ズィミウルギア

風月泉乃

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第一章:友と仲間と見守り隊員

【オンライン】21話

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「やっと来たか……」

 クワを肩に担いでいるおじさんが、呆れながらにオレ達を迎えてくれた。
 それは、ここに初めて来て、いきなり怒鳴り込んできたおじさんだ。

「……どうしたんじゃ、お嬢ちゃん」
『別に何でもないです』
「そ、そうか」
「まぁ、しばらくすれば戻るから気にしな――いてっ!」
『ふんっ!』
「ほ~ら、機嫌なおしてよスノー」
『む~、シュネーも見てたんじゃないの?』
「大丈夫だよ、みんな別にバカにした訳じゃないってば」



 オレ達は今、ズィミウルギアの世界。つまりゲームをプレイ中だ。
 そして此処はホームの家の中。
 オジサンは管理局の人に頼まれて、ここで待ってくれていたらしい。
 ゲームのキャラがプレイヤーに連絡を取るには管理局からでしか出来ないという。
 特別な許可証か、ホームに設置できる特殊家具が在れば、また別の話らしい。

 ちなみに、ヘッドギアは畑でのんびりしている時間帯に、家に調整が終了したモノが届けられていた。
 最優先で調整をしてくれたらしい。



 樹一の爺ちゃんの畑で、皆がのんびりしている時にオレのリルギアがけたたましい音をならす。
 ゲームの世界から電話が掛かってきた。

 まさかAIとはいえど、電話を掛けてくるとは思わなかったな。

 樹一や咲沢姉妹からは「「「お電話じゃなくて、通信って言って」」」と言われたが、
 オレにとっては別に一緒だろうとしか言えない。

 この事の公論を説明すると長いので割愛……基、省略しよう。

 ――樹一達に『どっちでも良いじゃん』、とか言ったらまた永遠と雰囲気とか世界観とか。
   魔法の様な言葉で訳の分からない説明を繰り返されそうだ。と、それよりもだ。

 最初は誰だか分からなかったが、見覚えのある背景に、
 ちょっとだけ記憶に残っていたおじさんの顔を思い出して。
 ようやくゲームのキャラだと分かり樹一を呼んだ。


 何やら焦っている様子で、しきりに、
「おいっ! 聞いているのかっ⁉ 早くホームに戻ってこい。お前んところなんか大変な事になってるんだぞ。ええぃ、これ本当に通じとるのか? これを見たらさっさとこっちにくるんだぞ、良いな。連絡はしたからな、早く来ないとどうなっても知らんぞ」
 という感じで、本当に焦っている感じの連絡だった。


『これってどういうこと?』
「さぁな、まぁゲームでいうイベントってヤツだろうな」

『イベント?』

「あ~、フラグがたって……………………小説で言えば、何か物事が起きて、物語が進むだろう、起こった事柄や現象があってお話が進む。これをイベントっいうの」

『……ありがとう、分かりやすい説明』

 しばらく樹一がオレの事をジッと見つめながら、口を開いた。

「あぁ、決して、花見とか風物詩的な催し物のことじゃあないぞ。まぁ、間違いではないんだろうけど、こと此処に至っては間違いだ」
 シレッとオレの心を見透かすように言われた。
『わ、わかってるよ』
 思わずムカッときて頬を膨らまして、両手いっぱいに広げてパタパタ振り回しながら、怒りというものを表現してやったが、にまにま笑っているのは樹一だけでなく、何故か周りの皆が終始笑顔なのが更に気に食わない。



 ちょっと不機嫌な理由を含め、現在のゲームにログインした状況はこんな感じだ。

『それで、どうしたんですか?』
「切り替え早いな、お嬢ちゃん」
『お嬢ちゃんは止めて下さい。自分にはスノーって名前があります、お・じ・さん』
「ふむ、すまんなレディー。だが、まだ半分くらいしか認めてないもんでね。ちなみにおれはボウガって名前があるんだが?」

 おじさん、もといボウガさんの頭の上に名前が表示された。
 樹一、じゃなくてティフォの服を軽く指先で摘み、引っ張った。

「ん? どうした?」
『なんかオジサンの頭の上に名前出たんだけど』
「ん? あ~、まぁこのゲームの使用だ。知り合いになるとプレイヤー名が表示される仕組みなんだ、名前を知らなきゃ表示されないが、知り合いとか自己紹介、相手の名前をとりあえず知れれば、プレイヤー名が表示される。それはNPCもオレ達プレイヤーも同じだ。エフケリアさんもそうだっただろう」

 そういえば、最初はあまり意識して見てなかったな。
 キャラの頭の上に表示されるせいで、身長差がありすぎると見えない。

『気付かなかった』
「あ~、まぁその身長差じゃあしようがないね」
『でも、ティフォのは見えないよ?』
「…………そりゃな、非表示にしてるし(女装してる俺の名を広められてたまるか)」

 目をそらしながら、そう答えてくれる。

「あれ? じゃあ僕等のは?」
「お前達のは元々非表示設定だ。俺かお前の親が許可を出さない限り表示されん」

「『それって……』」

「……子供の特権だな」
 いい笑顔で答えてくれたティフォの脛を、思いっきり蹴り飛ばしてやる。

「おい、じゃれあいはもういいか? 話を進めたいんだが?」
 床を転がるティフォを横目に、オレはボウガさんに笑顔で、
『もう、大丈夫です。続きを』と、答える。
「お、おう。コホンッ、とりあえずだ、そこの小窓からで良い、外を覗いてみろ」

 言われた通りにそっと覗くと、外では――
 ウサギの団体と蜂の大群が、喧嘩(戦闘)をしていた。

『なんか、喧嘩してるね』
「喧嘩違う、アレ、戦闘な。縄張り争いか?」
「俺がこのホームに入るのだって命がけだったんだぞ」

 ボウガさんがちょっと涙目でそう語ってくれた。

「頑張ったんですね、ボウガん」

 シュネーが茶化すように言う。

「あぁ、死に物狂いだった。お前たちが何も知らずに玄関から出たら、きっと即死だ。特にそこの妖精はな、次に武器に例えたら羽捥ぎってやるぞ。感謝しろよ、感謝を」

『それは、あの、ありがとうございます』
「おう、もっと感謝しろよ」

 ポムポムと頭を撫でられた。

 何も言わずにとりあえず、撫でられてやろうと思う。
 本当に心配して助けに来てくれたみたいだし、お礼の意味も込めて。ただ、とりあえずだ。

「……癖になりそうな、手触りだな」
『今は、好きに撫でればいい』
「ふは、ちびっ子の癖に色々と弁えてやがんな」

 嬉しそうにポムポムと撫でるボウガさんに、ちょっとだけシュネーが恨めしそうに見る。



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