6 / 16
短い話
しおりを挟む
あの日。
私は兄と二人で街へ出かけた。
魔法使いであることがバレないよう、慎重に、はぐれないよう、手を繋いで。
手を……繋いで……きっと楽しい時間を過ごしたはずだけど、私が覚えているのはそこじゃない。
私たちは見てしまった。
破壊された建物。倒れている子供たち。その中に一人佇む黒髪の少年。
大きな音がして、たまたま、興味本位で見に行ったら、そんな光景が広がっていた。
魔瘴だっ!
誰かが叫び。あっという間に大混乱になった現場で、私と兄は動けずにいた。
黒髪の少年と私たちだけが微動だにせず、辺りをたくさんの人が走り回っている、不思議な空気に圧倒された。
「神子様こちらです!」
やがてそこに、真っ白な服を着た幼い少女が、白服の大人たちに連れられてやってきた。
少女は、黒髪の少年の手を引っ張って座らせ、少年の片目に手を当てた。
「どうして……」
黒髪の少年が消え入りそうな声でそう言うと、少女は首を振って答えず、魔法で少年の傷を治し始めた。
「どうして」
少年は壊れた機械みたいに同じことを繰り返した。
何度も何度も。
すると少女は、少年の傷を癒しながら、重い口を開いた。
「魔瘴と魔法使いの力は相反するものなのです。あなたの居た孤児院は……そこに居た人は魔瘴に侵された。魔法使いであるあなたは……子供たちを守ろうとした。それだけです。あなたは何も悪くない。魔瘴の前で魔法を加減するなど……出来ないものなのです。どのみち魔瘴を消すことが出来るものは、まだこの国にはない……だから……」
「殺すしかない」
そう呟いたのは、横で手を繋いでいる兄だった。
少女は一瞬こっちを見て、すぐまた少年と向き合った。
「この目……自分で傷つけましたね」
「……」
「魔法を使うまいとして、自分でやったのでしょう?」
少女の声に、少年が頷いた。
「……シスターが……トニィに襲いかか……た。それで、何とかしなきゃって……したら俺の魔法がシスターを傷っつ…………だからっ魔法止めようとして。止まった……けど……その間に……トニィ……シスターに殺さ……てた。俺は……結局どっちも」
救えなかった。
少年の囁くような一言に、私は胸を押さえた。氷を飲み込んだみたいに喉の奥から体が冷えて。
兄の手も冷たく、震えていた。
このとき私は何もわかっていなかったのだ。
国のため。戦や魔瘴に侵されたものと戦わされる魔法使いのことを。全然理解できていなかった。
「神子様! なぜそんな者の傷を癒すのですか! そいつが魔瘴を起こしたのでしょう! 魔法使いであることを隠してたせいで!」
「所詮神子も魔法使いだからだろ!」
大人たちの怒号の意味も何もわからない私は、このとき、ただただ、悲しかった。
避難の声を浴びて凛と立つ白い服の少女も、呆然と血の涙を流す黒髪の少年も。
震えながら私の手を握る兄も。
繋がっているわけでもなんでもないのに。勝手に一人で、何倍も悲しいような気がして。
その場の誰よりも大きい声で大泣きした。
私は兄と二人で街へ出かけた。
魔法使いであることがバレないよう、慎重に、はぐれないよう、手を繋いで。
手を……繋いで……きっと楽しい時間を過ごしたはずだけど、私が覚えているのはそこじゃない。
私たちは見てしまった。
破壊された建物。倒れている子供たち。その中に一人佇む黒髪の少年。
大きな音がして、たまたま、興味本位で見に行ったら、そんな光景が広がっていた。
魔瘴だっ!
誰かが叫び。あっという間に大混乱になった現場で、私と兄は動けずにいた。
黒髪の少年と私たちだけが微動だにせず、辺りをたくさんの人が走り回っている、不思議な空気に圧倒された。
「神子様こちらです!」
やがてそこに、真っ白な服を着た幼い少女が、白服の大人たちに連れられてやってきた。
少女は、黒髪の少年の手を引っ張って座らせ、少年の片目に手を当てた。
「どうして……」
黒髪の少年が消え入りそうな声でそう言うと、少女は首を振って答えず、魔法で少年の傷を治し始めた。
「どうして」
少年は壊れた機械みたいに同じことを繰り返した。
何度も何度も。
すると少女は、少年の傷を癒しながら、重い口を開いた。
「魔瘴と魔法使いの力は相反するものなのです。あなたの居た孤児院は……そこに居た人は魔瘴に侵された。魔法使いであるあなたは……子供たちを守ろうとした。それだけです。あなたは何も悪くない。魔瘴の前で魔法を加減するなど……出来ないものなのです。どのみち魔瘴を消すことが出来るものは、まだこの国にはない……だから……」
「殺すしかない」
そう呟いたのは、横で手を繋いでいる兄だった。
少女は一瞬こっちを見て、すぐまた少年と向き合った。
「この目……自分で傷つけましたね」
「……」
「魔法を使うまいとして、自分でやったのでしょう?」
少女の声に、少年が頷いた。
「……シスターが……トニィに襲いかか……た。それで、何とかしなきゃって……したら俺の魔法がシスターを傷っつ…………だからっ魔法止めようとして。止まった……けど……その間に……トニィ……シスターに殺さ……てた。俺は……結局どっちも」
救えなかった。
少年の囁くような一言に、私は胸を押さえた。氷を飲み込んだみたいに喉の奥から体が冷えて。
兄の手も冷たく、震えていた。
このとき私は何もわかっていなかったのだ。
国のため。戦や魔瘴に侵されたものと戦わされる魔法使いのことを。全然理解できていなかった。
「神子様! なぜそんな者の傷を癒すのですか! そいつが魔瘴を起こしたのでしょう! 魔法使いであることを隠してたせいで!」
「所詮神子も魔法使いだからだろ!」
大人たちの怒号の意味も何もわからない私は、このとき、ただただ、悲しかった。
避難の声を浴びて凛と立つ白い服の少女も、呆然と血の涙を流す黒髪の少年も。
震えながら私の手を握る兄も。
繋がっているわけでもなんでもないのに。勝手に一人で、何倍も悲しいような気がして。
その場の誰よりも大きい声で大泣きした。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。
みゅー
恋愛
王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。
いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。
聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。
王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。
ちょっと切ないお話です。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】子供が出来たから出て行けと言われましたが出ていくのは貴方の方です。
珊瑚
恋愛
夫であるクリス・バートリー伯爵から突如、浮気相手に子供が出来たから離婚すると言われたシェイラ。一週間の猶予の後に追い出されることになったのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる