あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。

櫻坂 真紀

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20 秀一郎視点

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「それで秀、寮を出て行く事にしたんだ。」

「あの家にレオを残して、どうして俺が寮に住まないといけないんだ……そう思ったら、もう退寮届を出していた。」

「でもさ、お兄さん夫婦のお邪魔をしたくなくて、寮に入ったんだろ?一体どうするの?」

「まぁ、高校を卒業したら、いずれあの家を出る予定で部屋は探して居たから問題はない。それに目星を付けた部屋があるから、そこにレオと住む事にした。」

「しかし……そのレオがあの玲央じゃなく、湊だったとはねぇ。秀……お前は何やってんだ!」

 尊の言葉に、俺はぐうの音も出ずに俯いた。

「み、尊様、俺ならもう大丈夫ですから……。今、こうしてシュウ君の隣に居られるだけで幸せです。」

「湊……お前、いい奴だなぁ……。ごめんな、俺も秀の事言えないや。俺も、お前の事不良だと思って……感じ悪かったよな?」

「……尊様は、そういう飾らない、正直な物の言い方をされる所が魅力だと思います。だから気にしてません。」

「み、湊~、ありがとうね!」

「ッ──!?」

 すっかり機嫌を良くした尊が、レオの手をギュッと握った。

「尊、レオに触れるな!」

「……分かったよ。秀ってば、やきもち焼き!」

 そうじゃなく、いや、それもあるが……そんなに突然触れたら、レオが怖がるかと思って。

 心配になりレオを見れば……レオは胸に手を当て……そして俺を見て微笑み、フルフルと首を振った。

 きっと、驚いたけど大丈夫、という事だろう。

 こうしてレオと居る様になり……俺はレオが何も言わなくても、その動作や表情で、レオの気持ちが少しずつ分かる様になって来た。

「……尊、そういう事はお前の大好きなゆー君だけにしておけ。レオが嫉妬の目で見られたら、可哀相だ。」

「そうそう、そのゆー君も謝ってた。噂に惑わされ、俺は風紀委員長失格だ……卒業まであと少しなのに、委員長辞めるとか言い出してね。」

 それは……重症じゃないか。

 俺も中々に思い込みが激しいが、風紀委員長、お前もかなり……。

「あの、そんな必要は無いです!俺に風紀の皆さんが付いたからこそ、学校での玲央の行動が明るみになったんですから……今となっては感謝です。だから委員長さんには、辞めないで欲しいとお伝え下さい。」

「ありがとね、言っておくよ。そう言えば玲央なんだけど……今回の件で学校を退学させられ、住んでた家も人手に渡って……何か変な男たちに連れてかれて、それっきりだって。まぁ……二人にはもう関係のない事か。ごめん、聞き流しといて。あ!何このだし巻き卵、紅ショウガが入ってる……美味しそ~!」

「尊様、お一つどうぞ?」

「やった、ありがと~!」

 美味しそうにそれを食べる尊を、レオは笑って見ている。

 気にしては……いるのか?
 気にするそぶりを見せれば、尊に申し訳ないと思っているのか、どうだろうか──。

 柊家が、裏では多額の借金を抱えていた事は分かっている。
 
 玲央はあの容姿だ、恐らく金になると思い、連れて行かれたんだろう。
 そしてその後は──。

 するとスマホに着信があり、俺は一旦その場から離れた──。

※※※

『やぁ、秀一郎君。ごめんね、いきなり電話して。今、昼休みだよね?』

 それは、あの日レオを迎えに来た金子さんだった。
 
 あの後俺とレオは、彼にわざわざ来て貰ったのに、それを無駄にさせた事を改めて詫びに行ったのだ。

 すると金子さんは怒る事もなく、レオ君がいい顔で笑って居るから、それで十分だと言ってくれた。
 あの方には、本当に感謝しかない。

『あの部屋の鍵、りゅう……東さんに渡しておいたから。これで、荷物はいつでも入れられるよ。』
 
 実は金子さんは、不動産業界ではちょっと名の知れた人で……俺が寮を出てレオと暮らしたいと言ったら、協力してくれたのだ。
 
『本当に、あなたには感謝しかありません。』
 
『ううん……俺も君たちから、幸せをお裾分けして貰った形になったしね。って、俺の事は置いといて……あれからレオ君、お弁当とか作ってくれた?』

『はい。今日はあなたに教えて貰ったやり方で作ったと、鶏のから揚げを入れてくれました。』

『フフ、そっかぁ。君たちの家から俺の喫茶店も近いから、いつでも遊びに来てね。じゃあね。』

 そして電話を終え二人の元に戻ると……レオが俺を見てすぐに顔を赤くし、胸に手を当てた。

 その隣では、尊がニコニコと笑い俺を見ている。

 尊……お前、レオに何を言ったんだ──?
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