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俺が最初に好きだったんだ
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しおりを挟むいったいどれくらい歩いただろうか。
右へ、左へ、鬱蒼とした獣道を掻き分け、道なき道を行き、川を渡り、谷を降り、崖を登った。
「……どこまで歩かせる気だ…」
『わにゃにゃぁ』
((("ʕ•̫͡•ʔ "ʕ•̫͡•ʔ
不気味な生物が発した言葉は確実に輝の言葉だった。
輝は、叶に、助けを求めている。
そう判断した叶はもう形振り構わなかった。数粒チョコレートを生物の前に放り投げると、袋に入ったチョコを振る。
「輝はどこだ?俺みたいなのが迷い込んだだろう?…案内すればもっとやるぞ」
•̫͡••̫͡•
『わにゃーぁ…』
涎のようなものを垂らしながら叶の言っている事を理解したのか、落ちているチョコを食べるとチタタタ…とそれらは歩き出した。
そうして叶はひたすらそれを追い続けた。
歩いて、歩いて、歩いて…随分と歩き続け日が暮れていた筈だ。
だが不思議な事にソレらについて奥に進んでいると、暗くなりかけていた周辺が段々と明るくなっていった。
思いの外速いその生物を見失なう事がないように進んでいるとクシャリと何かを踏んだ。手をついた木の根本を見る。
タバコの吸い殻と、まだ中身が入っているタバコの箱が落ちていた。
それは叶がよく吸う銘柄だった。
そうだ。あの日渡した煙草だ。
「…輝っ!?やっぱりここに来たんだなッ!あの馬鹿は…っ」
悪態を吐きつつも手掛かりを見つけた安堵感が広がった。しかしまだ油断できない。この先で輝が助けを求めているからだ。輝がどんな状態になっているのか、どうやって救出するのか…それを考えるにも状況を把握しないといけない。
ただ、今出来ることは、ついていくだけだ。
無力感を感じながらもそれでも叶は歩みを止めなかった。
生物達が草むらに消える。
叶もそれについて、背丈の高い雑草を掻き分けて進んで行く。
『わにゃわにゃ』
『わにゃ』
視界は便りにならないので、声のする方角へ懸命に進んだ。
ガサガサ…ガサガサ…ガサガサ…ガサッ
「…くっ…はっ………………鳥居…?」
草むらを抜けた先には剥き出しになった地面と真っ赤な鳥居が聳え立っていた。
一つではない。奥に続くように数多の鳥居が。
それは真新しく建てたように美しい緋色だった。
「こんな、山奥に?……地図にも無いぞ……どういう事なんだ…クソッ!」
本能的な嫌悪感が叶の全身に走る。
ここに入りたく無い。
気色の悪さに全身の毛が逆立った。
2匹の不気味な生物はそんな叶に構わず進んでいく。
けっして行きたくは無いが…それでも輝の手掛かりがあるのならばと叶は無理矢理に足を動かし進んでいった。
(((ʕ•̫͡•ʔ
『わにゃ』
(((ʕ•̫͡•ʔ
『わにゃ』
「…こんな所にどうやって…。人間に、出来ると思えない…」
いくつもの鳥居を抜け、眩く光る場所に出た。
「なんなんだ、ここはっ…!?」
そこは一面に花が咲き、樹には果実が実り、美しい鳥が羽ばたいた。
暖かく優しい風は今が真夏だという事を忘れさせる。
桜、梅、木蓮、椿、金木犀、蝋梅、シクラメン、クレマチス、パンジー、ビオラ、ラナンキュロス、紫陽花、向日葵、スイトピー、テッセン、クロッカス、水仙、ネモフィラ、チューリップ、鈴蘭、藤、菜の花、芍薬、アマリリス、百合、蓮、睡蓮、朝顔、クチナシ、桔梗、コスモス、薔薇、彼岸花…
ありとあらゆる花が季節関係なく咲き誇る。
あまりに、異常だ。
空間ごと捻じ曲がっている。
恐怖だ。知覚してはいけない異常な事が起きている。
こんな所に立ち入っていいはずがない。
『わにゃ』 ((( ʕ•̫͡•ʔ ʕ•̫͡•ʔ ((🦋
『うにゃ』 ((( ʕ•̫͡•ʔ ʕ•̫͡•ʔ
少し開けた場所で複数の生物が蝶々を追いかけて遊んでいる。無数に居るソレらはころころと転がり皆思い々好きに過ごしている様子だった。
その長閑な光景に更に恐怖心が強くなった。
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