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 ダメだ、俺の声……聞こえてないみたいだ。

 俺は涙を流す彼の隣に、そっと近寄った。

 だがその拍子に、近くに置いてあった本に触れてしまった。

 するとその本は、彼の足元にバサリと落ちた。

 あぁ、ごめん、大事な物を──。

 俺が手を伸ばす前に、彼がそれを手に取った。

『あのドラマの台本か……これが、お前の遺作になるなんてな。お前と恋人同士って設定だって言われた時は、驚いたけど……今思えば、全然嫌じゃなかったな。撮影前はさ、正直お前と抱き合ったり、頬にキスしたり……演技といえど、そんなの出来るかなって思ったんだけど……お前がいつも見せないような、幸せそうな顔で笑ってて……。それを見たら、俺はごく自然にお前に触れてた。何て言うか、そんなお前がとても魅力的に感じたんだ。まぁ、撮影に途中参加して来たあいつにその微妙な気持ちの変化を指摘されて……その後は、気持ちにブレーキかけたけどさ。それがなかったら、俺は──。』

 そう、なんだ……。
 ねぇ……きっとその人、演技じゃなく、本当に幸せだったんじゃない?
 
 最後に良い想い出貰えて、その人、良かったんじゃないかな?

 いや、でも……その人があなたに恋心を持ってたなら……やっぱり辛かったの、かな──。

 あ、あれ……何だろう。
 何か俺、胸が痛い──?
 
『だからこそ、お前が不正したなんて聞いて、俺は頭に血が上ってしまったんだ。でもだからって、俺は……現実では本当に駄目だ男だったな。この亮みたいにさ、少しはお前を幸せにしてやれたら良かったのに。まぁこれも、結局は途中までだったけど……。俺は現実でもドラマの中でも、お前を裏切っちまう酷い奴だ。せめてドラマの世界くらいは、最後までお前を大切にしてあげたかった──。』

※※※

 そんな……違うよ。
 お前は、駄目な男なんかじゃない。

 お前は……誰よりも俺を大事に……愛してくれてたよ?

 いつもその気持ちを伝える為、俺を抱き締めたり、頭を撫でてくれたり……ありがとうって、沢山言ってくれて──…

『なぁ……お前は、今頃は天国にいるのか?お前を失ってからこんな気持ちに気付くなんて、俺……もう遅すぎるよな?』

 お……遅くない、遅くないから……!
 
 それに俺、天国なんかにいない……ここにいるよ!
 今こうして、お前の傍に──!

 それにここに来るその前は、お前が見てるこの台本の、ドラマの世界に──!

 あ、れ……?

 そっか……「俺」が何なのか。
 今、やっと分かった。

 俺は「シン」だ。
 この人が失って後悔してる、シンだったんだ。

 そしてこの人は……リョウだ。
 俺の……俺の好きだった人だ──!

『リョウ……リョウ!俺は、このドラマの世界から来たんだ。死んでこの世界に生まれ変わった俺は、この亮に一杯愛されて、すごく幸せだったんだよ!』

 すると、リョウが台本から顔を上げ……キョロキョロと周りを見た後……最後に、俺をじっと見た。

『シ、ン……シンなのか?お前、そこにいるのか?お前……今、ドラマの世界に生まれ変わったって……。そうか……そこに行けば、俺はお前に──』

 すると、ぐにゃりと世界が歪んで……俺の身体は、真っ逆さまに落ちて行った。

『シン、シン──!俺、生まれ変わったら……今度こそ、きっとお前に──』

※※※

「…ん、シン!頼む、目を開けてくれ……!俺は、またお前を失いたくないんだ──!」

「…リョ、リョウ──。」
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