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俺が最初に好きだったんだ

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 彼女と出会ったのは酒に溺れ、見るからに様子がおかしくなった叶を心配した友人が誘ってくれた飲み会だった。

「ま、人数多いし、気軽に来てよ。本当は参加費必要なんだけど今回は俺の奢りでいいからさ」

 店舗を貸し切ったパーティーはとても豪勢で皆楽しそうに盛り上がっている。
 叶自身、そういう多人数が集まる会合は苦手だったが頭にこびり付いて離れない最低男の事を少しでも考えたく無くて人波に埋もれる。ただ酒が飲めればそれでいい。そんな心境だった。
 誘ってくれた友人に挨拶だけして所在なくふらふらと酒を飲み歩いた。結局見知らぬ人達と話そうと思えなく、声をかけられても二言、三言で切り上げて壁際に逃げ出した。
 自分の周りだけ薄い壁がある。その向こう側で泳ぐカラフルな熱帯魚たち…。そんな気分だった。

 お酒。そんなに美味しいとは思えない。ただ飲んでいないと気が狂いそうだ。
 しかし、そんな自分自身に嫌悪感が止まらない。同じだ。父親と。
 飲んで、殴って、殴って…幼い叶に暴力が向く度に母は庇ってくれた。父親からの暴力。怯えながらもどこか母は嬉しそうだった…。

 思考に沈んでいた叶の腕にトン…と誰かがぶつかった。その刺激で散漫だった意識の焦点が現実に戻る。叶と同じように人波から逃れてきた誰かだろう。

「あ、すみません」
「あ…いえ…。……っ!?」

 謝罪の言葉に自然と隣に顔を向ける。

 そこにいたのは輝だった。いや、てっちゃんだ。

 まるで記憶から抜け出てきたかのようなその姿。
 日に焼けた肌、スラリとした体躯、ショートカットの髪、ちょっとだけ傷んだ髪色、シンプルなTシャツは場違い感はあるが彼女にとても良く似合っていた。
 頭1つ分下から見上げてくるその瞳はキラキラと輝いていて…。
 あまりにジッと見過ぎたせいか彼女は自分の格好を見て、少しだけ恥ずかしそうに笑った。

「あ…変ですよね。気軽に来ていいって言うからこんな格好で来たら皆結構気合い入ってて浮いちゃって…」
「いや、可愛いですよ」
「…へ」
「可愛い」


 臆面も無く褒められて彼女は驚いたような顔をした後、とても嬉しそうに微笑んだ。


 までの記憶はあるが、目覚めたら知らない天井が見えた。と言うより裸だった。朝だった。
 茫然としながら身体を起こすとコーヒーカップを片手にガウンを着た彼女がキッチンから出てきた所だった。

「おはようございます。…あ、コーヒー飲みます?…その、…昨日は…すごかったですね!…は、はは」

 照れ臭そうな彼女の様子から何があったのか全てを察した。察しながらも考えていたのは。


 ー…明るい所で見るとあんまり似てないな、なんて事だった。



 
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