Crystal of Latir

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外伝 第1話  正倉院蓮の決意1

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私の央にはダイアモンドが宿っている。
原因、理由は一切不明。
意識を常に目標へ向かい続ける気持ちだけを支え、
いつの日から強硬な塊が宿り続けていた。
結晶という世界の中で何よりも硬く、
元から星という塊の上で生まれてきたもの。
動物の感覚としては金属などといった様だとは思わず、
人知れず体内に支えられて密かに輝いていた。
そして、世直しと一世一代の変革のため。
この塊も1つの役目を果たす運命がここに在ると。
私がこれから決起する事はそれだけ大きく、
また、人としての生業を超えたものになるからだ。

生きる意味はひたすら国に尽くす事。
人はその枠のどこかに必ず住んでいる。
使命、責任、重い言葉ならいくらでもあるだろうそれは
自身、かつて親からそう教え込まれてきた。
家柄は軍事。
父親が陸軍の1人で、自分も同様にしつけられてきた。
口癖は明鏡止水めいきょうしすい
己を定めて自己研鑽を積み、磨き上げる事。
時にはくじけそうになる事もあろう。
だが、死ぬ気でやれば何だってできる。
典型的な叩き上げの言葉ながら、
当の時代ではよく使われてきた。
敗戦から必死で立ち直り、現在に至るまで
まだ警察予備隊だった頃の父は戦後の混乱から
金属を熱して矯正きょうせいする如く、何が起ころうと
ひたすら国のために捧げてきた。
家系、流れで等しい理念をもつのも宿命か、
そう受けてきた私は自衛隊への道を歩いてゆく。
しかし、道というものは己の意思でも簡単に
求められない時もある。同じ性質、運命をもつ者との
関わりも巡り合わせる事も。
ある結晶との出会いが私の意思を動かした。


「ほう、これが?」
「サンセットファイアオパール。
 ヨーロッパの出店がようやく解禁されてきたの、
 今日来たのはこれを購入する予定よ」

 1990年、晃京ドームで開かれるミネラルショーに
いた私と妻、沙苗はある購入場で1つの鉱石に留まる。
というのは、妻がこれに関する商業者で、案内がてら
ついでに自分達も同行してきていた。
私自身、宝石や結晶の類はまったく関わった事もなく、
興味すら接点をもち合わせていない。
彼女の用件で今日はここに来ていた。
そこで1つ何かを購入するらしく、どんな物か
共に拝見するともう1つの空を切り抜いた様に
目を引き寄せられた。

「これか、何やら今まで見たことない色合いだな」
「実は私が事前注文していた物で、オークションなく
 ここに持ってきてもらったの。現地は危ない人も
 出回っていて直に買いに行けなかったから」

マフィアや裏社会の連中もこういった物に目がない。
安全圏の強いここで取引するのは良い案だ。
こんな小さな鉱石に価値を見出すのも何だが、
2~3cm程、夕陽を閉じ込めた様な橙色の宝石が
楕円形の央に収められていた。
が、値段が2,000,000,000と
売買という度を超越する契約だ。

「わあ、きれい~」
「これは・・・かなりの値がするぞ?」
「大丈夫よ、家からもきちんと承諾されているから
 家計に影響はないわ。売り手も実家で登録してない
 契約だから跡をつけられないようにしてる」
「そ、そうか。確かにこんな物を持っていれば
 泥棒などいくらでもやってきそうな雰囲気だ。
 今の日本さながら大盤振る舞いだな」
「円高も近いうちにすぐ止まるわ。
 ホールマーク制度も変動し始めるのを知っていて、
 ヨーロッパ方面からも買い手が出てくる」
「希少価値も国ごとに異なるのだな。
 安くなろうものなら買い手も増す。
 つまり・・・」
「今のうちに購入した方が有利。
 希少物がすぐ手前にあるものは早期に手に入れる」

妻は制度変革の合間に手に入れようとした。
ホールマーク制度はヨーロッパ貴金属を扱うシステムで、
日本物価が低下するスタグフレーションで
バランス変革が起こる前にこれを購入したいという。
彼女の家は大富豪のそれで、ポケットマネーの感覚で
買えてしまうくらい普通の買い物だ。
妻との出会いはヨーロッパ遠征、自衛隊派遣で
復興支援でやりとりするための通訳者だった。
海外派遣の流れで出会い、幾度も渡って今に至る。
何故、付き合えたのかと問われても迷う。
私も結婚当時は金目当てだの言われた。
決してそんなつもりはないが、言いようのない縁で
いつの間にか引き寄せられていたのだ。
今思えば、冒頭の語りが当たる。
話を戻すが、この時代の日本は目まぐるしい物色の最中。
日本は高度経済成長期より、世界中から物資を取り入れて
ありとあらゆる物流の渦を生成。鉱石に限らず、
我が物顔で持て余すように各国から資源を取り入ってきた。
そんなバブルというバベルの塔高理想の建造物を築こうとしたが、
1991年に潰える。バブルが崩壊した今、
他国が宝石を再び買い戻しに日本へ介入しにくる。
妻は予言とばかりそこを読み、早目に購入したいようだ。
しかし、今回の買い物はこれで終えると言う。
1つ気になるのはサンセットファイアオパールのみを
集中するように欲しがるところだ。

「ところで、何故オパールを?」
「「あれ、相当なポテンシャルをもっているのよ」」
「ん、よく聴こえなかった。何をもっている?」
「「ポテンシャルよ、ACの中でも類をみないくらいの
  祈念を行うにあたってかなりの性質、効果があるの。
  こんなに近づくだけでも私には分かる」」
「ポテンシャル・・・いわゆるお前の取り柄だな」

いつもより小声で発する。
妻は異界との連携で力を得られる事は知っていた。
神来杜、祓魔師ふつましとよばれる詳細不明の役職。
結晶に祈りを捧げ、念じる事で悪しきものを遠ざける
能力をもつ一族。古来から秘匿されてきた能力をもち、
人類を見守ってきた者だ。
私も自衛隊に入るまでは小耳にすら入ってこない、
出生のまったく不明なところが多く、
政府も彼らについて大きく干渉されてないらしい。
今日は何やら大層な御納めを施すらしいが。
値段が20億はかかるこの結晶を神来杜から
出資して払うという。
彼女の家系は表向きは宝石業者だが、通訳がてら
結晶の何かと精通する役割をもつ家でもあり、
特別な施しを執行する者である。
婚約条件も苗字を継ぐのが掟で、
私も懐事情が他家よりも複雑そうと内心意識。
結婚できた事自体が奇跡という他になかったそうだ。
そこいらのダイアモンドよりも遥かに上回る
オパールが存在するのも珍しい。
先で彼女の言ったポテンシャル。
意味は塊に刻み、世を願い続けるという。
最初は信じられなかったが、手品でもトリックでもなく
結晶内部で文字が刻まれていたのはこの目で見て、
現実として受け止めるようになる。
彼女の生き字引きが何より無知な私でも理解できる
証明なのだから。
ただ、少々引けを取る自分もいる。
鉱物という塊がどうして内側から何かが現れるのか
理解できないのだ。

「本当に何もかもが常識を超えていて理解が追い付けん、
 私にとってはまだ科学の見方が強いかもしれない。
 お前の御両親の前では言えないからな」
「まったく、まだ遠慮しちゃって。
 確かに根本は私でも説明しきれないけど、
 祈念は単に語りかけているからよ」
「語りかけている・・・そこの原理がどうなっているか
 分からないから不思議でな」
「普通からすればそうだけど、結晶は他世界と繋がる
 性質で凝結は距離も関係なく閉ざされた位相で
 意識も繋げてやりとりしているの。
 このオパールも何か訴えている。
 ある意味、“止めて”とささやいている気がする」
「とめる~?」
「世の中には怖い流れが起こるの沙苗。
 時にはそういうものを止めなきゃダメって」
「他星からの声か。常々不思議に思ってはいるが、
 宇宙を隔てた別世界と交信し、文明開化を保護し合う。
 刻印者とはそういうものなのか?」
「伝える役目も大事な要素よ。
 同じ地球でも、初めて外国人と面会したら
 言葉無しでも何かしらの交信を行っていたでしょう?」
「確かにそうだが、ケースがあまりにも遠くてな。
 まったく、世界が違いすぎて追い付くのも一苦労だ」
「意識が別のところにある人っているからね。
 身はここにあっても、心は異なる位置に滞在するような」
「「結晶への意思・・・」」

話によると、地球外にも意識をもつ者が存在し、
力の支えを補い合っていたらしい。
人間というのは現実より想像や思い出の方が
きれいに見えるから、消えかかる程意思はより強くなる。
現実に直面するほど陳腐化ちんぷかする。
私という男から観ても、女性の結晶感性は金額的価値
くらいだと思っているが、彼女は絶対に異なる。
神来杜家の具現化は未だに理解しきれない。
結晶というものは変わらない強さ、魅力をもつ。
岩石学を少しだけ読んでも追いつかずに、
今はそこで答えを止めている。
先は一部の者にしか見つけられずに
妻のような超越者が発見してゆくのだろう。
ダイアモンドが最も硬い・・・という話なら分かる、
婚約指輪は6点留めの型を買ってあげた。
不器用でどんな贈り物が良いかも分からない自分が
高橋隊長から教えてもらった事を実行するので精一杯。
税金を宝石に投資、集約するのが恥ずかしく感じてゆく。

「はあ、私は鉱石の在り様が程々でこの有り様だ。
 税金をこの様に使用するのも恐縮だ」
「どうしたのよ、突然?」
「い、いや、何でもない。
 そ、それよりも、よく物価を伸ばせたもんだと思うな」
「敗戦から復興した成果・・・と言えばそうね。
 まあ、私も少し不明な点も感じているの。
 国がここまで怖いもの知らずに価値を変えられたと
 懸念していたわ」
「国がか?」
「ええ、売れないリスクをきちんと考えているのなら
 むやみに商品を高値にしたりしないもの。
 “時代が変わろうとも代えられない価値”。
 政府は隠し棚をどこかで備えている節も感じるわ」
「・・・・・・」

さり気に読心された様だ。
実は自分も気掛かりに思っていたところであった。
政府は株価暴落が訪れるのをすでに予測している。
地価はいつまでも上がり続けられない。
しかし、内閣はすらりと予算を取り出して賄い、
万全を期したように配分を落ち着かせている。
不透明な出資は今回が初めてではないが、
補助金制度の疑問にとらわれる。
国も資金難が訪れると分かっているのに、
余裕ぶりを見せている感じだ。
妻はかっていた。
これからこの国は経済低迷すると。
しかし、潤沢とした日本はまだ他国にとって蜜の溜まりが
十分に残る所としてみなされている。
蜜が琥珀こはくに変わっても
さらに他により狙われる機会が残るもの。
私自身が結晶を内に宿す運命はここに訪れる。

晃京湾に数百人のテロリストが襲来。
私は高橋、武田、蒔村と共に縦浜区でそれぞれ対応した。
脚を撃たれ、身動きができなかった傍らにあった
黒いACにすがり付き、当時の状況を送る。
気が付けば敵兵は殲滅せんめつ
喰われるような音や蒸発したような音が聴こえ、
黒い蟲が一斉に辺りを埋め尽くしたのは覚えている。
当時の自衛隊幹部、防衛省大臣からの質問攻めに
連日を送る日ばかり。
私はただ、闇雲に抵抗したと述べるしかなかった。

さらに追い打ちをかけてくる。
妻のサンセットファイアオパールは盗まれた。
留守の合間を狙われてテロリストの一味が自宅を急襲。
奇跡的に沙苗と聖夜は助かった。
以来、ヨーロッパからの刺客は来なかったが、
安堵あんどを得た。
肉体的保護としていえばそのままの意味だが、
同僚や仲間達のサポートで一時難を越せた。
だが、敵は外から来るとは限らなかった。
まだ追い打ちは逃れられずに続く。
内なる魔が背中を削ぎにくる。

「蓮くぅん、君の発した珍妙な力で海外による懸念が
 より深刻な状況ぉにまで陥っている。
 ヨーロッパからのバッシングは止まない、
 私も対応にこれでもかと大いに苦しんでいるんだが」
「・・・・・・」

防衛省に移籍した後も、国からの追及は受け続けていた。
自衛隊引退後、すぐに上り詰めていた蒔村知事に
揶揄やゆされる。(からかわれる事)
元国土交通省を親族に置いていた彼が海外による波及を
懸念され、この呼び出しが場面の一端となる。
私が発生した黒き力は十分な検証も挙げられず、
日本で大量破壊兵器を嫌疑にかけられたと挙げてきた。

「蒔村都知事、何度も申しますが私も当時の事について
 これ以上答えられません。
 何かがまとわりいたと述べるのみです」
「先日だけでも海外から60件も問い合わせがきた。
 黒の何とかやらも、説明不十分だ。
 こちらでも擁護ようごに限界があるのだから」
「では、どうしろと?」
「立場だよ、立場さえ理解してくれれば良いんだ。
 組織の移転を考えてくれないか?
 キレイに体裁をつくろうのが時代のやり方なんだから。
 国も温厚に済ませたい」
「・・・・・・」
「できれば海外への移住を推奨するよ。
 亡命の申請なら私が手配しても良いが、
 よく考えてくれたまえ」
「「くっ!」」

テロリストを撃退したのに、反動は消えずに
海外からの波及は残り続けていた。
確かに力を発動したのは自分だが、本意ではない。
都知事は辞めろと言いたいのだろう。
責任を全て自分に押し付けられた。

「検討しておきます・・・失礼します」

拳を握りしめながら退出。
Yesとは言わなかった。
この国は何か1つでも問題が起これば責任を誰かに
集中させ、絞りにくる。
しかし、これは蒔村だけに限った話ではなかった。
政治界にも腐敗が蔓延まんえんし、
自身も耐えがたきを耐え、忍び難きを忍び、
濁った界隈に居続けてきた。
自分の胸を触れ、鼓動が正常か再認識する。
さらにある現象が起こり、予想もつかない運命が
再び起きてしまう。


「「聖夜に・・・あの黒き塊が?」」

この時、結晶に覚えのある者が接してくる。
頼りになるエドワード先生に検査してもらっていた。
彼と出会ったのは1992年のテロリスト襲撃で
治療を受けた時以来。妻が出産時にも担当してくれた
間で予期せぬ出来事も生まれる。
ここで妻は影響で耐えられずに死亡。
幸運にも聖夜は助かった。
しかし、先生は意外な話を伝えにくる。
そこでは予想もつかない真実が待ち受けていた。

「結論から伝えよう、君はダイアモンドの適性がある。
 世界でも極稀にしか存在しない強大な性質だ」
「私がダイアの力を?」

突然伝えられた鉱石に直ぐ納得は頭に収められなかった。
私はダイアモンドの適性、ACでも非常に高いものが
体内に宿ると言われた。それ自体は分かるが、
何故それが私の体内に宿っていたのか。
続きをうかがうと先の事件から判明したらしい。

「急患で君が運ばれてきた時に握っていたのは
 ブラックダイアモンド。だが、君自身は反対の
 性質となるダイアモンドの適性なのだ。
 無関係ならば手にしても反応は起こらない、
 もしやと思って検査したら判明できたのだ。
 それは間違いないのだな?」
「確かに、奇襲を受けて妙な黒い物は手にしました。
 もちろん当初から用いる気などあるはずもなく」
「君はテロリストの奇襲時に手に入れたのだろう?
 そうか・・・ならば双方の起因は必然的に?
 考えられるとすれば生命の消失の激しい領域に
 出現したのかもしれない」
「ええ、当時はどうして側にあったのかは分からず。
 わらをもつかむ思いで握りしめていました」
「ふむ、そうか・・・私の見解ではダイアモンドの
 性質は相当強力なもの。留めるだけの制御も難しく、
 力を奮い続ければ大きな反動が生じるだろう」
「ですが、力がなければ己の身すら守れません。
 気概だけでこなせる事ばかりではないんです・・・
 サンセットファイアオパールも――」
「気持ちは理解できる。
 君は力があれば身を守れると思っている。
 しかし、それがあっても身をほろぼす者もいる」
「・・・・・・」

私のACは世界でも比類なき分類のもの。
神来杜と縁を結べた理由もここでようやく分かる。
今さらこんな目に遭ったからどうこう言っても遅い。
橙色の結晶も妻がいなければ保有する意味も失い、
数年の時を進めていった。
しばらくの自問自答の日々が続く。

以来、先生との付き合いがここから始まる。
立場云々うんぬんでもなく、完全に個人としての事で
他においても様々な話を教えてもらっていた。

「人の意思と結晶がお互いに関わり合うのは
 どちらも凝結現象から寄せられたものだから?」
「うむ、意識とはこの世界からすれば電気的信号の
 様で結晶は無線機器の役割をもつ。仮説ではあるが、
 金属質には+-の性質を超越する可能性をもち、
 空間を省略する程に遠隔操作できるようだ」
「確かに人間が造った無線通信も電気を信号化して、
 離れた相手に連絡できます。ACはさらに高い性質で
 精神やエネルギーのやりとりができるわけですか。
 中に文字が刻まれているだけで・・・原理がまるで」
「そうだな、私でも全て解明ができておらん。
 一応、私的には存在の硬質化と呼称している。
 君にとって成すべき事は平和への理念を保つ事。
 献身的にこそ、
 永く争わぬ安泰あんたいを得られる事があるのだ。
 徳川家康のようにな」
「硬質化・・・」

この時は先生の言葉の意味がよく理解できなかった。
防衛省直下で常にもち続けろという献身的構え、
身を固める意味は風習でお互い結束しろといった
言い方をしていたに違いない。
安泰、誰よりも強く願っているのは自分だ。
現に、家を奇襲されて息子、娘を危険な目に遭わせたので
無力は恥だと私の時代で特に教え込まされた。
話ではヨーロッパ出身で高度経済成長期において
派遣参加してきたらしく、初めて会った時から日本語も
上手に話していた。ACへの見識も相当高く、
何かを追究しているらしいが動機はよく分からない。
安定化を徳川家康に置き換えたつもりなのか。
先生は話題を変える。

「先の質問の答えだ、志の高さこそより高質なACが
 身に宿るだろうと思う。ダイアモンド、実在する
 それもモース硬度10と最高クラスである。
 もちろん、きちんと証明できたわけでない。
 推論の域だが、私の観点から人の強き思念、
 意思の固さが異界の者に選ばれた可能性もある」
「・・・・・・」
「当時、君が黒き物を手にしたのはやはり偶然。
 光と闇の相互関係としか言いようがない。
 共有結晶による硬度が君の理念や思想に
 相反しつつも同質として反応したかもしれん」
「「私は・・・内心、混沌を望んでいたと?」」
「そうとは限らん、同質が同時に出現したかもしれん。
 後、もう1つ伝えなけれならない事がある。
 特に光と闇はAC界において非常に大きな性質で、
 さらに相反する傾向が強いのが分かった。
 周囲に多大なる影響を及ぼすだろう」
「なんですって!?」
「元々、ダイアが対になる所以もまったくつかめてないが、
 以上の関連性はみえないものの、
 君と息子をそばに居続けるのも危険性が高い。
 例の物はまだ体内に保有させておるのだろう?
 いつ、反発し合うか想定できんのだ」
「「なんという、なんという事だ・・・」」

ここで重大な話を宣告されるとは思いもよらなかった。
テロリストが晃京の港から来たのも理由があると言う。
サンセットファイアオパールを強奪しにきただけではなく、
国の中枢が関与する、とある逸物にあるという。

「後1つ気になっていたのだが、テロリストがどこを
 目標に狙っていたか。何故、縦浜にわざわざ来たのか
 気掛かりとなるところもある」
「そこですが、未だ特定できておりません。
 私の家が襲撃されたのもACが狙いだったようですが、
 金銭で貴金属を目当てにしていたとは思えなくて」
「うむ、確かにAC価値のある物が優先だろう。
 開発途中だが、X線のAC反応でおよその範囲を
 探してみた。これを観てみたまえ。
 調べてみると、重要区画が設置されているようだが?」
「まさか、ここは・・・晃京駅!?」
「テロリストが目指していたのはおそらくこの辺り、
 晃京地下施設ではないかと推測される。
 地下鉄の一角で入れぬ所はないか?」
「あそこは確か政府関係者しか入れない区画が。
 私も知りませんが、何の?」
「先に歴史の人物を挙げた所以がそこにある。
 徳川埋蔵金という伝説があるのだろう?
 そういった類の資源を調達しにきた可能性がある」
「内閣が・・・」

先生は国が資金を捻出する思惑を示唆しさした。
いざ、不景気が長引いても財政が保てている理由が。
だが、文化財保護法を資金に企てる事は禁じられている。
あらかじめ、内閣が、独占を。

「妻も似たような事を言っていた・・・。
 財源確保を文化財から・・・なんという事だ、
 すぐに通達を――!」
「待つのだ、私から伝えておく。
 君が報告すると後々の立場に響く。
 地層の見解から歪な理があると示唆しさする。
 地熱を装って高温石英を設置しておこう」

直接的な指摘だと隠蔽、隔離される。
国債の負担は地下から捻出していたのか。
いにしえの財源でまかない、来ると知っていた
不況を結晶の原価で自身の世代を凌ごうと、
いや、やり過ごそうとするつもりだ。

「何かしら検知技術をもつヨーロッパの者達が
 日本の隠蔽を暴き、横領しにきたのだろう。
 と推定すれば合致しやすい」
「「盲点だった・・・関連するのは国土交通省。
  おそらく都知事も現地を熟知しているはず。
  身の保全を最優先として不透明を生み出していた。
  内も外も・・・上も下も」」
「晃京に限る話でもないがね。
 知識者程、安全圏を保有する蓑を欲しがるもの」
「守りの要が腐りだし、理念の持ちようが定まらなく。
 私はどうすれば?」
「その点については君は気にしなくて良い。
 出来る限り睡眠時間を多くとるようにしなさい」
「わ、分かりました」

いずれは家族という塊もなくなると思うと、
大きな空洞が開けられるような気がする。
本来なら戻らなければならない家に、
脚が思う様に動かしにくく躊躇ためらいが強まってゆく。
沙苗に連絡して今日は病院に泊まる事にした。
特別待遇的な1日入院。
特別扱いは私も同じのようだ。
就寝灯だけは付けてもらい、寝台で横になる。
暗闇は相も変わらず慣れない。


自分は時々奇妙な夢ばかり見る。
夜のはずなのに、異様に空が明るかったり、
昼のはずなのに、空が暗かったりする。
月が太陽の様に明るく、太陽が光を失ったかの様に
セピア色になったりする。
浅い眠りに起こる意識の混濁こんだくが、
対の反転を真逆に交わらせて流れてゆく。


起きた。
意識は現実へと引き戻される、私がここにいるのは
紛れもなく事実。れっきとした地球の住人で、
それぞれの役目を果たすために生きている。
今日は都内の巡回で自ら視察する予定。
そして、晃京内を歩き、守るべき対象者を見回る。
数人のSPに警護されながら街を歩く。

「やってらんねーからバイトバックレた
 ●●に出演しただけで30万稼いじゃった
 あのサイトが気に入らない、荒らしてやる
 市県民税なんて払う意味あるの?
 ナマポもらってりゃ、安泰じゃね?
 今月はCD50枚買った、これでもっと認知してくれる」

周囲の雑音。
街の様子、雰囲気は人々で溢れるものの、音に違和感。
視察研修は義務感がこじれるように思惑する。
度々耳に入るそれらの内容はきくにえない。
守られる者の言葉は私のかんに障るなどと軽いものでない。
堕落、腐敗、負の思念ばかり混ざる様な内容の中で、
支えるべき民が軽く視えてくる。
死ぬ気の代償があまりにも失望へ塗り替わってゆく。
今まで何をしてきたのだろう、発展の先がこんな事で
命を賭ける意味がそこにあるのか。
発展させる道理があるのか。
諭してゆく潤滑があるのか。










  この世界は本当に守る価値があるのだろうか
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