ミッション――捜査1課、第9の男 危機そして死闘へ――

TOZO

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第4話 もう一つの宿命(4)

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 賭博場では、上条が嬉しそうに話しかけてきた。
「そう言えば、今度カジノが解禁されるそうですな。これで大手を振ってギャンブルできますがな」
 その言葉に、金光の方は、「社長、耳が早いですな。わしは今度、この町に巨大なカジノタウンを建てるつもりですわ。アメリカのラスベガスみたいなのを作ってみせますよ。そしてわしがカジノキングになる、それが……」と答えようとしたところ……突如、えっ?――大爆音が頭上から聞こえてきた!?――天井の激しい揺れとともに空気を震わす風圧を感じたのだ。そのうえ、大量の塵煙も被さってくるのを目にする。
 いったい、何が起こったというのだ! 上階フロアーでの爆破か? と予想すれど、金光に分かる道理はなかった。
 一方、その爆発で、人々の騒ぎ声や駆け回る足音がホールに木霊した。客たちは騒然となり取り乱した様子だ。しかも、当然ながら客たちは一目散に逃げようと入り口の地下階段に殺到しだす。となれば、金光もうろたえている場合ではない。すぐさま我に返り、部下に指示を出した。
 部下はそれを受け、「皆さん、落ち着いてください。地下階段より安全な出口がありますから、そちらへ回ってください」と叫びながら客を誘導し始める。階段とは真逆にあたる場所へ連れて行った。
 意外にも手際が良い? それもそのはず、奴らも準備は怠らない、警察の手入れを想定して迅速に逃げられる別の出口を作っていたという訳だ。
 これで一旦、客たちは静まった。とはいえ、肝心の、この混乱を引き起こした原因が分からない……。金光は戸惑った。
 するとその直後! 地下入り口から打撃音と呻き声がしたかと思ったら、階段のドアが勢いよく開き、続いて警護の部下が転がり落ちてきた! 男は造作もなく床の上で倒れ込む。そして、それとともに姿を現したのは……
――桃夏!――
 やはり、彼女の登場だった。

「お前? どうやって……」忽ち金光の驚いた声を耳にする。奴の方も、まさかこの場に現れるとは、予想すらしていなかったのであろう。
……が、桃夏は問答無用。漸く恨みを晴らせる瞬間が来た今こそ、「死ね!?」と言うが早いか、金光に拳銃を向けてトリガーを絞った?
 ところがその時――突然、金属の弾かれた音が鳴った!――何? まさかの、失敗! 彼女の銃が叩き落とされた? 掌ほどの大きさの〝円盤状の物体〟が飛んできて、彼女の手から飛び道具を瞬く間に弾き飛ばしたのだ!?
「ううっ?……」これには彼女も、焦るしかない。次いで何が飛んできたのかを確かめるために周りを見回したなら、ガラスの欠片が床に散乱していることに気づく。……と言うことは、ガラス製の灰皿らしき物による投擲? チッ、またも未遂で終わってしまったようだ。
 ならばどこからだ? 今度は投げられた方角へ向き直る。 
 然すれば、部屋の右隅の奥から、爆風の薄煙の漂う中を、ゆらりと1人の男が現れた!
 その顔は……まさだ。鬼頭の子分だった剛が、目の前にいた。こんな所で、金光の用心棒をしていたのか? 桃夏にとっては全く思いも寄らない伏兵の出現だった。ただどうであれ、先に倒すべき相手が現れたのは確かだ。こうなった以上、彼女の方もその男に焦点を合わせるのみだ。
 桃夏はすぐさま身構える。
……そして、元より、先制攻撃だ! 敵を打ち負かすべく、息もつかせず猛然と走っていった。得意の跳び蹴りを見舞う!
 しかし……男もなかなかの強者のよう、それを紙一重でかわした。
 そこで今度は、右回し蹴りを着地と同時に仕かけた。……が、これも上手く男の左手で受け止められる。
 さらに桃夏の、蹴りと見せかけてからの、左右連打のパンチを繰り出すも、それさえことごとく避けられた。
 まさしく、剛と思われし男は見切っていた。全く桃夏の攻撃が通用しないのだ! そうは言っても、男の方も防戦一方で攻めあぐねているみたい……と一瞬気を抜いたところに、うっ? 想定外の反撃か! 忽ち桃夏の襟首が掴まれ、見事に投げ飛ばされてしまう。彼女は宙を舞い、そのままテープルの上に、受け身も利かず衝突音とともに叩きつけられた! 途端に、縦横2メートル弱のテーブルワゴンは、その強烈な衝撃で真っ二つに砕け、彼女も床にひれ伏せさせられた……
 何ということだ。桃夏が思いも寄らぬ背負投げを諸に食らうとは! この男の本領発揮か。とにかく本当に強いぞ。この事実は彼女にしても、驚くべきことだった!

 そんな中、この機に乗じて金光たちが動きだす。
「今の内です、早く逃げましょう! 社長」と奴の部下、岩城が忍んで囁いた。
「よ、よし」その言葉を受け、金光の方も同意を示す。奴らは急いで裏口から退散していた。

 一方、剛は、桃夏の様子をまじろぎもせず窺っていた。それは目の前の敵を気遣いつつも、同時に彼女の実力を見極めようとしていたのだ。要するに、今回だけは荒くれの用心棒として、桃夏の攻めを全力で阻止するしかないと決意を固めていた。
 対して彼女の方はと言えば……破壊された机の側でグッタリと倒れているにも拘らず、まだまだ戦意は衰えていないみたいだ。眼光鋭く、スクッと立ち上がる姿が見えた。その後、手足を振って、一旦緊張を解す仕草をしてから、即刻全身に力を漲らせ臨戦体勢に入った模様。
 次いで、こちらを一心に凝視したなら……来るぞ! 桃夏の全力疾走だ。 
〈とりゃー!?〉剛を目掛けて猛突進してきた! 見る見るうちに目前に迫ってくる。
 とはいえ、剛の方も怯みはしない、真正面から確りと、彼女の強拳を受け止める気だ。
 そして、遂に、桃夏の最接近!
……だが、むむっ? ここでその姿を見失う。
 どこだ! どこへ行った?……
――げっ、上だ!?――
 彼女は知らぬ間に剛の頭上を飛び越え、真うしろに着地していた。これでは防御できない、そのままうしろ蹴りをかまされた!
 打撃音に続いて鈍い異音が鳴った! 剛は背中に蹴りを受けただけでなく、その凄まじいパワーで側壁まで飛ばされ激突していたのだ。どれほどの剛腕であっても、彼女の変幻自在な攻撃には敵わないようだ。その場に背を丸めてしゃがみ込む、剛の姿があった。

 どうにか一矢報いることができたか、桃夏はこの結果に納得した。己の瞬発力に肩を並べる者はいないと自負しながら。されど、彼女の反撃はまだ始まったばかり。何とか手ごたえを感じた一撃を繰り出せたにせよ、それだけで満足するはずもなく、別の技を仕掛けるべく四肢を研ぎ澄ませた。
――もう彼女を止められる者は誰もいない――
 そのため、次なる決戦だ! さあ来いと拳を構え、敵に向かっていこうとした……訳だったが、んっ? ここに至って部屋の様子がおかしいことに気づく。何故か辺りに薄っすらと煙が立ち昇っていたのだ。しかも、その白煙が段々と濃くなり周囲を覆いつくし始めたような。
 どうなっている? 桃夏は理由が分からず、それでも対戦相手を探そうと目を凝らしてみたものの、全く男の姿を捉えられなくなった。止む無く煙の中を手探りで確める。ところが、部屋の中には誰の存在も認められなかった。勿論、金光の姿も既に掻き消えていたのだ。
「くっ、逃げられたか!」彼女は漸く敵に化かされたことに気づく。続いて外に飛び出し、急いで駐車場へ行ってみるも、思った通りその場にも人っ子一人いなかった。遠くに町の灯りが見えているだけだった。
 うら寂しい荒れた広場に佇む桃夏。悔しい思いが胸をかきむしる。
「チッ、もう一歩だったのに……」と嘆いた。そして冷静になったところで、「しかし、あの男、私と互角に戦えるとは?」と邪魔をした男のことを考えた時、「ハッ! もしか……」嫌な予感が走るのを躊躇ためらった。ただ、静かに目を伏せて。
 その地は暗黒の中を風が吹き荒ぶ、まるでゴーストタウン――。遠くからサイレンの音が近づいてきた。
 彼女はその音を聞きながら、ゆっくりと工場街を後にするのであった。

        5 襲撃

 次の朝、警察署内の大部屋には、数十名の署員がいつものように忙しく働いていた。
 そうした中、警視が1人の署員から昨日の報告を受けていた。
「昨夜起こった、古ビルでの爆破事件ですが……」
「ああ? また同じような事件があったのか」
「はい、そうなんです。そこですぐに前田、他4名を向かわせたのですが、既に自警団という市民が占拠してまして、少々いざこざがあった模様です」
「また自警団だと?」それを聞くなり警視は戸惑った。
「はい、しかしその後、ビルの地下辺りから火の手が出まして何もかも燃えてしまいました」
「何だと?」今度は一瞬驚き、ただちに問い直した。「火事の原因は?」
「消防員が調べていますが、今のところ分かりません」
「ふーむ。何の手がかりもなし、物証も灰となった訳か」この時、警視はやはり自身の嫌な予想が当たっていたと確信した。この自警団の存在が警察捜査の障害になっているということを。しかも、それだけでなく何か不都合な物を隠すために使われているのではないか、そういう気もした。「で、ビルのオーナーは誰だ」一応訊いてみた。
「はあ、それですが実態のない会社名義になっていまして……今も調べている最中です」との答えが返る。
 思った通り幽霊会社の所有物だ。
「そうか、よし、分かった」納得などできはしないものの、警視は少し手間のかかる事件だと感じつつ、「まあ、ひとまず地道に調べ上げてくれ」と指示するしかなかった。
 その後、別の署員が入れ替わって他の事例を話し始めた。
「すみません。今朝漁港から、中島の沖合いに出ていた漁船の底曵き網に死体がかかったという連絡を受けまして、調査してまいりました」
「ほう、海でか。それで身元は?」警視は事も無げに聞いていた。
「山本孝雄、新聞記者です。1週間前に中島に取材しに行ったきり戻らず、捜索願が出ていました」 
「中島へ? あの無人島へか」その話を聞いて、警視は意外だという思いで訊き返した。
「そうです。中島で怪しい動きがあるとのタレコミが新聞社に寄せられたということでした」
「ふーむ」と考えこむ警視。その報告には違和感あった。何故なら何もない辺ぴな島で取材とは、ほとんど似つかわしくなかったからだ。
「事故か事件か?」と思案するも、「よし、誰か中島へ行ってくれ、ただ用心しろ。人1人死んでいるからな」と、彼は取りあえず調べる必要があると判断し、署員たちに発破をかけた。
 それを受け、署員たちは捜査に取りかかる準備に入るのであった。

 ちょうどその頃、金光たちが車で移動していた。金光自身は後部座席の真ん中に座り、右にまさと思える男、左には岩城を配置するという護りの陣形で。それに専属の運転手と助手席にも部下を乗車させていた。
 そんな車内で、金光が昨夜の災難を思い出していた。
「花崎め! あいつのせいで2箇所もビルを潰されたわ……。でもな剛、お前のお陰で命拾いをしたぞ。これからもわしの警護を頼んだからな」
「へい社長、俺に任せておいてください。どんな奴も防いでみせますぜ」と剛は強気で答える。が、その後、何故か余計な問いかけもしてきた。たぶん桃夏のことが気になったのだろう。「ちなみに社長、あの女とどんな関係なんです?」と。
 それには、奴の方も渋い顔にならざるを得ない。即座に、
「お前たちが知らなくてもいいことだ、ただの逆恨み」と言いかけたのだが……ここで突然――ブレーキ音が姦しく鳴り響く!――奴らの会話を遮るかのように車が急停止した。思わぬハプニングが起こったのだ。
「うっ?」忽ち金光たちは、つんのめる。続いて、全くもって何が起こったのだ? と少し狼狽した。
 そのため、「おい、気をつけろ!」と運転手に向かって声を荒げた。
 だが、本当に慌てていたのは運転手の方かもしれない。
「み、見てください。トラックが道を塞いでます」と声を震わせ訴えてきたからだ。
 となれば、金光も戸惑う。すぐさま前方を直視した。
 すると、はぁ? これは、どうしたことだ! 目の前に、荷台が貨物コンテナのダンプトラック、10メートルぐらいが、道路を塞ごうというのか道幅一杯になるよう横向きの状態で置かれているではないか!
 こうなると勿論、奴も危険を感じないではいられない。すぐに「早く、早く引き返せ!」と叫んだ。
 対して運転手も、「分かりました」と言ったなら、急いで切り返し、元来た道へ帰ろうとした。
 とこが、その時――大爆音が耳を劈いた!?――何と! ユーターンした途端、進行方向5メートル先の道が、爆発で噴き飛んだのだ。
 金光たちは頭を抱えるほど仰天し、すかさずブレーキをかける……も、急には停止できない。煙と砂埃で視界が遮られる中、惰性で車は前へと進まされ、突如目の前に現れたのは、爆破でできた深さ1メートルの大穴!
〈うわー!?〉車体の潰れる音がする。車は瞬く間に穴の中へ突っ込んでいた!
「ク、クソッ!」動揺する金光たち。されど車の前部が穴にはまり全く動けず、逃げられる道理もなかった。
 そこに、薄い金属板を踏む音がした。車の天井に誰かが乗ったような?
 何が始まったんだ? ただちに様子を探るため、運転手と助手席の男が先陣を切って外へ出た。……が、唐突に銃声が2発! 「くっ!?」続いて呻き声に転倒した音が聞こえた。
 2人とも撃たれてしまったのだ! まさに冷酷非道、車の上からの狙撃だった。
 ならば撃ったのは、誰だ?
――仮面の顔が、垣間見えた。
 あれは……言わずと知れた、厳鬼げんきだ!

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