39 / 52
闇の賊との対決編
第38話 ブラック・マウンテン
しおりを挟む
「こいつらを連れて行け」
部屋の扉が開けられ、ロシールが入ってくる。その後ろには――――数人の闇の賊がいる。それを見たアイラの顔色が変わる。
「……闇の賊。この船にも乗ってやがったのか」
サルマがぼそりと呟く。
闇の賊たちは無言のまま二人の足のロープのみを切って自由にし、その代わりに胴にロープを巻いて縛り、その巻きつけたロープの端を手に持って二人を引っ張ってゆく。
アイラは闇の賊に引っ張られて歩きながら、ロープを持つ闇の賊たちをチラリと見る。
(闇の賊が船に乗っていたなら、無理に脱出しなくてよかったかもしれない。でも……)
「アイツ、どうしたんだよ。呼び出してから今までずいぶん時が過ぎたが、何も起きねぇじゃねぇか」
サルマが小さな声で呟く。
「うん……。もしかしたら、時間がかかるのかも」
「魔法のランプのクセにか? ったく使えねぇヤツだ。デタラメなんじゃねぇのか?」
甲板へとつながる扉が開けられ、船室から出た二人は息を呑む。甲板には大勢の闇の賊が並んで立っていて、じっとこちらを見ていた。そして、船のマストや帆は全て、真っ黒な色をしていた。
「……闇の賊の黒い帆船……。俺たちは、これに乗せられていたのか……」
サルマが青い顔をして言う。アイラは恐怖に震えながらも小声でサルマに尋ねる。
「……ここにいるよりも多くの闇の賊がいるかもしれないんだよね、ブラック・マウンテンってところには……。どうしよう。ブラック・マウンテンに着く前に、今からでも戦ったりして、なんとかして逃げる? わたしの剣を使えばなんとかなるかも……」
「……今は無理だ。大勢の闇の賊に注目されてるこの状況だし、剣を抜く暇もねぇよ。それに……もう着いちまったようだぜ。そのブラック・マウンテンってところに」
サルマはそう言って親指で左側を指し示す。左側には、真っ黒な岩が積み重なってできた大きな岩山――――ブラック・マウンテンと思われる島があった。
「ここがブラック・マウンテンとやらか? 闇の世界に通じてるのはこの山のどこなんだよ」
サルマがロシールに尋ねると、ロシールはこちらを振り返り、にやりと笑って言う。
「そう慌てるな。すぐに連れて行ってやる。この島の頂上に空いている穴が、闇の世界と通じているのだ。お前たちには、これから山登りをしてもらうぞ」
「じゃあ……なんでまた、闇の大穴ではなくここを選んだんだよ?」
「お前たち二人が確実に闇の世界に行くのを見届けるには、ここが一番なのだよ。大穴だと、お前たちを連れて行く私までも渦の威力に巻き込まれて、闇の世界に送られる可能性が高い。私はまだこの世界で用があるため、お前たちと一緒に行くわけにはいかないのでな。それに今大穴付近では、闇の賊の襲来に備えて多くの警備戦士が張っている。そんなところにのこのこ出て行くわけにはいかない。黒い霧に覆われ、この世界の誰にも知られていないこの場所で行うのが、一番安全かつ確実に目的を果たせるというわけだ」
ロシールはそう言うと、闇の賊に合図を出す。それを見た闇の賊たちは上陸の準備に取りかかる。
「さて、お喋りはこの辺りで終わりだ。今からブラック・マウンテンに上陸する。命が惜しければおとなしくしておくんだな」
ロシールはそう言って二人に背を向け先に行く。二人も闇の賊に連れて行かれるかたちで、ブラック・マウンテンへと向かう。
一行はブラック・マウンテンに上陸し、アイラとサルマ、それを連れて行く闇の賊を先頭に、ロシール、そして残りの闇の賊がそれに続いて山を登る。
上空に漂っている濃く黒い霧のため、船から出ても薄暗い景色が広がっている。
「……オマエの話じゃ、黒い霧に覆われているから、航海ができずにこの島が人に気付かれないって話だったよな。さっきからおかしいと思っていたが……それなら何で、闇の賊はこの島まで船で移動できるんだよ」
サルマをチラリと見て、ロシールはそれに答える。
「闇の賊がこの霧の中でも航海できるのは……我々とは目が違う為だろう。深い闇に包まれた闇の世界の住人であるからか、奴らは黒い霧の中でも目が見えるのだ」
ロシールはそう言った後、アイラたちを連れている闇の賊たちに向かって言う。
「早くこいつらを……神器を、お前たちの世界に持ってゆくのだ。急げ」
闇の賊たちは頷くと、歩くペースを速める。アイラは必死でそれについて行く。
(助け……本当に来るのかな。アンにもらったランプから出てきた精霊のこと信じたいけど、このままじゃ助けが来るより先に山頂に着いて、闇の世界に連れてかれちゃうよ。どうしよう。早いうちにわたしたちで何とか抵抗するしかないんじゃ……?)
アイラは後ろを振り返る。後ろにはロシールをはじめ、数人の闇の賊たちが目を光らせている。
(でも……確かにサルマさんの言うとおり、これじゃあ剣を抜く暇もないよね……。困ったな、本当にどうしよう……)
「……ずいぶん息切れしてるじゃねぇか、爺さん。いい年してこんな山登りなんて無茶するからだぜ。ここはお仲間に任せて、船に戻って休んだらどうだ?」
突然そんなことを言い出すサルマを見て、アイラは目を丸くする。ロシールは笑って首を横に振る。
「そんなこと言って、私をお前たちの目の届かない場所に追いやるつもりだろう。心配無用だ。わたしは魔王からの任務を遂行する為に、永遠の命と衰えの少ない体を魔王に頂いているのだよ。……まあそれでも年は年だからな、お前のような若造よりは、息も切れるだろうが」
「え、永遠の命……だあ⁉」
サルマはそれを聞いて目を大きく見開く。ロシールは得意げに頷く。
「ああ。お前も欲しいのなら、魔王に仕えてみるといい」
サルマはしばらく黙ったまま何やら考えていたが、頭を振って言う。
「俺は、いい。そもそも長生きしたいって願望はねぇし……長く生きてもいずれ暇になるだけだ。人生なんて、短くても楽しけりゃいいんだよ」
ロシールはそれを聞いて嘲笑う。
「考えの浅いやつめ。そうやってなんとなく日々を過ごしているだけの能無し連中にはわかるまい。自分の理想を叶えるために為すべきこと、為さねばならぬことを考えれば、時間なんていくらあっても足りぬわ」
「へいへい、どうせ俺は能無しですよ。それより今の話でひとつ気になったんだが……爺さん、一体何歳なんだよ?」
サルマとロシールの会話を横で聞いているアイラは、二人の会話が始まってから歩く速度が少し落ちたことに気づく。
(……このお喋りって、サルマさんの時間稼ぎの作戦……なのかな?)
アイラはそう思ってサルマを見上げる。サルマはアイラの顔は見ず、ロシールの方を見ている。
「かれこれ数えるのも忘れているが……百二十は超えているだろうな」
「ひゃっ、ひゃくにじゅう、だあ⁉ そんな長生きできるモンなのかよ! てか見た目は六十くらいにしか見えねぇぞ!」
サルマは少し大袈裟に見えるくらいに驚いた表情をしている。ロシールは少し得意げな様子で言う。
「さっきも言ったろう、永遠の命と衰えぬ体を魔王から貰ったと」
「へーえ、魔王の下につきゃ永遠の命に魔法が使える力に……何でも貰えるモンだねぇ。でもよぉ、魔法の力とか貰えてんだったら、こんな山登りせずに山頂にひとっ飛びすることとかできねぇのか?」
ロシールはそれを聞いて不愉快そうな表情になる。
「そんな都合の良いような力はない。おそらく神や魔王といえど、万能の力は持ってはおらぬ。それに、魔王から頂く力は任務に必要不可欠なものしか支給されない。無駄な力を与えると自分をも脅かす存在になることを恐れているのだろう。だが、わたしはこのまま魔王の命に応え続け……もっと多くのことを可能にする、魔法の力を手に入れるつもりだ」
「命令に従って魔法の力を支給してもらう……ねぇ。なんか意外と地道で堅っ苦しいことしてんな。俺はそんなことしてまで、誰かから与えられた魔法の力なんて欲しくないね。自分の力で、好きなように生きるのが一番だ」
ロシールはそれを聞いてやれやれと首を振る。
「魔法の素晴らしさをわかっていないようだな。魔法は地上の世界では、神の使い以外は使えぬ能力なのだぞ? 例えそれが万能ではなくとも、自分ひとりが使える偉大な能力……素晴らしいと思わぬのか」
それを聞いてサルマは眉をひそめる。
「爺さんと神の使い以外は使えないのか? 魔法ってやつは。お宝なんかで魔法のなんたらとかありそうだけどな……」
アイラはそれを聞いてはっとしてサルマを見る。
(サルマさん、もしかして魔法のランプのことを……)
「そんなものは、ただのデタラメだよ。もしくは、神の遺産だとか神器だとか……そんなに数のあるものではないと思うがね」
ロシールがそう言うのを聞いて、アイラは魔法のランプのことを考え、再び助けが来ないかもしれないという不安に襲われる。
「……そうかよ」
サルマも同じく不安を感じたのか、それを聞いて黙ってしまう。
一行は歩き続けて、やがて山の中腹あたりまでたどり着く。アイラはごつごつとした黒岩の足場ばかり歩いていたせいで、歩き疲れてフラフラとしている。
「あッ!」
アイラは少し大きな石に躓き、バランスを崩して転んでしまう。
「痛たたた……」
「大丈夫か、アイラ」
サルマはアイラに声をかけ、次にロシールに向かって言う。
「そろそろ休憩しようぜ。コイツもうフラフラじゃねぇか。俺も流石にバテてきたぜ。爺さんだって、そろそろ疲れただろ?」
「……仕方がない。ここで一旦休息をとろう」
ロシールは頷き、近くの岩場に腰を下ろして一息つく。サルマは辺りを見渡し、逃げ出すチャンスがないか状況を見極めようとする。
(この島には俺たちを直接見張っている闇の賊の他にも、多くの闇の賊がそこらかしこにいやがる。だが……今俺たちに注目しているのは、俺たちを連れてきたここにいる闇の賊三人と、ロシールのみ……。島に上陸した時よりかはだいぶ数が減ったし、これならこの場からは逃げられる可能性はある。とはいえ、騒ぎを起こすと周りから集まってくる可能性はあるが……。いや、そんなこと言っている場合じゃねぇ。頂上につくまでに……ここいらで何とか行動を起こすしかねぇ!)
サルマは闇の賊やロシールに見られていないことを確認した後、両手につけてあるロープを素早く外し、そっと左手を腰布に伸ばす。
部屋の扉が開けられ、ロシールが入ってくる。その後ろには――――数人の闇の賊がいる。それを見たアイラの顔色が変わる。
「……闇の賊。この船にも乗ってやがったのか」
サルマがぼそりと呟く。
闇の賊たちは無言のまま二人の足のロープのみを切って自由にし、その代わりに胴にロープを巻いて縛り、その巻きつけたロープの端を手に持って二人を引っ張ってゆく。
アイラは闇の賊に引っ張られて歩きながら、ロープを持つ闇の賊たちをチラリと見る。
(闇の賊が船に乗っていたなら、無理に脱出しなくてよかったかもしれない。でも……)
「アイツ、どうしたんだよ。呼び出してから今までずいぶん時が過ぎたが、何も起きねぇじゃねぇか」
サルマが小さな声で呟く。
「うん……。もしかしたら、時間がかかるのかも」
「魔法のランプのクセにか? ったく使えねぇヤツだ。デタラメなんじゃねぇのか?」
甲板へとつながる扉が開けられ、船室から出た二人は息を呑む。甲板には大勢の闇の賊が並んで立っていて、じっとこちらを見ていた。そして、船のマストや帆は全て、真っ黒な色をしていた。
「……闇の賊の黒い帆船……。俺たちは、これに乗せられていたのか……」
サルマが青い顔をして言う。アイラは恐怖に震えながらも小声でサルマに尋ねる。
「……ここにいるよりも多くの闇の賊がいるかもしれないんだよね、ブラック・マウンテンってところには……。どうしよう。ブラック・マウンテンに着く前に、今からでも戦ったりして、なんとかして逃げる? わたしの剣を使えばなんとかなるかも……」
「……今は無理だ。大勢の闇の賊に注目されてるこの状況だし、剣を抜く暇もねぇよ。それに……もう着いちまったようだぜ。そのブラック・マウンテンってところに」
サルマはそう言って親指で左側を指し示す。左側には、真っ黒な岩が積み重なってできた大きな岩山――――ブラック・マウンテンと思われる島があった。
「ここがブラック・マウンテンとやらか? 闇の世界に通じてるのはこの山のどこなんだよ」
サルマがロシールに尋ねると、ロシールはこちらを振り返り、にやりと笑って言う。
「そう慌てるな。すぐに連れて行ってやる。この島の頂上に空いている穴が、闇の世界と通じているのだ。お前たちには、これから山登りをしてもらうぞ」
「じゃあ……なんでまた、闇の大穴ではなくここを選んだんだよ?」
「お前たち二人が確実に闇の世界に行くのを見届けるには、ここが一番なのだよ。大穴だと、お前たちを連れて行く私までも渦の威力に巻き込まれて、闇の世界に送られる可能性が高い。私はまだこの世界で用があるため、お前たちと一緒に行くわけにはいかないのでな。それに今大穴付近では、闇の賊の襲来に備えて多くの警備戦士が張っている。そんなところにのこのこ出て行くわけにはいかない。黒い霧に覆われ、この世界の誰にも知られていないこの場所で行うのが、一番安全かつ確実に目的を果たせるというわけだ」
ロシールはそう言うと、闇の賊に合図を出す。それを見た闇の賊たちは上陸の準備に取りかかる。
「さて、お喋りはこの辺りで終わりだ。今からブラック・マウンテンに上陸する。命が惜しければおとなしくしておくんだな」
ロシールはそう言って二人に背を向け先に行く。二人も闇の賊に連れて行かれるかたちで、ブラック・マウンテンへと向かう。
一行はブラック・マウンテンに上陸し、アイラとサルマ、それを連れて行く闇の賊を先頭に、ロシール、そして残りの闇の賊がそれに続いて山を登る。
上空に漂っている濃く黒い霧のため、船から出ても薄暗い景色が広がっている。
「……オマエの話じゃ、黒い霧に覆われているから、航海ができずにこの島が人に気付かれないって話だったよな。さっきからおかしいと思っていたが……それなら何で、闇の賊はこの島まで船で移動できるんだよ」
サルマをチラリと見て、ロシールはそれに答える。
「闇の賊がこの霧の中でも航海できるのは……我々とは目が違う為だろう。深い闇に包まれた闇の世界の住人であるからか、奴らは黒い霧の中でも目が見えるのだ」
ロシールはそう言った後、アイラたちを連れている闇の賊たちに向かって言う。
「早くこいつらを……神器を、お前たちの世界に持ってゆくのだ。急げ」
闇の賊たちは頷くと、歩くペースを速める。アイラは必死でそれについて行く。
(助け……本当に来るのかな。アンにもらったランプから出てきた精霊のこと信じたいけど、このままじゃ助けが来るより先に山頂に着いて、闇の世界に連れてかれちゃうよ。どうしよう。早いうちにわたしたちで何とか抵抗するしかないんじゃ……?)
アイラは後ろを振り返る。後ろにはロシールをはじめ、数人の闇の賊たちが目を光らせている。
(でも……確かにサルマさんの言うとおり、これじゃあ剣を抜く暇もないよね……。困ったな、本当にどうしよう……)
「……ずいぶん息切れしてるじゃねぇか、爺さん。いい年してこんな山登りなんて無茶するからだぜ。ここはお仲間に任せて、船に戻って休んだらどうだ?」
突然そんなことを言い出すサルマを見て、アイラは目を丸くする。ロシールは笑って首を横に振る。
「そんなこと言って、私をお前たちの目の届かない場所に追いやるつもりだろう。心配無用だ。わたしは魔王からの任務を遂行する為に、永遠の命と衰えの少ない体を魔王に頂いているのだよ。……まあそれでも年は年だからな、お前のような若造よりは、息も切れるだろうが」
「え、永遠の命……だあ⁉」
サルマはそれを聞いて目を大きく見開く。ロシールは得意げに頷く。
「ああ。お前も欲しいのなら、魔王に仕えてみるといい」
サルマはしばらく黙ったまま何やら考えていたが、頭を振って言う。
「俺は、いい。そもそも長生きしたいって願望はねぇし……長く生きてもいずれ暇になるだけだ。人生なんて、短くても楽しけりゃいいんだよ」
ロシールはそれを聞いて嘲笑う。
「考えの浅いやつめ。そうやってなんとなく日々を過ごしているだけの能無し連中にはわかるまい。自分の理想を叶えるために為すべきこと、為さねばならぬことを考えれば、時間なんていくらあっても足りぬわ」
「へいへい、どうせ俺は能無しですよ。それより今の話でひとつ気になったんだが……爺さん、一体何歳なんだよ?」
サルマとロシールの会話を横で聞いているアイラは、二人の会話が始まってから歩く速度が少し落ちたことに気づく。
(……このお喋りって、サルマさんの時間稼ぎの作戦……なのかな?)
アイラはそう思ってサルマを見上げる。サルマはアイラの顔は見ず、ロシールの方を見ている。
「かれこれ数えるのも忘れているが……百二十は超えているだろうな」
「ひゃっ、ひゃくにじゅう、だあ⁉ そんな長生きできるモンなのかよ! てか見た目は六十くらいにしか見えねぇぞ!」
サルマは少し大袈裟に見えるくらいに驚いた表情をしている。ロシールは少し得意げな様子で言う。
「さっきも言ったろう、永遠の命と衰えぬ体を魔王から貰ったと」
「へーえ、魔王の下につきゃ永遠の命に魔法が使える力に……何でも貰えるモンだねぇ。でもよぉ、魔法の力とか貰えてんだったら、こんな山登りせずに山頂にひとっ飛びすることとかできねぇのか?」
ロシールはそれを聞いて不愉快そうな表情になる。
「そんな都合の良いような力はない。おそらく神や魔王といえど、万能の力は持ってはおらぬ。それに、魔王から頂く力は任務に必要不可欠なものしか支給されない。無駄な力を与えると自分をも脅かす存在になることを恐れているのだろう。だが、わたしはこのまま魔王の命に応え続け……もっと多くのことを可能にする、魔法の力を手に入れるつもりだ」
「命令に従って魔法の力を支給してもらう……ねぇ。なんか意外と地道で堅っ苦しいことしてんな。俺はそんなことしてまで、誰かから与えられた魔法の力なんて欲しくないね。自分の力で、好きなように生きるのが一番だ」
ロシールはそれを聞いてやれやれと首を振る。
「魔法の素晴らしさをわかっていないようだな。魔法は地上の世界では、神の使い以外は使えぬ能力なのだぞ? 例えそれが万能ではなくとも、自分ひとりが使える偉大な能力……素晴らしいと思わぬのか」
それを聞いてサルマは眉をひそめる。
「爺さんと神の使い以外は使えないのか? 魔法ってやつは。お宝なんかで魔法のなんたらとかありそうだけどな……」
アイラはそれを聞いてはっとしてサルマを見る。
(サルマさん、もしかして魔法のランプのことを……)
「そんなものは、ただのデタラメだよ。もしくは、神の遺産だとか神器だとか……そんなに数のあるものではないと思うがね」
ロシールがそう言うのを聞いて、アイラは魔法のランプのことを考え、再び助けが来ないかもしれないという不安に襲われる。
「……そうかよ」
サルマも同じく不安を感じたのか、それを聞いて黙ってしまう。
一行は歩き続けて、やがて山の中腹あたりまでたどり着く。アイラはごつごつとした黒岩の足場ばかり歩いていたせいで、歩き疲れてフラフラとしている。
「あッ!」
アイラは少し大きな石に躓き、バランスを崩して転んでしまう。
「痛たたた……」
「大丈夫か、アイラ」
サルマはアイラに声をかけ、次にロシールに向かって言う。
「そろそろ休憩しようぜ。コイツもうフラフラじゃねぇか。俺も流石にバテてきたぜ。爺さんだって、そろそろ疲れただろ?」
「……仕方がない。ここで一旦休息をとろう」
ロシールは頷き、近くの岩場に腰を下ろして一息つく。サルマは辺りを見渡し、逃げ出すチャンスがないか状況を見極めようとする。
(この島には俺たちを直接見張っている闇の賊の他にも、多くの闇の賊がそこらかしこにいやがる。だが……今俺たちに注目しているのは、俺たちを連れてきたここにいる闇の賊三人と、ロシールのみ……。島に上陸した時よりかはだいぶ数が減ったし、これならこの場からは逃げられる可能性はある。とはいえ、騒ぎを起こすと周りから集まってくる可能性はあるが……。いや、そんなこと言っている場合じゃねぇ。頂上につくまでに……ここいらで何とか行動を起こすしかねぇ!)
サルマは闇の賊やロシールに見られていないことを確認した後、両手につけてあるロープを素早く外し、そっと左手を腰布に伸ばす。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
SSSランクの祓い屋導師 流浪の怪異狩り
緋色優希
ファンタジー
訳ありの元冒険者ハーラ・イーマ。最高峰のSSSランクにまで上り詰めながら、世界を巡る放浪の旅に出ていた。そして、道々出会う怪異や魔物などと対決するのであった。時には神の領域にいる者達とも。数奇な運命の元、世界を旅するハーラと旅の途中で出会う人々との物語。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】僕らのミステリー研究会
SATO SATO
児童書・童話
主人公の「僕」は、何も取り柄のない小学校三年生。
何をやっても、真ん中かそれより下。
そんな僕がひょんなことから出会ったのは、我が小学校の部活、ミステリー研究会。
ホントだったら、サッカー部に入って、人気者に大変身!ともくろんでいたのに。
なぜかミステリー研究会に入ることになっていて?
そこで出会ったのは、部長のゆみりと親友となった博人。
三人で、ミステリー研究会としての活動を始動して行く。そして僕は、大きな謎へと辿り着く。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる