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第一章:友と仲間と見守り隊員
【オンライン】14話
しおりを挟む「他の場所はどうだったのさ? ケリアさんが開拓を手伝った場所とかさ」
「他の場所ではそんな事は無かったのよ~、畑を作ればそこでは敵は湧かない、ホームから一定距離にはモンスターが湧くことはないのよ。普通は、ね」
ちなみに、この辺りの草原に出現するモンスターは大体把握した。
ラビットの群れ、鶏っぽいモンスターのコッコというらしい。まぁ、まんま鶏だ。
あとは定番のスライムと、ちょっと奥地に行けば羊と牛のモンスターがいる。
オオカミの群れという危なっかしいアクティブモンスターと共に。
「むしろ、ホームの近くにいっぱいいる感じだもんね」
シュネーがウサギを眺めながら、ため息交じりに言う。
むしろホームの近くの方がモンスターが多い気がする。
それと、やっぱり何処の家の周りにも離れた位置にもまともな畑が無い。
田畑の後は多く見てきたが、どの畑にも何かが育っている様子が皆無だ。
誰かが作ろうとした畑にはモンスターが湧き、あっちこっちを踏み荒らしている。
あんな事をやられちゃ、そりゃあやる気も削がれていく。
『……シュネー、ちょっと放して』
「え、あ~うん」
名残惜しそうにオレのことを開放してくれた。
ゆっくりと真上に向かって飛び上がって、辺りを一望する。
気持ちよく風に乗っているようで、飛んでいるというのは不思議な感覚だった。
「こら~、危ないから下りておいでよ~」
結構に高い位置まできて下を向くと、シュネーがぴょんぴょん飛び跳ねていて、オレを心配そうに見ている。
改めて家の位置から、モンスター分布の様子を窺う。
木があまりないこともあって一面を確認しやすい。
上から見下ろしてみると、白いのが鶏、灰色がウサギ、青がスライムと分かる。
思った通り、やはりホームに近い場所にモンスターが多く集まっている。
というか、モンスターがグループを作ってホームの周りに居る。
それぞれ種族ごとに一グループずつだが、固まりで纏まって居るのが分かる。
この事を報告するために、シュネーの胸元まで直ぐに戻る。
「もう、スノーの甘えんぼさん」
シュネーは声を出さずに薄笑いを浮かべて、オレのことを見ている。
『なにいってるの?』
「だって、態々ボクに抱かれに来るなんてさ」
またギュッと優しく、けどしっかりと抱きしめられた。
『ち、違う。シュネーが名残惜しそうにしてたから』
「ん~、そういう事にしといて上げよう」
なにがそういう事にだよ、名残惜しそうにしていたのは事実じゃないかよ。
――まぁ、落ち着くっていうか、安心できるけど。
シュネーのことを思っての好意なのに、まったくもって、侵害だ。
『別に良いんだよ、離れて飛んでても』
「もう拗ねない拗ねない」
『拗ねてない!』
「じゃあ、離れる?」
そう言われて、なんかムカッとするも、抱きしめられた腕が弱められていくと、自分でも分かる程に、チラチラとシュネーの事をチラ見してしまう。
『別に、このままで良いって言ってる』
「もう、可愛いんだから」
ギュッと抱かれると、安心して体を委ねてしまう。
その事に安心した自分も、それを見てニヤニヤ顔をシュネーにも、ちょっと悔しく思う。
「それで、何かわかりそうか?」
『とりあえず、一回ホームに戻ろう、そこでオレの考えと上から見た感じの情報の整理をしてから、次に実証研究? ってやつかな』
「良いわね~、もうワクワクしてきちゃうわ」
ホームに戻りながら、軽く見て感じた事を話した。
『普通のモンスターはホームに湧いてないと、オレは思う』
「ウサギはこのフィールド内での普通モンスターだろ?」
『ん~、オレが感じたのは、ワザとホームにモンスターを沸かす? 感じで、周りのモンスターを集めてるかなって思ったの』
「集める? なんで?」
オレを抱いているシュネーが首を傾げながら聞く。
『や、知らないけど……ホーム周りのモンスターが極端に少ない気がするし』
極端に少ないというよりも、この家周辺のウサギに関しては編隊を組んで統率されているイメージの方が強い。とくに、オレを足蹴にしたようなあの生意気なウサギを思い出す。
「そういえば、スノーちゃん達に対してだけリンクして襲ってたわね」
エフケリアさんが思い出したように言う。
――リンク? ってなんだっけ?
「リンクってのは一匹のモンスターを攻撃すると、近くにいる同種モンスターも一緒になって襲ってくる事だ、まぁゲームの用語だな」
オレの心でも読んだかのようにティフォが説明をしてくれる。
『顔に出てた?』
「顔というより、仕草だな」
にかっと笑うティフォを、何故かシュネーが睨んだ表情で見ている。
「あの、なぜに睨まれているのかな、俺は?」
ちらっとティフォが助けを求めるようにオレに視線を移す。
いや、オレに聞かれても困る。
小さく首を振ってオレも知らないと、伝える。
「いまだけ、いまだけ……絶対に追い越す」
ブツブツを意味不明な言葉を呟くシュネーにどう声を掛ければ良いか分からず。
とりあえず、この雰囲気を何とかするために話を進める。
エフケリアさんだけが、この雰囲気を楽しそうに眺めている。
「でぇ、どういった事を確かめていくのかしら?」
『まず気になったのは―ー』
シュネーとオレのパラメーターは違うけど、その他の能力は同じだ。
高く飛び上がって上から見下ろしたとき、不自然にモンスターが移動していたのが見えた。
離れた位置に居たスライムやウサギが、逃げる様にシュネーから離れていった。
多分だが、俺達の【騎獣の心】が影響しているんじゃないかって思った。
これは案の定、ホームから離れた位置の小型モンスターは一定距離、近づいてこない。
ただし、一定範囲内に入ったモンスターはその場からあまり動かず、こちらを監視するよう移動して去っていく。
その過程で分かったことだが、スライムは《魔力・振動・視覚》の感知能力だということ。
――…………スライムの目ってどこだろう。
プルプルでゼリーの塊にしか見えないのだが、核となるモノがあるらしいのだけ。
そこが視覚の役割を持っている、ただ外から見つめているだけでは見えないらしい。
ウサギは《気配・聴覚・視覚》で反応する。
肝心のホームのウサギだが、オレ達が離れた位置からゆっくり近付いても、警戒した様子もなく普通にうろついているだけだ。
いくら大声を出そうと、こっちを見ようとも変わった様子がない。
唯一、ちょっと変わった反応をした一グループがいた。
これはオレやシュネーに対してではなく、ティフォに対して変わった反応をした。
ホームに近づいて行くと、すり寄っていくのだ。餌を強請るペットの様に。
そして、オレとシュネーには何故か……けんか腰だ。
帰ってくると、何故か待っていましたと言わんばかりに、玄関前で陣取っている。
もちろん、あの生意気なウサギは腕組みをして先頭で偉そうに立っている。
「ザ・リベンジだよ、ウサチャンズ」
『いざ、勝負』
シュネーは巨大ニンジンを取り出し、オレは普通サイズを掲げて飛び出す。
数では向こうが圧倒的に有利。
言うまでもなく、オレ達に圧倒できる力は無い。
数分も経たずに敗北し、こちらのニンジンを取られた。
これは毎回というか、もう成り行き任せにやっている。
「ねぇ、なんならアタシが倒しても良いのよ?」
HPが1の状態では動けず、頭の上から声がする方にチャットを打ち込む。
シュネーはもう仰向けになって、寝息を立てて寝ている。
『ケリアさんは手出ししないでくださいね』
「でも~」
『オレはこいつらと仲良くなってみたいんです』
「仲良くって、テイマーじゃなきゃ使役できないのよ?」
『ケリアさんが言っている事の意味は良く分からないんですけど……試したんですか?』
「良く分からないって、ゲームのじょうしっ――」
急にケリアさんは言葉が詰まったようで、最後まで言わずに終わってしまった。
いまの状態だとケリアさんの表情なんて見えない。
どうしたのかは分からないけど、オレはとりあえず言いたい言葉をチャットに打ち込んでいく。
『使役ってことは相手に何かを《させる》ってことですよね、別に命令とか主従関係で縛りたいわけじゃあないんですけど。オレはあいつ等の主人じゃなくて友達になりたいって、だけなんですけど。できないんですか?』
しばらく、ケリアさんからの返答がない。
「それ、は……分からない、わね」
どことなく震えたようで、やっと絞り出した感じの声だった。
『ケリアさん? どうしたんですか?』
「なんでもないわ」
瀕死のボロボロ状態から少しだけ回復して、やっとのことで起き上がる。
「スノー、作戦考えよ、作戦っ、このままじゃ勝てないよ~」
『そうだね、なにか考えないと』
ティフォは相変わらず、オレ達から奪われたニンジンを切り分けて、ウサギ達に丁寧に配っている。
ヤツの周りはモフモフワールドが出来ていた。
「ちょっと、城下に行ってくるわ、何か欲しいモノがあったら買ってきてあげるわよ」
「とくには無いけど……ニンジンを追加でっ!」
そんなお父さんの飲み友達が来たときの、酔ったオジサン風に言わんでも。
『シュネー、まだいっぱいあるでしょう。オレは特にないのですね』
やはり気のせいだったのか、さっきの声音よりも高い声で元気そうだった。
「買い物なら、ちょっと俺も付き合いますよ」
「え、いやでも、悪いわよ」
「そんな気にしないで――」
餌を分け終えて、ケリアさんに近づいて何やら、急に聞こえない程の会話をしている。
「え~、一緒に作戦考えてよ~」
「そういうのはスノーが一人居れば十分だろう」
「スノーはゲーム初心者なんだよ~、それにボクも~」
「しばらく二人っきりになれるんだぞ?」
数秒の沈黙の後、
「行ってらっしゃい」
『……シュネーはいったい何がしたいのさ』
「気にしない、気にしない」
急にオレを抱きしめて、ホームへと向かい始めた。
『ちょっと!?』
「さ、次こそはあいつ等をギャフンと言わそうね」
『ねぇ、なんかシュネーが怖いんだけど、助けてよっ!』
「すぐもどって来るって」
ギ~っと重い音が静かな部屋に響き、重そうな音と共に閉まる。
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