Crystal of Latir

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第52話  決定打

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2012年5月15日

 マーガレットが警視総監の高橋と電話をしている。
七色の結晶、アブソルートの突破口が解明して
防衛省へ詳細のレポートを報告するために話をした。
内容は亀裂を生じさせて打開できる糸口が見つかり、
実行させる算段をどうすべきか相談する。

「では、ただの結晶体ではないのか?」
「ええ、金属検知の時点で現在に存在しない物なのは
 判明してましたが、分解方法もようやくあの子の
 おかげでみえてきました」

聖夜の能力、素質が数か月前から向上を続けて
都庁に攻め入る機会が訪れるとの事。
高橋が詳細を問うものの、詳しく分からない間で
少しでも判明した点だけ述べる。

「あの結晶の主成分は鉄分ですが、通常の質とは異なる
 有機物も含まれている事が分かりました。
 しかし、細胞膜が理解不能な構造をしており、
 耐震補強された柔軟構造の様に衝撃を和らげ、
 かつ反発係数が限りなく1に近い状態を保っています。
 無機物と化合して分解の術もなかったのです」
「あの都庁を覆う物と同じなのか!?
 どこで入手した?」
「アヴィリオス教会の司教が所持していた結晶により、
 同様と思わしき破片で試験しました。
 彼の来日は神来杜聖夜のために訪れて、適合力が
 到達するまでずっと様子を見守っていたそうで」
「昨年に来日したヨーロッパの者か、
 もっと早く分からなかったのか?」
「結晶維持にバリケードの素材が利用されていた事が
 決定付けまで時間を要していたそうです。
 星は国家機関の中にまで及んでいた。
 先日、議員の1人もACを所持していましたので」
「・・・・・・」
「そして、あの子に試し斬りをさせてみました。
 実験の結果・・・打開の見込み有りと判断。
 マナ・アヴィリオスから借りた聖銀ナイフの
 性質がそこの域まで達せられたと」

司教との会談後、早急に呼び出した聖夜が試したところ、
結晶に亀裂が入った。
他人が真似をしても傷一つ付かなかった塊は
あまりにもあっけなく裂け、科学が当然とばかり優先する
関係者をより混乱させる。

「融解、斬裂、いかなる術でも開かなかった結晶が
 1人の若者によってあっさりと。
 司教は何と見解していた?」
「宗教観念らしい彼ならではのさとし方でした。
 “母性の壁”という語を述べて。
 解釈の付け入る間もありません」
「・・・なるほど、不明だ」
「そうですね、今更ながら浮つく印象に覚えます。
 我々はすでに非現実の世界に足を踏み入れております。
 理由はどうあれ、侵入方法が分かればこちらの
 後は我々の技術と併用して武力行使で抑えれば、
 解放への道が開けるでしょう」
「うむ、いよいよ劣勢から挽回する時がきた。
 蒔村都知事の生存の安否もこれで・・・」
「良い思考に捉えれば、数ヶ月も速いペースだと。
 都民にも壊滅的被害がなかっただけ幸いと
 受け止めるべきだと思いたいです」
「そうだな、何かも失うよりは良い。
 経緯は了解した、ようやく攻勢に打てる。
 これで奴らもネングノオサメドキだろう。
 今度こそは・・・」
「新しきをる未知との介入へ」
「決まりだな」
「ええ、決まりです」

自分は警察の長と帳尻合わせのように主旨しゅしを重ねる。
混合の末に1つの真理へ辿たどり着けた。
歴史の影に秘匿されてきた幻術の前に無理もなし。
人が生み出す理に人が追いつき、ようやく前進を始める。
ここから一斉に警察と自衛隊は動き出す。
機関の者達も急速な立ち回りを余儀なくされてゆく。


 数時間後、聖夜は科警研に重要な話と呼ばれて
大まかな現状報告を受けに聞かされた。
警察、自衛隊と総力を挙げて現地に突入する作戦で、
自分達も参加するよう言われる。

「都庁へ行く日にちが決まったんですか!?」
「ええ、5月21日。あんたの能力が見込みある
 段階まで達せられたからその日に決まったの。
 こちらも総出を上げて突入する」
「でも、なんで21日なんですか?」
「司教の提案よ、21日は金環日食が訪れる日で
 目標物が誕生する日と伝承にある。
 オリハルコンオーダーズがそれを狙っているから、
 チャンスを伺って抑えにかかる」
「マナの親父さんか、そもそも俺のために来てくれたって
 話だったな・・・あの結晶と俺にどんな関係が?
 星だなんてずいぶんと話しが大きくなっていくな」

金環日食、太陽と月が直線上に重なる時。
ロストフさんの話、ヨーロッパもとい伝記によると
時の権力者達がこぞって世界の何かを手に入れようと
繰り返されてきたらしい。
星の言葉に、ロザリアさんが別世界の来訪者だった話が
真実味を増して塊の在り方が少し理解できた。
仮に否定したってどうこう変えられる事でもないが、
オリハルコンオーダーズの狙いは相変わらず不明だ。
警察や自衛隊も悪魔を真っ当に相手できるのか?

「突入作戦といっても、自衛隊の人達って
 満足に悪魔を倒しきれていますっけ?
 オリハルコンオーダーズは人間かもしれないけど、
 奴らに対抗しきれますか?」
「心配御無用、いつまでもあんたらの手を借りっぱなしで
 いるわけにはいかないのよ。
 そのためにAC研究、対兵器開発をしてきたんだから」

主任はモニター画面に表示する。
今まで秘密にしてきた規格を1つ公開するという。
人の形をした機体を見て思わず声を上げた。

「これは・・・カラクリ兵!?」
「結晶の性質を基に造られたスーツ。
 現代の合金技術と古代秘術を合わせたものよ」
「じゃ、じゃあ今まで現れたあれは――!」
「私が造ったプロトタイプよ、対悪魔兵器開発で
 アメリカの無人機を改造したもの」

あっさりとした話し方に、両肩が浮つく。
カラクリ兵、筧征十郎が搭乗していた人型ロボットは
科警研が秘密裏に製造。
主任は桃簾会、もとい天藍会と最初から繋がっていた。
自分達には事前に一切話さずに独自行動をとっていたのだ。

「あれを造っていたのはしゅ、主任だった。
 せめて、言ってほしかったんですけど・・・」
「カラクリ兵を黙っていたのは悪かったわ。
 でも、あんたにも言えない極秘事項だったの」
「なんでです?」
「憲法に抵触する存在だから。
 戦闘機械の増設は国に最も警戒懸念事項に当たるから、
 おいそれと公表できなかった。
 まず、内閣に差し押さえられるのが目に見えていた」
「悪魔を討伐しなければならないのに、
 武装の不安を表沙汰にしたくないわけですね。
 川上を殺害した件も隠されていたなんて」
「ならず者は基本、この組織には招かない。
 あんたの友人である三ノ宮をここに入れさせない
 理由もそこの一部に入ってるの」
「あいつもヒョウになれて殺されないだけマシか、
 どこも隠し事ばかり・・・国は何をやらせたいのか」
「世界で最も体裁を気にするこの国では対応も遅く、
 私達はいつも先手を意識せざるを得ない。
 ACなんて物が一般に認知されたら、また再び同じ
 手口を用いる者が出てくるから」
「そして、どさくさ紛れながらに目処がついたと。
 日程が決まっただけでも良かったです」

カラクリ兵の関与は意外だったが、悪意の類なく
余計な妨害を押しのけて解決しようという気だ。
これでやっと全てが終わる。
結晶の呪縛もそこで何もかも解き放たれるだろう。

「「もう少し・・・後もう少しか」」
「・・・・・・」

つい小声で期待感の声を出す。
結晶に囚われかけている忌々いまいましさも終わりが見えてゆく。
特殊工作班もいよいよ締めくくりに入り、
女性に似合わず雄祐ゆうゆうとデスクに立つ主任を見ると、
彼女は今まで聞いた事もないACの名を挙げた。










「私もそう・・・真実を話す時がきた。
 最終目標は“ブラックダイアモンドの回収。”
 都庁の結晶生成の基を手に入れる事」

オリハルコンオーダーズの目標と呼ぶべきACが
調査で判明したという。
ブラックダイアモンド。
挙げたこの逸物こそ、事件の根源と示唆しさ
それを押さえる事を目的として内部制圧にかかる
算段を打ち立てた。

「都庁の中にブラックダイアモンドが?」
「ええ・・・メタモルフォーゼスで確認できた。
 オリハルコンオーダーズの求めるモノがそれで、
 アブソルート内部で日食の力を借りて
 強大な力を得ようと企んでいるようね」
「なんで、黒いダイアモンドが?」
「強大な性質と能力を秘めたもの。
 古来から激動の時代より唐突に現れるという。
 天と地の均衡を保つ存在、とだけ語られて
 どれだけ時代を越えようとも地殻同様に揺れる。
 司教もそう告げていた」

簡単にまとめると、オリハルコンオーダーズは
ブラックダイアモンドを生成しようとあの七色結晶で
固めて中で育ててきたらしい。同じ様な出来事は
過去の歴史でも数回あって、教会も対策を施して
俺に協力させていた。

「こんな事件が、昔から何度も繰り返されていたんだ。
 それが今回はここ・・・晃京」
「そう・・・その適性に相応ふさわしいのがあんた。
 適性ACも検知できて種類が判明できたわ。
 ダイアモンドに介入できる適性をもっているの」
「俺が・・・ダイアモンドの?」
「実際、鉱石の中でも特に硬いとされるそれは
 ACでもより特別なのでしょうけど、日食なんていう
 宇宙の一現象にまで及ぶ事ができるわけだから、
 何よりも硬い性質と力が宿る賜物なんでしょうね」
「だから、希望の星とかなんとか言われていたのか。
 大きいな・・・本当に」
「科学の観点では、結晶はミネラル酵素の集合体。
 でも、人もそういった成分を身にまとい、内包し、
 まったく意識しなくても常にり添って
 星の上に立って生きている。
 そんな、複雑に集まった無数の因子の中で
 選ばれたあんたが切りひらくのよ。
 姿無き巌窟王がんくつおうを粛清しに」

両手で肩を押さえる主任。
ここで、ようやく果たすべき役目が明かされた。
自分はダイアモンドの適性をもっている。
それでも意味は全て分かっていない。
しかし、判明したから少しスッとする。
ここで、立ち位置を改めて認められる気がした。
やるべき任務は当日、七色結晶を銀ナイフで断って
彼女達の協力で諸悪の根源に挑む。
そして、ブラックダイアモンドを抑えて終わらせる
目処が立ち、結晶の因縁を絶つ機会がやってくる。

こうして、本格的な晃京解放を実行する時は訪れた。
七色の結晶を打ち破る策も見つかり、
都庁突入作戦が実行される。
相手は人間と悪魔、光一と同等がそれ以上の
実力をもつ連中と戦うのは避けられないだろう。
歪なきらめきに満たされかけたこの都市は
明かされた自分の手で終わりを迎えようとしている。
5月21日、全ての決着はそこで終止符を打つ。
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