あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。

櫻坂 真紀

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『また、そのハンカチ見てるのね。』

『だってママ……これを見れば、シュウ君の事ずっと忘れずに居られるでしょう?』

『シュウ君って子が、本当に好きなのね。フフ、二人は運命の相手なのかもね。』

『運命……?』

『そうよ。誰にでも、必ず運命の相手が居る……ママ、そう信じてるの。ママの相手はパパよ。』

『そーなの?パパ。』

『あぁ、そうだとも。運命ならば、いつか必ずそのシュウ君とまた巡り合う事が出来るから……その時は、彼に沢山愛を伝えるんだよ。』

『うん──!』

 目が覚めた時……俺はおじ様のベッドに居た。

 あれから何度も抱かれ、気を失ってしまったらしい。

 俺はおじ様を起こさない様、そっと自室に戻った──。

 父さん……俺、もうこんな体になって、シュウ君に好きだなんて、とても言えないよ。

 俺が玲央の言いつけを守り、シュウ君……秀一郎様に何も話をしないのは、この事が理由の一つだ。

 それと他には……声変わりした自分の声を、あまり聞いて貰いたくないのもある。

「シュウ君が好きだったのは、あの頃の……可愛くて何の穢れもない俺だから。だから……今の俺じゃ、もう──!」

 それでも彼の傍を離れたくないと思うのは……例え気持ちを告げる事が出来なくても、嫌われていても、大好きな彼の傍に居たいからだ。

 玲央の事を俺だと……あのレオだと思う事になった経緯は俺には分らないけど……でも秀一郎様は、玲央と居る時だけは、とても穏やかで幸せそうな笑みを浮かべる。

 今の俺じゃあ、もうあんな笑顔にさせてあげる事は出来ない。

 今のシュウ君の幸せを壊してしまうくらいなら、俺は何も言わない……初恋はこの胸の中に秘める。
 昔みたいに、好きになって貰わなくていい……ただ、嫌いにはなって欲しくない──。

「でも、もう結構嫌われちゃってる、けれど……。前の学校の、あの出来事──。せめてあれがなかったら……こんな事には──!」

※※※

 今の高校に入る前……この家族は、もっと田舎の方で暮らして居た。

 そこで代々所有していた土地を売り払い、大金を手にしたおじ様は事業を成功させ……それで今の地に引っ越したのだ。

 でもそうなったのは、俺が通っていた学校で騒動を起こしたのも一因だ。

 俺は、今みたいにカツラを付けたり……容姿を誤魔化す事無く、学校に通っていた。

 でも閉鎖的な田舎で、外国人……ハーフは珍しかったのだろう。
 俺は、虐めの標的にされた。

 でも学校の生徒会長だけは、俺に優しくしてくれた。

 顔立ちが少しシュウ君に似ていて、そして父さんの様な優しい性格の彼に、俺は懐き、仲良くさせて貰って居た。

 そんな彼には、素敵な恋人が居た。

 彼女もまた優しい人で……いつからか、俺たちは三人で遊ぶようになった。

 でも、そんなある日の事──。

 俺は突然、会長に呼び出され……こう言われたのだ。

『昨日、俺の彼女が見知らぬ男たちに襲われた。といっても、未遂だったけど……。それでな、そいつら……そんな事したのは、お前に頼まれたからだって言ったそうだ。』

『そ、そんな事、俺はしてないよ!』

『そうは、思うけど……でも、お前と一緒に暮らしてる玲央君が言ったんだ。お前は裏で不良行為をしてて、そういう悪い奴らとツルんでるのを見た事あるって……!』

『俺、知らないよ……!』

『玲央君こうも言ったんだよ。会長が優しくしすぎるから、あの子勘違いしちゃったんじゃないかって。それで嫉妬して……そいつらに彼女を襲わせたのかもって……!……こんな事になるなら、お前と仲良くなんてしなきゃよかったよ──!』

 その言葉に、俺は大きなショックを受け……もう何も言えなくなってしまった。

 そして二人は俺から離れて行き……俺は不良少年だ、男好きで嫉妬に狂い犯罪を犯した男と噂される事になった。
 それを見たおじ様は、これ以上の騒ぎを抑える為か二人に口止め料のような物を渡し……そのまま一家揃って、この地に越して来たのだ。

 そしてその日から、この家での俺の扱いは更に悪化……そして俺は、おじ様の──。

「確かに先輩は好きだったけど、決して恋じゃなかった……。俺の初恋は、そして今も恋してるのは、シュウ君……あなただけだよ。」

 俺は大切なハンカチを胸に抱き、静かに涙を流した──。
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