あなたへの初恋は胸に秘めます…だから、これ以上嫌いにならないで欲しいのです──。

櫻坂 真紀

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『……大きくなったら、俺と結婚しよう!』

『けっ、こん……?でも男の子同士は……。』

『でも、ずっと一緒に居る事は男同士でも出来る……それが、俺の中では結婚と同じなんだ!』

『そっか……そうだよね。嬉しい、僕も結婚したい!僕……シュウくん大好きだもん──!』

※※※

 懐かしい夢を見た──。

 俺はベッドから起き上がり、まだ薄暗い廊下を進んだ。

 おじ様を起こして、朝の身支度を手伝って……おば様は和食で、玲央は洋食だから、それぞれ別に朝食を用意しないと……。
 後は洗濯と、ゴミ出しと、掃除と……急がないと、怜央を起こすのに間に合わない。

 俺は、もう当たり前の様に俺の仕事になってしまったそれらを、テキパキと……ただ、機械の様にこなしていった──。

「ちょっと、この煮物味付けが濃いんじゃない?私を病気にさせる気じゃないでしょうね!」

「全く、お前はいつまで経っても役に立たないな。」

「仕方ないよ、こいつは図体がでかいだけの、鈍間のボンクラだし。」

「フフ、それもそうね。」

 そう言って彼ら親子三人は、ワイワイと楽しそうに盛り上がっている。

 鈍間、ボンクラ……もう何度、そんな事を彼らに言われてきただろう──。

 俺はフランス人の父さんと、日本人の母さんから生まれたハーフだ。
 でも外見は父さんそっくりで……ハーフって言わなきゃ、そうだとは思われない。

 そんな俺が、どうしてこの日本人の親子の元に居るのか──。

 それは……両親が、二人共死んだからだった。

 俺が幼い頃、父さんが病気になり……あっけなくこの世を去った。
 母さんは、一人で俺を一生懸命育ててくれてたけど……車に跳ねられ、死んでしまった。

 一人ぼっちになった俺は、母親の血縁者の色々な家を転々とし……そして、最後にこの家に行きついたのだった。

「あんたみたいなのはね、この家に置いて貰えなきゃどこにも行き場がないんだから。だからせいぜい、私たちの役に立ちなさい!」

「そうだ。お前は居るだけで金がかかるんだから、その分家の事は色々とやって貰わないとな。じゃあ……私はそろそろ仕事に行ってくる。」

「あなた、くれぐれも榊家の皆様によろしくね。」

「分かってるよ、せっかくあの家と縁が出来たんだからな。玲央……お前ももっと、秀一郎様に気に入られる様にしろよ?」

「任せてよ!彼ったらね、僕の事、もうすっかり気に入ってくれてるんだ。アメリカ人だったひいおじい様譲りの、この金の髪と青い目を、天使みたいですごく好きだって言ってくれるんだよ!」

「まぁ、良かったわね!」

 天使か……俺も、小さい頃はよく言われてたな。

 フワフワの金の髪と、透き通った青い目。
 小さくて細くて……ギュッと抱きしめたら折れてしまいそうな……そんな子だった。

 だから彼も……俺の事を、最初は女の子だと間違えたくらいだった。

 俺は三人から外れた所に座り、昨日の残り物を食べながら、昔を思い返した──。

※※※

「ほら、お前は荷物係なんだからちゃんと持てよ!」

「うん。」

「それからいつも言ってるけど、学校ではあんまり話しかけないでよね。特に、秀一郎様と一緒の時は。もし破ったら……お前を家から叩き出す。」

「……うん。」

 それだけは、絶対に嫌だ。

 だって、せっかく……やっと彼に会えたんだから。

 また離れるくらいなら、俺は玲央の命令に従う──。

 学校の門が見えてくると、玲央は俺から鞄を奪い取り、一人の男の元へと駆けて行った。

「秀一郎様~、おはようございます!」

「玲央!おはよう、そんなに走ると危ないぞ。」

「大丈夫、あッ──!」

「玲央!」

 玲央は足をつまずき、彼の胸にそのまま飛び込んだ。

「大丈夫か?玲央、気を付けないと駄目だろう。」

「だって、秀一郎様に会えたのが嬉しくて。あッ、イタい……!」

 玲央は眉をしかめ、自身の足を見た。

「今ので、足を挫いたのかもな。」

 そう言って、彼は玲央をいとも簡単に抱き上げると、そのまま人目を気にする事なく歩いて行った。

 いや、一度だけこちらを振り返り、俺を見たけど……すぐに視線を外すと、そのまま去って行った。

 そんな彼に、俺の胸がズキリと痛んだ。

 そしてそんな俺を見て、彼の腕の中の玲央は、二ヤリと笑った。

 あの目は……俺を見下し、馬鹿にしている目だ。
 そして……お前の大好きな奴を、また奪ってやるから……そういう、挑戦的な目だった。

 あの子に奪われるくらいなら……いっそ俺は、自分からこの恋を捨てた方が良いんだろうか──。
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