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第5話 迫り来る恐怖ー8
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5 死闘
波の雫を全身に浴びて、逃げる男がいた。
運転手と他2名の子分を引き連れた、厳鬼だ。奴らは大海原をモーターボートで一心に駆け抜けていた。勿論、目指す場所は決まっている。厳鬼はミサイル計画がたぶん失敗したであろうと予感する中で、一旦その場へ逃げ帰るしかなかったのだ。
エンジン音も姦しく、ボートを全速力で走らせた。
するとその時、後方から何者かが近づいてくる気配を感じ取る。奴らが乗る船のスクリューでできた波の果てに、バイクを乗りこなし猛スピードで接近する影が見えたからだ。
やはり来たか。そう容易く逃がしてはくれなさそうだ。しかも、その追手は誰か? と窺えば……言うまでもなく、東だ! 彼が凄絶な勢いで近づいてきた。
となれば、さながら4名の男たちも色めき立つ。彼を迎え撃つため、銃を構え狙いを絞った。近づこうものなら、ハチの巣にしてやるぞ! との意気込みを持って。
そして、東が全く警戒心など見せないで一気呵成に近寄り、数十メートルほど来たところで……
――発砲音を響かせた!――容赦ない銃撃の始まりだ。
だが、そこは、やはり東も計算ずくか? ボートのスクリュー波に乗り上げたなら、その反動を利用して華麗なジャンプを一番! バイク共々宙に舞い上がり弾丸をかわすという、高度なテクニックを見事に披露していた。
なかなかの腕前だ。それには、奴らも舌を巻く。とはいえ、そんな芸当でどこまで持ち堪えられるというのか、厳鬼たちの攻めは留まることを知らないのだから。
さらに何発もの銃声を鳴らし、激しく雑多に発砲していた。
流石にそうなると、バイクの動きも鈍るに違いない……と思えど、然にあらず、東の運転技術が物を言って大海原を縦横無尽に駆け抜けていた。右に出たかと思えば波に隠れて、左に跳んだかと見れば姿なし。神出鬼没の動きで翻弄してきた。そのうえ高速で走るボートでは、揺れるに任せて体の芯が定まらない。これでは、どう考えても命中させるのは至難の業だ! 東の方も、それを見越しているかのごとく、左右へ大きく蛇行しつつ接近を試みている。
くっ、こしゃくなことを! それならば、確実に命中させられる距離まで待って狙い撃ちしてやる、と厳鬼は銃を構え直した。これで東にとっては、一段と危ない様相になった訳だ。
それでも、彼の方は悠々と差を縮めてきた。まるで何の危険も感じていないかのように……
かくして、一時もすればほんの数メートルの所まで寄った。真正面に彼の姿を捉える!
さあ、東の危機だ! 彼の命も消え去る運命よー、この距離なら絶対に外しはしない。そう思った厳鬼は、このチャンスを逃すまいと慎重に狙いをつけた!
奴の指に力が入る……立ち所にトリガーを引いたー!
――1発の銃声が響く!――遂に強烈な弾丸が、東に向かって発射されたのだ。
ところが、次の瞬間……はて? バイクが、忽然と姿を消していた。
何! どこへ行った? 戸惑う厳鬼。
……と、その時!――上空で、けたたましいエンジン音が鳴り響いた!?――
うっ、上だ! 厳鬼の真上で、バイクの車体が奴の視界を遮った。頭上からバイクが降ってきたのだー!
唐突に金属の激突音と機器の破壊音がした! 次いで海へ転落する音が、「うわー」と言う声とともに聞こえてきた。水上バイクが船内に突っ込んだせいで、哀れ運転手はその下敷きとなり、しかもその拍子に1人の子分も海へ落ちていた!
要は、東の人並外れた運転技術にしてやられたという訳だ。奴らにすると惨憺たる結末。
これでとうとう船内には、2人の悪党だけになってしまった。
その場には、不意をつかれ肝を冷やされた様子の厳鬼たちがいた。避けるのに精一杯で攻める体勢を逃したみたいだ。
一方、東は沈着冷静な対応で、奴らの状況を見極め、すぐにバイクから飛び降り戦いに臨んでいた。
先ずは、性懲りもなく銃を向けてきた、残りの子分に対して、続けざまの打撃で対抗する。飛び道具を蹴り上げ強力な鉄拳を食らわせた。一気の攻めで瞬時に子分を排除する。
そうして後は、最後の仕上げとなる、厳鬼の逮捕……と思ったが、うしろを振り向くや否やパンチが顎に飛んできた! 「うっ!」やはり油断は禁物か、奴の拳をまともに受けてしまったようだ。これには、思わずよろけて船縁に伏せるしかなかった。
するとそこへ、なおも奴の攻撃が執拗に続いた。彼の襟首を掴み海に落とそうとしてきたのだ。東の顔が荒波を被るほど、船から突き出される!……落ちるか?
「うくっ……!?」いいや、まだだ。東は耐える! これぐらいで降参などできるものかと抵抗した。
ところがここで、予期せぬ事態、船が急旋回をし始めたのだ!――即ちこの場は運転手がいない暴走船。舵もバイクの衝突で破壊されコントロール不可能。船の動きに身を任せるしかない――それ故、その抗えない慣性力で2人は振り飛ばされる……も、幸運なことに、今度は厳鬼と東の立場が逆転して彼が押さえ込む番になっていた!
これで形勢逆転だ、代わって苦しみだしたのは奴の方か。
厳鬼は焦りの色を見せた。そのため、窮余の策で懐に収めていた銃を取り出してきたことは言うまでもない。とはいえ、その反撃は東も警戒していた。ただちに銃を持つ手を抱えて捻りあげ、難なく海の底へと落下させる。
後は、お互い力任せの腕力で戦うのみだ。2人の屈強な男たちの激闘がより激しさを増した。足場が定まらず上下左右に揺れる船上で、奴の拳を受け止め応戦する東に対し、彼の蹴りをかわすと同時にパンチで逆襲してくる厳鬼、一進一退の攻防が展開された。
まさに誰もいない広大な大海原で、一騎打ちとなったのだ。
波の雫を全身に浴びて、逃げる男がいた。
運転手と他2名の子分を引き連れた、厳鬼だ。奴らは大海原をモーターボートで一心に駆け抜けていた。勿論、目指す場所は決まっている。厳鬼はミサイル計画がたぶん失敗したであろうと予感する中で、一旦その場へ逃げ帰るしかなかったのだ。
エンジン音も姦しく、ボートを全速力で走らせた。
するとその時、後方から何者かが近づいてくる気配を感じ取る。奴らが乗る船のスクリューでできた波の果てに、バイクを乗りこなし猛スピードで接近する影が見えたからだ。
やはり来たか。そう容易く逃がしてはくれなさそうだ。しかも、その追手は誰か? と窺えば……言うまでもなく、東だ! 彼が凄絶な勢いで近づいてきた。
となれば、さながら4名の男たちも色めき立つ。彼を迎え撃つため、銃を構え狙いを絞った。近づこうものなら、ハチの巣にしてやるぞ! との意気込みを持って。
そして、東が全く警戒心など見せないで一気呵成に近寄り、数十メートルほど来たところで……
――発砲音を響かせた!――容赦ない銃撃の始まりだ。
だが、そこは、やはり東も計算ずくか? ボートのスクリュー波に乗り上げたなら、その反動を利用して華麗なジャンプを一番! バイク共々宙に舞い上がり弾丸をかわすという、高度なテクニックを見事に披露していた。
なかなかの腕前だ。それには、奴らも舌を巻く。とはいえ、そんな芸当でどこまで持ち堪えられるというのか、厳鬼たちの攻めは留まることを知らないのだから。
さらに何発もの銃声を鳴らし、激しく雑多に発砲していた。
流石にそうなると、バイクの動きも鈍るに違いない……と思えど、然にあらず、東の運転技術が物を言って大海原を縦横無尽に駆け抜けていた。右に出たかと思えば波に隠れて、左に跳んだかと見れば姿なし。神出鬼没の動きで翻弄してきた。そのうえ高速で走るボートでは、揺れるに任せて体の芯が定まらない。これでは、どう考えても命中させるのは至難の業だ! 東の方も、それを見越しているかのごとく、左右へ大きく蛇行しつつ接近を試みている。
くっ、こしゃくなことを! それならば、確実に命中させられる距離まで待って狙い撃ちしてやる、と厳鬼は銃を構え直した。これで東にとっては、一段と危ない様相になった訳だ。
それでも、彼の方は悠々と差を縮めてきた。まるで何の危険も感じていないかのように……
かくして、一時もすればほんの数メートルの所まで寄った。真正面に彼の姿を捉える!
さあ、東の危機だ! 彼の命も消え去る運命よー、この距離なら絶対に外しはしない。そう思った厳鬼は、このチャンスを逃すまいと慎重に狙いをつけた!
奴の指に力が入る……立ち所にトリガーを引いたー!
――1発の銃声が響く!――遂に強烈な弾丸が、東に向かって発射されたのだ。
ところが、次の瞬間……はて? バイクが、忽然と姿を消していた。
何! どこへ行った? 戸惑う厳鬼。
……と、その時!――上空で、けたたましいエンジン音が鳴り響いた!?――
うっ、上だ! 厳鬼の真上で、バイクの車体が奴の視界を遮った。頭上からバイクが降ってきたのだー!
唐突に金属の激突音と機器の破壊音がした! 次いで海へ転落する音が、「うわー」と言う声とともに聞こえてきた。水上バイクが船内に突っ込んだせいで、哀れ運転手はその下敷きとなり、しかもその拍子に1人の子分も海へ落ちていた!
要は、東の人並外れた運転技術にしてやられたという訳だ。奴らにすると惨憺たる結末。
これでとうとう船内には、2人の悪党だけになってしまった。
その場には、不意をつかれ肝を冷やされた様子の厳鬼たちがいた。避けるのに精一杯で攻める体勢を逃したみたいだ。
一方、東は沈着冷静な対応で、奴らの状況を見極め、すぐにバイクから飛び降り戦いに臨んでいた。
先ずは、性懲りもなく銃を向けてきた、残りの子分に対して、続けざまの打撃で対抗する。飛び道具を蹴り上げ強力な鉄拳を食らわせた。一気の攻めで瞬時に子分を排除する。
そうして後は、最後の仕上げとなる、厳鬼の逮捕……と思ったが、うしろを振り向くや否やパンチが顎に飛んできた! 「うっ!」やはり油断は禁物か、奴の拳をまともに受けてしまったようだ。これには、思わずよろけて船縁に伏せるしかなかった。
するとそこへ、なおも奴の攻撃が執拗に続いた。彼の襟首を掴み海に落とそうとしてきたのだ。東の顔が荒波を被るほど、船から突き出される!……落ちるか?
「うくっ……!?」いいや、まだだ。東は耐える! これぐらいで降参などできるものかと抵抗した。
ところがここで、予期せぬ事態、船が急旋回をし始めたのだ!――即ちこの場は運転手がいない暴走船。舵もバイクの衝突で破壊されコントロール不可能。船の動きに身を任せるしかない――それ故、その抗えない慣性力で2人は振り飛ばされる……も、幸運なことに、今度は厳鬼と東の立場が逆転して彼が押さえ込む番になっていた!
これで形勢逆転だ、代わって苦しみだしたのは奴の方か。
厳鬼は焦りの色を見せた。そのため、窮余の策で懐に収めていた銃を取り出してきたことは言うまでもない。とはいえ、その反撃は東も警戒していた。ただちに銃を持つ手を抱えて捻りあげ、難なく海の底へと落下させる。
後は、お互い力任せの腕力で戦うのみだ。2人の屈強な男たちの激闘がより激しさを増した。足場が定まらず上下左右に揺れる船上で、奴の拳を受け止め応戦する東に対し、彼の蹴りをかわすと同時にパンチで逆襲してくる厳鬼、一進一退の攻防が展開された。
まさに誰もいない広大な大海原で、一騎打ちとなったのだ。
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