましたので」
彼の隣には二人の女性が立っていた。レーネとルイーゼという町娘だ。
「なるほど。それならあらためて立派な家を建てないとな。工房付きで」
彼の身の回りの世話をするために、町の女性たちに交代で食事を作ってもらっていた。別に妻選びをさせるために交代制にしたわけじゃない。家族持ちは家のことで忙しいだろうから、独り身の女性にやってもらうことにしただけで、そして毎日では負担がかかるから交代にしただけなんだが。まあ結果としては自分に合う女性を選べたということでいいんだろう。
平民であっても魔道具職人の地位はかなり上の方だ。貴族でも魔法を使える者は少ない。魔道具を作れる者はさらに少ない。ある意味では魔法使いよりも貴重で、この町でも今のところは俺の次になる。それにデニス殿に通じるところもある穏やかな性格だから、女性から見たら優良物件だったわけだ。
この町に残ってくれると分かった上で腹を割って話してみれば、王都であれこれ言われながら作るよりも、こちらでやりたいようにできるのが嬉しいと。王都ではいくつかの店に魔道具を卸していて、それを気に入ってくれた顧客が直接注文しに工房まで来ることもあったそうだが、もちろん買うのは金を持った貴族が多い。それなりに無茶も言われたそうだ。俺がトンネルの件で、ドラゴネットで作業をしてほしいと言ったときも、最初はそういう貴族じゃないかと疑ったそうだ。だが俺は無理は言わなかったので引き受けてくれることにしたとか。
ここしばらくトンネルの件で無理をお願いしていたから、しばらくは何かを頼むつもりはない。いずれ何か必要になれば作ってもらうこともあるが、それまでは作りたいものを作ってもらおう。そのための素材である竜の鱗や金属類をまとめて彼の工房に置いておくことにした。
正式に開通することがきまったので、大規模とはいかなくても何かちょっとした式典でもしようかという話になった。
「空でも飛ぶ?」
「それは大騒ぎになるからやめてくれ。今考えているのは、こっちから向こうまで馬車に乗って行くくらいだ」
「それなら立派な馬車を用意するの?」
「大工たちが馬車を作っているらしいな」
今後は貴族としてきちんとした馬車の一つくらいは必要だろう。そしてトンネルが開通したら何かしらの式典は必要だろう。そういうことを伝えたらやたらと張り切っていた。
俺個人としては[転移]で移動すれば楽でいいんだが、本来貴族はそういうわけにはいかない。例えばどこかの町へ行く場合、そこへ着くまでに入った町で領主に挨拶することが多い。もちろん全ての町でそんなことをしていては時間がかかりすぎるが、まあ人脈とか付き合いとか色々あるからな。
俺の場合は元から仲良くしている貴族がいないからそんな配慮をする必要はないんだが、今後は必要になるかもしれない。だから手間はかかるが、場合によっては馬車での移動も考えている。
「ねえ、今回の話じゃないけど、ペガサスあたりに馬車を引かせたら空を飛べて早く着かない?」
「あのペガサスか? どうだろう、もしペガサスが馬車を引いたとしても、馬車そのものは浮かばないだろう。引きずられるぞ」
「あ、それもそうね」
ペガサスが大人しく馬車を引いてくれるとは思わないが、もし引いてくれたとしてそのまま空に浮かべば馬車そのものは浮かないから、車体がが宙づりになるだけだろう。ハミがあるから首が後ろに引っ張られて首の骨が折れるんじゃないか?
「うーん、何か方法がないか考えてみるわ」
「ああ、無理しない範囲で頼む」
「ううん、頑張るから待ってて」
「いや、本当に無理しなくていいぞ。頼むから」
「そう?」
「ああ、普通の馬車で大丈夫だから」
考えてくれることはありがたい。それは本当だ。だがその結果が怖い。「ペガサスはやめてグリフォンにするわ」とか言いそうだ。
トンネル内に魔道具で水を流して汚れは側溝に流してしまう。そのためにトンネル内の床をほんのわずかだが、中央を高くして端の方を低くした。試しに馬車を走らせてみたが、ホルガーが言うには全く分からなかったそうだ。側溝はドラゴネット側を低くすることによってそちら側に水を流し、大きな浄化槽に一度溜め、そこを森の掃除屋できれいにする。場合によっては森の掃除屋たちが勝手にトンネル内をきれいにしてくれるかもしれない。
俺は穴を掘ったり塞いだりしただけで、魔道具は全てダニエルさんが作ったものだ。彼は俺が素材を提供したからだと言うが、素材があってもそれだけでは俺には何もできない。コツコツと作業を進めてくれた彼には頭が上がらない。しかも行ったり来たりの不便な生活をさせてしまった。この恩に報いるには、それなりに謝礼を渡さないといけないと思っていたが、少し事情が変わった。
「今後はこの町でお世話になろうと思います。客ではなく、他の職人たちと同じように部下と思ってください」
「こちらとしては嬉しい限りだが、いいのか?」
「はい、大切な人ができましたので」
彼の隣には二人の女性が立っていた。レーネとルイーゼという町娘だ。
「なるほど。それならあらためて立派な家を建てないとな。工房付きで」
彼の身の回りの世話をするために、町の女性たちに交代で食事を作ってもらっていた。別に妻選びをさせるために交代制にしたわけじゃない。家族持ちは家のことで忙しいだろうから、独り身の女性にやってもらうことにしただけで、そして毎日では負担がかかるから交代にしただけなんだが。まあ結果としては自分に合う女性を選べたということでいいんだろう。
平民であっても魔道具職人の地位はかなり上の方だ。貴族でも魔法を使える者は少ない。魔道具を作れる者はさらに少ない。ある意味では魔法使いよりも貴重で、この町でも今のところは俺の次になる。それにデニス殿に通じるところもある穏やかな性格だから、女性から見たら優良物件だったわけだ。
この町に残ってくれると分かった上で腹を割って話してみれば、王都であれこれ言われながら作るよりも、こちらでやりたいようにできるのが嬉しいと。王都ではいくつかの店に魔道具を卸していて、それを気に入ってくれた顧客が直接注文しに工房まで来ることもあったそうだが、もちろん買うのは金を持った貴族が多い。それなりに無茶も言われたそうだ。俺がトンネルの件で、ドラゴネットで作業をしてほしいと言ったときも、最初はそういう貴族じゃないかと疑ったそうだ。だが俺は無理は言わなかったので引き受けてくれることにしたとか。
ここしばらくトンネルの件で無理をお願いしていたから、しばらくは何かを頼むつもりはない。いずれ何か必要になれば作ってもらうこともあるが、それまでは作りたいものを作ってもらおう。そのための素材である竜の鱗や金属類をまとめて彼の工房に置いておくことにした。
正式に開通することがきまったので、大規模とはいかなくても何かちょっとした式典でもしようかという話になった。
「空でも飛ぶ?」
「それは大騒ぎになるからやめてくれ。今考えているのは、こっちから向こうまで馬車に乗って行くくらいだ」
「それなら立派な馬車を用意するの?」
「大工たちが馬車を作っているらしいな」
今後は貴族としてきちんとした馬車の一つくらいは必要だろう。そしてトンネルが開通したら何かしらの式典は必要だろう。そういうことを伝えたらやたらと張り切っていた。
俺個人としては[転移]で移動すれば楽でいいんだが、本来貴族はそういうわけにはいかない。例えばどこかの町へ行く場合、そこへ着くまでに入った町で領主に挨拶することが多い。もちろん全ての町でそんなことをしていては時間がかかりすぎるが、まあ人脈とか付き合いとか色々あるからな。
俺の場合は元から仲良くしている貴族がいないからそんな配慮をする必要はないんだが、今後は必要になるかもしれない。だから手間はかかるが、場合によっては馬車での移動も考えている。
「ねえ、今回の話じゃないけど、ペガサスあたりに馬車を引かせたら空を飛べて早く着かない?」
「あのペガサスか? どうだろう、もしペガサスが馬車を引いたとしても、馬車そのものは浮かばないだろう。引きずられるぞ」
「あ、それもそうね」
ペガサスが大人しく馬車を引いてくれるとは思わないが、もし引いてくれたとしてそのまま空に浮かべば馬車そのものは浮かないから、車体がが宙づりになるだけだろう。ハミがあるから首が後ろに引っ張られて首の骨が折れるんじゃないか?
「うーん、何か方法がないか考えてみるわ」
「ああ、無理しない範囲で頼む」
「ううん、頑張るから待ってて」
「いや、本当に無理しなくていいぞ。頼むから」
「そう?」
「ああ、普通の馬車で大丈夫だから」
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