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具現者2
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主任は荘厳なエリアに場違いな存在がいると言った。
悪魔と最も無縁であるはずのアヴィリオス教会に
いてはならないモノが在ると指摘。
具体的に何がいるのかまでは聞かされていないが、
強力な反応と言われて胸が引ける。
応援を呼ぼうにも、カロリーナも厘香も郷もいない。
1人だけで大丈夫なのかと身が留まりかけるも、
任務は任務と一度決めたはずだ。
正倉院家でも聞いた上級悪魔の存在で、
まともに対抗できないようではオリハルコンオーダーズの
足元にすら及べない。
手の内は全て読めなくても、手掛かりや突破口を
少しでも多く知るために足を動かす。
教会にいるのが不明だけど、
半信半疑ながら聖の集い場に歩を進めていった。
教会に到着する。
日本でも有数なアヴィリオス家はいつ見ても雰囲気が違う。
何度ここに来たのだろうか、ホール内の荘厳な様式は
敷地をくぐる度に海外に来た様な感じがする。
マナ達もいないのに確信がもてない間の中で
どの道自分がやらなければならないのは変わらない。
人に紛れた何かを暴くために。
「度々おじゃまします、聖夜ですけど?」
どういうわけか、シスター達もいない。
まさかと思うが、彼女達が生贄にされたなんて
少しも思いたくはない。
いつものように正面の扉を開けて内へ入る。
パッと見で誰もいない、と思ったがいなや1人の女性。
修道院長が中央で立っていた。
「ロザリアさん?」
マナとジネヴラの母、ロザリアさんだ。
今日は珍しく彼女が1人だけでたたずんでいて、
用件を聞く寸前に意外な言葉を発した。
「待っていたわ、聖夜君」
「待っていたって・・・事前に連絡してなかったはず。
他の人達はどうしたんですか?」
「席を外してもらっているの。
あなたと私だけで話し合う大事なものだから・・・」
大事、というのはどことなく常識から離れた内容だと
何となく予想し始めてくる。
主任がわざわざここに連絡しにきたはずもない。
いや、彼女ならすでに自分がここに来るくらい
ACの性質などで知っているだろう。
「まずはこちらから正直に言わせてもらいます。
あなたは・・・あなたも人の類じゃないと」
「・・・・・・」
沈黙の後に体系が変形。
彼女は背中からコウモリの様な羽を伸ばし、
教会ホールの中心部に浮かび上がる。
答えを発言する前に体で自ら表現した。
「ロザリアさん・・・どうして教会に?
悪魔が人に導きでもしているんですか?」
「悪魔なんて呼び方はやめてほしいわ。
ただ、ほんの少しだけ生態系が異なる差だけ。
私達も彼方の星で生きている住人なのよ?」
「・・・星?」
まるで異星人ですと言いたげなテーマだ。
それが本当なのかは定かではないけど、
彼女の姿を見て噓と思う方が難しい。
「住民の姿形は様々だけど、この世界でいう幾何学。
凝縮された金属連結が異種間と通信し合う手段として
あなた達はACを利用しているの」
星と言ったのは単に居住区の1つとして、
お互いに離れた宇宙空間を行き来。
つまり、悪魔の住処は結晶の中ではなく、
結晶をトンネルとした別世界とエネルギーや性質の
やりとりをするための連携役の一部だったのだ。
「違う世界の住民・・・なるほど。
結晶には宇宙から何かを直通させる仕組みがある。
郷や沫刃みたいな人と重なるように融合して、
密かにこっちへ侵略しようとしているんでしょう?」
「もう何年経ったかしら。
向こうの世界はとても退屈で、
植物の様な生産をひたすら繰り返すだけ」
「まるで、オモチャの様な言い方ですね。
向こうの世界でこれといった目的もなく、
次はここを狙いにきたわけですか?」
「少なくとも、私は侵略するつもりはないの。
繫殖という性のルールに則った上、
種の保存と増殖を願うだけ。
この国でいう殿方に尽くしてきたのよ?」
「殿方?」
女性的な立場をわきまえたかのような説明。
オスの種を収集し、他の星へ送り込み植え直して
ひたすら繁栄を続けてきたらしい。
「あなた達人間も原理はこちらと同じ。
人も元は異界の従者と同じなのだから」
「どういう事ですか!?」
地球は始めから生物がいなかった。
基本的な骨格を基本から、有機物の発達がどう変わるか
環境の違いなどを調べて歴史の影から見守る。
内の1人であるロザリアさんは自身の身体をまるごと
こちらに移動させてオスの種を吸収し続けてきた。
水晶のドクロを手にして続きを語る。
「例えばこの頭部、私が人間に伝えた技術で
型取りするよう作成させた物なの」
「体の特徴があんたらと一緒だからか。
退治してきた“型”はそっちの形が始まりで、
動物型も元々は他の・・・」
「人間、もとい生物は最初から地球という星にいない。
種を育てるために別の星から来たものよ」
「種の始まり?」
「遥か大昔、時の繁栄者はシードマスターを放出させた。
マグマから海に変わろうとも、生物の棲む器のみで
種がなければ命も育めない」
ただ、種を蒔いて終わりではない。
発芽の後も管理を行う必要もあり、
複合体より発する地を発展させようとした。
「そして、私は促成役としてここに君臨してきた。
男根をより大きく、さらに強くさせるために
オスの中にある概念を増大させようとした」
「オスの中にあるもの?」
「アニマとよばれる精神からもたらす生理事象。
男性の無意識の中にある女性の理想像。
貴方がたに夢を与えるために存在しているの」
近年より、理想像は薄まって根は弱まり始めているらしく、
また反意に乱れ始めて繁栄は衰退の一途をたどっていた。
この供述によって彼女の素性は明かされた。
ロザリアさんの正体はコウモリ型の大淫婦。
能力や志の高い男に憑りつき、
遺伝子の含むタンパク質を摂取する悪魔である。
「だから今回、あなたと密約をしたくてお話したの。
異界の私からみても、あなたのAC適合は素晴らしい。
誰よりも硬く、強固な結晶は大変希少」
「・・・・・・」
「あなたの妾になりたい。
ワタシの伴侶にならない?
ならば、私の事を好きなようにして良いわよ?」
「申し訳ありません、俺はこんなのでも人間です。
まだ18で番の相手とか考えたくありません。
家で姉も何て言われるか分かりませんし。
それに、あなたの旦那であるロストフさんを
蔑ろにしたくもありません」
「そんな事、関係ないわ。
あの人も、私が歴代の有権者達を相手にしてきた
事くらいは知っている。
貴方と体のお付き合いしても、
あの人は何も咎めたりしないわ」
「あります。
人間の男女間は動物にはないルールがあって、
結婚した者は他の異性に介入するのは許されません」
「ふぅ・・・」
「俺があなたにくっついたら、周りから何されるのか。
マナやジネヴラさんにも合わせる顔が」
「娘達は承認してくれるわ。
教会のシキタリとして行えば大きな問題にならない。
あらゆる行事を取り仕切るここの最高責任者は私。
ねえ、お願いよ?」
「なんというか、堪えて下さい。
あんまりニッチな話で困ります!」
「そう思うの?
貞操観念を大事にしすぎてるわ。
では、見せてもらおうかしら。
貴方の中にあるアニマを・・・」
ロザリアさんは手に持つ水晶を突き出して、
微笑の顔が周囲から消えてゆく。
背景は全て白くなり、空間を醸し出すと
マナ、厘香、カロリーナの姿が現れた。
「聖夜さん」
「聖夜君」
「聖夜」
聖夜の前に映っていたのは3人の姿。
無意識にあるのは彼女達だった。
笑顔で寄り添って抱きついてくる。
これが無意識で望んでいたものなのか。
足元がふらついてきた瞬間、
所持していたはずの何かが眩く光を放った。
バリンッ
「キャアッ!?」
「えっ!?」
視界全体がガラスの破片の様に飛び散る。
わずか1m先にはコウモリの様な羽の姿。
実際に抱きついていたのはロザリア本人だった。
すぐ側で叫び声をあげた彼女はおののき、
よく見ると、収納ACの中に異変が起きていた。
「「マリアライトが光っている!?」」
ヘヴンズツリーで電気を供給されていた結晶が
装着して幻惑させる効果を打ち破ってくれた。
この力で視界を正常化させたようで、
最初に手にしていた時はこれといった反応もないACが
このタイミングで光を放ったのは分からないが、
彼女の幻から解除することができた。
ただ、退魔的な作用をもたらした様子だけは認識できて
企みから無事逃れられた。
「その光・・・何故あなたが持っているの!?」
「ヘヴンズツリーで入手しただけです。」
彼女にとって、すでに知っているような発言をして
自分勝手に驚く。
教会、いや、上級悪魔が気付けない作用をもつ何かで、
何者かがヘヴンズツリーに仕込んでいたのか。
自分が所持していたのは予想ついていなかったようで、
この期に及んでも、まだ自分が欲しいと乞う。
「少し予定が変わったけど、目的は続けさせてもらうわ。
こんなにムズムズしたのは初めてよ。
私はもう我慢できないの・・・聖夜君」
「成敗させてもらいます。
あなたはあくまでも悪魔。
生贄になるなんて断固拒否します!」
「・・・仕方ないわ。
ならば、否応なしでも種を頂くわ」
ACからクラーレを引き抜く。
生物なら、毒で弱らせて後で確保した方が無難だろう。
だが、魔物といえどもマナの母親。
本人不在で戦わなければならない事が皮肉だが、
ここから逃げられそうもなく、携帯で連絡できる隙がない。
頼りにできるのはいつも懐の刃だけだ。
身なり通りに俊敏な動きで迫って来る。
しかし、振った瞬間、姿が消えた。
(分身か)
本体は上部にいる方のまま。
このホールは天井が高く、完全な防音室で
大声で叫んでも外に漏れないから、誰かが気付く事もない。
いや、ロザリアがあえて近づけさせていないので、
孤立無援の状態だ。
元から1人で来たから当然、クラーレも効きそうにない。
対して、彼女はなにがなんでも自分に近づきたい。
何を求めているのかなんて知る由もないが、
3人の援護を無駄にする事だけは避けたかった。
「身を委ねなさい!」
突進してきたところをピエトラで斬る、幻だった。
ラーナに切り替えたくも、スピードの速い相手に
効かないのは以前の悪魔で分かっている。
そして、相手もいずれこちらに接近するので
リビアングラスで背後に反射。
読まれていたかのように、滑空してスライディング。
足払いを受けて浮いたところを掴まれた。
女性の腕力と思えない程凄まじく抱きしめてくる。
「が、ぐぐぐ・・・!」
「最初に会った時から普通ではないと思ってたけど、
まさか、あの適性者だったなんて・・・」
「あのって、何ですか!?」
「稀に世界各地で誕生する高純度な存在よ。
身体はこんなに幼いのに、本当にカワイイ子」
自分の素質を知っている発言。
できればそれも聞きたいところだが、こんな状況で
細かく聞いている場合じゃない。
彼女が顔を自分の胸にうずめてきた。
血でも吸い取ろうというのか、
適性の何かを吸い取られるとうろたえかけた時、
所持品から何か変化した様子が現れた。
(ミストルティンが!?)
収納していた木刀が光ったのが分かった。
ささやかな反応か、彼女は気付いていない。
「「すいません、あなた方悪魔にも欲があるだろうけど、
人間にも最低限守るものがあるんです。
この世界からお引き取り下さい」」
「うっ!?」
今を見逃さずに軽くなりかけた光剣を横に払い、
ロザリアの身体を切り裂いた。
「ギャアァァ!」
彼女の身体は散り散りになり、霧散して
次第に姿を消失させていった。
「ぐっ!」
片方の膝を床につく。
直接傷を負ったわけではなかったが、
度肝が抜けてゆく様な気怠さがのしかかる。
幻覚とはいえ、3人の姿があった事に胸がムズムズした。
自分の中には3人のアニマ。
確かにあの人の言う通り、口には出さずとも
無意識から意識していたのかもしれない。
好かれたい、結ばれたい、愛されたい。
他の男の介入を許さない思惑があったのだ。
誰かに見透かされたのが恥ずかしいどころか、
正直さが裏取りされた感じが悔しい。
今度会った時、どんな顔をすれば良いのか迷いかける。
頭がぼうっとした。
それもあるが、ミストルティンが一瞬だけ光っていた。
こんな時に光っている理由は分からなかったが、
すぐに消えてしまい、また重たくなってしまう。
いまいちつかみどころ、扱いどころの難しい性質に
黒に近い茶色の刃を見とれていると、1人入ってきた。
「ロザリアも終焉を迎えたか・・・」
ロストフさんが入ってくる。
成り行きとはいえ、妻との交戦に言葉が詰まってしまう。
「ロストフさん・・・これは・・・その」
「先の通り、ロザリアはこの世界の者ではない。
結晶から人を媒介せずに出現してきた存在だ」
自ら這い出てきた種類もいるなんて驚きも良いとこだが、
大事でもないような言い方で始末を取ろうとする。
司教はロザリアの亡骸をAC内に収める。
「まだ心のどこかで納得していないようです。
人が他の星から来たなんて・・・」
「これは変えようのない事実。
どうやら、我々もどこか遠い星から来た者達。
人間が牧場で動物を育てるのと変わらん」
「人の歴史って数千年くらいあるらしいですけど、
あの人はいつから?」
「約400年と聞いている。
私より遥か昔から生きていた者だ」
「400歳も生きていたんですか!?」
彼女の発言に真実味が増してくる。
これは長年にわたって教会が秘匿し続けてきた
ミッシングヒストリー。
生物という解釈は宗教の世界では捻じ曲げられる。
しかし、全てが作り話の絵空事でもなく、
曲解された逸話の中に真実がひっそりと置かれてきた。
「既得権益も確かであるが、異質なオーパーツも
内密に治めてゆく必要があった。
宗教とはそういったもの。
権力維持で異界との交流を行ってきたのだ。」
「それらの一部が日本に」
「そうだ、私も1人の人間。
生物としての機能を備えた存在だ。
彼女を代々から・・・聞こえは良くないが
妾のように相手をしてきた」
「だから、悪魔から生まれた者が適性をもつのか。
マナ、ジネヴラさんも異界の・・・なら俺も」
「娘達は我々と同じ人間だ、悪魔ではない」
「えっ?」
「2人は養子だ。
生まれてから両親は事故で失い、
身寄りのなくなった先で教会が引き取った。
同様、私の実子でもない」
「なら、なおさら安否が気になります。
2人はどこにいるんですか?」
「分からない、私のクォーツでも検知できん。
考えられるとしたら、オリハルコンオーダーズの
元にいる可能性も・・・」
彼は首を横に振る。
敵陣にさらわれたのかもしれない。
父としての危惧は当然であるが、
足も悪く、警察も証拠なしに動きそうになかった。
「私も君の成長の機会を伺ってきた。
これを持っていきなさい」
「これは?」
リバーストーンとよばれる白いACを受け取った。
司教自ら何かを与えられるなんて、思いもよらずに
いつの間にか不意に手を出してしまう。
「生命を脅かす身の危険に遭った時、
この結晶が力を貸してくれるだろう」
「あ、ありがとうございます」
すごい人からもらったというのが印象的だけど、
断るのも忍びない。
外見は普通の研磨された八角形の結晶だけど、
相当な性質をもつのだろう。
司教は上向きで自分を見つめ、言った。
「話は以上だ。
私自身、君に期待もしている」
「・・・・・・」
「如何なる由縁があれ、
人と悪魔との融合を防がねばならん。
ロザリアのような悲劇を繰り返さんためにも・・・」
まだ他にも身近に潜んでいる可能性もある。
自分で確認する術はなく、主任の知らせを待つ他に
どうにもできなかった。
日頃の活躍でここが狙われた線もありえる。
マナとジネヴラさんが一刻も早く見つかるのを
心底願いつつ、教会を後にした。
(2人共、無事でいてくれ・・・)
悪魔と最も無縁であるはずのアヴィリオス教会に
いてはならないモノが在ると指摘。
具体的に何がいるのかまでは聞かされていないが、
強力な反応と言われて胸が引ける。
応援を呼ぼうにも、カロリーナも厘香も郷もいない。
1人だけで大丈夫なのかと身が留まりかけるも、
任務は任務と一度決めたはずだ。
正倉院家でも聞いた上級悪魔の存在で、
まともに対抗できないようではオリハルコンオーダーズの
足元にすら及べない。
手の内は全て読めなくても、手掛かりや突破口を
少しでも多く知るために足を動かす。
教会にいるのが不明だけど、
半信半疑ながら聖の集い場に歩を進めていった。
教会に到着する。
日本でも有数なアヴィリオス家はいつ見ても雰囲気が違う。
何度ここに来たのだろうか、ホール内の荘厳な様式は
敷地をくぐる度に海外に来た様な感じがする。
マナ達もいないのに確信がもてない間の中で
どの道自分がやらなければならないのは変わらない。
人に紛れた何かを暴くために。
「度々おじゃまします、聖夜ですけど?」
どういうわけか、シスター達もいない。
まさかと思うが、彼女達が生贄にされたなんて
少しも思いたくはない。
いつものように正面の扉を開けて内へ入る。
パッと見で誰もいない、と思ったがいなや1人の女性。
修道院長が中央で立っていた。
「ロザリアさん?」
マナとジネヴラの母、ロザリアさんだ。
今日は珍しく彼女が1人だけでたたずんでいて、
用件を聞く寸前に意外な言葉を発した。
「待っていたわ、聖夜君」
「待っていたって・・・事前に連絡してなかったはず。
他の人達はどうしたんですか?」
「席を外してもらっているの。
あなたと私だけで話し合う大事なものだから・・・」
大事、というのはどことなく常識から離れた内容だと
何となく予想し始めてくる。
主任がわざわざここに連絡しにきたはずもない。
いや、彼女ならすでに自分がここに来るくらい
ACの性質などで知っているだろう。
「まずはこちらから正直に言わせてもらいます。
あなたは・・・あなたも人の類じゃないと」
「・・・・・・」
沈黙の後に体系が変形。
彼女は背中からコウモリの様な羽を伸ばし、
教会ホールの中心部に浮かび上がる。
答えを発言する前に体で自ら表現した。
「ロザリアさん・・・どうして教会に?
悪魔が人に導きでもしているんですか?」
「悪魔なんて呼び方はやめてほしいわ。
ただ、ほんの少しだけ生態系が異なる差だけ。
私達も彼方の星で生きている住人なのよ?」
「・・・星?」
まるで異星人ですと言いたげなテーマだ。
それが本当なのかは定かではないけど、
彼女の姿を見て噓と思う方が難しい。
「住民の姿形は様々だけど、この世界でいう幾何学。
凝縮された金属連結が異種間と通信し合う手段として
あなた達はACを利用しているの」
星と言ったのは単に居住区の1つとして、
お互いに離れた宇宙空間を行き来。
つまり、悪魔の住処は結晶の中ではなく、
結晶をトンネルとした別世界とエネルギーや性質の
やりとりをするための連携役の一部だったのだ。
「違う世界の住民・・・なるほど。
結晶には宇宙から何かを直通させる仕組みがある。
郷や沫刃みたいな人と重なるように融合して、
密かにこっちへ侵略しようとしているんでしょう?」
「もう何年経ったかしら。
向こうの世界はとても退屈で、
植物の様な生産をひたすら繰り返すだけ」
「まるで、オモチャの様な言い方ですね。
向こうの世界でこれといった目的もなく、
次はここを狙いにきたわけですか?」
「少なくとも、私は侵略するつもりはないの。
繫殖という性のルールに則った上、
種の保存と増殖を願うだけ。
この国でいう殿方に尽くしてきたのよ?」
「殿方?」
女性的な立場をわきまえたかのような説明。
オスの種を収集し、他の星へ送り込み植え直して
ひたすら繁栄を続けてきたらしい。
「あなた達人間も原理はこちらと同じ。
人も元は異界の従者と同じなのだから」
「どういう事ですか!?」
地球は始めから生物がいなかった。
基本的な骨格を基本から、有機物の発達がどう変わるか
環境の違いなどを調べて歴史の影から見守る。
内の1人であるロザリアさんは自身の身体をまるごと
こちらに移動させてオスの種を吸収し続けてきた。
水晶のドクロを手にして続きを語る。
「例えばこの頭部、私が人間に伝えた技術で
型取りするよう作成させた物なの」
「体の特徴があんたらと一緒だからか。
退治してきた“型”はそっちの形が始まりで、
動物型も元々は他の・・・」
「人間、もとい生物は最初から地球という星にいない。
種を育てるために別の星から来たものよ」
「種の始まり?」
「遥か大昔、時の繁栄者はシードマスターを放出させた。
マグマから海に変わろうとも、生物の棲む器のみで
種がなければ命も育めない」
ただ、種を蒔いて終わりではない。
発芽の後も管理を行う必要もあり、
複合体より発する地を発展させようとした。
「そして、私は促成役としてここに君臨してきた。
男根をより大きく、さらに強くさせるために
オスの中にある概念を増大させようとした」
「オスの中にあるもの?」
「アニマとよばれる精神からもたらす生理事象。
男性の無意識の中にある女性の理想像。
貴方がたに夢を与えるために存在しているの」
近年より、理想像は薄まって根は弱まり始めているらしく、
また反意に乱れ始めて繁栄は衰退の一途をたどっていた。
この供述によって彼女の素性は明かされた。
ロザリアさんの正体はコウモリ型の大淫婦。
能力や志の高い男に憑りつき、
遺伝子の含むタンパク質を摂取する悪魔である。
「だから今回、あなたと密約をしたくてお話したの。
異界の私からみても、あなたのAC適合は素晴らしい。
誰よりも硬く、強固な結晶は大変希少」
「・・・・・・」
「あなたの妾になりたい。
ワタシの伴侶にならない?
ならば、私の事を好きなようにして良いわよ?」
「申し訳ありません、俺はこんなのでも人間です。
まだ18で番の相手とか考えたくありません。
家で姉も何て言われるか分かりませんし。
それに、あなたの旦那であるロストフさんを
蔑ろにしたくもありません」
「そんな事、関係ないわ。
あの人も、私が歴代の有権者達を相手にしてきた
事くらいは知っている。
貴方と体のお付き合いしても、
あの人は何も咎めたりしないわ」
「あります。
人間の男女間は動物にはないルールがあって、
結婚した者は他の異性に介入するのは許されません」
「ふぅ・・・」
「俺があなたにくっついたら、周りから何されるのか。
マナやジネヴラさんにも合わせる顔が」
「娘達は承認してくれるわ。
教会のシキタリとして行えば大きな問題にならない。
あらゆる行事を取り仕切るここの最高責任者は私。
ねえ、お願いよ?」
「なんというか、堪えて下さい。
あんまりニッチな話で困ります!」
「そう思うの?
貞操観念を大事にしすぎてるわ。
では、見せてもらおうかしら。
貴方の中にあるアニマを・・・」
ロザリアさんは手に持つ水晶を突き出して、
微笑の顔が周囲から消えてゆく。
背景は全て白くなり、空間を醸し出すと
マナ、厘香、カロリーナの姿が現れた。
「聖夜さん」
「聖夜君」
「聖夜」
聖夜の前に映っていたのは3人の姿。
無意識にあるのは彼女達だった。
笑顔で寄り添って抱きついてくる。
これが無意識で望んでいたものなのか。
足元がふらついてきた瞬間、
所持していたはずの何かが眩く光を放った。
バリンッ
「キャアッ!?」
「えっ!?」
視界全体がガラスの破片の様に飛び散る。
わずか1m先にはコウモリの様な羽の姿。
実際に抱きついていたのはロザリア本人だった。
すぐ側で叫び声をあげた彼女はおののき、
よく見ると、収納ACの中に異変が起きていた。
「「マリアライトが光っている!?」」
ヘヴンズツリーで電気を供給されていた結晶が
装着して幻惑させる効果を打ち破ってくれた。
この力で視界を正常化させたようで、
最初に手にしていた時はこれといった反応もないACが
このタイミングで光を放ったのは分からないが、
彼女の幻から解除することができた。
ただ、退魔的な作用をもたらした様子だけは認識できて
企みから無事逃れられた。
「その光・・・何故あなたが持っているの!?」
「ヘヴンズツリーで入手しただけです。」
彼女にとって、すでに知っているような発言をして
自分勝手に驚く。
教会、いや、上級悪魔が気付けない作用をもつ何かで、
何者かがヘヴンズツリーに仕込んでいたのか。
自分が所持していたのは予想ついていなかったようで、
この期に及んでも、まだ自分が欲しいと乞う。
「少し予定が変わったけど、目的は続けさせてもらうわ。
こんなにムズムズしたのは初めてよ。
私はもう我慢できないの・・・聖夜君」
「成敗させてもらいます。
あなたはあくまでも悪魔。
生贄になるなんて断固拒否します!」
「・・・仕方ないわ。
ならば、否応なしでも種を頂くわ」
ACからクラーレを引き抜く。
生物なら、毒で弱らせて後で確保した方が無難だろう。
だが、魔物といえどもマナの母親。
本人不在で戦わなければならない事が皮肉だが、
ここから逃げられそうもなく、携帯で連絡できる隙がない。
頼りにできるのはいつも懐の刃だけだ。
身なり通りに俊敏な動きで迫って来る。
しかし、振った瞬間、姿が消えた。
(分身か)
本体は上部にいる方のまま。
このホールは天井が高く、完全な防音室で
大声で叫んでも外に漏れないから、誰かが気付く事もない。
いや、ロザリアがあえて近づけさせていないので、
孤立無援の状態だ。
元から1人で来たから当然、クラーレも効きそうにない。
対して、彼女はなにがなんでも自分に近づきたい。
何を求めているのかなんて知る由もないが、
3人の援護を無駄にする事だけは避けたかった。
「身を委ねなさい!」
突進してきたところをピエトラで斬る、幻だった。
ラーナに切り替えたくも、スピードの速い相手に
効かないのは以前の悪魔で分かっている。
そして、相手もいずれこちらに接近するので
リビアングラスで背後に反射。
読まれていたかのように、滑空してスライディング。
足払いを受けて浮いたところを掴まれた。
女性の腕力と思えない程凄まじく抱きしめてくる。
「が、ぐぐぐ・・・!」
「最初に会った時から普通ではないと思ってたけど、
まさか、あの適性者だったなんて・・・」
「あのって、何ですか!?」
「稀に世界各地で誕生する高純度な存在よ。
身体はこんなに幼いのに、本当にカワイイ子」
自分の素質を知っている発言。
できればそれも聞きたいところだが、こんな状況で
細かく聞いている場合じゃない。
彼女が顔を自分の胸にうずめてきた。
血でも吸い取ろうというのか、
適性の何かを吸い取られるとうろたえかけた時、
所持品から何か変化した様子が現れた。
(ミストルティンが!?)
収納していた木刀が光ったのが分かった。
ささやかな反応か、彼女は気付いていない。
「「すいません、あなた方悪魔にも欲があるだろうけど、
人間にも最低限守るものがあるんです。
この世界からお引き取り下さい」」
「うっ!?」
今を見逃さずに軽くなりかけた光剣を横に払い、
ロザリアの身体を切り裂いた。
「ギャアァァ!」
彼女の身体は散り散りになり、霧散して
次第に姿を消失させていった。
「ぐっ!」
片方の膝を床につく。
直接傷を負ったわけではなかったが、
度肝が抜けてゆく様な気怠さがのしかかる。
幻覚とはいえ、3人の姿があった事に胸がムズムズした。
自分の中には3人のアニマ。
確かにあの人の言う通り、口には出さずとも
無意識から意識していたのかもしれない。
好かれたい、結ばれたい、愛されたい。
他の男の介入を許さない思惑があったのだ。
誰かに見透かされたのが恥ずかしいどころか、
正直さが裏取りされた感じが悔しい。
今度会った時、どんな顔をすれば良いのか迷いかける。
頭がぼうっとした。
それもあるが、ミストルティンが一瞬だけ光っていた。
こんな時に光っている理由は分からなかったが、
すぐに消えてしまい、また重たくなってしまう。
いまいちつかみどころ、扱いどころの難しい性質に
黒に近い茶色の刃を見とれていると、1人入ってきた。
「ロザリアも終焉を迎えたか・・・」
ロストフさんが入ってくる。
成り行きとはいえ、妻との交戦に言葉が詰まってしまう。
「ロストフさん・・・これは・・・その」
「先の通り、ロザリアはこの世界の者ではない。
結晶から人を媒介せずに出現してきた存在だ」
自ら這い出てきた種類もいるなんて驚きも良いとこだが、
大事でもないような言い方で始末を取ろうとする。
司教はロザリアの亡骸をAC内に収める。
「まだ心のどこかで納得していないようです。
人が他の星から来たなんて・・・」
「これは変えようのない事実。
どうやら、我々もどこか遠い星から来た者達。
人間が牧場で動物を育てるのと変わらん」
「人の歴史って数千年くらいあるらしいですけど、
あの人はいつから?」
「約400年と聞いている。
私より遥か昔から生きていた者だ」
「400歳も生きていたんですか!?」
彼女の発言に真実味が増してくる。
これは長年にわたって教会が秘匿し続けてきた
ミッシングヒストリー。
生物という解釈は宗教の世界では捻じ曲げられる。
しかし、全てが作り話の絵空事でもなく、
曲解された逸話の中に真実がひっそりと置かれてきた。
「既得権益も確かであるが、異質なオーパーツも
内密に治めてゆく必要があった。
宗教とはそういったもの。
権力維持で異界との交流を行ってきたのだ。」
「それらの一部が日本に」
「そうだ、私も1人の人間。
生物としての機能を備えた存在だ。
彼女を代々から・・・聞こえは良くないが
妾のように相手をしてきた」
「だから、悪魔から生まれた者が適性をもつのか。
マナ、ジネヴラさんも異界の・・・なら俺も」
「娘達は我々と同じ人間だ、悪魔ではない」
「えっ?」
「2人は養子だ。
生まれてから両親は事故で失い、
身寄りのなくなった先で教会が引き取った。
同様、私の実子でもない」
「なら、なおさら安否が気になります。
2人はどこにいるんですか?」
「分からない、私のクォーツでも検知できん。
考えられるとしたら、オリハルコンオーダーズの
元にいる可能性も・・・」
彼は首を横に振る。
敵陣にさらわれたのかもしれない。
父としての危惧は当然であるが、
足も悪く、警察も証拠なしに動きそうになかった。
「私も君の成長の機会を伺ってきた。
これを持っていきなさい」
「これは?」
リバーストーンとよばれる白いACを受け取った。
司教自ら何かを与えられるなんて、思いもよらずに
いつの間にか不意に手を出してしまう。
「生命を脅かす身の危険に遭った時、
この結晶が力を貸してくれるだろう」
「あ、ありがとうございます」
すごい人からもらったというのが印象的だけど、
断るのも忍びない。
外見は普通の研磨された八角形の結晶だけど、
相当な性質をもつのだろう。
司教は上向きで自分を見つめ、言った。
「話は以上だ。
私自身、君に期待もしている」
「・・・・・・」
「如何なる由縁があれ、
人と悪魔との融合を防がねばならん。
ロザリアのような悲劇を繰り返さんためにも・・・」
まだ他にも身近に潜んでいる可能性もある。
自分で確認する術はなく、主任の知らせを待つ他に
どうにもできなかった。
日頃の活躍でここが狙われた線もありえる。
マナとジネヴラさんが一刻も早く見つかるのを
心底願いつつ、教会を後にした。
(2人共、無事でいてくれ・・・)
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