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第3話 仮面の男(6)
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5 戦いの末に……
「お前は……死んだはず」
東の予想外な出現に、厳鬼の方も仰天したように叫んだ。
対して東は、自信と気迫に満ちた声でそれを否定する。
「私は健在だ!」加えて、潰れた車の中にいる、あの山下にも呼びかけた。「大丈夫か? 西村警部補」と。――やはり信二が山下に成り代っていたのだ。
あの時、手榴弾が東の目の前で爆発した瞬間、何が起こっていたのだろうか。
それは警護していた部下の田浦が、手榴弾を投げる山下に逸早く気づいたところから始まる。山下の暴挙に田浦は上手く対応して奴の首を殴り気絶させた。そこまでは良かったのだが、既に手榴弾が投げられた後だったため、破裂を防ぐことができず壁の落下を招いた。けれど田浦は、そこで大胆な行動に出る。身の危険も顧みず、東を救おうと覆い被さったのだ。そのお陰で東の方は掠り傷で済むも、田浦は足と肋骨を折り重症となった。取りあえず命に別状はないにせよ、復帰にはかなりの期間が要る羽目になってしまった。そしてその後、信二が山下に成り済まし厳鬼の動向を探る手筈だったところ、直前まで計画を知らされず警察署に連絡できないでいた。仕方なく彼は、山下として本部長の誘拐に加わり、車に乗せるや否や運転手と斉藤を眠らせ、逃走を謀ったという訳なのだ。
西村が答えた。
「はい、しかし利き腕を負傷しました」と少し苦しそうな声だ。
「本部長はどうだ?」東が訊いた。
「まだ、気を失っています」
「よし、もう少しの辛抱だ、すぐに応援が来る」と東は懸命に励ます。
するとそこに、厳鬼の怒声が聞こえてきた。
「東、調子に乗るなよ!」と。そのうえ何を思ったのか、奴は側にいた子分を羽交い絞めにしていた。
「ボ、ボス?」それには子分も焦り顔を見せた。
この行為は? もしや、卑怯極まりない族の為せる業、子分を楯に東の方へ迫り来るつもりなのか。……そのようだ。戸惑う子分を弾避けにして、ジリジリと東ににじり寄っている。
東は銃を構えているけれど、丸腰の男を撃てない。焦れて迷い始めた!
だが、次の一瞬、厳鬼が子分を突き飛ばし東の方へ追いやる! それには子分も、容易にその意図を察したみたいで一気に勢い迫ってきた。
としても、疾うに男の動きは見抜いている。彼は即座に体を翻し、2度の鈍い異音を鳴らす! 子分の腹に強拳、銃を持った手で男の首を叩いた。男は呆気なくその場に崩れ落ちる。
さらにその直後、他の子分たちもこの機と捉えたようで、東に向かって突進してきた。ただ、それも彼には通用しない。
「おりゃー!」連続の打撃音を立てて、彼は右足で回し蹴り、左足でうしろ蹴りを食らわせ、あっと言う間に3人を倒してしまった。
そして、残るは厳鬼だけ!……と見返すが、思った通り奴の姿がない。この隙に乗じて、奴はビル群の奥へと走り去ろうとしていた。
「待て!?」東は叫びながら咄嗟に銃を向ける! 続いて今まさに奴を撃とうとした……が、「くっ!」彼は葛藤せずにはいられなかった。
そのため、一先ず発砲は断念することに……。彼は銃を下ろし、すぐさま追いかけるのであった。
厳鬼が逃げる、懸命に逃げる。次いでその後を、東は追う。信念で追う。
けれど奴の動きは予想もつかず、逃げ込む場所が決まっているのか? それとも、やたらめたらに逃げ回っているのか? 到底その真意は分かりようがない。よって現時点でできることは、奴に合わせて追いかけるのみだ。
するとその時、厳鬼は何を思ったのか、突如ビルの角を曲がり路地裏へと入り込んだ。
むっ? どこへ行く気だ。彼も警戒しながら同じ道を辿る。
ところが、角を回った途端、目の前にいた奴の姿を見失ってしまった! たった数秒の間、視線から外れただけなのに、忽然と消えたのだ。
これには、東も焦った。急いで顔を左右に振って探してみた。……それでも、見つけられない! やはり駄目か、何という失態を犯したんだ。彼は悔やんだ。
――そこに甲高い音が響く――そんな中、鉄板を踏む上がるような音が、唐突に頭上から聞こえてきた! 誰かがビルの非常階段を上っているようだ……
あっ、見つけたぞ。厳鬼だ! 仮面を付けた男が、屋上を目指して走っていた。
これで東も、一転して奮起する。同じく一気呵成に非常階段を駆け上がった。……が、階段を進むに連れて、以前の失敗を思い出す。例の、嫌気が差す、周期的なノイズが耳に入ってきたからだ。そして屋上に着いたところで、奴のうしろ姿とともにローターの回転音を響かせる物を目の前にしていた。……言わずと知れた、ヘリコプターだ! それが予想通り上空で待機していた。ただし、今回は早急な逃避だったためか、ヘリは着陸せず空中でホバリングして縄梯子だけを垂らしていた。
続いて厳鬼は、そうした状態にも拘らず、その縄梯子へ飛びついた。しかもヘリの方でも重々承知しているらしく、奴をぶら下げたまま空高く上昇し始める。
次に、息急き切ってヘリの真下に着いた東だったが……一歩の遅れでもう縄梯子には届きそうにない。
「逃がすか!」とはいえ、今回こそは捕まえる覚悟だ。諦めはしないと、ベルトのバックルから細いワイヤーを引き出した。先端に鈎の付いた、十数メートルもの長さをバックル内の糸巻に収納させた特殊軟化炭素鋼。加えて、強固にベルトと繋がっている7つ道具の1つだ。
それを彼は、渾身の力で投げた!
そうして何とか……上手く鈎が縄梯子に引っかかる。これで東も宙吊りだ。すぐにヘリの高度がどんどん上がっていく。2人の強者をぶら下げ、大空に舞い上がったのだ!
「お前は……死んだはず」
東の予想外な出現に、厳鬼の方も仰天したように叫んだ。
対して東は、自信と気迫に満ちた声でそれを否定する。
「私は健在だ!」加えて、潰れた車の中にいる、あの山下にも呼びかけた。「大丈夫か? 西村警部補」と。――やはり信二が山下に成り代っていたのだ。
あの時、手榴弾が東の目の前で爆発した瞬間、何が起こっていたのだろうか。
それは警護していた部下の田浦が、手榴弾を投げる山下に逸早く気づいたところから始まる。山下の暴挙に田浦は上手く対応して奴の首を殴り気絶させた。そこまでは良かったのだが、既に手榴弾が投げられた後だったため、破裂を防ぐことができず壁の落下を招いた。けれど田浦は、そこで大胆な行動に出る。身の危険も顧みず、東を救おうと覆い被さったのだ。そのお陰で東の方は掠り傷で済むも、田浦は足と肋骨を折り重症となった。取りあえず命に別状はないにせよ、復帰にはかなりの期間が要る羽目になってしまった。そしてその後、信二が山下に成り済まし厳鬼の動向を探る手筈だったところ、直前まで計画を知らされず警察署に連絡できないでいた。仕方なく彼は、山下として本部長の誘拐に加わり、車に乗せるや否や運転手と斉藤を眠らせ、逃走を謀ったという訳なのだ。
西村が答えた。
「はい、しかし利き腕を負傷しました」と少し苦しそうな声だ。
「本部長はどうだ?」東が訊いた。
「まだ、気を失っています」
「よし、もう少しの辛抱だ、すぐに応援が来る」と東は懸命に励ます。
するとそこに、厳鬼の怒声が聞こえてきた。
「東、調子に乗るなよ!」と。そのうえ何を思ったのか、奴は側にいた子分を羽交い絞めにしていた。
「ボ、ボス?」それには子分も焦り顔を見せた。
この行為は? もしや、卑怯極まりない族の為せる業、子分を楯に東の方へ迫り来るつもりなのか。……そのようだ。戸惑う子分を弾避けにして、ジリジリと東ににじり寄っている。
東は銃を構えているけれど、丸腰の男を撃てない。焦れて迷い始めた!
だが、次の一瞬、厳鬼が子分を突き飛ばし東の方へ追いやる! それには子分も、容易にその意図を察したみたいで一気に勢い迫ってきた。
としても、疾うに男の動きは見抜いている。彼は即座に体を翻し、2度の鈍い異音を鳴らす! 子分の腹に強拳、銃を持った手で男の首を叩いた。男は呆気なくその場に崩れ落ちる。
さらにその直後、他の子分たちもこの機と捉えたようで、東に向かって突進してきた。ただ、それも彼には通用しない。
「おりゃー!」連続の打撃音を立てて、彼は右足で回し蹴り、左足でうしろ蹴りを食らわせ、あっと言う間に3人を倒してしまった。
そして、残るは厳鬼だけ!……と見返すが、思った通り奴の姿がない。この隙に乗じて、奴はビル群の奥へと走り去ろうとしていた。
「待て!?」東は叫びながら咄嗟に銃を向ける! 続いて今まさに奴を撃とうとした……が、「くっ!」彼は葛藤せずにはいられなかった。
そのため、一先ず発砲は断念することに……。彼は銃を下ろし、すぐさま追いかけるのであった。
厳鬼が逃げる、懸命に逃げる。次いでその後を、東は追う。信念で追う。
けれど奴の動きは予想もつかず、逃げ込む場所が決まっているのか? それとも、やたらめたらに逃げ回っているのか? 到底その真意は分かりようがない。よって現時点でできることは、奴に合わせて追いかけるのみだ。
するとその時、厳鬼は何を思ったのか、突如ビルの角を曲がり路地裏へと入り込んだ。
むっ? どこへ行く気だ。彼も警戒しながら同じ道を辿る。
ところが、角を回った途端、目の前にいた奴の姿を見失ってしまった! たった数秒の間、視線から外れただけなのに、忽然と消えたのだ。
これには、東も焦った。急いで顔を左右に振って探してみた。……それでも、見つけられない! やはり駄目か、何という失態を犯したんだ。彼は悔やんだ。
――そこに甲高い音が響く――そんな中、鉄板を踏む上がるような音が、唐突に頭上から聞こえてきた! 誰かがビルの非常階段を上っているようだ……
あっ、見つけたぞ。厳鬼だ! 仮面を付けた男が、屋上を目指して走っていた。
これで東も、一転して奮起する。同じく一気呵成に非常階段を駆け上がった。……が、階段を進むに連れて、以前の失敗を思い出す。例の、嫌気が差す、周期的なノイズが耳に入ってきたからだ。そして屋上に着いたところで、奴のうしろ姿とともにローターの回転音を響かせる物を目の前にしていた。……言わずと知れた、ヘリコプターだ! それが予想通り上空で待機していた。ただし、今回は早急な逃避だったためか、ヘリは着陸せず空中でホバリングして縄梯子だけを垂らしていた。
続いて厳鬼は、そうした状態にも拘らず、その縄梯子へ飛びついた。しかもヘリの方でも重々承知しているらしく、奴をぶら下げたまま空高く上昇し始める。
次に、息急き切ってヘリの真下に着いた東だったが……一歩の遅れでもう縄梯子には届きそうにない。
「逃がすか!」とはいえ、今回こそは捕まえる覚悟だ。諦めはしないと、ベルトのバックルから細いワイヤーを引き出した。先端に鈎の付いた、十数メートルもの長さをバックル内の糸巻に収納させた特殊軟化炭素鋼。加えて、強固にベルトと繋がっている7つ道具の1つだ。
それを彼は、渾身の力で投げた!
そうして何とか……上手く鈎が縄梯子に引っかかる。これで東も宙吊りだ。すぐにヘリの高度がどんどん上がっていく。2人の強者をぶら下げ、大空に舞い上がったのだ!
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