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始まり
0話 開花師 壱
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舞いなさい、さすれば眠っている包芽は目を覚ましてゆく
そして念じなさい、祈りの脈は彼らに必ず聴き入れてくれる
人の終わりの後は彼らが極楽浄土へ
紡ぎの花を介して伝えてくれるだろう
命は昇華するのだ
自然のゆりかごによって幾度も繰り返しながら
翠より浄化を越えて次世代の命種の元へ
「では、職員会議はこれで終わりです。
春休み期間も、抜かりなく各自注意して下さい」
「お疲れ様でした」
十数人の教師達が席を立って取るべき行動に移ろうと
職員室から出ていく。テストの点数付け、部活の面倒見、
放課後ならではの残業を行うのだが、
自分はまだ机に向かって残り、
児童達について内申を記している。
特に異常なし。
4月からまたクラス替えで、
担当する子ども達も新たな構成となるから、
どの様な集まりになるのか、ある意味お約束で後の話。
今日の日帳を書けば終わり、
部活の顧問をしていないので帰りは早いが、
1日はこれにて終了とはいかなく肩を下ろせずに
成すべき事はあるのだ。それは地域の見回り、
見回り先生よろしくの様に治安という接点を繋ぐ役割。
月曜日がてら、生活再開奮起して学校から出ようと
帰る支度を始めた。
「今日はこれで失礼します」
「お疲れ様」
同僚の教師に挨拶をして学校から出る。
周辺は農道ばかりの住宅で、
さほど密集地でもない静かな環境だ。
太陽光の強さも儚く、
外は十分寒気がするくらい空気が冷たい。
まだ地上の弥生を許してくれそうな暖かさはなく、
歩幅が広くなりにくい程に固くなる。
しかし、教育者たるもの低体温症の危険程度で
情けなく引っ込むわけにはいかず、
動物すら外出をためらいそうな気温の中、
気概を熱に変換するくらいに気を入れて歩いて行こうとした。
自分の名は大原祐麻。
23歳の小学校に勤めている教師で
柳碧町に住んでいる者。
番はおらず独身とはいうものの、
正確には1人暮らしというわけでもない。
家族構成的に少々特殊な事情下にあるが、
幾ばくかの流れで今に至っている。
当の本人が来た。
「おいちゃん!」
身長130cmの子どもが自分を呼ぶ。
この黒髪ショートの子は大原亜彗、
10才の少年でこの子と一緒に住んでいる。
血が繋がる関係でも、ましてや親子でもない。
とある理由で同居しているが、
語れば先の場合になるので今は端折っておく。
一戸建ての木造住宅に一緒に住み、同じ学校に通わせている。
親子は異なる学校に行かせるのが通常だけど、
血筋の都合で同じ所を許されている。
実家を出て早2年になるが、
同じ町内に位置しているので実生活はこれといって
他世界にいるという実感は湧いてこない。
今日のメニューもいつもの2人会議で決まるので、
何にしようか話し合った。
「今日の夕食の材料、まだ買ってなかった。何が良い?」
「カレー!」
「3日前に食べただろ、違うメニューにする」
「えー、また野菜でしょ!
茄子とかゴーヤばっかりやだー!」
「ぐぬっ、じゃあ具材ミックスの代表格、
ハンバーグにしよう。
ただし、上に和蘭芹付きで」
肉料理の上にちょっとした緑を追加。
駄々をこねる亜彗に押されて、
ついメニュー変更をしてしまう自分がいた。
野菜を育てるのが得意な自分だけに、
緑黄色ばかりになりがちなのは致し方ないが
あまり子どものわがままを聞いてばかりでも
教育上+お金の都合よろしくない。
育ての親、兼教師として可愛らしくも
スマートなボディにさせるため、
バランス栄養食を提供しなくてはならないのが常道。
如何にして花より団子な子に育てようかと思いがてら、
住宅街から商店街へ歩いて行く途中であった。
(ん?)
「ひっく、ぐすん」
子どもが鉢植えに向きながら泣いている。
遊んでいてうっかり割ってしまったのか、
不注意による事故かと思いきや
よく見ても遊び途中の様子ではなく、
ただ鉢上の物を見ているのが分かった。
同一直線上の道で出くわした1つの終わりの光景。
見捨てる情もあるまじき、気分が悪くなるので
何があったのか声をかけてみた。
「どうしたの?」
「・・・枯らしちゃった」
その子は育てていた花を枯らせてしまったと言う。
見たところ、ユメユリソウの花のようだ。
外観で予想するも、当番だったのか花に水をあげるのを
忘れてしまったようで、花弁はおろか、茎の部分も
立ち上がる支えもなくしなれて生気のかけらもない。
春前にしては晴ればかりの日が続いて
うっかりしたのだろうか。
事情も先に立たず、少年は座りつつ涙ぐんでいる。
しかし、これも一つの巡り合わせか。
僕が対峙する命の終わりは
子どもと枯渇への素通りを許さなかった。
理由は処置できる力をもっている事。
植物に対する機会を与えられた
一種の仕事みたいなものだから。
「おいちゃん」
「分かってる」
僕達の阿吽の呼吸が一致。
亜彗が自分の顔を伺っているのも承知、
成功させてほしい願望が見て取れる。
枯れているが、原型を留めているならば手施しで
再生させられると判断。百聞は一見に如かず、
自らの身体を駆使する行動で示そうとした。
両手をそれぞれ半円に、
胴体をひねりながら手の指先で止める。
脳内に一念を入れてから腕を交差すると
茶色に壊死した茎が下部から緑色に変化。
一瞬、少しうねり鮮やかな翠をした球状の何かが
先へ向かっていく。そのタイミングで心機一転とばかり
念を入れて掛け声をだした。
「夢百合ッ!」
パアッ
最後に花は内側からふわっと咲いた。
反り返す花弁がえびぞりに開き、静止。
桃色の花びらの中央にある紅と黄色のめしべが
突き出してゆく。
開花の反動が終わってからはただの花、
動かぬ植物と変わらない。
一部始終を観ていた子どもはおったまげて後ろに飛び退き、
目を大きくした。
「お、お、お、お兄ちゃんって、まさか!?」
「うまくできたかな」
「あ、ありがとう!」
「できるだけ再生できたと思う。
道管は開いてるから、再活性で後もきちんと咲くよ。
今度はきちんと水をあげるんだ。忘れずにね」
「うんっ!」
倒れた腰を起こして子どもは喜び、
鉢ごと抱えて家へ戻っていく。
側で観ていた亜彗が独自の採点をする。
「今のは75点くらいだね」
「なんだ、その採点は!?」
子どもらしい笑みを浮かべて言われた。
今見えた現象は確かに誰が見ても
違和感のある場面だと思われてもおかしくないものだ。
手慣れた作業故に2人にとっては平然とした
既知の光景になっているが、
通常の人間はこんな手品紛いの行為は不可能。
正確には手品という呼ばれ方は不適切で、
外面的な施術のみで行う事はできないのである。
そう、僕は普通の人ではない。
舞踏で植物の花を咲かせる能力をもつ開花師とよばれる者。
命を生み出すのが何より自分の成せる特技なのだ。
舞う事で花を咲かせる行為を舞咲という。
仕組みは植物の中にある道官と師管へ念とリズムを交えた
舞踏によってうねらせ、脈を急激に促進させて咲かせている。
踊りには何種類かの植物の性質を表す[型]が存在していて、
開花への段階をふまえてきちんとした舞踊りをしなければ
咲かせられない。
しかも、咲かせるためにはある程度の精神力と動きを兼ねた
開花力が必要で、未熟者が真似して踊ったとしても同じ様。
女性では脈質が異なるため開花力そのものすら
持つことができず、性質上不可能なので
舞咲の型、植物との翠脈との同調は
男性が完璧にこなせての開花である。
現代世界では舞咲の芸として人々に披露し、楽しませている。
ただ、植物というのは開花以外でも人類にとって
多くの恩恵があり、
特殊な事情で植物を流用する者達も少なくはないのだ。
率直にいえば経済、生活の糧として利用する者が大半である。
もちろん、開花師は男市民全体なのかといえばそうでもない。
自分はとある場所からの出身者で力をもっているが。
「おいちゃんだけじゃなく、たくさんいるのは
みんなあのお寺の人だったのね」
「そうでもないよ。
外国の花を咲かせる異国のスタイルもあるから。
流派はいくつかあって、僕の所も内1つにすぎないし」
「外の世界でも、違う花ってあるんだね。
僕がやっても、全然咲かないけど」
「お前もどれだけ練習しても咲かせられないんだよな」
実は亜彗もまったく開花力をもたない子である。
同性でありながら、何故なのか理由は定かでない。
以前から練習させても、脈の反応がまったくなかった。
小学生は修行量も少なく簡単に開花できるわけではないが、
大まかに才覚を含めてほどほどの練習でも1~4種類程なら
咲かせるくらいは可能である。
ただ、この子に関しては不明。
どれ程の練習を積ませても、蕾に微塵も
変化が現れなかった。
しかし、身体的な異常もなく、開花力がないだけで
他は普通の人と変わらないため、
他の人達と同様、平凡に暮らしている。
舞咲の無力化を調べるのも自分の役目として
共同生活を送っているが、進展はない。
別に開花力がなくとも生活に影響はないので、
焦らず経過を見守るくらいだ。
翌日
今日の授業はいつもより早く午前中に終わる。
職員会議も終わり、いつもより早目にロードワークに
向かおうと校舎を出ようとした。
というのは、近辺で不穏な動きが
見られるようになったからだ。
話では学校の備品を壊して回る事件が多発しているらしい。
手口からして若者による仕業なのは明らかで、
これといった目的のない憂さ晴らしの
愉快犯に違いなく、できる限り未然に防ごうとした。
明後日から春休みになる。
これから気温も上がれば逸脱行為をはたらく者達も
出没するだろう。
未来ある道を示すのは教師の努め、
些細な事で人生崩壊を止めるよう
しっかりと見回って警察に負けないくらい治安を守ろうと
校舎から出ていく。真顔で巡回するものの、
見た感じではいつもの日常となんら変わりがない。
すぐ一大事と遭遇するなんてあるはずないので、泰然自若。
乱れぬ呼吸をしながら歩いていると、
背後から非常に聞きなれた声がした。
「おーっす、こんなとこでなにしてんだ?」
「衛太?」
脳天気な声で呼び止められる。
こいつは飯塚衛太。
柳碧町で営む飯店の息子で、同じ開花師でもある友人だ。
とは言っても、よくいる腐れ縁とか酷い言い方の
ポジションに当てはまりそうな奴で
偏差値も40そこいらあるかどうかの男である。
学は低質でなんとか高校卒業した後は実家の店で
ひたすら料理修行。
大学を進んだ自分と異なり、食の道を歩む、
市民の胃袋を支える男である。
そんなこいつがこの時間にここにいるなんて珍しい。
昼真っ盛りにブラブラしてたのかと思いきや、
調達の間で自分を目撃したという。
「お前、この時間は調理修行の最中じゃ!?」
「買い出しだ、お前もいつもの見回りか?」
「そう、これからの季節は若い子が動き回る時だからな」
「いつの時代になってもいるからな!
ジッとできねー奴もいるから、
面倒の世話焼きも大変だよな」
「仕方ない、思春期を迎えると色々と好奇心旺盛になる。
色々なモノが芽生える季節だから」
「そうか・・・あ、そうだ。ちょっとウチに寄る時間あるか?」
「またアレか?」
少しでも時間があるなら、家に来いと言う。
アレというのは試食試験、それは衛太の料理修行の成果を
確かめる技能テストである。
監督の父が判別すれば良いものの、
あくまで一般モニターにとってどんな感じなのか
確かめる為であった。
で、最も近いポジションの自分がお約束のごとく
選ばれてしまう。
しかも、夕食までまだ6時間もある。
一口くらい食べても胃に支障はなさそうだ。
亜彗は友達の家に行っている。
ただ、いつも油の調整にしくじってお腹が緩くなる経験を
させられてきたが、いい加減成長してるだろうし、
友人としてのサポートも要るだろうと
こいつの将来の為にも再び審査員の
味見役になってやろうと思う。
だから、一助けにお邪魔しようと飯塚家に向かった。
飯塚家
徒歩で20分くらいかけて飯店に到着。
13坪程の広さはあるお店で、数人のお客がいる。
手動の入口ドアを開けると、
カウンター席から奥の厨房にいた衛太の父が迎えてきた。
「おお、祐麻か!」
「こんにちは、おじさん」
「相変わらず可愛い面ぶりだな、
成長具合もまあまあにきちんと食べてっか!?」
「も、もちろん食べてます。
伊達に子育てしてないですし」
「あのちっこいヤツか、いつの間にかガキこさえちまって
お前も隅に置けねえな」
「いや、別に相手もいないし、結婚はしてませんが・・・」
「ガハハ、相変わらずの産っ気だな!
そういや衛太から話聞いたか?」
「ええ、跡継ぎに足る為の試験テストですって?」
「ああ、最近たるんでっからちっと仕込んできた。
ちったあ腕上げたから、試しに食べていきな」
父親の誠二さんが試食を勧められた。
教員テストなど採用試験でもなく、
衛太にとってのテストで食堂を継ぐに足る味を
調えられるかどうかの試験だ。
一皿に添えられた料理を差し出してくれた。
それは炒飯で、
米系の料理については大型店でも引けを取らない旨さだ。
もちろん親父さん限定の話で、衛太は数年前まで
中の下レベルだと思っていたが、今回は意外な結果となった。
「色合いが変わった様な気がする」
「見た目も大事だけど、本領は中身ってモンよ!
だけど、今回は違うぜ。食ってみろ!」
「い、いただきます」
根拠の見えなそうな本領を語る。
こいつの中身が進化した記憶がないが、
豪語するなら相当良くなったのだろう。
とりあえず、どんな味なのかレンゲですくって一口すると。
「こ、この味は・・・!?」
予想は期待というよりショックさを交えた方向の味だった。
水気を抜いた米のパラパラさ、以前のお粥みたいな
柔らかさもなくなり、塩胡椒の比が
舌を唸らす味付け加減が絶妙にマッチする味覚をおぼえた。
確かに料理の腕前は数年前よりも上がっている。
単身赴任と同等か上、腕前を自負する自分よりかは
もう上達しているくらいだ。
ただ、材料の質は前回と変わっていないはず。
調理の腕前というよりは素材をこしらえた腕前。
自分は深く考慮する間もなくピンときた。
「素材は変えていないな、まさか・・・油か!?」
「やっぱり、お前なら気付くと思っていたぜ!」
的を得たらしく、料理の味は素材ではなく
火を通す油の方にあった。
衛太が発言した理由は自分と同じく促成させる
あの能力のおかげだ。
「こっち来てみろよ!」
裏の畑に連れていかれる。
面積は父親用と息子用で3:1に分けられた野菜畑で
育てている植物はアブラナで、この家における料理の生命線。
菜種油を舞咲で生み出して調理するのが売りの店であった。
メニューの野菜全てというわけでなく、
足りえる能力で育てられるだけを補う。
ここ飯塚一家は胡菜の植物を持ち花とする
開花師なのである。衛太も自分と同じく修行をした同士で、
彼の地で精進してきた。
胴体を前のめりに両腕を前から後ろに下げて
気合を入れて念を発する。
「油菜ッ!」
1割の方のアブラナがピクリとだけ動く、促成は微妙だ。
元々、こいつが限界まで舞咲させていたから当然。
幼少からコツコツと育ててきたから、
衛太なりの質を生み出せたのだろう。
「ま、親父の開花力の方がまだ上だけどな。
でも、1年前より美味い油菜を作れたのは確かだぜ」
「この畑を観れば分かる、お前の面積幅の狭さが商品化へ
今一歩届かない表れだろ」
「チクショー!」
というように、植物の利用は単純に見栄えを良くさせる
以外でも用いられる。食も人が生きる上で欠かせない。
生活保持も踏まえて、植物を用いた糧を利用する時もある。
衛太が真っ当な開花ができたかどうかはともかく、
味は美味しかったので
今回は合格という自己判定の結果にした。
とはいえ、料理も無数の種類があるから大変だろう。
ただの栄養面だけでやれる程、飲食業界も甘くはない。
男、もとい自分達ならではの開花能力という
恩恵を受けながらお店が繫盛できるのを
ささやかに願いながら、ここで締めとする。
試験もそこそこ平然に終えて見回りを再開。
教育界としての役目は精神の乱れを防ぐ
用心棒みたいなものだが、
こちらは何も起こらず、今日は大丈夫だろうと見定め。
陽も落ちて薄暗くなり、自宅に帰ると亜彗が
TVを観て待っていた。
「お腹すいたー」
「すぐ作るよ!」
早く夕飯が食べたいと、催促される前に支度にかかる様は
まるで親みたいだ。
学校から帰り、近所の見回り、帰宅。
大体はこのような日常を送っている。
生を繰り返す様は地面に根付く植物と似たような日々。
花と隣接する機会も本家と違い、
近からず遠くもないような程々さで、
特殊な能力をもっているとはいえ、
生活自体は普通の人間となんら変わらない。
小さな町内の一教師として生きているだけなのだ。
弐に続く
そして念じなさい、祈りの脈は彼らに必ず聴き入れてくれる
人の終わりの後は彼らが極楽浄土へ
紡ぎの花を介して伝えてくれるだろう
命は昇華するのだ
自然のゆりかごによって幾度も繰り返しながら
翠より浄化を越えて次世代の命種の元へ
「では、職員会議はこれで終わりです。
春休み期間も、抜かりなく各自注意して下さい」
「お疲れ様でした」
十数人の教師達が席を立って取るべき行動に移ろうと
職員室から出ていく。テストの点数付け、部活の面倒見、
放課後ならではの残業を行うのだが、
自分はまだ机に向かって残り、
児童達について内申を記している。
特に異常なし。
4月からまたクラス替えで、
担当する子ども達も新たな構成となるから、
どの様な集まりになるのか、ある意味お約束で後の話。
今日の日帳を書けば終わり、
部活の顧問をしていないので帰りは早いが、
1日はこれにて終了とはいかなく肩を下ろせずに
成すべき事はあるのだ。それは地域の見回り、
見回り先生よろしくの様に治安という接点を繋ぐ役割。
月曜日がてら、生活再開奮起して学校から出ようと
帰る支度を始めた。
「今日はこれで失礼します」
「お疲れ様」
同僚の教師に挨拶をして学校から出る。
周辺は農道ばかりの住宅で、
さほど密集地でもない静かな環境だ。
太陽光の強さも儚く、
外は十分寒気がするくらい空気が冷たい。
まだ地上の弥生を許してくれそうな暖かさはなく、
歩幅が広くなりにくい程に固くなる。
しかし、教育者たるもの低体温症の危険程度で
情けなく引っ込むわけにはいかず、
動物すら外出をためらいそうな気温の中、
気概を熱に変換するくらいに気を入れて歩いて行こうとした。
自分の名は大原祐麻。
23歳の小学校に勤めている教師で
柳碧町に住んでいる者。
番はおらず独身とはいうものの、
正確には1人暮らしというわけでもない。
家族構成的に少々特殊な事情下にあるが、
幾ばくかの流れで今に至っている。
当の本人が来た。
「おいちゃん!」
身長130cmの子どもが自分を呼ぶ。
この黒髪ショートの子は大原亜彗、
10才の少年でこの子と一緒に住んでいる。
血が繋がる関係でも、ましてや親子でもない。
とある理由で同居しているが、
語れば先の場合になるので今は端折っておく。
一戸建ての木造住宅に一緒に住み、同じ学校に通わせている。
親子は異なる学校に行かせるのが通常だけど、
血筋の都合で同じ所を許されている。
実家を出て早2年になるが、
同じ町内に位置しているので実生活はこれといって
他世界にいるという実感は湧いてこない。
今日のメニューもいつもの2人会議で決まるので、
何にしようか話し合った。
「今日の夕食の材料、まだ買ってなかった。何が良い?」
「カレー!」
「3日前に食べただろ、違うメニューにする」
「えー、また野菜でしょ!
茄子とかゴーヤばっかりやだー!」
「ぐぬっ、じゃあ具材ミックスの代表格、
ハンバーグにしよう。
ただし、上に和蘭芹付きで」
肉料理の上にちょっとした緑を追加。
駄々をこねる亜彗に押されて、
ついメニュー変更をしてしまう自分がいた。
野菜を育てるのが得意な自分だけに、
緑黄色ばかりになりがちなのは致し方ないが
あまり子どものわがままを聞いてばかりでも
教育上+お金の都合よろしくない。
育ての親、兼教師として可愛らしくも
スマートなボディにさせるため、
バランス栄養食を提供しなくてはならないのが常道。
如何にして花より団子な子に育てようかと思いがてら、
住宅街から商店街へ歩いて行く途中であった。
(ん?)
「ひっく、ぐすん」
子どもが鉢植えに向きながら泣いている。
遊んでいてうっかり割ってしまったのか、
不注意による事故かと思いきや
よく見ても遊び途中の様子ではなく、
ただ鉢上の物を見ているのが分かった。
同一直線上の道で出くわした1つの終わりの光景。
見捨てる情もあるまじき、気分が悪くなるので
何があったのか声をかけてみた。
「どうしたの?」
「・・・枯らしちゃった」
その子は育てていた花を枯らせてしまったと言う。
見たところ、ユメユリソウの花のようだ。
外観で予想するも、当番だったのか花に水をあげるのを
忘れてしまったようで、花弁はおろか、茎の部分も
立ち上がる支えもなくしなれて生気のかけらもない。
春前にしては晴ればかりの日が続いて
うっかりしたのだろうか。
事情も先に立たず、少年は座りつつ涙ぐんでいる。
しかし、これも一つの巡り合わせか。
僕が対峙する命の終わりは
子どもと枯渇への素通りを許さなかった。
理由は処置できる力をもっている事。
植物に対する機会を与えられた
一種の仕事みたいなものだから。
「おいちゃん」
「分かってる」
僕達の阿吽の呼吸が一致。
亜彗が自分の顔を伺っているのも承知、
成功させてほしい願望が見て取れる。
枯れているが、原型を留めているならば手施しで
再生させられると判断。百聞は一見に如かず、
自らの身体を駆使する行動で示そうとした。
両手をそれぞれ半円に、
胴体をひねりながら手の指先で止める。
脳内に一念を入れてから腕を交差すると
茶色に壊死した茎が下部から緑色に変化。
一瞬、少しうねり鮮やかな翠をした球状の何かが
先へ向かっていく。そのタイミングで心機一転とばかり
念を入れて掛け声をだした。
「夢百合ッ!」
パアッ
最後に花は内側からふわっと咲いた。
反り返す花弁がえびぞりに開き、静止。
桃色の花びらの中央にある紅と黄色のめしべが
突き出してゆく。
開花の反動が終わってからはただの花、
動かぬ植物と変わらない。
一部始終を観ていた子どもはおったまげて後ろに飛び退き、
目を大きくした。
「お、お、お、お兄ちゃんって、まさか!?」
「うまくできたかな」
「あ、ありがとう!」
「できるだけ再生できたと思う。
道管は開いてるから、再活性で後もきちんと咲くよ。
今度はきちんと水をあげるんだ。忘れずにね」
「うんっ!」
倒れた腰を起こして子どもは喜び、
鉢ごと抱えて家へ戻っていく。
側で観ていた亜彗が独自の採点をする。
「今のは75点くらいだね」
「なんだ、その採点は!?」
子どもらしい笑みを浮かべて言われた。
今見えた現象は確かに誰が見ても
違和感のある場面だと思われてもおかしくないものだ。
手慣れた作業故に2人にとっては平然とした
既知の光景になっているが、
通常の人間はこんな手品紛いの行為は不可能。
正確には手品という呼ばれ方は不適切で、
外面的な施術のみで行う事はできないのである。
そう、僕は普通の人ではない。
舞踏で植物の花を咲かせる能力をもつ開花師とよばれる者。
命を生み出すのが何より自分の成せる特技なのだ。
舞う事で花を咲かせる行為を舞咲という。
仕組みは植物の中にある道官と師管へ念とリズムを交えた
舞踏によってうねらせ、脈を急激に促進させて咲かせている。
踊りには何種類かの植物の性質を表す[型]が存在していて、
開花への段階をふまえてきちんとした舞踊りをしなければ
咲かせられない。
しかも、咲かせるためにはある程度の精神力と動きを兼ねた
開花力が必要で、未熟者が真似して踊ったとしても同じ様。
女性では脈質が異なるため開花力そのものすら
持つことができず、性質上不可能なので
舞咲の型、植物との翠脈との同調は
男性が完璧にこなせての開花である。
現代世界では舞咲の芸として人々に披露し、楽しませている。
ただ、植物というのは開花以外でも人類にとって
多くの恩恵があり、
特殊な事情で植物を流用する者達も少なくはないのだ。
率直にいえば経済、生活の糧として利用する者が大半である。
もちろん、開花師は男市民全体なのかといえばそうでもない。
自分はとある場所からの出身者で力をもっているが。
「おいちゃんだけじゃなく、たくさんいるのは
みんなあのお寺の人だったのね」
「そうでもないよ。
外国の花を咲かせる異国のスタイルもあるから。
流派はいくつかあって、僕の所も内1つにすぎないし」
「外の世界でも、違う花ってあるんだね。
僕がやっても、全然咲かないけど」
「お前もどれだけ練習しても咲かせられないんだよな」
実は亜彗もまったく開花力をもたない子である。
同性でありながら、何故なのか理由は定かでない。
以前から練習させても、脈の反応がまったくなかった。
小学生は修行量も少なく簡単に開花できるわけではないが、
大まかに才覚を含めてほどほどの練習でも1~4種類程なら
咲かせるくらいは可能である。
ただ、この子に関しては不明。
どれ程の練習を積ませても、蕾に微塵も
変化が現れなかった。
しかし、身体的な異常もなく、開花力がないだけで
他は普通の人と変わらないため、
他の人達と同様、平凡に暮らしている。
舞咲の無力化を調べるのも自分の役目として
共同生活を送っているが、進展はない。
別に開花力がなくとも生活に影響はないので、
焦らず経過を見守るくらいだ。
翌日
今日の授業はいつもより早く午前中に終わる。
職員会議も終わり、いつもより早目にロードワークに
向かおうと校舎を出ようとした。
というのは、近辺で不穏な動きが
見られるようになったからだ。
話では学校の備品を壊して回る事件が多発しているらしい。
手口からして若者による仕業なのは明らかで、
これといった目的のない憂さ晴らしの
愉快犯に違いなく、できる限り未然に防ごうとした。
明後日から春休みになる。
これから気温も上がれば逸脱行為をはたらく者達も
出没するだろう。
未来ある道を示すのは教師の努め、
些細な事で人生崩壊を止めるよう
しっかりと見回って警察に負けないくらい治安を守ろうと
校舎から出ていく。真顔で巡回するものの、
見た感じではいつもの日常となんら変わりがない。
すぐ一大事と遭遇するなんてあるはずないので、泰然自若。
乱れぬ呼吸をしながら歩いていると、
背後から非常に聞きなれた声がした。
「おーっす、こんなとこでなにしてんだ?」
「衛太?」
脳天気な声で呼び止められる。
こいつは飯塚衛太。
柳碧町で営む飯店の息子で、同じ開花師でもある友人だ。
とは言っても、よくいる腐れ縁とか酷い言い方の
ポジションに当てはまりそうな奴で
偏差値も40そこいらあるかどうかの男である。
学は低質でなんとか高校卒業した後は実家の店で
ひたすら料理修行。
大学を進んだ自分と異なり、食の道を歩む、
市民の胃袋を支える男である。
そんなこいつがこの時間にここにいるなんて珍しい。
昼真っ盛りにブラブラしてたのかと思いきや、
調達の間で自分を目撃したという。
「お前、この時間は調理修行の最中じゃ!?」
「買い出しだ、お前もいつもの見回りか?」
「そう、これからの季節は若い子が動き回る時だからな」
「いつの時代になってもいるからな!
ジッとできねー奴もいるから、
面倒の世話焼きも大変だよな」
「仕方ない、思春期を迎えると色々と好奇心旺盛になる。
色々なモノが芽生える季節だから」
「そうか・・・あ、そうだ。ちょっとウチに寄る時間あるか?」
「またアレか?」
少しでも時間があるなら、家に来いと言う。
アレというのは試食試験、それは衛太の料理修行の成果を
確かめる技能テストである。
監督の父が判別すれば良いものの、
あくまで一般モニターにとってどんな感じなのか
確かめる為であった。
で、最も近いポジションの自分がお約束のごとく
選ばれてしまう。
しかも、夕食までまだ6時間もある。
一口くらい食べても胃に支障はなさそうだ。
亜彗は友達の家に行っている。
ただ、いつも油の調整にしくじってお腹が緩くなる経験を
させられてきたが、いい加減成長してるだろうし、
友人としてのサポートも要るだろうと
こいつの将来の為にも再び審査員の
味見役になってやろうと思う。
だから、一助けにお邪魔しようと飯塚家に向かった。
飯塚家
徒歩で20分くらいかけて飯店に到着。
13坪程の広さはあるお店で、数人のお客がいる。
手動の入口ドアを開けると、
カウンター席から奥の厨房にいた衛太の父が迎えてきた。
「おお、祐麻か!」
「こんにちは、おじさん」
「相変わらず可愛い面ぶりだな、
成長具合もまあまあにきちんと食べてっか!?」
「も、もちろん食べてます。
伊達に子育てしてないですし」
「あのちっこいヤツか、いつの間にかガキこさえちまって
お前も隅に置けねえな」
「いや、別に相手もいないし、結婚はしてませんが・・・」
「ガハハ、相変わらずの産っ気だな!
そういや衛太から話聞いたか?」
「ええ、跡継ぎに足る為の試験テストですって?」
「ああ、最近たるんでっからちっと仕込んできた。
ちったあ腕上げたから、試しに食べていきな」
父親の誠二さんが試食を勧められた。
教員テストなど採用試験でもなく、
衛太にとってのテストで食堂を継ぐに足る味を
調えられるかどうかの試験だ。
一皿に添えられた料理を差し出してくれた。
それは炒飯で、
米系の料理については大型店でも引けを取らない旨さだ。
もちろん親父さん限定の話で、衛太は数年前まで
中の下レベルだと思っていたが、今回は意外な結果となった。
「色合いが変わった様な気がする」
「見た目も大事だけど、本領は中身ってモンよ!
だけど、今回は違うぜ。食ってみろ!」
「い、いただきます」
根拠の見えなそうな本領を語る。
こいつの中身が進化した記憶がないが、
豪語するなら相当良くなったのだろう。
とりあえず、どんな味なのかレンゲですくって一口すると。
「こ、この味は・・・!?」
予想は期待というよりショックさを交えた方向の味だった。
水気を抜いた米のパラパラさ、以前のお粥みたいな
柔らかさもなくなり、塩胡椒の比が
舌を唸らす味付け加減が絶妙にマッチする味覚をおぼえた。
確かに料理の腕前は数年前よりも上がっている。
単身赴任と同等か上、腕前を自負する自分よりかは
もう上達しているくらいだ。
ただ、材料の質は前回と変わっていないはず。
調理の腕前というよりは素材をこしらえた腕前。
自分は深く考慮する間もなくピンときた。
「素材は変えていないな、まさか・・・油か!?」
「やっぱり、お前なら気付くと思っていたぜ!」
的を得たらしく、料理の味は素材ではなく
火を通す油の方にあった。
衛太が発言した理由は自分と同じく促成させる
あの能力のおかげだ。
「こっち来てみろよ!」
裏の畑に連れていかれる。
面積は父親用と息子用で3:1に分けられた野菜畑で
育てている植物はアブラナで、この家における料理の生命線。
菜種油を舞咲で生み出して調理するのが売りの店であった。
メニューの野菜全てというわけでなく、
足りえる能力で育てられるだけを補う。
ここ飯塚一家は胡菜の植物を持ち花とする
開花師なのである。衛太も自分と同じく修行をした同士で、
彼の地で精進してきた。
胴体を前のめりに両腕を前から後ろに下げて
気合を入れて念を発する。
「油菜ッ!」
1割の方のアブラナがピクリとだけ動く、促成は微妙だ。
元々、こいつが限界まで舞咲させていたから当然。
幼少からコツコツと育ててきたから、
衛太なりの質を生み出せたのだろう。
「ま、親父の開花力の方がまだ上だけどな。
でも、1年前より美味い油菜を作れたのは確かだぜ」
「この畑を観れば分かる、お前の面積幅の狭さが商品化へ
今一歩届かない表れだろ」
「チクショー!」
というように、植物の利用は単純に見栄えを良くさせる
以外でも用いられる。食も人が生きる上で欠かせない。
生活保持も踏まえて、植物を用いた糧を利用する時もある。
衛太が真っ当な開花ができたかどうかはともかく、
味は美味しかったので
今回は合格という自己判定の結果にした。
とはいえ、料理も無数の種類があるから大変だろう。
ただの栄養面だけでやれる程、飲食業界も甘くはない。
男、もとい自分達ならではの開花能力という
恩恵を受けながらお店が繫盛できるのを
ささやかに願いながら、ここで締めとする。
試験もそこそこ平然に終えて見回りを再開。
教育界としての役目は精神の乱れを防ぐ
用心棒みたいなものだが、
こちらは何も起こらず、今日は大丈夫だろうと見定め。
陽も落ちて薄暗くなり、自宅に帰ると亜彗が
TVを観て待っていた。
「お腹すいたー」
「すぐ作るよ!」
早く夕飯が食べたいと、催促される前に支度にかかる様は
まるで親みたいだ。
学校から帰り、近所の見回り、帰宅。
大体はこのような日常を送っている。
生を繰り返す様は地面に根付く植物と似たような日々。
花と隣接する機会も本家と違い、
近からず遠くもないような程々さで、
特殊な能力をもっているとはいえ、
生活自体は普通の人間となんら変わらない。
小さな町内の一教師として生きているだけなのだ。
弐に続く
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