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実験の成果ー2ー
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「はーい、これから先ほど収集したデータの解析結果報告会をはじめまーす。パチパチパチ」
「いぇーい」
一応のっておいた。
「景子先生は自分の研究結果を披露するのが一番楽しく、一番好きらしい」
そのときは大抵テンションがマックスになり人の話を聞き入れない状態に陥るのだとか。
「さきほどの解析結果として、隼人君が覚醒している状態では外部への力の流出が全く認められませんでした。平常時には一般の超越者(エクシード)と同等の量の力が漏れ出ていましたが、強襲形態のロボットとの戦闘時及び私の援護時には力の流出が全く検出されませんでした」
「つまり、力の流出を抑えれば、意図的に覚醒状態にすることができるということか」
「現時点ではそれ以外方法はないでしょうね」
「・・・しかし、現時点で力の流出に関する研究はされたことがない。流出がさほど問題ではないとされてきたためだ」
「僕の技術部でもそういった話題が上がったことはないね。だから対策を見つけるのは一からになる見通しだよ」
と悩む司令と須藤さんに向けて俺は疑問を投げかける。
「えっと、力の流出ってなんでしょうか」
「あぁ、言ってなかったな。力の流出、それは超越者(エクシード)が抱えきれない力がその者の体に
とどまることを嫌って出ていく現象のことだとされている」
「超越者(エクシード)が抱えきれない・・・とどまることを嫌う・・・?」
「超越者(エクシード)が抱えきれない、というのは簡単にいえば実力不足、とどまることを嫌うというのはその力がただそのものには扱いきれないものだから超越者(エクシード)自体がセーブできないがために出ていくという擬人的な表現のことだ」
「それでもよくわかりませんが・・・まぁわかったことにしておきます」
「実力不足・・・。そうだわ!それよ!」
と景子先生がひらめいたかのように興奮した状態を見せた。
「技術職人! 確かフォースの行使をアシストする機器のプロトタイプが完成したっていってたわよね」
「え、あ、うん。そうだね」
「それにステージを疑似的に上げる機能の模擬版を搭載しているって聞いたんだけど、本当?」
「うん、そうだね。でもそれがどうかしたのかい?」
「疑似的にステージを上昇させる、つまり自己強化ってことじゃない。もしかしたらそれで隼人君の力をいじったらどうにかなるかもしれないわよ」
「なるほど・・・至急、準備を整えてきます。待っててください!」
と言い残し須藤さんは走って部屋を出て行った。
「・・・遅いですね」
「遅いな。まったく須藤は何やってるんだ」
須藤さんが部屋を出て行ってから約二時間。世間話も底をつき、退屈していた。ボーっとしているとドアが勢いよく開いた。
「お待たせしました。これがプロトタイプです」
須藤さんがプロトタイプとコンピュータを持って帰ってきた。
「須藤お前、プロトタイプ持ってくるのにどれだけ時間かかってるんだ」
「すみません。これに搭載されていたのはあくまでベータ版でして、先ほど得た隼人君のデータに調整したプログラムを作り直してたら結構時間かかっちゃいまして」
あれほどの実力を持ってしてもこの時間のかかりよう。さぞすごい機器なのだろう。
「さて、これですね。仮ネームFAAS」
と厳重そうな箱から出されたのは見覚えのあるものだった。
「執行者デバイス・・・?」
「似てるね。というか筐体自体は全く同じだね」
「執行者デバイスと同様、これ本体を持ち歩くのではなく君の通信機器の機能にデータを送信してそっちで操作できようになるから」
「まるっきり同じですね」
「中身は違うさ」
「それはわかってます」
「では早速検証を始めましょう」
「あぁそうだな」
「コード改良に関しては任せてください」
「そうだな。ここは場が悪い。研究室に戻るか」
「そうですね」
ここには医療部自慢の分析装置や他の機械類など、壊したらやばそうなものが大量にあるのでここでの実験は向かないだろう。ということで研究室にもどることとした。
「一応言っておくけど、ちゃんと戦闘を意識してね」
「わかってますよ」
エージェンシーの準備が終わった俺は目の前に用意された的に標準を合わせ
「では始めます」
戦闘時と同じように銃弾を創造しようとする。当たり前だが銃弾は創造できない。そこでこのFAASの電源を入れる。
―――――フォースアシストアジャストメントシステムFAAS起動しました。使用者コンディションを確認。アシストを開始します――――
FAASによるアシストが開始されあの時とできるだけ同じ感じに銃弾を創造しようと試みる。
「こっちでは力のアシスト調整をおこなう。その感覚を途切れさせないでくれ」
「わかりました」
俺は言われた通り感覚を途切れさせることなく、銃弾の創造に集中した。
「・・・さすがにこの集中を持続させるのはきついですよ」
実験が始まって二時間、さすがに集中力が切れ、実験が中断された。
「先生、なにか変化はありましたか?」
と、景子先生に尋ねる。
「変化ね・・・。もちろんアシストは効いているから力の感じは変わってるんだけど、君が望むような変化は見られないわね」
「そうですか」
「少し休憩を挟もう。十分後再開する」
と司令は言い残して部屋を出て行った。
「セーブできない力が流出する現象。それはその力の持ち主である実力の欠如が起因して起こる現象・・・。いやまて、考え方が違うのかもしれない」
と須藤さんが何かひらめいたかのようにうつむいていた顔を上げる。
「力の流出を起こさないためには、流出する力に認めてもらう、つまりその力を保持できるほどの実力がいる、という前提のもと実験をしていた。しかしその前提そのものが間違いじゃないのかと思ったんだ」
「つまりどういう・・・?」
「流出を抑える。簡単な話だ。すべての力をゼロにすればいい」
「あらまぁ、実験のし過ぎでおかしくなっちゃったのかしら。確かにそれは思い浮かばなかったわ。でも思い浮かばなかったのはそれがあり得ないことだから。少なくとも隼人君はフォースを行使して戦ったのは確かよ。それを私ははっきり見た。いくら ステージ マスターだろうとそんな無から有をうみだすことなんて・・・」
「いや、あり得るかもしれない」
といつの間にか戻ってきた司令が言った。
「私のフォースを行使して、君の力の色を見たとき、君の力の色はなく、無色透明だった。私のステージではその時の状態を見るのではなく、そのものが得意とする、つまり適正が一番高い色を見ることが可能。それが無色透明だったのを考えるとあり得る話かもしれない」
「無色透明の力というのは聞いたことはないし、見たこともない。力がない状態とは違うのか」
と須藤さんが司令に疑問を投げかける。
「無色透明、私もそれまで見たことはなかったし、聞いたこともなかった。あくまでこれは私の推測になるが、素質がない状態、つまり力がない状態が零なのだとしたら、無色透明というのはそれとは違う零の状態を表すのではないかと思う」
「零と違う零・・・?」
と須藤さんは困惑していた。ちなみに俺もだ。
「私自身も自分が何言っているのか、よく考えるとわからない。しかし、そう考えるのが一番普通だと思った。ただそれだけだ」
「・・・とりあえず十分たったし実験再開にしましょうかしら」
「そうだな。まずは・・・須藤、アシストにより力がない状態にできるか」
「・・・おそらくできると思いますが、完全になくせるとは限りません」
「それでもいい。やってみろ」
俺は再度実験ブースに戻り準備をした。
「隼人、準備はいいか」
「はい」
「では実験を再開する」
―――――アシスト開始します―――――
FAASによるアシストが開始された瞬間、若干だがあのときと同じ感覚になった。
あの時のように、集中し、銃弾を創造することだけを考えた。
―――――バアァァン―――――
研究室内に銃声が響き、目の前の的には一つの穴が開いていた。
的を倒す、ということが目標となり攻撃性の銃弾が創造されたのだろう。
「成功・・・ということか」
「ふうぅ、とりあえず疑似的に覚醒状態にする方法、見つかったわね」
「そうですね」
とりあえず大きな進歩をしたに違いない。
「須藤、先生。このFAASをすぐさま実用可能な状態にすることを命じます」
「ふふ、了解です」
「了解。全力で完成させます」
「頼んだぞ。では私はこれで」
と司令は部屋を出て行った。
「やるとしますか」
「えぇ。素早く終わらせちゃいましょ」
「ということで、君のエージェンシーを少しの間貸してほしいんだが、いいか?」
「え、えぇ、いいですが、何に使うんですか」
「今君が使ったのFAASはプロトタイプで誰が使ってもそう問題は起きないものなんだ。安定性はあるがその代わり強さの面では劣る。だからよりアシストを強いものにするにはその超越者(エクシード)専用モデルを作らないといけないんだ。そのために君のエージェンシーや力の情報がいるんだ」
「なるほど。完成までどれくらいですかね」
「君はいろいろ特殊だからね。試用期間などを含めて完全に完成するまで一週間って言ったところか。景子先生はどうですか」
「私もそれくらいでいいかしら」
「相変わらず速いですね」
「とりあえず、君の基本データを収集したい。さっきの感じで君の力を行使してみてくれ」
「わかりました」
という感じで、実験三昧の日々を過ごした。
「ふぅ、祝日なのに疲れた」
実験が終わって帰ってきたのころには日は沈みかけており、空の色は朱色から紺色へと変わっている最中だった。しかし、今回の実験はとても重要なものだった。なんたって自分の力の引き出し方が判明したからだ。自分は言われた通りにしていただけなのだが、なぜか自分も達成感を感じている。自分のFAASは一週間後に完成する予定らしい。相変わらずの速さだ。普通早くて数か月かかるもんだと思うのだが。
「さて、お客さんが来たよようだな」
とつぶやきながら玄関へ向かい、ドアを開ける。
「何の用だ、葦名」
こっちへ帰ってきてから気配を感じていた。
「あの・・・お役に立てず申し訳ありません」
葦名はそう言い深々と頭を下げた。
「えぇっと、なんで謝ってるの?」
「あの時、補佐の私がいながらお役に立てなかったことの謝罪をしに・・・」
どうやらあのレクイエム幹部と名乗る男との戦いのとき、自分が役に立てなかったことを反省してるらしい。
「いいよ、気にしなくて」
当の俺はまったく気にしてない。
「むしろこっちは感謝してるよ。あんな大敵に果敢に立ち向かってくれて」
「いえ・・・それが私の責務なので・・・」
「もしかして、責務を全うできなかったことに責任を感じてここ数日学校休んでたのか?」
と問うと、葦名は黙りこくってしまった。どうやら図星のようだ。
「はぁ・・・責務だろうと、なんだろうと、こっちは感謝してる。ただそれだけだから」
というと葦名は少し安堵して
「・・・はい。ありがとうございます」
と俺に返した。
「わかってくれればいい」
どうやら葦名は責任を感じやすいタイプらしい。そんなに重く受け止めてもらったらこっちも罪悪感に駆られてしまうので極力避けてほしいと感じる。
「・・・で今日の用件は?」
「・・・もう終わりました」
「・・・へ?」
と少し間抜けな声が出てしまった。
「えっと、まさか謝るだけのためにここに来たのか」
「そのとおりです」
「えぇ・・・」
まさか用件が謝ることだったとは思いもしなかった。何かのついでに謝ろうと思って来たのかと考えていたが、予想の斜め上をいかれた。
「では、失礼します」
「お、おう」
と数秒唖然と立ち尽くしたまま家を去っていく葦名の後姿を眺めていた。
「もうできたんですか」
公安本部からの自分専用のFAASの完成報告が来た。予定では一週間かかる予定だったのだが、あの日からまだ三日しかたっていない。幸い、今日は学校が早く終わって一日中暇だったので行ってみることにした。
「あら、隼人君。来てくれたのね」
「はい。ところで須藤さんはどちらに?」
「あぁ、須藤さんなら研究室で待ってるわよ。さあ行きましょう」
「ええ、行きましょうか」
この場にもだいぶ慣れ、景子先生とも話しやすくなった。しかしまだこの本部の人の九割くらいとは関わったことがない。いずれ関わりを持たないと、と思った。
「・・・ボーッとしてどうしたの?着いたわよ」
「は、はい」
気づいたら目的地に着いていた。そこには須藤さんに加え、司令もいた。
「いぇーい」
一応のっておいた。
「景子先生は自分の研究結果を披露するのが一番楽しく、一番好きらしい」
そのときは大抵テンションがマックスになり人の話を聞き入れない状態に陥るのだとか。
「さきほどの解析結果として、隼人君が覚醒している状態では外部への力の流出が全く認められませんでした。平常時には一般の超越者(エクシード)と同等の量の力が漏れ出ていましたが、強襲形態のロボットとの戦闘時及び私の援護時には力の流出が全く検出されませんでした」
「つまり、力の流出を抑えれば、意図的に覚醒状態にすることができるということか」
「現時点ではそれ以外方法はないでしょうね」
「・・・しかし、現時点で力の流出に関する研究はされたことがない。流出がさほど問題ではないとされてきたためだ」
「僕の技術部でもそういった話題が上がったことはないね。だから対策を見つけるのは一からになる見通しだよ」
と悩む司令と須藤さんに向けて俺は疑問を投げかける。
「えっと、力の流出ってなんでしょうか」
「あぁ、言ってなかったな。力の流出、それは超越者(エクシード)が抱えきれない力がその者の体に
とどまることを嫌って出ていく現象のことだとされている」
「超越者(エクシード)が抱えきれない・・・とどまることを嫌う・・・?」
「超越者(エクシード)が抱えきれない、というのは簡単にいえば実力不足、とどまることを嫌うというのはその力がただそのものには扱いきれないものだから超越者(エクシード)自体がセーブできないがために出ていくという擬人的な表現のことだ」
「それでもよくわかりませんが・・・まぁわかったことにしておきます」
「実力不足・・・。そうだわ!それよ!」
と景子先生がひらめいたかのように興奮した状態を見せた。
「技術職人! 確かフォースの行使をアシストする機器のプロトタイプが完成したっていってたわよね」
「え、あ、うん。そうだね」
「それにステージを疑似的に上げる機能の模擬版を搭載しているって聞いたんだけど、本当?」
「うん、そうだね。でもそれがどうかしたのかい?」
「疑似的にステージを上昇させる、つまり自己強化ってことじゃない。もしかしたらそれで隼人君の力をいじったらどうにかなるかもしれないわよ」
「なるほど・・・至急、準備を整えてきます。待っててください!」
と言い残し須藤さんは走って部屋を出て行った。
「・・・遅いですね」
「遅いな。まったく須藤は何やってるんだ」
須藤さんが部屋を出て行ってから約二時間。世間話も底をつき、退屈していた。ボーっとしているとドアが勢いよく開いた。
「お待たせしました。これがプロトタイプです」
須藤さんがプロトタイプとコンピュータを持って帰ってきた。
「須藤お前、プロトタイプ持ってくるのにどれだけ時間かかってるんだ」
「すみません。これに搭載されていたのはあくまでベータ版でして、先ほど得た隼人君のデータに調整したプログラムを作り直してたら結構時間かかっちゃいまして」
あれほどの実力を持ってしてもこの時間のかかりよう。さぞすごい機器なのだろう。
「さて、これですね。仮ネームFAAS」
と厳重そうな箱から出されたのは見覚えのあるものだった。
「執行者デバイス・・・?」
「似てるね。というか筐体自体は全く同じだね」
「執行者デバイスと同様、これ本体を持ち歩くのではなく君の通信機器の機能にデータを送信してそっちで操作できようになるから」
「まるっきり同じですね」
「中身は違うさ」
「それはわかってます」
「では早速検証を始めましょう」
「あぁそうだな」
「コード改良に関しては任せてください」
「そうだな。ここは場が悪い。研究室に戻るか」
「そうですね」
ここには医療部自慢の分析装置や他の機械類など、壊したらやばそうなものが大量にあるのでここでの実験は向かないだろう。ということで研究室にもどることとした。
「一応言っておくけど、ちゃんと戦闘を意識してね」
「わかってますよ」
エージェンシーの準備が終わった俺は目の前に用意された的に標準を合わせ
「では始めます」
戦闘時と同じように銃弾を創造しようとする。当たり前だが銃弾は創造できない。そこでこのFAASの電源を入れる。
―――――フォースアシストアジャストメントシステムFAAS起動しました。使用者コンディションを確認。アシストを開始します――――
FAASによるアシストが開始されあの時とできるだけ同じ感じに銃弾を創造しようと試みる。
「こっちでは力のアシスト調整をおこなう。その感覚を途切れさせないでくれ」
「わかりました」
俺は言われた通り感覚を途切れさせることなく、銃弾の創造に集中した。
「・・・さすがにこの集中を持続させるのはきついですよ」
実験が始まって二時間、さすがに集中力が切れ、実験が中断された。
「先生、なにか変化はありましたか?」
と、景子先生に尋ねる。
「変化ね・・・。もちろんアシストは効いているから力の感じは変わってるんだけど、君が望むような変化は見られないわね」
「そうですか」
「少し休憩を挟もう。十分後再開する」
と司令は言い残して部屋を出て行った。
「セーブできない力が流出する現象。それはその力の持ち主である実力の欠如が起因して起こる現象・・・。いやまて、考え方が違うのかもしれない」
と須藤さんが何かひらめいたかのようにうつむいていた顔を上げる。
「力の流出を起こさないためには、流出する力に認めてもらう、つまりその力を保持できるほどの実力がいる、という前提のもと実験をしていた。しかしその前提そのものが間違いじゃないのかと思ったんだ」
「つまりどういう・・・?」
「流出を抑える。簡単な話だ。すべての力をゼロにすればいい」
「あらまぁ、実験のし過ぎでおかしくなっちゃったのかしら。確かにそれは思い浮かばなかったわ。でも思い浮かばなかったのはそれがあり得ないことだから。少なくとも隼人君はフォースを行使して戦ったのは確かよ。それを私ははっきり見た。いくら ステージ マスターだろうとそんな無から有をうみだすことなんて・・・」
「いや、あり得るかもしれない」
といつの間にか戻ってきた司令が言った。
「私のフォースを行使して、君の力の色を見たとき、君の力の色はなく、無色透明だった。私のステージではその時の状態を見るのではなく、そのものが得意とする、つまり適正が一番高い色を見ることが可能。それが無色透明だったのを考えるとあり得る話かもしれない」
「無色透明の力というのは聞いたことはないし、見たこともない。力がない状態とは違うのか」
と須藤さんが司令に疑問を投げかける。
「無色透明、私もそれまで見たことはなかったし、聞いたこともなかった。あくまでこれは私の推測になるが、素質がない状態、つまり力がない状態が零なのだとしたら、無色透明というのはそれとは違う零の状態を表すのではないかと思う」
「零と違う零・・・?」
と須藤さんは困惑していた。ちなみに俺もだ。
「私自身も自分が何言っているのか、よく考えるとわからない。しかし、そう考えるのが一番普通だと思った。ただそれだけだ」
「・・・とりあえず十分たったし実験再開にしましょうかしら」
「そうだな。まずは・・・須藤、アシストにより力がない状態にできるか」
「・・・おそらくできると思いますが、完全になくせるとは限りません」
「それでもいい。やってみろ」
俺は再度実験ブースに戻り準備をした。
「隼人、準備はいいか」
「はい」
「では実験を再開する」
―――――アシスト開始します―――――
FAASによるアシストが開始された瞬間、若干だがあのときと同じ感覚になった。
あの時のように、集中し、銃弾を創造することだけを考えた。
―――――バアァァン―――――
研究室内に銃声が響き、目の前の的には一つの穴が開いていた。
的を倒す、ということが目標となり攻撃性の銃弾が創造されたのだろう。
「成功・・・ということか」
「ふうぅ、とりあえず疑似的に覚醒状態にする方法、見つかったわね」
「そうですね」
とりあえず大きな進歩をしたに違いない。
「須藤、先生。このFAASをすぐさま実用可能な状態にすることを命じます」
「ふふ、了解です」
「了解。全力で完成させます」
「頼んだぞ。では私はこれで」
と司令は部屋を出て行った。
「やるとしますか」
「えぇ。素早く終わらせちゃいましょ」
「ということで、君のエージェンシーを少しの間貸してほしいんだが、いいか?」
「え、えぇ、いいですが、何に使うんですか」
「今君が使ったのFAASはプロトタイプで誰が使ってもそう問題は起きないものなんだ。安定性はあるがその代わり強さの面では劣る。だからよりアシストを強いものにするにはその超越者(エクシード)専用モデルを作らないといけないんだ。そのために君のエージェンシーや力の情報がいるんだ」
「なるほど。完成までどれくらいですかね」
「君はいろいろ特殊だからね。試用期間などを含めて完全に完成するまで一週間って言ったところか。景子先生はどうですか」
「私もそれくらいでいいかしら」
「相変わらず速いですね」
「とりあえず、君の基本データを収集したい。さっきの感じで君の力を行使してみてくれ」
「わかりました」
という感じで、実験三昧の日々を過ごした。
「ふぅ、祝日なのに疲れた」
実験が終わって帰ってきたのころには日は沈みかけており、空の色は朱色から紺色へと変わっている最中だった。しかし、今回の実験はとても重要なものだった。なんたって自分の力の引き出し方が判明したからだ。自分は言われた通りにしていただけなのだが、なぜか自分も達成感を感じている。自分のFAASは一週間後に完成する予定らしい。相変わらずの速さだ。普通早くて数か月かかるもんだと思うのだが。
「さて、お客さんが来たよようだな」
とつぶやきながら玄関へ向かい、ドアを開ける。
「何の用だ、葦名」
こっちへ帰ってきてから気配を感じていた。
「あの・・・お役に立てず申し訳ありません」
葦名はそう言い深々と頭を下げた。
「えぇっと、なんで謝ってるの?」
「あの時、補佐の私がいながらお役に立てなかったことの謝罪をしに・・・」
どうやらあのレクイエム幹部と名乗る男との戦いのとき、自分が役に立てなかったことを反省してるらしい。
「いいよ、気にしなくて」
当の俺はまったく気にしてない。
「むしろこっちは感謝してるよ。あんな大敵に果敢に立ち向かってくれて」
「いえ・・・それが私の責務なので・・・」
「もしかして、責務を全うできなかったことに責任を感じてここ数日学校休んでたのか?」
と問うと、葦名は黙りこくってしまった。どうやら図星のようだ。
「はぁ・・・責務だろうと、なんだろうと、こっちは感謝してる。ただそれだけだから」
というと葦名は少し安堵して
「・・・はい。ありがとうございます」
と俺に返した。
「わかってくれればいい」
どうやら葦名は責任を感じやすいタイプらしい。そんなに重く受け止めてもらったらこっちも罪悪感に駆られてしまうので極力避けてほしいと感じる。
「・・・で今日の用件は?」
「・・・もう終わりました」
「・・・へ?」
と少し間抜けな声が出てしまった。
「えっと、まさか謝るだけのためにここに来たのか」
「そのとおりです」
「えぇ・・・」
まさか用件が謝ることだったとは思いもしなかった。何かのついでに謝ろうと思って来たのかと考えていたが、予想の斜め上をいかれた。
「では、失礼します」
「お、おう」
と数秒唖然と立ち尽くしたまま家を去っていく葦名の後姿を眺めていた。
「もうできたんですか」
公安本部からの自分専用のFAASの完成報告が来た。予定では一週間かかる予定だったのだが、あの日からまだ三日しかたっていない。幸い、今日は学校が早く終わって一日中暇だったので行ってみることにした。
「あら、隼人君。来てくれたのね」
「はい。ところで須藤さんはどちらに?」
「あぁ、須藤さんなら研究室で待ってるわよ。さあ行きましょう」
「ええ、行きましょうか」
この場にもだいぶ慣れ、景子先生とも話しやすくなった。しかしまだこの本部の人の九割くらいとは関わったことがない。いずれ関わりを持たないと、と思った。
「・・・ボーッとしてどうしたの?着いたわよ」
「は、はい」
気づいたら目的地に着いていた。そこには須藤さんに加え、司令もいた。
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