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第6話 暴かれた真実ー5

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 行き成り、田所の元へ通信士が駆け込んできた。
「警視、あずま警部の無線信号を捕捉しました!」
「よし、捕えたか。それで場所はどこだ?」
 漸く、吉報を得たようだ。その知らせで、警備艇内の田所や他の警官たちは勢いづく。
「ハッ、南西に42キロメートル進んだ所です」
「南西? となると、まだ海の上だな。周辺に何がある?」
「まだはっきりしませんが、たぶんレーダーから判断しますと、巨大な船、もしくはタンカーではないでしょうか」
「そうか、それだけ分かれば十分だ。後は全船に連絡しろ、それとヘリにも知らせるんだ!」
 やっと東の居所が判明した。こうなれば急いで向かうだけだ。
「待ってろよ東、すぐに追いつくからな」警視の顔が一気に輝き始めた。

 片や、どうにか一命を取り留めた東の方は、次なる試練に挑み始めた。
 先ずは、ここから出ないといけない。彼は、用心しながらゆっくりとドアを開け通路の様子を探う。
 すると、人の姿が確認できないだけでなく、気配さえ感じられない。一見して何の謀り事もないような雰囲気だった。
 だがその直後、警報音が耳を劈く。騒然たるサイレンが鳴り始めたのだ!
 何が起こった? 彼はただちに警戒するとともに辺りを見渡してみたところ、遠くの方で慌てた仕草の作業員が恰も非難するかのように上部へと駆け上がっている光景を目にする。……と言うことは、その行動から推測する限り、彼の生存が発覚したのではなく、ミサイルの発射警報である可能性が高い。ならば、より最悪な状況に陥ったということか? 一刻の猶予も許されない訳だ。
 こうなると、無論東は焦った。すぐさま甲板を目指そうとして、走りに走る。
……とはいえ、なかなかの高所、そう急には上れなかった。仕方なく、彼は黙々と進み続ける。……が、ちょうどここで、偶然ある物に目が留まった。もしかしたら、容易に最上部まで到達できるかもしれない代物に出くわしたのだ。
 それは、まるで彼に使ってくれと言わんばかりに輪郭を見せた、かなり大型の荷物用エレベーター?
 これは都合がいいかもしれない。早速、東は昇降機の鉄網扉を開けた。確かに倉庫ほどの広さがある大きなエレベーターだった。さらに、内部の奥まった所を垣間見た時、銀色のカバーで覆われた意外な物体も見つけてしまう。――全長4.5メートル、全幅2メートル、全高1.2メートルほどの、跳ね馬のごとき赤いボディのV12だ。

 そして最上階の甲板では、とうとうカウントアナウンスが、〔100、99、98、97……〕と聞こえ始めた!
 そのため、金光たちも危険を避けようというのだろう、それに合わせてサイロから離れる動作を見せる。あらかじめ設置されていた監視用遮蔽壁へ身を隠していた。ただし、桃夏の方はサイロを囲う鉄柵に繋がれたままだ。発射間際のせいで彼女の足元のぽっかりと開けられた円筒形の大穴からは、既に薄っすらと煙が立ち昇っているというのに……
 さあ、惨劇の時が、もう目前に迫り来ようとしていた。桃夏の命も消え去る運命かー! そのうえ今回は攻撃目標が首都となったため、より恐ろしいことになる、未曾有の大惨事がもたらされるのだ!?
 それでも……まだ望みはあるのか!
 必ず阻止してみせると心に誓い、駆けつけている1人の男。そうだ、東九吾ならきっとやれる。絶対に危機を防げるはずだー!

        4 危機一髪

「何!?」と警視の驚愕した声が艇に響いた。「衛星写真に写っている? タンカーに別の弾道ミサイルだと!」彼は無線で本部からの報告を受けていた。「それが……赤外線反応、すぐに発射するのか?」しかも、とんでもない情報を聞いたのだ。
 その船艇の作戦室には、西村、他数名の部下も戦いに備え控えていた。
 続いて警視は、長官からの緊急無線が入ったとの知らせも受ける。それ故、すかさずそちらに切り替えた。
「はい、そうです。……はっ? 戦闘機ですか! ま、待ってください。まだ、東が、私の部下が乗っているんです」ただし、その内容は残酷なものだった。「……もう少し時間を延ばせないのでしょうか? しかしですよ、しかし」と彼は、言うまでもなく一旦反対した……のだが、「ううっ、分かりました!」結局、承諾し難い内容に苦悶しつつも受け入れるしかなかった。警視は消沈して無線を切った。
 すると、西村たちにもその悲壮感が伝わったのか、すぐに問いかけてきた。
「どうしたんですか?」
「…………」警視は意図せず沈黙する。とはいえ、その後、話さない訳にもいかないだろうと思い直す。鬱いだ声で語り始めた。
「タンカーに、別の弾道ミサイルが装備されているようだ」
「えっ! もう一基あったんですか?」
「ああ……そのうえ弱ったことに、発射は間近だというのだ。そこで止む無く、F-15で攻撃することが決まった」
「何ですってー!」忽ち西村の大声が聞こえてきた。……やはり想定内の反応を示したか、仲間の警官がタンカー内にいるのだから当然ともいえる。同様に周りの警官たちも、浮かない表情に変わっていた。
 さらに西村が、「戦闘機を使うんですか? そんな……。弾道弾が破裂して全ての物が跡形もなく消滅しますよ! 東さんは? 警部はどうなるんです。捨て駒にするんですか?」と必死の形相で声を荒げて訴えた。
 まさしく、彼の言う通りだ……。警視も内心ではそう思っていた。東という優秀な捜査官の命を犠牲にしなければならないなんて、何と残酷な決定なんだ、と警視自身も無念な気持ちで一杯だったのだ。しかし、彼らがどんなことを言ようと上層部で決まったこと。警視ですら逆らえはしない。
 そのため、「大勢の生死がかかっている。我々の第一の使命は、市民を守ることだ、個人的な感情で流されてはいけない……。よって唯一我々が取れる行動は、指揮系統に準じ、上からの命令に従うだけだ!」と納得などできないものの、そう返答するしかなかった。結局、彼らは組織の歯車に過ぎないということを痛感させられたのだ。
「くっ、チクショー!?」西村は、そんな警視の気持ちも重々理解しているに違いない。それ以上の恨み言を口にしなかった。その後、やりきれなさそうにうしろを振り向き項垂れた。言いたいことは山ほどあるのだろうが、それを押し殺している様子だ。
 そして警視も、悲痛な表情で肩を落とした。東に対して、何もしてやれない悔しさを耐え忍びながら。
 それでも自ずと、彼がいるであろう遠くの海を一心に見詰めて、
「死ぬなよ、東! 必ず無事でいてくれ!」と呼びかけるのであった。
 船艇内は、一瞬で暗澹たる雰囲気に包まれた。誰もがその顔を暗くして……
「――あずま!――」
 そこになおも、部下の生還をひたすら祈願する、警視の叫びが艇内に響いていた!


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