スプラヴァン!

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1章 九州編

第7話  海を造る九州

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「ユイちゃん、ウオバト部に一度入ってみない?」

 とつぜん、私はイイダさんにそう言われた。
試合観戦の後、とつぜんウオバトをやらないかと
前ぶれもなくさそわれる。
本物の青空が見える人口の海の下で、
水泳とはちがう水鉄砲を使うスポーツ。
このさそいが小学校生活を変えてゆくことになる。

「わ、私がウオバトを・・・ですか?」
「私たちは今、九州で大がかりな企画を始めるの。
 それはプールサイドみたいなコートの新設定、
 連盟を新しく組もうと思っているわ」
「大がかりな?」

何やら、ウオバトで新らしく企画を始めるみたいだ。
ここ、ブルーガイアを増やすとかじゃないらしく、
イイダさんはウオバトのルールが国から
地方ご当地ならではの戦略を新しく作ろうと
考えていたという。
他地方、全国大会を始めとした試合において
コートのあり方の自由化をうったえたいらしい。
もちろん水泳と両立しても良いという。
私にとって条件も良く、何より楽しそうで
自由度という海中の広がりみたいな解放感に
包まれそうだ。
でも、プールをここみたいに試合場で使うなんて
遊びの限度をきわめて外れている感じだ。
そこを国が手伝おうとしているのか、不思議だ。

「そういえば、県大会、全国大会のコートも
 みんなここですよね?
 他の地方にこんな大きな所はないはず。
 思ったんですけど、どうして試合場の形って
 きちんと決まっていないんですか?」
「国の言い分は、不定形自由形をモットー標語
 始めたスポーツらしいの。ふつうはどこの国も
 決めているはずだけど、ウオバトに限っては
 地形、環境に応じた仕様とされている」
「自由形・・・」
「他地方はもうウォーターガンなどの道具を
 独自改良する動きに取りかかっているわ。
 そこで私たちは“場”に注目したの。
 ここ九州が先取りして、環境特化に打ってでた
 水辺の試合場を制定したいって」

イイダさんを始めとした会社の人たちは試合場の
定式のあいまいさを逆手に得意化したいと言う。
ふつうは陸上だけで水鉄砲を打つだけだけど、
なんというか、戦略が変わったりできて
はばを広げられるとのこと。
いずれも他地方もマネをし始めるはず。
だから、九州が先立って水泳と共有させた仕組みで
一夏の事業を広げたいようだ。

(タイゾウさんがいた理由もそれだったのかな・・・)

水泳と競合する上で食い合わずにもよおすつもりか。
いくらなんでも強引に思えるけど。
プールから飛び出して打ち出しとか、
自分がやってた行動を公式でできるようになる。
それはともかく、オキナワでやっていたことも
九州戦略の一部として私も遊んできた。
ケンジもすすめてくる。

「もうミキから聞いてたんだけど、
 あっちのプールですげえプレイしてたんだってな!?」
「え、私!?」
「学校のグラウンドの時はふつうだったけど、
 水中とプラスすると、すごい動きよね。
 あたしもおどろいたわ」

カゴシマにいた時の話をげられる。
鉄砲のうでまえより、立ち回りについて評価ひょうかされた。
そこで両立について気になっていたけど、
時間的にも水泳とウオバトはズレていて、
一応どちらもできる。とてもつかれるけど、
毎日いっしょにやるわけじゃないから、
少しはオシノビできるだろう。
しかし、最大のかべはそこじゃなく、家の方である。
ここで言える第一声がそれだった。

「私もやりたいんですけど・・・家の人が」
「親ごさんが?」

おいそれとこちらの自由化が認められない。
まず、絶対に反対される。
母は水泳以外のスポーツを許さないから、
これでもやらせてもらえそうにない。
はなやかなテーマパークに対するこちらの中で、
頭が熱くなるすき間を何かぬい始める。
入部する方法は・・・あるにはある。
そこで、私はまたあの手を思いつく。
単純にウソをついて通えばすごせられると思ったから。
海の動物みたいに水面下で動けば早々に気付かれない。
さらに今回、大きな手に打って出ようとした。

「あの・・・聞きたいことがあるんですけど」
「どうしたの?」
「ここにいる時だけ名前を変えられますか?
 本名だと知られてしまうので・・・」

名義変更、登録名を変えるというやり方を選ぶ。
私は一度名が知られているから、下手へたに出場すれば
“あの水泳少女がウオバト転身!?”とか書かれる。
他人名ならメディアで知られても見つからないと予想。
まったく関心をもたないから、TVですら目もくれない
母をごまかすことができる。
オキナワで一度観たスパイ映画でおぼえた。
子どもながらの浅知恵でそれだけ考え、
一新で別世界へ入りこもうとする。
そもそも、ニセの名前なんて通用するのか不安だけど、
イイダさんはOKしてくれた。

「・・・そうね、名前を変えるだけならかんたんよ。
 ここに来た時のみそうしましょう」
「「はい、お願いします」」

入部は決まった。
これは学校管理ではなく公共団体との関係。
他の子とはまたちがった立場から出発する。
ちなみに名前はどうするのか考えていると、
ケンジがこう言いだした。

「なんなら、コイでどうだ?」
「あんた、池の魚じゃあるまいし。
 ユイと近すぎじゃないのよ」
「良いかも、とてもカワイイ!」
「い、良いの?」
「ここにいる私は別人、ユイはいないんです。
 こういうのはスパッとして決めないとアレなので。
 イケノ・コイと名乗ります!」
「ワハハハ!」

笑われた、ここでは別人として淡水生物として活動。
イルカからコイに代わるのも変だけど、
やりたい目的のためにどうでも良い。
ブルーガイアも自由に出入りできるパスポートも
後でもらって正式に入部することになった。
九州全てのウオバト部を支配しているここは
大会の権利も大きく動かせるという。
私たちは時に学校の部活に顔を出してサポート、
また、選手として自由に出入りして回れる組織。
それはもう全国大会出場を前提とすることになる。
こんなにすごい人、所から私は必要とされて、
右も左もつかめていないこちら側のスポーツを
じっくりと経験しなければならない。
いや、経験したいのだ。

「私で良ければ・・・・・・やってみようと思います」
「よろしくな!」
「ヨロシクゥ!」
「え、2人共、もう決めていたの!?」
「そうよ、もっとウオバトをすすめることにしたの。
 あたしたちもこっちが楽しそうだって思ってたから」
「実は、始めからそうするつもりだった。
 オレらもついでにお前をさそってなかったんだぞ。
 水中移動が得意なやつに来てほしいから、
 だれよりもお前が一番ふさわしそうだってな」
「ケンジ君・・・」

ミキもケンジも新スポーツを先立って乗っていた。
すでに段取りができて、私が入るのも予定通り。
別にしてやったりなんて思っていない。
本当にこっちでも活やくできるかは分からないけど、
やりたい気持ちはもうこっちに向いている。
2階ベランダから人工海を再びながめる。
最後の後おしとばかり、イイダさんも言った。

「では、新たな門出かどでにお祝いをしましょうか。
 今日、ここに来てくれて観るだけってのもひどいわね。
 ・・・プレイする?」
「やります!」

なんと、いきなり会場参加を許可された。
大人の人たちとの試合後、フリー試合としていっしょに
ウオバトをやる。
手加減をしてくれているのか分からないけど、
私は20ビートくらいさせて終わった。
言葉では上手に表せられないけど、いつもの水中移動から
水打ちするだけで、世界観がまったく変わっている。
同じ水物でも、スポーツの内容がちがうだけで
こんなに実感が変わるなんて思っていなかった。
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