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「それをご神託で知った俺は、ミゲルに対し強い怒りを覚えた。俺の事を助けてくれた……俺の初恋の相手である大事なシエルに、そんな事をするなどとても許せなかった。俺は、君が他の男と婚約する事は耐えた。君が幸せになれるならと思って……。でも、君が不幸のどん底に突き落とされる……そればかりは許せなかった。その気持ちを知った神が、昔の出来事を含めた上でミゲルに罰を与えたんだ。きっかけは自分でかけた呪いでも、その病がいつまでも治らず苦しんでいるのは、その罰が続いているからだ。」

「そういう事なんですね。あの……ナイルとの婚約、なぜ許そうと?」

「俺は見た目がこうだから、邪神様なんて呼ばれているだろう?そんな男の花嫁は……可哀そうだと思ってね。」

「そんなこ、と……いえ……確かに俺は、あなたの花嫁になれと聞かされた時、こう思いました。俺は邪神様の供物にすぎないと……。でもここであなたと過ごす内に、毎日あなたに愛をささやかれる内に、俺の心は変化していきました。今まで、ちゃんと言葉にしなくてごめんなさい。イグニス様……俺はあなたを愛しています。どうか、いつまでも一緒に居て下さい──。」

※※※

「ミゲル、ナイルは居ないんだね。」

「ナ、ナイル様は……最近は俺の所には──。でも、また来てくれるよ!」

 ……どうだろうか。
 ナイルは、最近はミゲルよりも若く健康なご子息と、仲良くされているという噂を聞いたけど──。

「それよりシエル兄様、お父様がイグニス様にお金の援助を頼んだのでしょう?今日は、そのお金を持って来て下さったんだよね!?」

「……ねぇ、ミゲル、この方に見覚えは無い?」

 俺は、両手をそっとミゲルの前に出した。

「この方…?な、何これ、黒蛇じゃないか!こんな気味の悪い物、見舞いに持ってこないでよ!」

「ミゲル、この方に一言謝れば、その病は治るんだよ。その痣は消え、元の可愛い顔に戻れるんだ。ミゲルは、ナイルが自分を好きになったら……すぐに呪いを解いて貰い、その痣を消す予定だったんでしょう?」

「そ、それは……!フン……馬鹿らしい。何で人間様が、蛇みたいな気持ち悪いものに謝らなきゃいけないのさ!くだらない冗談を言いに来たのなら、さっさと帰ってよ!」

 その瞬間、黒いもやが黒蛇を包んだかと思うと……黒蛇は、イグニス様の姿に戻った。

「君は選択を誤った。この先の君の命運は、もはや神のみぞ知る。さぁ……行こうか、シエル。」

「はい、イグニス様。」

「ま、待って……どういう事?黒蛇がイグニス様って……イ、イグニス様、どうか俺にお金を……!い、行かないで、シエル兄様──!」

 帰りの馬車の中、俺はイグニス様にお礼を述べた。

「これで、けじめをつける事ができました。もう、二度と弟とは会いません。俺の夫であるあなたを傷つけ、再び無礼を働いたのですから。」

「夫か……シエルにそう呼んでもらえる俺は、幸せ者だね。」

「……俺があなたの家に向かうのは、これで二度目ですね。一度目の俺は、悪の令息と言われ不幸のどん底にあった。でも今は……全く違います。俺の心は、幸せで一杯です。」

 馬車の窓から、空を流れる一筋の星が見えた。

 星よ……俺の願いを叶えて?
 どうかいつまでも、この方と共に、幸せであれますように──。

 捨てられた悪しき令息の俺は、邪神様にこの身と愛を捧ぐ──。
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