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 ミゲル……まだ、身体が治らないんだ。

 俺が居なくなっても、何も変わらないじゃないか。

 お父様もナイルも、これで気づいたでしょう……?
 ミゲルの病気は、俺のせいじゃないって──!

「シエル、大丈夫かい?」

「……はい。あの、書かれていたのは、それだけですか?」

「それと……その弟君の治療費を、俺に援助して欲しい、とも書かれていた。」

「な、何て事を……!イグニス様、そんなもの払わないで下さい。どうか、そんな事は……!」

「シエル、落ち着いて!」

 あ……。
 俺……今、何て事を──!
 
 きっと、酷い兄だと思われた。
 思いやりのない人でなし、お金にいやしく心の狭い奴だと……。

 イグニス様も皆と同じ様に、俺の事を悪人だと思ったに違いない──!

 俺はいたたまれなくなって、思わず部屋を飛び出した。

 俺の名を呼び、引き留めようとするイグニス様の手を振り払って──。

※※※

 ハァ、ハァ……。

 俺は庭まで走ってくると、そこにしゃがみこんだ。

『シエル!ミゲルの病気は、お前の仕業しわざだろう!ミゲルが言ったんだ、お前が毎日、怪しい祈りを星に捧げていると。』
 
『ナイル、違うよ!俺はこの子が早く良くなるようにと、そう祈って──』

『嘘を言うな!お前はミゲルとは逆に、闇魔法の使い手だ。だからミゲルの病気だって、元はお前が闇魔法で呪いをかけたんじゃないのか?これを見ろ!ミゲルの言葉通り、お前の部屋から呪術に関する本が出て来たぞ?』

『そ、そんな物、知らない!お父様、お父様は……俺を信じて下さいますよね?』

『ミゲル……お前が隠れて弟に酷い事をしていると言うのは、やはり事実か。お前の悪事は、ミゲルにずいぶん前から相談されていたが……こんな事になるなら、もっと早くこの子の言う事を信じてやれば良かった!シエル、お前は何と恐ろしい奴だ。』

『弟をこんな目に遭わせて…お前は最低だ!』

『違うよお父様、ナイル……俺は、ミゲルに何もしていない──!』

※※※

「違う、違う……!俺を信じてよ。お願い……誰か……俺の事、信じて──!」

「信じるよ。俺は、君を信じる。」

 震える俺の身体を、温かくて大きなものがフワリと包んだ。

「イ、イグニス様……!俺、さっきはあんな事……。お、お願いです……俺の事、捨てないで?どうか、俺を嫌いにならないで──!」

「ならないよ……俺が君を捨てたり嫌いになる事など、絶対にない。俺はね、シエル。君の弟君の病気に、一銭も払う気は無いよ。……君にこんな顔をさせてしまうなら、もっと早く話せばよかった。弟君の病気の事、そして……俺の事を。」

 そう言うと、イグニス様は座り込んだ俺を抱き上げ、庭にあるベンチにそっと下ろし……自身もその隣に腰掛けた。

「シエル、君の弟君の病気は天罰だよ。あの子はね……今よりずっと昔に、この土地の神の使いを虐めたのさ。」

「天、罰……?」

「そう。あの子はおさない頃、道端に居た蛇を虐めた。見た目が気持ち悪いという、つまらない理由でね。蛇が何も抵抗できないのをいい事に、自分の魔力でいたぶったのさ──。」
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