あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。

櫻坂 真紀

文字の大きさ
上 下
16 / 39

15 秀一郎視点

しおりを挟む
「あまり彼らを馬鹿にするな。話し相手は、お前の遊び相手の男だそうだな。お前は彼に……今より良い暮らしを手に入れる為、レオとして俺と付き合っているだけだと、そう話した。この会話は風紀委員が録音したし、その男の証言もある。」

「違います!む、息子はあなたが好きすぎて、どうしてもあなたの恋人になりたかっただけです!それと、我が家の為を思いやったまでの事!身寄りのない子を育てるには、何かと金がかかり──」

「だから、湊に家政婦の代わりをやらせたと?」

「そ、それは……働かざる者食うべからずと言うか……。」

「それだけじゃない。あなたは、湊に愛人の役目も負わせた。彼が他に行き場がない、何も抵抗できない立場にあるのを良い事に……!あなたの家に居た元家政婦が、一度だけ……あなたの部屋から湊が服を乱し、泣きながら出て行くのを見たと証言してくれました。」

「う、嘘だ!」

「それに、あなたの奥様もこう証言なさいました。あなたはあの子に夢中になり、その身体を蹂躙していると──。」

「あ、あいつが!?」

「あなたの奥様は、あなたにはもう魅力感じない。あなたと縁を切り愛人と一緒になりたいから、警察で全てを話す……とも仰いました。」

「俺は……あいつに裏切られたのか……。クソ──!やはりあの女はダメだ……もう俺には礼音しか──礼音、今迎えに行くぞ!」

 男は血走った目で、湊の名前を呼んだ。

「湊……湊 礼音。あなたたち親子の事を調べる上で、彼の事も調べさせて貰ったが……俺が出会ったあの子──。
あの子は自身をレオと言ったけど……本当の名前は、レオンだったんだ。きっと周りからレオと呼ばれていて、幼かったから、そう名乗ったんだろうけど……。その事にすぐに気づいてれば……何より、もっと早くあなたたちの事を調べていれば、こんな回り道をせずに済んだのに──!あの子はあなたのものじゃない、俺のものだったんだ!それを穢し奪ったあなたを、俺は決して許さない。あなたのやった事は立派な犯罪だ、然るべき罰を受けて貰わねば……!」

「待って、秀一郎様!父さんが犯罪者だなんて──」

「玲央、お前も立派な罪人だ。平気で嘘を付き、色んな人の心を踏みにじり……そんな人間はこの榊家に……俺に必要ない!お前は俺の大事な……愛するレオではないんだ──!」

「あ、そ、そんな……あと、少しだったのに……。」

 玲央は、その場でガクリと崩れ落ち涙した。

 俺はそんな彼の胸ポケットから、チラリと見えていたあのハンカチを抜き取った。

「これは返して貰う。これは俺と彼を繋ぐ、大事な宝物だから──。」

※※※

 その後、駆けつけた警察によって、玲央の父親は連行された。

 榊家と、俺とレオの前から消えてくれれば、俺はそれでいい。
 後は社会が、法が彼を裁き、罰を与える。
 
 いや……勿論、それは表向きだ──。
 
 正直、人の目も法律も何もなかったら、俺はあの男の命を奪っている。
 それくらい、あの男が憎い。

 でも、そんな権利は俺にはないし……それをしたところで、あの子は救われないから──。
 
 そして玲央、お前は一人ぼっちになったな。

 父親がああなっては、事業どころではない。
 母親は、家庭より愛人を選んだ。
 お前を守ってくれる者は、もう居ないんだ。
 
 お前が酷い事をしてきた湊と、お前は同じ立場になったんだ……これは、その報いだろうな。

 涙を流し、虚ろな顔でこの家を出て行った玲央。
 彼が、この先どうやって生きていくかなど俺は知らないし……もう、関わりのない事だ──。

 俺がまずやらなければいけない事は、湊を一刻も早くあの家から救い出す事。

 湊……いや、レオはあの家に、今一人残されているはず……早く、迎えに行かなければ──。

 そうしたら、俺は、君に……君との初恋を──。

※※※

「秀一郎様、大変です。湊さんが、家を出てしまったそうです!」

 東が、慌てた様子で部屋に入って来た。

「な、何だって!?」

「迎えに行った者から連絡があり、家はもぬけの殻だと。」

 レオ……今まで何があってもあの家を出なかったお前が、どうして今日、この時になって──!

 レオは、あの男に学校と買い出し以外の外出を禁じられていた。
 
 だから、そんなレオが行ける場所……行きそうな場所は──。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

処理中です...