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本編

12 ただ幸せを願う

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 アルヴィンが執務室で書類を書いていると、扉が3回叩かれた。

「入れ」
「失礼致します」

 そっと扉を開けて入ってきたのはセレスだった。

「アルヴィン様、ポール様からお手紙が届いております」
「俺に宛ててか…?」
「はい、どうぞお読みください」

 そう言ってポールからの手紙を差し出すセレスの顔は覚悟を決めた物だった。
 その表情を見てなんとなくアルヴィンは手紙の内容を察した。
 封を切り、中身を読む。
 おおよそ考えた通りの内容が記載されていた。

「…そうか、いよいよポールが迎えに来るのか」
「はい。レドも私が居なくとも動けるようになりましたし、そろそろ出産準備をしなくてはいけませんからね」
「…寂しくなるな。ずっと共に居てくれたセレスが出ていくなんて…」

 産まれてから26年間共に過ごした乳姉弟ちきょうだいとの別れは覚悟はしていたが、強い寂しさを覚えた。
 しかし、突然の永劫の別ればかりを経験してきたアルヴィンにとってはこの度のセレスとの別離はまだ良いものだった。
 会おうと思えばいつでも会えるのだから。

「ふふ、無事出産を終えたら子供を連れて挨拶に来ますから…。結婚式の招待状も出しますのでいらして下さいね。…まぁ、アルヴィン!そんなに悲しそうな顔をしないで。私達の絆は離れていても、ずっと繋がったままよ…」

 今にも泣き出しそうなアルヴィンをみて、セレスは椅子に座った彼に近づいて手を優しく握り幼い頃の様に気軽に話しかけた。

「セレス…。お前は唯一残った俺の家族だ…。セレスが幸せならば、それでいい」
「ありがとう、アルヴィン…。愛しているわ」
「俺も愛している…。例え血が繋がっていなくても貴方は俺の姉君だ…。姉さん、どうか幸せに…」

 アルヴィンは柔らかく小さい彼女をそっと抱きしめて、優しい寂しさに身を委ねた。
 
 ーー貴方にとって幸せな毎日が続きますようにーー
 
 ただ、そう願った。

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