ミッション――捜査1課、第9の男 危機そして死闘へ――

TOZO

文字の大きさ
上 下
10 / 34

第3話 仮面の男(6)

しおりを挟む
        5 戦いの末に……

「お前は……死んだはず」
 あずまの予想外な出現に、厳鬼げんきの方も仰天したように叫んだ。
 対して東は、自信と気迫に満ちた声でそれを否定する。
「私は健在だ!」加えて、潰れた車の中にいる、あの山下にも呼びかけた。「大丈夫か? 西村警部補」と。――やはり信二が山下に成り代っていたのだ。
 あの時、手榴弾が東の目の前で爆発した瞬間、何が起こっていたのだろうか。
 それは警護していた部下の田浦が、手榴弾を投げる山下に逸早く気づいたところから始まる。山下の暴挙に田浦は上手く対応して奴の首を殴り気絶させた。そこまでは良かったのだが、既に手榴弾が投げられた後だったため、破裂を防ぐことができず壁の落下を招いた。けれど田浦は、そこで大胆な行動に出る。身の危険も顧みず、東を救おうと覆い被さったのだ。そのお陰で東の方は掠り傷で済むも、田浦は足と肋骨を折り重症となった。取りあえず命に別状はないにせよ、復帰にはかなりの期間が要る羽目になってしまった。そしてその後、信二が山下に成り済まし厳鬼の動向を探る手筈だったところ、直前まで計画を知らされず警察署に連絡できないでいた。仕方なく彼は、山下として本部長の誘拐に加わり、車に乗せるや否や運転手と斉藤を眠らせ、逃走を謀ったという訳なのだ。
 西村が答えた。
「はい、しかし利き腕を負傷しました」と少し苦しそうな声だ。
「本部長はどうだ?」東が訊いた。
「まだ、気を失っています」
「よし、もう少しの辛抱だ、すぐに応援が来る」と東は懸命に励ます。
 するとそこに、厳鬼の怒声が聞こえてきた。
「東、調子に乗るなよ!」と。そのうえ何を思ったのか、奴は側にいた子分を羽交い絞めにしていた。
「ボ、ボス?」それには子分も焦り顔を見せた。
 この行為は? もしや、卑怯極まりない族の為せる業、子分を楯に東の方へ迫り来るつもりなのか。……そのようだ。戸惑う子分を弾避けにして、ジリジリと東ににじり寄っている。
 東は銃を構えているけれど、丸腰の男を撃てない。れて迷い始めた!
 だが、次の一瞬、厳鬼が子分を突き飛ばし東の方へ追いやる! それには子分も、容易にその意図を察したみたいで一気に勢い迫ってきた。
 としても、疾うに男の動きは見抜いている。彼は即座に体を翻し、2度の鈍い異音を鳴らす! 子分の腹に強拳、銃を持った手で男の首を叩いた。男は呆気なくその場に崩れ落ちる。
 さらにその直後、他の子分たちもこの機と捉えたようで、東に向かって突進してきた。ただ、それも彼には通用しない。
「おりゃー!」連続の打撃音を立てて、彼は右足で回し蹴り、左足でうしろ蹴りを食らわせ、あっと言う間に3人を倒してしまった。
 そして、残るは厳鬼だけ!……と見返すが、思った通り奴の姿がない。この隙に乗じて、奴はビル群の奥へと走り去ろうとしていた。 
「待て!?」東は叫びながら咄嗟に銃を向ける! 続いて今まさに奴を撃とうとした……が、「くっ!」彼は葛藤せずにはいられなかった。
 そのため、一先ず発砲は断念することに……。彼は銃を下ろし、すぐさま追いかけるのであった。

 厳鬼が逃げる、懸命に逃げる。次いでその後を、東は追う。信念で追う。
 けれど奴の動きは予想もつかず、逃げ込む場所が決まっているのか? それとも、やたらめたらに逃げ回っているのか? 到底その真意は分かりようがない。よって現時点でできることは、奴に合わせて追いかけるのみだ。
 するとその時、厳鬼は何を思ったのか、突如ビルの角を曲がり路地裏へと入り込んだ。
 むっ? どこへ行く気だ。彼も警戒しながら同じ道を辿る。
 ところが、角を回った途端、目の前にいた奴の姿を見失ってしまった! たった数秒の間、視線から外れただけなのに、忽然と消えたのだ。
 これには、東も焦った。急いで顔を左右に振って探してみた。……それでも、見つけられない! やはり駄目か、何という失態を犯したんだ。彼は悔やんだ。
――そこに甲高い音が響く――そんな中、鉄板を踏む上がるような音が、唐突に頭上から聞こえてきた! 誰かがビルの非常階段を上っているようだ……
 あっ、見つけたぞ。厳鬼だ! 仮面を付けた男が、屋上を目指して走っていた。
 これで東も、一転して奮起する。同じく一気呵成に非常階段を駆け上がった。……が、階段を進むに連れて、以前の失敗を思い出す。例の、嫌気が差す、周期的なノイズが耳に入ってきたからだ。そして屋上に着いたところで、奴のうしろ姿とともにローターの回転音を響かせる物を目の前にしていた。……言わずと知れた、ヘリコプターだ! それが予想通り上空で待機していた。ただし、今回は早急な逃避だったためか、ヘリは着陸せず空中でホバリングして縄梯子だけを垂らしていた。
 続いて厳鬼は、そうした状態にも拘らず、その縄梯子へ飛びついた。しかもヘリの方でも重々承知しているらしく、奴をぶら下げたまま空高く上昇し始める。
 次に、息急き切ってヘリの真下に着いた東だったが……一歩の遅れでもう縄梯子には届きそうにない。
「逃がすか!」とはいえ、今回こそは捕まえる覚悟だ。諦めはしないと、ベルトのバックルから細いワイヤーを引き出した。先端に鈎の付いた、十数メートルもの長さをバックル内の糸巻に収納させた特殊軟化炭素鋼。加えて、強固にベルトと繋がっている7つ道具の1つだ。
 それを彼は、渾身の力で投げた!
 そうして何とか……上手く鈎が縄梯子に引っかかる。これで東も宙吊りだ。すぐにヘリの高度がどんどん上がっていく。2人の強者をぶら下げ、大空に舞い上がったのだ!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

★駅伝むすめバンビ

鉄紺忍者
大衆娯楽
人間の意思に反応する『フットギア』という特殊なシューズで走る新世代・駅伝SFストーリー!レース前、主人公・栗原楓は憧れの神宮寺エリカから突然声をかけられた。慌てふためく楓だったが、実は2人にはとある共通点があって……? みなとみらいと八景島を結ぶ絶景のコースを、7人の女子大生ランナーが駆け抜ける!

処理中です...