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俺が最初に好きだったんだ

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 それからどのくらい経っただろうか。悪夢そのものの金髪を記憶から消すように、何度も幼い頃の輝を思い出した。
 伊東輝の存在ごと忘れてしまえばよいのだが、忘れようと思うほどキラキラかがやいていた少年を思い出してしまった。
 笑顔、小麦色の肌、無邪気な声、初めて性的興奮を覚えた川辺での出来事…ああ、あの時そういえば彼は…

 そんな風に物思いにふけながらいつものように自主練を終えて下校すると既視感を覚える光景が目に飛び込んできた。
 校門の外。金髪頭の男が嬉しそうに手を振って飛び跳ねていた。

「叶!かなえ!お前いっつもおっそいなっ!何してんだ?補習?」

 …もう2度と会いたくないと思っていた彼だった。

 また金をせびりに来たんだ、と思った。

 あの時何故断らなかったのだろうか。一度でも甘い汁を吸ったら二度、三度と集って来るに決まっているのに。
 叶はまるで目に入らなかったかのように輝の横を通り過ぎた。それでも背後からついてくる。あまりしつこく金銭をせびってくる様子なら殴ってでも逃げようと拳を握った。

「叶?かなえ!俺おれ、輝、輝だってば!なぁなぁなぁ…」
「……っ」

 無視して速足で進んで行くのに一向に輝は諦める気配がない。いよいよ殴り飛ばしてやろうと振り返った瞬間、ズイっと目の前に封筒が差し出された。
 予想外の出来事に叶は目を丸くした。

「これさ」
「……」
「金、返しにきた…。マジ助かった!ありがと!悪かったな!」
「………」

 思わず受け取ってしまった封筒を見つめる。シンプルな封筒だ。ここに来るまでに何度も握って確かめたのか、少ししわが寄っていた。外からの感触で少しの厚みと、ジャラジャラとした小銭の感覚が分かった。
 茫然ぼうぜんとしながら封筒の中を確認していると輝も覗き込んで来た。はっとして叶は顔を勢いよくあげた。

 ちょうどよく夕陽が彼の顔を照らした。キラキラとその瞳がかがやき、満足そうに笑っている。その笑顔は昔のままで、あ、駄目だ。と思った。

「ま、ちょっとだけ足りないんだけどさ。前借りしてた分バイト代引かれちゃって!また持ってくるから許して!千円くらい!な!」
「…あ、うん」
「へへ、よかった。んじゃ!またな!」

 そう言って嵐のように彼は去っていった。機嫌良くぴょんぴょんと走り去るその姿を目に焼き付けるように叶は見つめ続けた。

 自宅に戻ると封筒の中身を全て出し確認した。
 小銭が数枚と千円札が7枚。

「…7千800円…。足らないのは2,200円だ、馬鹿」


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