スプラヴァン!

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1章 関東編

     目を覚(冷)まさせる竜2

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「始め!」

プウウウゥゥン

 試合開始のサウンドがなると同時に2人はクッションの
後ろにかくれる。前ぶれに言葉のかけ合いなく、
すがたを消しながら始まった。
所持しているアサルトライフル型は連射にすぐれた
だれでもあつかいやすい性能をもつ。
水玉が飛び出すのは速く、出会いがしら
勝敗が決まる。
試合のはんいがせまい分、先に見つけるのが肝心かんじん
クッションをカバーすることで居場所をさぐられないよう
に足音を消すことも大事。
どこかでまちぶせしているはずと、タケルはすぐに
動こうとフィールド真ん中をとっぱしようとした。

(で、まっていてもジリひんになるだけ。
いつもの突撃でいくのがオレ)

ダッ

横切りまぎわに数発打ちこんで終わらせる戦法をとろうと、
はげしく動いてしゅんかん決着をつけようとダッシュして
射程をそらさせる。
くまなくすき間を切りながら最初の位置から
3つめのクッションの所で発見。
直後、大きく目を開けながら1秒以内に乱射した。
しかし。

プッ ビシャ

「えっ!?」

タケルの右肩に1つヒットしてライフが95になる。
スイリュウはクッションをふんで三角飛びしながら打った。
とうとつにボディショットを受けてしまい、
スピードのいきおいがおとろえる。
水玉はシャツをにじませ、ウオッチがボディ判定を表示。
不意をつかれたものの、体のほてりが急に冷めてゆく
感じがいつもとちがっていた。

(水が他とちがう? まてよ、打ち方がちがうのか?)

亜空間バブルで取り出した水はこっちも同じ。
何かしこんだのかとうたがうも、
目先の相手に考えるヒマはなく、
すがたをとらえた今、ここぞと一心に連射した。

プププシュ ザシュッ

スイリュウはスライディングで色つき物へカバー。
気づいていたのか、すぐににげられて玉は
目で見ただけでもヒットしていない。
打ち返してタケルは頭を素早くふってかがむ。
頭は絶対に当てさせたくないからしせいを低くしたものの、
うでや太ももに目がけて打ってきた。
わずかな間で青い目でどこを見ているか判断している内に、
あることに気がつく。

(顔をねらってこない?)

ヘッドショットをねらってこない。
あいつはこっちの顔を見ていないようで、
首から下しかとらえていないような感じ。
当たり判定の小さな頭をさけているのか。
いや、ちがう。
ねらえないのではなく、わざとねらっていない。
明らかに手かげんしているのが分かった。

ププププププシュ

「ンノオッ!?」

胴とこしに当たる、60まで下げられてしまった。
まるで、オレがそう動くのが分かっているように。
反射神経の高い相当なエイムに、立ちおうじょうしてれば
ついげきされる。仕切り直して、すぐにカバー。

ププシュッ

右足と左うでに1発ずつヒット。
クッションからわずかにはみでたところをねらわれた。
のこりライフ40、差をつけられてしだいに
あせりが出始める。

「ナメやがって!」

バッ

ジャンプして逃げる。
ねらいが定められず、どうにも決め手が見つからない。
このまま続けても、ライフがけずられていくだけ。
最後の手段に打ってでようと、自分ならではの場圧で
はしへ身よりさせようとした。
場圧というのはおびきよせるように相手を決まった場所に
ビートさせるためさそいこむこと。
コーナーでは逃げ場がないから、
左右に動けるスペースがない。
頭を打てば、同じようにしゃがんでよけようとするはず。
そうさせるためには相手をおいやらなくてはならない。
クッションのりょうわきに適当に数発打ってみる。

プシュッ プシュッ

(?)

スイリュウは1m横から水玉が飛んでいるのが見えた。
“そこにいないのに打つ”、いわゆるけんせいの手法と
すぐに理解。
とつぜん横から現れながら打ってくると、
一気にけずられる。
居場所を変えようと、後ろへ下がろうとした。

(予想通り!)

思い通り、スイリュウはかがみこんで
ヘッドショットをさけた。
ここぞとメッタ打ちしようとタケルが足をねらった時。










シュッ

「バック宙した!?」

宙返りでスイリュウの全身が正面を向き、
着地前に片腕でタケルの頭へ数発打ち出した。
地面から急に上部へはなれた動作モーションに追いつけられず、
反撃できるチャンスはのこっていなかった。

ププププシュッ  ビチャビチャビチャビチャ

「「うおぉ、うおぉぉ、うおぉぉぉ!」」←エコー

ドサッ ゴンッ ピーッ

「タケル、ビート!」

タケルはよけることに失敗して地面に頭を打つ。
スイリュウにヒットさせたところはうでの部分のみ。
90と0の差で勝負がついた。

「「そんなバカな、このおれが・・・」」

最初から一気にわざとはしにおいこまれた
フリをしていただけだった。
意気いきり動く相手を決めた場所で返り打つことを
陽動ようどう作戦という。
周りの子どもたちはおどろきとよろこびの声があがる。

「バク宙したぞ!?」
「運動神経すげえ!」

試合を見ていた子どもたちにとって、
かけはなれた動きに注目。
対して、そばではタケルがまだしゃがみこんでいる。
かんろくを見せつけられたのか、負けたがわで
素直になれずにスイリュウに指図しながらさけびだした。

「イ、インチキだ!」
「え?」
「水が当たった感触かんしょくがいつもとちがってた!
 どうせ、大臣トッケンでライフが多く減るように
 工作してるだろ!?」

スイリュウが細工していると言いがかりし始める。
コトミが声を大にして勝負がついたと言いはなった。

「おうじょうぎわが悪いわよ! 負けをみとめなさい!」
「ちがうちがうちがうううぅぅっ!」

しまいにはダダをこねだす。
もう終わったんだから言いふせるところ、
スイリュウはよろこぶポーズも見せず、
たんたんとタケルの所へ歩いて
自分が使っていたマガジンを見せた。

カポッ

「これは硬水、中高生や大人が使う水だ」
「へ?」

水のしつがちがうものを使っていたと言う。
実はウオバトで使用する水質は2種類ある。
硬水こうすい軟水なんすいとよばれる
それらは亜空間バブルの設定で、
スイリュウは事前に硬水をウォーターガンに入れておいた。
成分のちがいがあるのは、ウォーターガンの規格種類や
はだのえいきょうを考えて決めているらしい。
小学生は軟水のみ使用する決まりのはずだが、
どういうわけか彼は今回の試合でしれっと使っていた。
しかし、ヒット時のライフ減少は軟水と同じで
反則にはあたらない。
外見もどちらとも透明とうめいでふつうの人は
さわっても打たれてもちがいなど分からない。
にもかかわらず、タケルはちがうと言いはなったのだ。

「でも、軟水と硬水の手触りはほとんど同じ。
 ちがうと思ったということは“質を読み取る力がある”
 ということ」
「なにっ!?」

一度、目をハッとしたタケル。
先の35000Pも、全員小学生を相手に
取ったのではなく、
高校生や大学生、さらにボディーガードも交えてきた間を
しのいできたことであった。
今回、その水を用いた理由を小学生の頭で
分かりやすいように説明する。

「君は体を活発に動かす習性がある。
 いきおいがある分、打たれる感度も高いのかもしれない」
「「だから・・・お前は・・・そんなに」」

バタン

4年A組最強の児童はいたみもないのに
フィールド上でたおれる。
試合に負けて力つき、ねこむ選手みたいに
空を見上げて放心。
ただ、敗北とはうらに顔がニヤケ面。
何を思っているのか、どことなくゆるくなったような
感じもする。
暑さの反動で打たれた水の感度にびんかんなのか、
よっぽど気持ちよかったのかもしれない。
スイリュウのうでは相手を打ち負かしに
あっとうするだけでなく、水を通して感覚をふくめた
意味を伝えるとりえがあるのかもしれない。

「はい、じゃあ授業にもどりまーす!」

キリエが児童たちに体育の続きをすると号令。
2人の勝負は長い時間をかけることなく、
いちおうここで決着。
試合後の授業は何ごともなかったかのように行われて
ふつうに終わった。
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