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1章 東北編
第1話 水恐怖症の少女
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イワテ柴波エリア紺富小学校 プール場
時は7月中旬、38℃の暑い中、
プールで児童たちが泳いでいる。
今やっているのはふつうの水泳授業で、
300㎡のはんいの中をゆうゆうと楽しんでいた。
空には雲1つもなく、
日光がまぶしくてらされていて
ぬるくも少しだけ冷ややかな水の中につかっていた。
かたわら、サイドにある3mのベンチで1人の少女がいる。
ブロンドアップヘアーの子が体育座りで
しめるように授業風景を見ていた。
「・・・・・・」
私はプールには入らない。
水泳がある日にかぎってわざと休んでいる。
けがでも病気でもない、体調不良とウソをついて
休んでいる。
ましてや、うらやましいとも思っていない。
青白い波やしぶきが立つ液体が満ちている中へ
入りたくないと思ってしまうほど、
あることが心の中にうずをつくっていた。
水が怖い。
私は一度、川に落ちておぼれたことがあったからだ。
冷たく、息もできないあの世界がいまわしく、
受けた思い出が消えずに環境が似た世界である
プールですら足をつける勇気もだせなかった。
「メアリー、また休むのか」
「よっぽどこわい目にあったのね・・・」
クラスメイトの視線が冷たくなる。
サボりと思われているだろう。
水の代わりに目線という冷水をかけられたような気分。
ただ、プールがきらいというだけで
こんなにさげすまされる立場じゃなかった。
私はこの国の人じゃない。
両親の仕事でオーストラリアから引っこしてきたばかりで、
いまだに文化や習慣がよく分からず、
なじめずにいた。
ここはイワテの1つのエリアにある紺富小学校に通う
4年生。
私と同じように海外から来た子どもは今の時代では
けっこう多く、日本語も話せない子がいるけど
見た目で差別されるようないやがらせはあまりない。
しかし、私自身は運動オンチで自分のことをハッキリと
話す方でもない。
だから友達も少なく、気を許せそうな話し相手も
ほんの数人しかいなかった。
ここ柴波とよばれる所は人口も少ないので、
たくさんまとまるようなチャンスがない。
周りの風景も田んぼや平原が広げられた自然のある
エリアがほとんどで、
クマに注意というひょうしきがあるくらいだから、
たいそうな農村地域である。
昼休み 2階廊下
給食が終わり、静かな一時を過ごす。
ベランダで手すりにうでをかけながら外を見る。
少し暑いけど、教室の中にはいたくない。
温度が高くても、オーストラリアに比べれば
まだここは低い。
これといって、特にやることがないから
目を細くして景色をながめるくらいだけ。
向かいは田んぼの緑色のマスが広がっている。
目以外で分かるのはさわぎ声とわらの匂い。
分かるのはそれらくらいで、植物のちがいがあるくらいな
田舎ぐらしを送っている。
食べ物を育てる場所としてどこにでもある世界だけど、
実際ここにいるという居場所を感じない。
別に人口の少ない農村だからという理由ではない。
言葉は通じても、人そのものの関係をじょうずに
きずけられないのだ。
本当に良い生活を送れるのか不安にぼうっとしていると、声をかけられた。
「メアリーちゃん」
「先生」
担任のサラ先生だ。
40歳でとてもおしとやかな人。
1人でいる私を見かねて何の用があるのか話しかけてきた。
「また、ここにいたの?
今はとても暑いから室内に入ったほうが良いわ」
「だいじょうぶです、中は少しさむいので・・・」
エアコンがききすぎているからと言い訳。
ただ、人がいる教室のはしにいるのが好きじゃないから
立ちんぼしているだけで、なんとなくここにいるしかない。
おっくうになり、足をひくつかせてしまう。
温度をたてしてに話すと、先生は児童たちのことを
あげだした。
「いきなり、知らない子たちの輪に入るのは大変よ。
でも、少しずつなれてくるから時間と共に
あわてずにゆっくりしていきなさい」
「は、はい」
たぶん、気づかってここに来てくれたんだ。
中がさむいのは本当だけど。
「冷え性の子については、
上着をきさせるしかないわ。
温度設定も学校で決められているから仕方ないわね。
そうだ、あなたにわたすものがあるの。はい、コレ」
「これは?」
2枚の長方形紙をさしだされる、それらは温泉券だ。
先生の実家はガスのさいくつにたずさわる会社らしく、
国ととりもった仕事のつながりついでに
色々もらっているという。
そして、ふとした縁でタダで入れるチケットを
もらったので、私にくれると言った。
「家の都合の余りだけど、私は行けなくて。
断るのも悪かったからせっかくだから、
日本の観光地を色々回ってみるのはどう?」
「色々、ですか」
いわゆる、日本の素晴らしさをけいけんしてこいとのこと。
めんどうを見てくれるかのように、ここを知ってほしいと
決めたようだ。
しかし、さびしい感じと分かっていたのか、
のっかりで家族といっしょに行けと言われた。
こんな時期に温泉に行くとはちょっと予想外。
好意をもってもらうのは良いけど、
タダでもらうのも悪いからえんりょしたい。
大人の言う“なしの方向”でおことわりする。
「でも、家の人に聞いてみないと・・・」
「う~ん、使わなければもったいないし。
そのチケット、期限が1週間だから早めに行かないと」
「あっ」
しかし、回りこまれてしまった。
早く行かないと無効[効き目や受付が
なくなってしまう事]になる。
しっかりとした当てつけにも思ってしまったが、
ことわり切れずに受け取ってしまう。
確かに、これといって用事があるわけでもなく
引っ切りばかりに家にいてもあまり面白くないから、
日本のことについて少しふれてみようと思った。
放課後、学校から帰って母に相談。
OKをもらって結局のところ行くことになった。
時は7月中旬、38℃の暑い中、
プールで児童たちが泳いでいる。
今やっているのはふつうの水泳授業で、
300㎡のはんいの中をゆうゆうと楽しんでいた。
空には雲1つもなく、
日光がまぶしくてらされていて
ぬるくも少しだけ冷ややかな水の中につかっていた。
かたわら、サイドにある3mのベンチで1人の少女がいる。
ブロンドアップヘアーの子が体育座りで
しめるように授業風景を見ていた。
「・・・・・・」
私はプールには入らない。
水泳がある日にかぎってわざと休んでいる。
けがでも病気でもない、体調不良とウソをついて
休んでいる。
ましてや、うらやましいとも思っていない。
青白い波やしぶきが立つ液体が満ちている中へ
入りたくないと思ってしまうほど、
あることが心の中にうずをつくっていた。
水が怖い。
私は一度、川に落ちておぼれたことがあったからだ。
冷たく、息もできないあの世界がいまわしく、
受けた思い出が消えずに環境が似た世界である
プールですら足をつける勇気もだせなかった。
「メアリー、また休むのか」
「よっぽどこわい目にあったのね・・・」
クラスメイトの視線が冷たくなる。
サボりと思われているだろう。
水の代わりに目線という冷水をかけられたような気分。
ただ、プールがきらいというだけで
こんなにさげすまされる立場じゃなかった。
私はこの国の人じゃない。
両親の仕事でオーストラリアから引っこしてきたばかりで、
いまだに文化や習慣がよく分からず、
なじめずにいた。
ここはイワテの1つのエリアにある紺富小学校に通う
4年生。
私と同じように海外から来た子どもは今の時代では
けっこう多く、日本語も話せない子がいるけど
見た目で差別されるようないやがらせはあまりない。
しかし、私自身は運動オンチで自分のことをハッキリと
話す方でもない。
だから友達も少なく、気を許せそうな話し相手も
ほんの数人しかいなかった。
ここ柴波とよばれる所は人口も少ないので、
たくさんまとまるようなチャンスがない。
周りの風景も田んぼや平原が広げられた自然のある
エリアがほとんどで、
クマに注意というひょうしきがあるくらいだから、
たいそうな農村地域である。
昼休み 2階廊下
給食が終わり、静かな一時を過ごす。
ベランダで手すりにうでをかけながら外を見る。
少し暑いけど、教室の中にはいたくない。
温度が高くても、オーストラリアに比べれば
まだここは低い。
これといって、特にやることがないから
目を細くして景色をながめるくらいだけ。
向かいは田んぼの緑色のマスが広がっている。
目以外で分かるのはさわぎ声とわらの匂い。
分かるのはそれらくらいで、植物のちがいがあるくらいな
田舎ぐらしを送っている。
食べ物を育てる場所としてどこにでもある世界だけど、
実際ここにいるという居場所を感じない。
別に人口の少ない農村だからという理由ではない。
言葉は通じても、人そのものの関係をじょうずに
きずけられないのだ。
本当に良い生活を送れるのか不安にぼうっとしていると、声をかけられた。
「メアリーちゃん」
「先生」
担任のサラ先生だ。
40歳でとてもおしとやかな人。
1人でいる私を見かねて何の用があるのか話しかけてきた。
「また、ここにいたの?
今はとても暑いから室内に入ったほうが良いわ」
「だいじょうぶです、中は少しさむいので・・・」
エアコンがききすぎているからと言い訳。
ただ、人がいる教室のはしにいるのが好きじゃないから
立ちんぼしているだけで、なんとなくここにいるしかない。
おっくうになり、足をひくつかせてしまう。
温度をたてしてに話すと、先生は児童たちのことを
あげだした。
「いきなり、知らない子たちの輪に入るのは大変よ。
でも、少しずつなれてくるから時間と共に
あわてずにゆっくりしていきなさい」
「は、はい」
たぶん、気づかってここに来てくれたんだ。
中がさむいのは本当だけど。
「冷え性の子については、
上着をきさせるしかないわ。
温度設定も学校で決められているから仕方ないわね。
そうだ、あなたにわたすものがあるの。はい、コレ」
「これは?」
2枚の長方形紙をさしだされる、それらは温泉券だ。
先生の実家はガスのさいくつにたずさわる会社らしく、
国ととりもった仕事のつながりついでに
色々もらっているという。
そして、ふとした縁でタダで入れるチケットを
もらったので、私にくれると言った。
「家の都合の余りだけど、私は行けなくて。
断るのも悪かったからせっかくだから、
日本の観光地を色々回ってみるのはどう?」
「色々、ですか」
いわゆる、日本の素晴らしさをけいけんしてこいとのこと。
めんどうを見てくれるかのように、ここを知ってほしいと
決めたようだ。
しかし、さびしい感じと分かっていたのか、
のっかりで家族といっしょに行けと言われた。
こんな時期に温泉に行くとはちょっと予想外。
好意をもってもらうのは良いけど、
タダでもらうのも悪いからえんりょしたい。
大人の言う“なしの方向”でおことわりする。
「でも、家の人に聞いてみないと・・・」
「う~ん、使わなければもったいないし。
そのチケット、期限が1週間だから早めに行かないと」
「あっ」
しかし、回りこまれてしまった。
早く行かないと無効[効き目や受付が
なくなってしまう事]になる。
しっかりとした当てつけにも思ってしまったが、
ことわり切れずに受け取ってしまう。
確かに、これといって用事があるわけでもなく
引っ切りばかりに家にいてもあまり面白くないから、
日本のことについて少しふれてみようと思った。
放課後、学校から帰って母に相談。
OKをもらって結局のところ行くことになった。
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