黄昏時

お粥定食

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起床

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…鳥の鳴き声で目を覚ました青年は、寝具を退け床を軋ませながら、洗面所へと向かう。
陶器で出来た洗面台の排水口に向かって透明な水を自身の両手で掬い取り、自分の顔にぶつけて皮膚の表面に着いている汚れを取り払っていく。
ひとしきり、自身の顔を洗浄し終えると、手探りで手ぬぐいを取る。
鏡越しに見える青年の水気を取り切った、能面のように端麗な顔立ちは青白い肌を更に際立たせた。
青年「……………。」
青年は何処か憂鬱な面持ちで、台所へと向かう。

台所
目玉焼きが勢いよくフライパンの上で焼かれる音がキッチンに響き渡り、良く焼けた黄身をベーコンごと皿の上に載せ、
トーストと一緒にテーブルの上に置き、ケトルで沸かしたお湯を紅茶の茶葉にかける。

鮮やかな赤みを帯びた香り立つ紅茶を啜りながら、
青年は塩胡椒が降り掛かった目玉焼きを切り分けて黄身を自身の口の中に運んでいく。
カチャカチャと金属音がリビングに響き渡り、一欠片のベーコンの肉片をフォークの先で突き刺し、口の中に運ぶと突然リビングの奥にある戸棚の上の黒電話が静寂の空間を壊して青年の鼓膜を貫いた。
ジリジリジリジリジリジリ!
ガチャリと青年は受話器を手に取ると、電話の向こうから青年に“次の仕事”を指示する内容が青年に言い渡された。

数時間後
重い足取りで、家路についた青年は早速鞄を自室の隅に置き、寝具とタオル片手に浴室に向かった。

数十分後
今日一日の汚れを全て洗い落とした青年は、夕食のコンソメスープをスプーンで掬って自身の口に運ぶ。
青年(今日もまた、見つからなかった。)
国から任務を言い渡され、出動した青年は自分と同じように放射能に完全に適合し、自我を保つ生命体を青年は探していた。
青年(今日もいなかった。…いつ会えるんだろう?そういえばみんなに最近会えていない。明日森に行ってみよう。)

翌朝
森の前にやって来た青年は早速、異形の形をした木々の間の小道を歩きしばらく会っていない“友”の所に赴いた。
豊かな緑が生る、森の中を青年の歩を進める音が静寂の自然の中で木霊した。
その時
ザッと草むらで何か動く音が聞こえた。
青年は咄嗟に身構え、腰に帯剣してある剣の柄を握り眼の前の何者かを警戒した。
ガサッ草むらから数本の耳らしきものが出てきたかと思えば、やや小さい身体の顔見知りのうさぎだった。
ぴょんっ!
うさぎは青年に気付いて、その小振りな身体を弾ませて青年の元に走り寄ってきた。
うさぎは、その小さな身体で大きくを跳び上がらせ青年の胸部にしがみついた。
うさぎ「プゥプゥ。」
うさぎは嬉しそうに青年に鳴いてみせた。
うさぎはくりくりした三つ眼を青年に向け、己の額を擦り付けた。
青年「ごめんね。中々仕事でここに来れなくて。」
青年は兎の頭を撫でながら、そう謝罪の言葉を述べた。
うさぎは不思議そうに小首を傾げた。

兎に道案内をされて到着した所は、木漏れ陽が差す春のそよ風が優しくそよぐ湖のほとりだった。
鳥が囀り、水面は朝の陽に照らされ眩いばかりの水光がそこかしこで光り輝いていた。
兎「プープー!」
兎は嬉しそうに湖の近くの草むらを見て、鳴き声を上げた途端、草を掻き分け何かが出て来た。
鹿1「プゥー」
鹿2「ピィー!」
頭が2つある鹿は青年の姿を眼にすると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
スリスリッ
鹿は青年の甘えるような仕草で胸部に頭を擦り付け、鳴いていた。
青年「あはは、元気そうで良かった。」
青年達の直ぐ側の木でとまっていた足が3つある小鳥は、青年の姿を見るやいなや楽しそうに囀った。
小鳥「ピィッピィッピィッピーピィピィピィピィピィッピー!」
青年達は楽しそうに会えた事を喜んだが、ふと青年の内ポケットの呼び出しブザーがなった。
ブザー「ビー!ビー!ビー!」
青年は慌てて動物達にこう言った。
青年「ごめん、みんな直ぐ終わるからちょっと待っててね。」
青年は動物達の側を離れ、木の裏でブザーの連絡に出た。
青年「はい、226です。」
ドミナ「226,明日至急、掃討任務に向かってね。」
ドミナは226にそう指示を出した。
226「はい。分かりました。」
青年は重い口振りでそう返事をした。
ドミナ「分かってるよね226。」
ドミナはやや226を脅すように低い声音でそう聞いた。
226「はい、承知しております。」
ドミナ「なら、良いけど。じゃあ明日の任務頑張ってね。後、それから。」
ドミナは226に対してこう言った。
ドミナ「…貴方はこの私が拾ったの。だから一生貴方は私のものなの。」
226は主の言葉に顔を苦痛で歪ませた。
ドミナはそんな226の様子をブザー越しで自身の頭の中で想像して愉悦に浸った。
ドミナ(…色々と苦労して手に入れた甲斐があるわ。お金も地位も権力も、後それから…。)
ドミナは226に対してこう言った。

ドミナ「もし、私からまた逃げようとしたら。ただじゃ済まないから。」
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