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闇の賊との対決編
第36話 裏切り
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「おい、アイラ。起きろ!」
「……ん……」
眠っていたアイラは、サルマの声を聞いて目を覚ます。辺りは薄暗く、こちらを見ているサルマの顔と、見覚えのない、木材の板でできた壁と床がぼんやりと見える。不思議なことに、その部屋全体がかすかに揺れている。
アイラは体を起こそうとするがうまく起き上がれず、そこでようやく手足がロープで縛られていることに気が付く。
「な、なんで両手と両足縛られて……どうなってるの⁉ ここはどこ⁉」
アイラはそう言って首を動かし辺りを見渡す。サルマも手足を縛られているようで、寝転がりながらアイラの方に顔だけを向けて言う。
「わからねぇ。この揺れ具合……どうやら船の中のようだが、寝ている間に一体何が起こったのかは、俺にもさっぱりだぜ」
ガチャリと鍵の開く音がして、サルマとアイラは音のした方を見る。扉が開き、ロシールが部屋に入ってくる。
「目が覚めたようだな」
ロシールは二人を見ると笑みを浮かべる。その笑みは、前に二人に見せていたにっこりとした穏やかな微笑みではなく……少し嫌な感じのする笑みであった。
「薬でよく眠ってくれていたようだな。おかげで穏便に事を運ぶことが出来た」
サルマはそれを聞くとハッとした表情をする。そしてロシールを睨みつける。
「て、てめえ! さては食事ん中に睡眠薬でも盛ってやがったな! こんな風に手足縛っておいて何が穏便に、だよ! 何が目的でこんなことしてやがるのかはわからねぇが、さっさとこの手足のロープを解きやがれ!」
「……それは聞き入れかねるな」
ロシールはそう言ってにやりと笑う。
「毒を盛ることもできたのに睡眠薬で手を打ったんだ。感謝して欲しいものだね。もっとも、お前たちにはまだ死んでもらうわけにはいかなかったから、殺さなかっただけの話だが」
アイラはロシールの言葉を聞いてぞっとする。
「ロシールさん……どうして? 賢者の島ではわたしたちを助けてくれて、世界の平和のためには協力もしてくれるって言ってたのに……こんなのひどいよ」
ロシールは不敵な笑みを浮かべたまま、片眉を吊り上げる。
「心外だな。今から君も行きたがっていた場所へ連れて行ってあげようとしているというのに。そう、闇の賊の元へ……だ」
それを聞いた二人は青い顔になり、お互い顔を見合わせる。サルマがロシールに食ってかかる。
「な……何言ってんだよ賢者の爺さん! その話は危険だからやめることにしたんじゃなかったのかよ! 一体俺たちをどこに連れていく気だ!」
「闇の賊の元へと言ったろう。ならば行き先は一つ…………闇の世界だ」
ロシールのその言葉を聞いて、二人の顔がみるみる青ざめてゆく。
「ってことは……闇の大穴に連れていく気か⁉」
ロシールはゆっくりと首を横に降る。
「いや、そうではない。実は、闇の大穴以外にも、闇の世界とこちらの世界を繋ぐ場所が、一つだけあってな。ただしその場所は、闇の世界からは出ることができず、こちらの世界から闇の世界へ行くことしかできない……一方通行にしか行けない場所だ」
「……で、そこはどこなんだよ」
「……ブラック・マウンテン。闇の世界の住人にはそう呼ばれている、闇の世界にある高い高い黒岩の山が、世界の境界を突き破り、地上まで伸びてできた島だ。そこはこちらの世界の住人には知られていない、闇の賊にとってのこちらの世界での隠れ家なのだよ」
「ブラック・マウンテン……? そんなとこ、聞いたことねぇぞ。どこにあんだよ」
「君も船に乗るなら知っているだろう。濃い黒い霧に覆われ、視界が悪くなる為に普通の人間には航海のできない海域……あの中にあるのだ」
サルマは訝しげにロシールを見る。
「……爺さん、一体何者なんだよ。何故そんな闇の賊しか知らないような隠れ家を知ってるんだ? もしかして……アンタは闇の賊なのか⁉」
ロシールはそれを聞いてふっと鼻で笑い、首を横に降る。
「そうではない。しかし……いろいろあってな、今は奴らに協力しているのだよ」
「いろいろって何だよ。闇の賊なんかに協力して良い事なんかあるのかよ?」
「君たち凡人にはわからんだろうが……」
ロシールはサルマに背を向け、話し始める。
「私は力が欲しかった。他の人間には到底持ち得ない……特別な力が。神を信仰していた私は、神の使いに選ばれることで、その力を得て同時に神のお力になりたいと強く願っていた。しかし、いくら神を崇拝し、神の力になりたいと願っていても……それでも、神はそれを与えてくれやしなかった。そんな私の様子を見た闇の世界の魔王が、ある時……私に囁いたのだ。協力しさえすれば、望み通りの力を与える……と。だから私は神への思いを断ち切り、現在は魔王に協力している。お前たちをここまで連れてきたのも、私だ」
「まさか、あの黒い竜巻は……オマエが⁉」
ロシールはにやりと笑い、頷く。
「ああ。魔王から賜りし力を使えば、竜巻を起こすことすら容易いのだよ」
「ってことは……今まで俺たちに見せていた態度は演技だったのか! 神学の研究者とはいえ、俺たちが神のコンパスを持ってるってすぐ理解してやがったのは多少怪しいとは思ったが……オマエが連れて来たってんなら知ってて当然だよな」
「……そうだ。私は……神のコンパスの導きの元で旅をしている、神の使いを探していた。メリス島が壊滅されたと聞いても、生きている可能性はあるゆえ念のため……な。そのために、神の使いの気配を察知して、賢者の島へ連れてくる竜巻を仕掛けておいたのだが……まんまと引っかかってくれたようだな。お前たちが竜巻に連れ去られたって話をした時に、確信が持てたよ。私が探している者がお前たちだということに……な」
ロシールはそう言って二人の方を見、薄ら笑いを浮かべる。
「ちくしょう、最初っから俺たちのことを騙してやがったんだな!」
サルマはそう言って、悔しそうな表情で歯ぎしりをする。
「……そんな……」
アイラはその話を聞いても信じられない様子で呆然とロシールを見ていたが、声を荒らげてロシールに詰め寄る。
「どうして……! ロシールさんのこと、信じてたのに! オルクさんの友達だって聞いたし、悪い人だなんて……思わなかったのに……」
「オルク……か」
ロシールは俯いた状態でその名を呟いた後、アイラを見る。その目は血走っていて怒りに満ちており――――とてつもなく恐ろしい表情をしている。
「先程奴のことは旧友、と言ったが……今は違う! とっくの昔に奴との間の友情は決裂している。あ奴は私の欲しかった物を全て手に入れていった……いとも容易くな。どれだけ苦労し手を尽くし願い続けていても、それを手に入れられなかった私は、そんな奴のことが……どうしても許せなかった……‼」
「欲しかったものって……さっき言ってた特別な力ってやつのことか? オルクの爺さんは、オマエの欲しがるような特別な力を持ってやがるのか?」
「奴は神に選ばれたんだよ。私と違ってな」
ロシールはそう呟くと、アイラを睨みつける。
「そして……お前たちもだ。神に選ばれし者――――私はそんな奴らを最も憎む。神に選ばれしお前たちの目的は、何がなんでも阻止する。お前の持っているその剣……神の三種の神器の一つを闇の世界まで持っていけさえすれば、お前たちの目的は永遠に果たされなくなるだろう。それは同時に神の死と、こちらの世界の終わりを意味する」
「そんな! そんなこと……」
アイラは絶望の表情でロシールを見上げている。
「……絶望に陥っているお前のその顔……それを見たかった。オルクにも同様の絶望を味わせてやる。これからたっぷりとな」
ロシールは不敵な笑みを浮かべ、二人を一瞥すると、部屋から出ていく。
「……ん……」
眠っていたアイラは、サルマの声を聞いて目を覚ます。辺りは薄暗く、こちらを見ているサルマの顔と、見覚えのない、木材の板でできた壁と床がぼんやりと見える。不思議なことに、その部屋全体がかすかに揺れている。
アイラは体を起こそうとするがうまく起き上がれず、そこでようやく手足がロープで縛られていることに気が付く。
「な、なんで両手と両足縛られて……どうなってるの⁉ ここはどこ⁉」
アイラはそう言って首を動かし辺りを見渡す。サルマも手足を縛られているようで、寝転がりながらアイラの方に顔だけを向けて言う。
「わからねぇ。この揺れ具合……どうやら船の中のようだが、寝ている間に一体何が起こったのかは、俺にもさっぱりだぜ」
ガチャリと鍵の開く音がして、サルマとアイラは音のした方を見る。扉が開き、ロシールが部屋に入ってくる。
「目が覚めたようだな」
ロシールは二人を見ると笑みを浮かべる。その笑みは、前に二人に見せていたにっこりとした穏やかな微笑みではなく……少し嫌な感じのする笑みであった。
「薬でよく眠ってくれていたようだな。おかげで穏便に事を運ぶことが出来た」
サルマはそれを聞くとハッとした表情をする。そしてロシールを睨みつける。
「て、てめえ! さては食事ん中に睡眠薬でも盛ってやがったな! こんな風に手足縛っておいて何が穏便に、だよ! 何が目的でこんなことしてやがるのかはわからねぇが、さっさとこの手足のロープを解きやがれ!」
「……それは聞き入れかねるな」
ロシールはそう言ってにやりと笑う。
「毒を盛ることもできたのに睡眠薬で手を打ったんだ。感謝して欲しいものだね。もっとも、お前たちにはまだ死んでもらうわけにはいかなかったから、殺さなかっただけの話だが」
アイラはロシールの言葉を聞いてぞっとする。
「ロシールさん……どうして? 賢者の島ではわたしたちを助けてくれて、世界の平和のためには協力もしてくれるって言ってたのに……こんなのひどいよ」
ロシールは不敵な笑みを浮かべたまま、片眉を吊り上げる。
「心外だな。今から君も行きたがっていた場所へ連れて行ってあげようとしているというのに。そう、闇の賊の元へ……だ」
それを聞いた二人は青い顔になり、お互い顔を見合わせる。サルマがロシールに食ってかかる。
「な……何言ってんだよ賢者の爺さん! その話は危険だからやめることにしたんじゃなかったのかよ! 一体俺たちをどこに連れていく気だ!」
「闇の賊の元へと言ったろう。ならば行き先は一つ…………闇の世界だ」
ロシールのその言葉を聞いて、二人の顔がみるみる青ざめてゆく。
「ってことは……闇の大穴に連れていく気か⁉」
ロシールはゆっくりと首を横に降る。
「いや、そうではない。実は、闇の大穴以外にも、闇の世界とこちらの世界を繋ぐ場所が、一つだけあってな。ただしその場所は、闇の世界からは出ることができず、こちらの世界から闇の世界へ行くことしかできない……一方通行にしか行けない場所だ」
「……で、そこはどこなんだよ」
「……ブラック・マウンテン。闇の世界の住人にはそう呼ばれている、闇の世界にある高い高い黒岩の山が、世界の境界を突き破り、地上まで伸びてできた島だ。そこはこちらの世界の住人には知られていない、闇の賊にとってのこちらの世界での隠れ家なのだよ」
「ブラック・マウンテン……? そんなとこ、聞いたことねぇぞ。どこにあんだよ」
「君も船に乗るなら知っているだろう。濃い黒い霧に覆われ、視界が悪くなる為に普通の人間には航海のできない海域……あの中にあるのだ」
サルマは訝しげにロシールを見る。
「……爺さん、一体何者なんだよ。何故そんな闇の賊しか知らないような隠れ家を知ってるんだ? もしかして……アンタは闇の賊なのか⁉」
ロシールはそれを聞いてふっと鼻で笑い、首を横に降る。
「そうではない。しかし……いろいろあってな、今は奴らに協力しているのだよ」
「いろいろって何だよ。闇の賊なんかに協力して良い事なんかあるのかよ?」
「君たち凡人にはわからんだろうが……」
ロシールはサルマに背を向け、話し始める。
「私は力が欲しかった。他の人間には到底持ち得ない……特別な力が。神を信仰していた私は、神の使いに選ばれることで、その力を得て同時に神のお力になりたいと強く願っていた。しかし、いくら神を崇拝し、神の力になりたいと願っていても……それでも、神はそれを与えてくれやしなかった。そんな私の様子を見た闇の世界の魔王が、ある時……私に囁いたのだ。協力しさえすれば、望み通りの力を与える……と。だから私は神への思いを断ち切り、現在は魔王に協力している。お前たちをここまで連れてきたのも、私だ」
「まさか、あの黒い竜巻は……オマエが⁉」
ロシールはにやりと笑い、頷く。
「ああ。魔王から賜りし力を使えば、竜巻を起こすことすら容易いのだよ」
「ってことは……今まで俺たちに見せていた態度は演技だったのか! 神学の研究者とはいえ、俺たちが神のコンパスを持ってるってすぐ理解してやがったのは多少怪しいとは思ったが……オマエが連れて来たってんなら知ってて当然だよな」
「……そうだ。私は……神のコンパスの導きの元で旅をしている、神の使いを探していた。メリス島が壊滅されたと聞いても、生きている可能性はあるゆえ念のため……な。そのために、神の使いの気配を察知して、賢者の島へ連れてくる竜巻を仕掛けておいたのだが……まんまと引っかかってくれたようだな。お前たちが竜巻に連れ去られたって話をした時に、確信が持てたよ。私が探している者がお前たちだということに……な」
ロシールはそう言って二人の方を見、薄ら笑いを浮かべる。
「ちくしょう、最初っから俺たちのことを騙してやがったんだな!」
サルマはそう言って、悔しそうな表情で歯ぎしりをする。
「……そんな……」
アイラはその話を聞いても信じられない様子で呆然とロシールを見ていたが、声を荒らげてロシールに詰め寄る。
「どうして……! ロシールさんのこと、信じてたのに! オルクさんの友達だって聞いたし、悪い人だなんて……思わなかったのに……」
「オルク……か」
ロシールは俯いた状態でその名を呟いた後、アイラを見る。その目は血走っていて怒りに満ちており――――とてつもなく恐ろしい表情をしている。
「先程奴のことは旧友、と言ったが……今は違う! とっくの昔に奴との間の友情は決裂している。あ奴は私の欲しかった物を全て手に入れていった……いとも容易くな。どれだけ苦労し手を尽くし願い続けていても、それを手に入れられなかった私は、そんな奴のことが……どうしても許せなかった……‼」
「欲しかったものって……さっき言ってた特別な力ってやつのことか? オルクの爺さんは、オマエの欲しがるような特別な力を持ってやがるのか?」
「奴は神に選ばれたんだよ。私と違ってな」
ロシールはそう呟くと、アイラを睨みつける。
「そして……お前たちもだ。神に選ばれし者――――私はそんな奴らを最も憎む。神に選ばれしお前たちの目的は、何がなんでも阻止する。お前の持っているその剣……神の三種の神器の一つを闇の世界まで持っていけさえすれば、お前たちの目的は永遠に果たされなくなるだろう。それは同時に神の死と、こちらの世界の終わりを意味する」
「そんな! そんなこと……」
アイラは絶望の表情でロシールを見上げている。
「……絶望に陥っているお前のその顔……それを見たかった。オルクにも同様の絶望を味わせてやる。これからたっぷりとな」
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