【完結】王子に婚約破棄され故郷に帰った僕は、成長した美形の愛弟子に愛される事になりました。──BL短編集──

櫻坂 真紀

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妹が勇者召喚したせいで、俺がその役目を継ぐ事になったけど…成り行きで魔王と結婚!?

前編

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 よし!

 あとは魔王を倒し、ゲームクリア。
 
 もう少し頑張るかと、背伸びをしたその時。
 
 画面上から、勇者が消えた。

 他のキャラは居るけど、勇者だけ居ない……?
 
 首を傾げていると、隣の部屋からすごい叫び声が聞こえた。



「キタ──!召喚成功だわ!」
 
 あれは妹の声!?

 驚いた俺は、隣の部屋に向かった。

 そしてドアを開けた瞬間、驚くべきものを目にした。



「勇者様、お会いしたかった。私、あなたが好きです。私と結婚して下さい!」

「……君みたいな可愛い子にそう言ってもらえて、僕は幸せだ。分かった、君の願いを叶えよう。」
 
 何とそこには、超絶美少女な妹と、さっきまでプレイしていたゲームの勇者が熱いキスを交わしていたのだ。

 わぁ、結婚おめでと~……じゃない!



「お前ら、ちょっと待て!何勝手にくっついてんの?ゲームの続きどうなるの?おいそこの勇者、お前はこれから魔王と最終決戦だろうが。何やってんだよ!」

 俺は妹の部屋へズカズカ入っていくと、二人をべりっと引きはがした。



「お兄ちゃん酷い!勇者様は私と結婚するの!そんなに言うなら、お兄ちゃんが勇者様の代わりに魔王倒せばいいじゃない!」

「なるほど、いい考えだ。僕も戦いばかりの殺伐とした日々に嫌気が差していたんだ。そういう事なら、僕の防具と武器は君に渡すね。」



 そう言って勇者は俺の服の上から、無理やりそれらを身に着けさせた。

 おい、防具のサイズ全くあってないし、剣重くて持てないんだけど……もはや邪魔だわコレ。



「「そういうことで、いってらっしゃ──い!」」
 
 その瞬間足元に魔法陣が現れ、俺の体は眩しい光に包まれた。
 
 こうして俺は美少女とイケメンの笑顔に送り出され、ゲームの世界に旅立った。



「やった、勇者様戻ってきた!」

「なんだったんでしょう、先程の光は……勇者様が突然消えるなんて。」

「でも、これで魔王を倒せる!行くわよ!」
 


 俺の周りで、何やら可愛い声がする。

 目を開けた俺が見たものは、見覚えのある美少女達だった。

 あのアホ勇者のパーティにいる女キャラじゃん……上から弓使い、魔法使い、女剣士。

 実際この目で見ると、皆可愛いなぁ……。



「え?こいつ勇者様じゃないよ。」

「あ、あなたは?」

「なぜ勇者様の防具と剣を持っている!」
 
 魔法陣の光が収まり現れた俺を見て、彼女達は俺に詰め寄った。



 そこで俺は何とか彼女達を落ち着かせ、事の顛末てんまつを説明した。

「…だから勇者様は。もうここに帰ってこないから。それで、俺が代わりに魔王倒してくれって言われたんだけど、でも俺には無理だから……君たちだけで何とか──」



 その瞬間、彼女達は俺を汚物でも見るかのような目で見てきた。
 
 そして無言で立ち上がり、手にしていた武器をポイッと投げ捨てた。



「なんで、お前と。」

「お断りですわ。」

「ふざけた事を抜かすな。」

「「「……ていうか、勇者様!この戦いが終わったら私と結婚してくれるんじゃなかったの──!?」」」



 おい、勇者……お前何股かけてんだ!

 パーティの女の子、全員お手付きかよ。
 
 もうヤダ、好きだったゲームなのに。

 裏はこんなドロドロなの……?



「「「そういう事なら私も早速、女神様に異世界転送お願いしないと!じゃ……後はよろしくね、偽物勇者。」」」
 
 そして、めっちゃ怖い顔で微笑みながら、この場から去っていった。
 
 妹よ、新婚早々修羅場だぞ。



 そして誰も居なくなった。
 
 え、俺一人でどうするの、コレ?
 
 魔王のお城、目の前なんだけど……目の前にはめっちゃ大きい門。


 
 分かった、これはもはや戦うだけ無駄だ。

 勇者でもない、そもそもこの世界のキャラでもない俺が戦うなど、おかしな話。
 
 ……そうだ、お詫びに行こう!


 
 魔王だって勇者との戦いを、心待ちにしてるだろう。

 それを俺の妹が入り婿にしたせいで戦えなくなったんだ、さぞやガッカリされてるに違いない。
 
 よし、バイト先でミスしてお客様にお詫びするのと同じ感覚で行こう!



「ごめんください。異世界より詫びに参った者なんですが、ここを開けて頂けますか?魔王様に直接お詫びを申し上げたいんですけど。」
 
 ゴゴゴ……と音を立て、門が開いた。
 
 そして一体のモンスターが現れ、場内へ案内してくれた。



「ここが玉座の間だ。」

「し、失礼します。」

 俺は閉じたカーテンの前で、膝をつき頭を下げた。



「あなたが、私に詫びを入れに来たと言う方ですか?」
 
 そしてカーテンが開かれると、玉座に腰掛けた魔王の姿が現れた。
 
 そこにいたのは、銀の髪に紫電の瞳を持つ……美しい青年!?


 
 おかしい、魔王ってこんなビジュアル設定だった?
 
 いや…今はそんな事より、お詫びが先だな。

「あの魔王様、この度は私の妹のせいで勇者との決戦が叶わなくなり、誠に申し訳ありませんでした。謹んでお詫び申し上げます!」


 
 すると魔王様は俺を見てニコリと笑った。

「いいえ、むしろ勇者が来なくて安心しています。私、勇者と戦うなど怖くてできないので……。」

「えぇ!戦い拒否の魔王ってどういう事!?」



 俺が叫んだ時だった。
 
 突如空間がぐにゃりと歪んだかと思うと、その向こうに一人の美女が映し出された。



「私はこの世界の女神。なぜそうなったのか、私がお答えします。この世界は勇者と魔王は同等、もしくはわずかな差で力関係が成り立っているのです。勇者が弱ければ魔王も弱い、その逆で勇者が強ければ魔王も強い。勇者に戦う気がなければ魔王も戦う気がない、そういう事です。」

「えっと……俺が戦い拒否のお詫びヘタレ偽物勇者だから、魔王様も気弱美青年キャラに?」

「まあ、そんな所です。もうこの世界に戦いはありません。勇者があなたである限り、魔王が気弱美青年である限り安泰です。それより勇者、一つ忠告です。自分が元居た世界には、当分戻らない方がいいですよ。先程あの女子三人を転送しましたら……。勇者の四股のせいで、あなたの世界は今後大変な事に。万一戦いに巻きこまれでもしたら……あなたは死にます。」



 な、なんて事だ……俺の帰る場所が無くなった。
 
 俺がガックリと膝をつき涙を流していると、魔王様が近づいて来てそっと涙を拭ってくれ……そして、恥ずかしそうな様子でこう言った。

「あの……君さえよけければ、ここで一緒に暮らしませんか?この広いお城に私一人じゃ寂しいので。どうか……私と共に、この世界で生きて欲しいのです。」



 妹が勇者召喚したせいで魔王に詫びる事にした俺は、こうしてこの世界で、美青年魔王様と共に暮らす事になったのである──。

 

 争いがないって日々って幸せだね!

 ……って、そうじゃない!

 確かにここで暮らさせて貰えるのは有難いよ?

 でもだからって、どうしてこんな事になるんだ──!



「私は、君のような子が来てくれて本当に嬉しいんだ。こうして理想の結婚相手に巡り合えた事を、あの女神に感謝しなければならないね。」

「結婚って、お、男同士でそれはどうなの?」

 俺は今日も魔王の膝の上に乗せられ、ギュッと抱き締められている。

 俺と一緒に住もうって言ってくれた日から、魔王ってばずっとこんな調子なんだよ。

 食事の時も寝る時も、それから……お、お風呂の時も、俺を一時もそばから離さないんだ。



「あの、魔王。俺重くない?そろそろ降ろして──」

「ううん、全く。マコトは羽のように軽いよ。」

 しょ、少女漫画の様な台詞をサラリと……。

 だけど、様になってるんだよな。




「人間界では、一緒に暮らす事を結婚というんだよね?マコトは、私が結婚相手では嫌なの?」

「俺の世界は…男と女が結婚するのが殆どだったからさ。別に、魔王が嫌って訳じゃないんだ。行き場のない俺をここに住まわせてくれて感謝もしてるし、その……カッコ良いし。」

「マコトは私の見た目が好きかい?」

「う、うん。」



 あの後女神が言ってたが、俺がこの世界に来た事で魔王のビジュアルに変化が起き……それは、俺好みに変えられている様だった。

 女神いわく、俺と魔王は結ばれるべくして出会った二人、だそうだ。



「嬉しいよ、マコト。私も可愛い君が大好きだよ。」

 そう言って、魔王は俺に口づけを落とした。

 ここに来てから、何度目の口づけだろうか。

 俺は恥ずかしくて、魔王の胸に顔をうずめた。
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