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初恋を捨てられない俺は、もう恋などできないと思ってた。
4 リュウ視点
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寝た、か──。
俺は、撫でていた彼の頭からそっと手を離し、彼の顔を見た。
せっかく綺麗な顔してるのに、こんな隈作って……勿体ねーな。
「ヒロって呼べ、か……。本名は、あいつにしか呼ばれたくないの──?」
※※※
俺がこの店に来たのは、ただの偶然じゃない。
昔……突然雨に降られた俺は、この店の軒下を借り、雨宿りしていた。
そして俺は、何気なくその店の中を覗いた。
この店、喫茶店か。
あんまり長居すると、嫌がられるか……?
店の中には数人の客と、マスターらしき男と……それから、客に飲み物を運ぶ若い男が居た。
そして客に笑顔を見せるその男に、何故か俺の目は釘付けになった。
俺は暫く、彼をじっと見ていた。
すると……その視線に気づいたのだろう。
彼は俺を見ておや?と言う様な顔をし……いったん店の奥に引っ込むと、こちらに向かって歩いて来た。
マズい、見ていた事が気に障ったか?
店に入らないならそこをどけと、そう言われるのか?
カランと音がして、店のドアが開き……近寄って来た彼が、俺に声をかけて来た。
「これ、よかったらどうぞ?」
「……え?」
「この傘、お店の傘だから。だからどうぞ?」
「いや、俺は客じゃ──」
「ここの軒先に入ったって事は、このお店と縁があったって事だから……だから使って?そんな君に、風邪引かせらんないよ。」
そんな事……初めて、言われた。
俺は愛人が産んだ子だから、風邪を引こうが、怪我をしようが……どうでもいいと思われていて……そして、そんな扱いしか受けて来なかった。
なのにこいつは、初対面の俺の身体を気遣って──?
例え客としてでも、俺は彼の心が嬉しかった。
「じゃあ、有難く。」
「返すのは、気が向いた時でいいよ。俺、よくこの店手伝ってるからさ……その時にでも声かけて?」
「分かった。」
「じゃあ、俺は店に戻るね。君、中学生……?気を付けて帰ってね。」
「あぁ。」
彼はヒラヒラと手を振り、店の中へと戻って行った。
中学生、か。
確かに中三だが……彼は恐らく高校生か……そんな彼からしたら、俺は可愛い年下の子で、心配になって声をかけてくれたのだろう。
でも、そうやって彼に年下だと思われるのが……事実だけれど、何故だかそれが……とても悔しく思えた──。
※※※
「……その時だろうな、あんたに惹かれたのは。あれが……所謂、初恋ってやつだったんだろう。」
「……んッ。」
彼が身動ぎして……彼の首筋が、服からチラリと覗いた。
そしてそこには……バラの花びらのような赤いキスマークが、くっきりと残っていた。
誰に……付けられたんだ。
この身体を、誰に許したんだ。
「お前の恋した男は、もう傍には居ないんだろう──?」
彼の恋した男──。
傘を借りた俺が、後日この店に傘を返しに来た時……店の中には、制服姿の彼が居た。
そして、そんな彼と同じ制服を着た、少し年上の男が──。
金髪、青い目、背が高い……外国人か?
っていうか……その男を見る、あいつの目。
あの日、俺に向けられたあの目とは全然違う──。
そんな二人が店から出て来そうになって、俺は思わず近くの店の陰に隠れた。
「先輩、勉強教えてくれてありがとう。」
「いいよ、貴博は大事な後輩だし。」
「う、ん。」
あの男……あいつになんて顔させてるんだ。
あんな、悲しそうな……。
俺はあいつの顔を見て、そんな顔をさせている男に腹を立てた。
でも、そうか。
あいつの名前、「たかひろ」っていうのか。
「じゃあ、明日また学校で。」
「はい!」
たかひろは、去って行く彼の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
俺には……あんなふうに見送ってくれなかったじゃないか──。
そして彼が店の中に入って行き、その姿が見えなくなったのを見て……俺は店の外にあった傘立てにその傘を突っ込むと、その場を去った。
とても彼に声をかけ、直接それを渡す事など出来なかったのだ──。
「ガキだったな、俺も……。あの男に嫉妬して、お前に当たっちまいそうで、声がかけられなくて……。でも……結局は、今でも十分ガキだな。」
俺は、そのキスマークを指でなぞった。
「ン、ァ──。」
だって俺は……これを付けた男に、あの時と同じくらい嫉妬しているのだから──。
俺は、撫でていた彼の頭からそっと手を離し、彼の顔を見た。
せっかく綺麗な顔してるのに、こんな隈作って……勿体ねーな。
「ヒロって呼べ、か……。本名は、あいつにしか呼ばれたくないの──?」
※※※
俺がこの店に来たのは、ただの偶然じゃない。
昔……突然雨に降られた俺は、この店の軒下を借り、雨宿りしていた。
そして俺は、何気なくその店の中を覗いた。
この店、喫茶店か。
あんまり長居すると、嫌がられるか……?
店の中には数人の客と、マスターらしき男と……それから、客に飲み物を運ぶ若い男が居た。
そして客に笑顔を見せるその男に、何故か俺の目は釘付けになった。
俺は暫く、彼をじっと見ていた。
すると……その視線に気づいたのだろう。
彼は俺を見ておや?と言う様な顔をし……いったん店の奥に引っ込むと、こちらに向かって歩いて来た。
マズい、見ていた事が気に障ったか?
店に入らないならそこをどけと、そう言われるのか?
カランと音がして、店のドアが開き……近寄って来た彼が、俺に声をかけて来た。
「これ、よかったらどうぞ?」
「……え?」
「この傘、お店の傘だから。だからどうぞ?」
「いや、俺は客じゃ──」
「ここの軒先に入ったって事は、このお店と縁があったって事だから……だから使って?そんな君に、風邪引かせらんないよ。」
そんな事……初めて、言われた。
俺は愛人が産んだ子だから、風邪を引こうが、怪我をしようが……どうでもいいと思われていて……そして、そんな扱いしか受けて来なかった。
なのにこいつは、初対面の俺の身体を気遣って──?
例え客としてでも、俺は彼の心が嬉しかった。
「じゃあ、有難く。」
「返すのは、気が向いた時でいいよ。俺、よくこの店手伝ってるからさ……その時にでも声かけて?」
「分かった。」
「じゃあ、俺は店に戻るね。君、中学生……?気を付けて帰ってね。」
「あぁ。」
彼はヒラヒラと手を振り、店の中へと戻って行った。
中学生、か。
確かに中三だが……彼は恐らく高校生か……そんな彼からしたら、俺は可愛い年下の子で、心配になって声をかけてくれたのだろう。
でも、そうやって彼に年下だと思われるのが……事実だけれど、何故だかそれが……とても悔しく思えた──。
※※※
「……その時だろうな、あんたに惹かれたのは。あれが……所謂、初恋ってやつだったんだろう。」
「……んッ。」
彼が身動ぎして……彼の首筋が、服からチラリと覗いた。
そしてそこには……バラの花びらのような赤いキスマークが、くっきりと残っていた。
誰に……付けられたんだ。
この身体を、誰に許したんだ。
「お前の恋した男は、もう傍には居ないんだろう──?」
彼の恋した男──。
傘を借りた俺が、後日この店に傘を返しに来た時……店の中には、制服姿の彼が居た。
そして、そんな彼と同じ制服を着た、少し年上の男が──。
金髪、青い目、背が高い……外国人か?
っていうか……その男を見る、あいつの目。
あの日、俺に向けられたあの目とは全然違う──。
そんな二人が店から出て来そうになって、俺は思わず近くの店の陰に隠れた。
「先輩、勉強教えてくれてありがとう。」
「いいよ、貴博は大事な後輩だし。」
「う、ん。」
あの男……あいつになんて顔させてるんだ。
あんな、悲しそうな……。
俺はあいつの顔を見て、そんな顔をさせている男に腹を立てた。
でも、そうか。
あいつの名前、「たかひろ」っていうのか。
「じゃあ、明日また学校で。」
「はい!」
たかひろは、去って行く彼の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
俺には……あんなふうに見送ってくれなかったじゃないか──。
そして彼が店の中に入って行き、その姿が見えなくなったのを見て……俺は店の外にあった傘立てにその傘を突っ込むと、その場を去った。
とても彼に声をかけ、直接それを渡す事など出来なかったのだ──。
「ガキだったな、俺も……。あの男に嫉妬して、お前に当たっちまいそうで、声がかけられなくて……。でも……結局は、今でも十分ガキだな。」
俺は、そのキスマークを指でなぞった。
「ン、ァ──。」
だって俺は……これを付けた男に、あの時と同じくらい嫉妬しているのだから──。
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それぞれの新生活を意識して書きました。
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fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
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