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第4話 もう一つの宿命(3)
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4 復讐
夜の9時過ぎ、金光たちが車から降りた。
ここは殆ど人気がない、吹き曝しの荒れた広場の中に何棟かのビルや建物が点在している、うらびれた工場町。そんな街燈もろくにつけていない所に数人の男たちが現れ、歩道を傲然と歩いていたのだ。
そして間もなく、目的の場所に到着する。そこは、窓の少ない見るからに閉塞感が漂う4階建ての古いビルだった。――ただ、その佇まいや立地環境が前回爆破された建物に酷似していた――
続いて2人の部下が真っ先に入り口へ進み、金光をすんなりと通させるため、磨りガラスが嵌められた観音開きの大きな扉を開けた。
そうすると、先ず目にしたのは伽藍としたフロアだ。中央にだけ忽然と長机が置かれ、3人の男たちがその上に据え付けられた――建物内の至る所に設置された監視カメラと繋がっている――数台のモニターを見ている。さらに奥の方へ進むと、廊下を挟んで何室かの部屋があった。要は、どこにでも見受けられる一般的なビルだ。
その中を金光たちは進む。ただし、広間を避けるようにして、隅に位置する全く目立たない小さなドアへと向かった。次にドアの鍵を外し内部へ入ると、すぐに下りの階段が現れ、もう地下室の入り口が目の前にあった。しかも、こちらにも2人の男が警護していた。
――何と厳重な警戒なんだ!――この様相に、金光も自ら敷いた布陣とはいえ感心する。こうなると、なかなか族は侵入できないだろう。また、これほどの備えをしなければならない場所とは、何なんだろうか? と知らない者からすれば、不思議がるに違いないことも予想がついた。奴は常人には成し得ない事業を自らが手掛けているという優越感で、自然と口元を緩める。
そうして、漸く地下室の前に立った金光。後はドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開けた!
……然れば、目の前に、まるで別世界が広がっていたではないか。ビルの、表の様相からは想像できない限りの華やかな部屋が出現したのだ。内装は美しく飾られ、部屋には活気が漲り、異様な緊張感も溢れていた。約100坪ぐらいの広さに男女合わせて数十名の客がいて、そのうえグラスが乗ったトレイを手に持ち、客に寄り添うバニーガールたちの存在もあった。客たちはおのおのテーブルに着いて、カード、ルーレット、スロットマシンをやっている……。つまりこのホールは、賭博場、所謂法律違反のヤミ商売の場であった! 金光はこれによって貴重な資金を得ていたのである。
「おーい、金光さん、景気はどうだい?」とそこに、1人の酔った金持ち風の男が近寄ってきた。
金光は満面の笑みを浮かべ、「上条社長、そこそこですわ。ところで今日の調子は?」と訊いた。
「だめだね。もう数百やられた」と男の方は答えるも、それほど残念そうに見えない。
「それはお気の毒。まあ気分直しに上の階で休んでわ」次に奴はそう言って、今度は上条に接近してから耳元で囁いた。「上にはヤクも女も……」
まさに、このビルは賭博だけではなかったのだ!
1階のフロアでは、3人の男たちがモニターを監視していた。
そんな中、ふと1人の男が入り口の扉に注目する。車のヘッドライトと思われし2つの光玉が、磨りガラスを通して見えてきたからだ。
そのため、新たな客が来たか? との思案で男は様子を窺っていたら……どういう訳かライトが見る見る大きくなり、いつの間にか眩い光で磨りガラスが一杯に?
――忽ち衝突音が響き渡った!――何と、諸に車が激突してきたのだ! 扉を木っ端微塵に破壊してフロアへ雪崩れ込み、さらにその勢いのまま、甲高いタイア音をけたたましく鳴らしながら長机までぶつかった。
「うわーっ?」それには、男たちも仰天するしかない。うしろに仰け反り、唯々目を丸くした。
その後……車は机の隣で止まったものの、開閉音とともに運転席のドアがゆっくりと開いた。誰か出てきそうだ。
途端に、浅黒いブーツで覆われた、そのうえ足首の締まった下腿が車からお目見え。次いで力強く床を踏んだ。
――言わずと知れた、桃夏の参来!――
「だ、誰だ? お前は……」
とくれば、男も思わず叫ぶ。
だが――3発の銃声がした!――有無も言わせず、彼女は男たちの足を撃ち抜いた!
〈ぎゃーああーー〉3人は痛みで這い蹲る。
続いて奥の部屋で控えていた男たちも、この騒ぎに気づいたみたいだ。血相変えて飛び出してきた。
そこへ――耳を劈く大爆音が轟く!――何と非情にも、彼女が手榴弾を一気に浴びせた。
〈うおおっー!〉男たちの断末魔が周りを覆う。一瞬で、族どもは吹き飛ばされ……呆気なく微動だにもしなくなっていた。
「最初から、こうすれば良かった」そうして彼女の呟き声を耳にする。
とうとう鬼の形相と化した桃夏の姿を目の当たりにしたのだ! 彼女の攻めにもう容赦は見えない。
次に、すぐさま地下に通ずるドアへと焦点を合わせた桃夏。金光の居場所を知っていると思える。
とはいえ、まだ油断は禁物か。当初から、フロアの男が足を撃たれようとも痛みに耐えながら銃を握り締めていたからだ。
対してそうとは知らない彼女は、背を向けて大きな歩幅で歩いている。その姿は、全く隙だらけのよう……
ならば、今こそ撃ち抜いてやるぞ、と男は決起した。
まさしく彼女は、絶好の標的になってしまったのだ! 哀れ桃夏の命もこれまでかー。
そして男は、慎重にトリガーを……引いた!
――1発の銃声が響いた!――
……ところが、そう易々といかない? 桃夏の驚異的な反射神経によって一瞬で身をかわされた。弾丸は敢え無く壁にめり込む。
何という素早さだ! これには、男も唖然とした。……が、感心している暇などない、彼女の反撃が始まろうとしているのだから。
忽ち電光石火の早業を見せつけられる。一瞬で接近を許してしまい、手にする銃を蹴り飛ばされた。さらに、
「ちっちっちっ……女をうしろから撃とうとするのは、うーん、男として最低ね」と一言注意されたかと思ったら、頭部に跳び蹴りを食らわされた!
男は堪らず、白目をむいて倒れ込み気を失った。いやはやこの族にとっては最悪だ。目を覚ましたのちは、足の痛みと強烈な偏頭痛で苦しむことになるだろう。
とどのつまり、彼女ほどの戦士ともなれば、そう容易く殺られはしないということだ。
桃夏は、堂々と地下に通ずるドアへと進んだ。まるで些細な騒動が終わったとでも言いたそうな顔で。
ただちに数発の銃弾を浴びせ、ドアの鍵を撃ち壊していた!
夜の9時過ぎ、金光たちが車から降りた。
ここは殆ど人気がない、吹き曝しの荒れた広場の中に何棟かのビルや建物が点在している、うらびれた工場町。そんな街燈もろくにつけていない所に数人の男たちが現れ、歩道を傲然と歩いていたのだ。
そして間もなく、目的の場所に到着する。そこは、窓の少ない見るからに閉塞感が漂う4階建ての古いビルだった。――ただ、その佇まいや立地環境が前回爆破された建物に酷似していた――
続いて2人の部下が真っ先に入り口へ進み、金光をすんなりと通させるため、磨りガラスが嵌められた観音開きの大きな扉を開けた。
そうすると、先ず目にしたのは伽藍としたフロアだ。中央にだけ忽然と長机が置かれ、3人の男たちがその上に据え付けられた――建物内の至る所に設置された監視カメラと繋がっている――数台のモニターを見ている。さらに奥の方へ進むと、廊下を挟んで何室かの部屋があった。要は、どこにでも見受けられる一般的なビルだ。
その中を金光たちは進む。ただし、広間を避けるようにして、隅に位置する全く目立たない小さなドアへと向かった。次にドアの鍵を外し内部へ入ると、すぐに下りの階段が現れ、もう地下室の入り口が目の前にあった。しかも、こちらにも2人の男が警護していた。
――何と厳重な警戒なんだ!――この様相に、金光も自ら敷いた布陣とはいえ感心する。こうなると、なかなか族は侵入できないだろう。また、これほどの備えをしなければならない場所とは、何なんだろうか? と知らない者からすれば、不思議がるに違いないことも予想がついた。奴は常人には成し得ない事業を自らが手掛けているという優越感で、自然と口元を緩める。
そうして、漸く地下室の前に立った金光。後はドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開けた!
……然れば、目の前に、まるで別世界が広がっていたではないか。ビルの、表の様相からは想像できない限りの華やかな部屋が出現したのだ。内装は美しく飾られ、部屋には活気が漲り、異様な緊張感も溢れていた。約100坪ぐらいの広さに男女合わせて数十名の客がいて、そのうえグラスが乗ったトレイを手に持ち、客に寄り添うバニーガールたちの存在もあった。客たちはおのおのテーブルに着いて、カード、ルーレット、スロットマシンをやっている……。つまりこのホールは、賭博場、所謂法律違反のヤミ商売の場であった! 金光はこれによって貴重な資金を得ていたのである。
「おーい、金光さん、景気はどうだい?」とそこに、1人の酔った金持ち風の男が近寄ってきた。
金光は満面の笑みを浮かべ、「上条社長、そこそこですわ。ところで今日の調子は?」と訊いた。
「だめだね。もう数百やられた」と男の方は答えるも、それほど残念そうに見えない。
「それはお気の毒。まあ気分直しに上の階で休んでわ」次に奴はそう言って、今度は上条に接近してから耳元で囁いた。「上にはヤクも女も……」
まさに、このビルは賭博だけではなかったのだ!
1階のフロアでは、3人の男たちがモニターを監視していた。
そんな中、ふと1人の男が入り口の扉に注目する。車のヘッドライトと思われし2つの光玉が、磨りガラスを通して見えてきたからだ。
そのため、新たな客が来たか? との思案で男は様子を窺っていたら……どういう訳かライトが見る見る大きくなり、いつの間にか眩い光で磨りガラスが一杯に?
――忽ち衝突音が響き渡った!――何と、諸に車が激突してきたのだ! 扉を木っ端微塵に破壊してフロアへ雪崩れ込み、さらにその勢いのまま、甲高いタイア音をけたたましく鳴らしながら長机までぶつかった。
「うわーっ?」それには、男たちも仰天するしかない。うしろに仰け反り、唯々目を丸くした。
その後……車は机の隣で止まったものの、開閉音とともに運転席のドアがゆっくりと開いた。誰か出てきそうだ。
途端に、浅黒いブーツで覆われた、そのうえ足首の締まった下腿が車からお目見え。次いで力強く床を踏んだ。
――言わずと知れた、桃夏の参来!――
「だ、誰だ? お前は……」
とくれば、男も思わず叫ぶ。
だが――3発の銃声がした!――有無も言わせず、彼女は男たちの足を撃ち抜いた!
〈ぎゃーああーー〉3人は痛みで這い蹲る。
続いて奥の部屋で控えていた男たちも、この騒ぎに気づいたみたいだ。血相変えて飛び出してきた。
そこへ――耳を劈く大爆音が轟く!――何と非情にも、彼女が手榴弾を一気に浴びせた。
〈うおおっー!〉男たちの断末魔が周りを覆う。一瞬で、族どもは吹き飛ばされ……呆気なく微動だにもしなくなっていた。
「最初から、こうすれば良かった」そうして彼女の呟き声を耳にする。
とうとう鬼の形相と化した桃夏の姿を目の当たりにしたのだ! 彼女の攻めにもう容赦は見えない。
次に、すぐさま地下に通ずるドアへと焦点を合わせた桃夏。金光の居場所を知っていると思える。
とはいえ、まだ油断は禁物か。当初から、フロアの男が足を撃たれようとも痛みに耐えながら銃を握り締めていたからだ。
対してそうとは知らない彼女は、背を向けて大きな歩幅で歩いている。その姿は、全く隙だらけのよう……
ならば、今こそ撃ち抜いてやるぞ、と男は決起した。
まさしく彼女は、絶好の標的になってしまったのだ! 哀れ桃夏の命もこれまでかー。
そして男は、慎重にトリガーを……引いた!
――1発の銃声が響いた!――
……ところが、そう易々といかない? 桃夏の驚異的な反射神経によって一瞬で身をかわされた。弾丸は敢え無く壁にめり込む。
何という素早さだ! これには、男も唖然とした。……が、感心している暇などない、彼女の反撃が始まろうとしているのだから。
忽ち電光石火の早業を見せつけられる。一瞬で接近を許してしまい、手にする銃を蹴り飛ばされた。さらに、
「ちっちっちっ……女をうしろから撃とうとするのは、うーん、男として最低ね」と一言注意されたかと思ったら、頭部に跳び蹴りを食らわされた!
男は堪らず、白目をむいて倒れ込み気を失った。いやはやこの族にとっては最悪だ。目を覚ましたのちは、足の痛みと強烈な偏頭痛で苦しむことになるだろう。
とどのつまり、彼女ほどの戦士ともなれば、そう容易く殺られはしないということだ。
桃夏は、堂々と地下に通ずるドアへと進んだ。まるで些細な騒動が終わったとでも言いたそうな顔で。
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