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人生一発逆転勝利を目指して (((ʕ•̫͡•ʔ
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しおりを挟む自宅に帰った輝は部屋中をひっくり返し、小銭を集めた。かき集めたなけなしのお金を握り100円ショップに駆け込んだ。
そこで虫網、虫籠を手に入れるとオンボロの自転車に乗り1時間程かけて近場の山まで訪れた。
鬱蒼とした森の中に足を踏み入れる。
しばらく山中を歩き回ったが、中々見つけられない。
「やっぱそんな簡単じゃねーか…。一攫千金、一千万…億万長者…」
頭の中で札束が舞う。大金を手に入れたら借金を返して、叶に謝り、結婚祝いを渡して、当たりが出るまでパチンコを…
「お!…あれはもしかして…」
目の端に何か大きな物が動いたのが写り、その樹木に近寄った。
\•̫͡•/
『わにゃ』
「………なんじゃコリャ…」
それは生まれて初めてみる生き物だった。不気味だが、なんとなく愛嬌がある顔をしている。幹と樹皮の間に挟まりジタバタともがいていた。樹液でも舐めていたのだろうか。
「変な生き物~。写真…あ、電池切れてたんだ」
虫取りの枝の部分で突くと悲しそうな声を上げた。
『キュピー!ピィ…』
「…しょうがねぇな。助けてやっから、噛むんじゃねーぞ」
しばらく観察してあまり危険性がない事を確認すると輝はその生き物をむにゅ…とつまみ、樹皮を外側に広げた。
少し広くなった隙間からソレを引きずり出す。
摘まれたままソレはチタチタ暴れた。
”ʕ•̫͡•ʔ"
『わにゃうにゃ』
「きしょ…。…でも触り心地はいーな」
指で突いて感触を確かめる。大福の様に柔らかく、サラリとしていた。
持ち直そうと摘んでた指を少し緩めた瞬間にソレはスルン、ポトッ、チテテ…と逃げてしまった。
「…あっ!」
I•̫͡•ʔ”
『わにゃ』
感謝する様にそれは振り返ると森の奥へ消えていった。
「…しまった。クワガタよりもあれの方が高く売れたんじゃ…」
輝は逃してしまった事を後悔した。
「…かなぇ」
「お前…、金無いって泣きついて来といてどこほっつき歩いてたんだ…って、なんだその格好」
暗闇の中、蛍のように煙草が赤く光る。
アパート近くの道路に路駐した叶が車に寄り掛かりながらこちらを眺めていた。
その目に映るのは、年甲斐無く虫網虫籠を持つ泥だらけ草まみれの汚い男だった。ヘラリと笑って手を伸ばす。
「たばこちょーだい」
「………しょうがないな。ほら」
「あんがと!やりぃ」
叶はまだ開けたばかりであろう箱をそのまま輝に投げ渡した。そこから早速1本取り出すと数時間ぶりの煙を味わう。
「…家、上げてくれよ。お前ん家汚いけどここでする話じゃないからな」
「あー…。今電気止められてっからここの方がまだ明かりぃよ」
「…またかよ。…本当、お前は……」
何かを言いかけて叶は言葉を止めた。呆れた眼差しで、この場で話を進めるようだった。
「…で、なんなんだ」
「そうだ!ほれ、見てみ!やぁっと1匹捕まえたんだあ」
「…クワガタ?しかも小さいな…」
「オオクワ様だ!これからデッカくすんだって。モリモリ食わせてさぁ」
「…馬鹿か、食わせた所で成虫はデカくなんないよ。しかもソレ多分コクワだぞ?そもそも種類が違う」
「…へ?」
「いい大人が、虫取りか…」
呆れた眼差しが、侮蔑の物に変わる。
少年時代の純心な彼はもういない。
「…黒いダイヤ、さ」
「何?」
「覚えてねぇ?……デッカくて、目が白かったら億万長者だ…」
輝は籠を目の前に掲げた。
小さなクワガタは籠の中でそれでも精一杯に外歯を広げてこちらを威嚇している。
それで思い出したのか、叶は懐かしそうに眼を細めた。
「…何十年前の話をしているんだよ。そんなもん二束三文、値段が付けば良い方だ。オオクワだって大型の物でも1万いかないだろ。アルビノのクワガタだって、今や珍しくも無い」
「…へ?」
「…時代は変わってくんだよ」
沈黙が2人の間に重く落ちる。
「…で、でもさあ!こんなん目じゃないくらい珍しい生きもんが居たんだ!大福に手足付けたみたいな気持ち悪りぃのが、木に挟まってて…逃しちゃったけど。あんなん見た事ねぇよ!新種だ!」
「……は?…薬でもやっているのか?」
叶は全く輝の話を信じようとはしなかった。
「…夢みたいな事ばっか言ってないで、ちゃんとしてくれよ。…輝。…てっちゃん、頼むよ…」
「かなえ…」
幼い頃の呼び名で、叶は切なそうに輝を呼んだ。そうして懐から封筒を取り出すと輝の胸元に押し当てた。
「…これ」
「10万入ってる。正真正銘、これが最後だ」
「かなえぇ…」
「いいか?コレはやるんじゃない。お前に貸すんだ。いつまでかかってもいい。必ず返してくれ。38万2千200円、きっちり耳揃えてな」
「…どうして」
「…この金で、生活立て直して、安い吊るしのスーツでも買って、ちゃんと就職して真面目に稼いでくれよ。…俺、てっちゃんの事信じてるからさ…優しくて、強い奴だって」
力強い言葉に、輝の瞳から自然と涙が溢れた。こんな自分にまだ真っ直ぐな目を向けてくれる叶に、感情が込み上げて身体が震えた。
封筒を強く握りしめる。
「うぅ!ご、ごめんなぁっ!こんなっ…!クズに…!まだ…!信じてくれてッ…ありがとなぁッ!」
「…てっちゃん、信じてるからな」
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