上 下
15 / 39

14 秀一郎視点

しおりを挟む
あずま、ありがとう。」

「では、私は失礼します。」

 彼は、将来俺の部下になってくれる信頼のおける男だ。
 彼に協力して貰えたおかげで、この日が迎えられた。

 俺は資料を手に取ると、再びそれに目を通した。

「……俺は、どうしてもっと早く気付けなかったんだ──!」

 資料がグシャリと嫌な音を立て、皴を作った。

 いけない……これは、これからやって来る二人に、付きつけてやる大事な証拠だ。

「……彼を傷付けた罪は、ちゃんと償って貰う。」

 いや……それは俺も同じか──。

 これが済んだら、俺は彼を……「レオ」を迎えに行く。

 そして俺は彼に、今までの事を……俺の過ちを、ちゃんと詫びなければ──。

※※※

「お邪魔します、秀一郎様!」

「今日はお招き頂きありがとうございます、秀一郎様。早速、今後の事業の話と行きましょうか!」 

「父さん、まずはこのお弁当が先!秀一郎様、僕ね、ピクニックに行けなかった代わりに、これを作って来たんです。」

「……何が入ってるんだ?」

「え……?」

「お前が作ったんだろう?教えてくれないか?」

「あ、朝は急いでいたもので記憶が……そうですね、いつもみたいにウインナーと卵焼きと……唐揚げ?」

 俺はそれを受け取ると、玲央を見た。

「形は?」

「は……?形?ウ……ウインナーとか卵焼きに、形なんてあります?ど、どうしたんです、秀一郎様……何でそんな怖い顔──」

「昔、レオと約束したんだ。いつか二人で、ピクニックに行こうって。その時のお弁当には、ハートの形の卵焼きに、タコの形のウインナー、星のピックを刺したミートボールを入れたいと。そんな俺に、レオは言った……料理上手になって、そのお弁当は僕が作るねって。よく見ろ、玲央が言った唐揚げは……一つも入っていない。玲央……本当はこの弁当だけでなく、今までの弁当も……全く作っていなかったんじゃないのか?」

「それは……子供の頃の事ですから、一つや二つ覚えてなくて当然です。お弁当だって……美味しかったならそれでいいじゃないですか。僕の事を疑うなんて……酷いです。」

 そう言って、目を潤ませる玲央──。

 そうだな……。
 以前の俺なら、こんなふうにお前を疑いはしなかった。

 やっと会えた、運命の再会を果たしたと、その喜びと幸せで胸が一杯で……そして昔と変わらず、俺を好きだと言ってくれるお前を信じていたから。
 そんな大事な相手を、疑いの目で見るなど……。

 でもそのせいで、俺は、彼を──。

「じゃあ、少し前の事ならどうだ?これも、忘れてしまったか?」
 
 俺は先程の書類を、二人に差し出した。

 二人は躊躇いながらもそれを受け取ると、ソファーにかけ目を通し始めた。

 その顔が次第に青ざめ、ダラダラと冷や汗を流すのを、俺はじっと見ていた。

「あ、あの……これは、一体何の事でしょう?」

「とぼけるな。玲央……お前は前の学校で、そこに書かれている女子生徒に金を渡し、嘘の証言をさせたろう?彼女は、余りに恋人と仲が良い湊に内心嫉妬していた。そこでお前は、彼女に湊が彼を恋愛的な意味で好きだと嘘を付いた。そして、二人の仲を裂いてやるから自身に協力するよう迫った。その女子生徒の家は、当時借金があって……彼女はお金欲しさにそれを了承したんだ。」

「そ、そんなの知りません!」

「彼女が、当時の事を全て正直に告白してくれた。彼女が警察沙汰にしなかったのも、自身の嘘がバレない様にする為だと言っていた。それと、当時受け取ったお金……結局使えずに持っていて、今回こうして返して来たぞ。」

 その金が入った封筒を見た玲央は、ブルブルと体を震わせた。

「あの女……余計な事──!」

「そしてお前が湊を不良だと言い、俺に警戒をさせた事も、逆にお前の首を絞める結果となった。そこにも書かれているように、最近の湊には常に風紀委員会が一人は付くようになっていた。」

「そんな……!」

「お前が湊をトイレの個室に連れ込み、話の内容までは聞き取れなかったが……その後、湊の謝罪と呻き声が聞こえてきた事。更に湊の足を踏みつけ、言う事を聞かせた事や……見舞いに来た際、俺の部屋の前でお前は電話をしていたな?あの会話も、全て風紀委員が聞いていた。」

「嘘……僕、ちゃんと周りを確認して──!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

普通のなりそこない

おかもと
BL
普通とは何なのだろう……。 それは、俺が俺じゃないという事かもしれない。 同性愛者としての苦悩を、未熟な環境で悩み恋している男子高校生の話。 男の幼馴染、聖(ヒジリ)に恋をしている薫(カオル)の切ない未熟なヒューマンドラマ。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...