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初恋を捨てられない俺は、もう恋などできないと思ってた。

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 俺の初恋は、永遠に叶う事は無い。

 だって彼は結婚し、子供もできて……そして、この世を去ってしまったから。

 そして俺の胸には、捨てられない初恋だけが残った。

 だから俺は、もう恋なんてできないと思ってた……それなのに──。

※※※

 礼音君と、それを追いかけて来た秀一郎という男の子。
 その二人を見て、俺は自分の心の中に残る初恋と、否応なく向き合う事となった。

 そして同時に、ある男の事を思い出していた。

 少しして互いの気持ちを通じ合わせたのか……見つめ合い寄り添う二人を見て、あの子は……礼音君はもう大丈夫だろう……そう思った俺は二人に別れを告げ、その公園を出た。

 そして、停めてあった自分の車のドアに手をかけた時だった──。

「ヒロ……やっと会えた。」

 ヒロ──。

 その懐かしい呼び名に、俺は思わず肩をビクリと揺らし……そして、ゆっくりと後ろを振り返った。

「リュ、リュウ……なのか?ど、どうして、ここに……?」

 そこに居たのは、過去に一度だけ体の関係を持った男だった。

 心の中で……ザアザアと、雨が激しく降る音がした。

 あの時……俺はあの雨に、俺の心の中からこの初恋を流して欲しいと、そう願った。

 それを話したら、彼はそんな物では無理だと言って……そして、俺を抱いたのだ──。

「あそこでお前に頭を下げた男の子……彼が、今の俺の主でな。俺は将来、彼に仕える身だ。」

「え、えぇ……?仕えるって……リュウ、君は随分真面目になったんだねぇ。」

 その言葉に、リュウは俺をじっと見つめた。

「……ッ!」

 リュウのこの目は、未だ慣れない。

 俺の心の奥深くまで入り込んでくるような……見透かすような、この目は──。

「そういうお前は……あの時と少しは変わったのか?」

「……どう、かな。俺もそれなりに歳を取ったし……。えっと……じゃあ……俺、もう行くね。あ……礼音君の事、頼むね。この先きっと、あの子の元でお世話になるだろうから。」

 そう言って車に乗り込もうとする俺の手を、近づいてきたリュウが掴み……そして、俺に深く口づけた。

「……んッ……は、あッ……!」

 リュウは暫し俺の口の中を蹂躙し、俺からゆっくりと身を離した。

「ッ……いきなり、何──」

「言っただろう?もし今度会ったら……今度こそお前を逃がさないって。」

「……。」

「お前の心に誰が居ようと……次は逃がさない。そう、言ったよな──?」

 そう言って俺をじっと見るリュウの目は……獲物を捕らえ離さない、猛獣の様な目をしていた。

 そしてその目を見て、俺は思った。

 あぁ……とうとうこの日が来たか。
 俺はもう、彼からは逃れる事が出来ない、と──。

※※※

『俺の連絡先だ。ヒロにはこの先、俺の主とあの子の事で、色々と世話になると思うから。』

 そう言って渡された名刺。

 そこには、彼の名前が書かれていた。

 東 龍之介──。

 リュウ、こういう名前だったのか。
 初めて知った。

 まぁ向こうも、俺の本名なんて、知らなかったとは思うけど。

 自宅に帰って来た俺はソファーに寝転び、その名刺をぼんやり眺め……リュウと……いや、この東 龍之介と初めて出会った時の事を思い出した──。
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