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本編

18 喜んで欲しくて

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 その日の屋敷内は人の出入りが多い日だった。
 鍛えられた男達がアルヴィンの部屋に何か大きい物を運び入れていく。
 徐々に組み立てられるのはレドの為のベッドだった。

「そうだな……置き場所は俺のベッドの隣にしてくれ」
「…ご主人様?これは何の騒ぎですか?」
 
 屋敷の清掃を終えてアルヴィンの元に戻ったレドは不思議そうに部屋の中を覗き込んだ。

「ああ、お前のベッドだ」
「え!?」
「今日から俺の部屋で寝るといい。使用人室のベッドはお前には小さかったしな。ちょうどいいから新しい物を作らせた」
「そ、そんな…!?ご、ご主人様と一緒の部屋で寝れるなんて…!?恐れ多いっ…」
「そうかしこまるな。お前が近くにいた方が何かと都合がいいからな」
「………願ってもない事ですぅ…」

 嬉しそうに破顔するレドを引っ張り、今度は応接室に向かった。

「ご主人様?今度はどちらへ?」
「いいからこい。随分待たせている」
「…?はい…」

 レドは引っ張られるまま大人しくアルヴィンの後について行った。



「待たせたな」
「いえいえ、とんでもございません。ご依頼の品物はこちらに」

 応接室で待っていたのは無骨な初老の男性だった。その男が差し出したのは片手で持てそうな大きさの木箱だった。

「ああ、ありがとう。レド、ここに座りなさい」
「…?分かりました…」

 状況が把握できないながらもレドは素直にアルヴィンの言う事を聞き、椅子に腰を下ろした。
 そこに初老の男は近づき「ちょっと失礼するよ」と気軽にレドに話しかけて左脚の義足を外しはじめた。

「…!?…そ、それはご主人様に頂いた物なのですが…」
「ああ、君に合わせてよく出来ているな。なに、新しい物の具合を確かめる為にちょっと外すだけだ」
「新しいもの…?」

 もはや身体の一部のように感じているアルヴィンお手製の義足を奪われて不満そうにしていたレドだったが、男の言葉に首を傾げた。

「ほうら!どうだ!我ながらいい出来だと思うんですがね!」
「わっ!」
「おお!」

 男が自慢げに木箱を開けた。
 そこには銀色に輝く、技巧を凝らした義足が入っていた。
 
「少々サイズ調整を行わないといけませんがね」

 ソケット部分をレドの欠損部にはめ込み、男は持ってきていた道具で調整していく。
 ピッタリとはまったそれを装着してレドは立ち上がった。

「…!?すごい!これならもっと速く走れますよ!」
 
 その義足の足の部分はゆるやかに湾曲した形状だった。
 一歩踏み込むと、レドの身体をバネのように跳ね上げた。

「すごいすごい!」
「いやー、いい仕事しちまったなぁ!」
「ハハ。レド、これで俺との訓練も捗るな」
「はいっ!」

 レドは犬のように嬉しそうにアルヴィンの近くに寄った。少し屈んだその頭をアルヴィンは撫でてやる。

「あは」
「良かったな。それと、それにはもう一つ仕掛けがあって…」

 アルヴィンがチラリと男に視線を送ると心得たとばかりにレドの側にしゃがみ込んだ。

「いいか?ここをこうしてだな…ここを押すと…」
「うわっ」

 シャキンッと言う音と共に刃物が義足から飛び出した。

「隠しナイフだ。相手の意表を付けるだろう?お前の足技なら有効活用できると思ってな」
「無茶な注文で苦労しましたよー。メンテナンスは必須ですよ」

 自慢げに男は自分の作品を愛でる。

「こんな…素晴らしい物を…俺なんかに…うっ、ありがとうございます…ありがとうございます…」
「お前は泣き虫だな、レド」

 泣きじゃくるレドを眺めてアルヴィンは笑った。




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