Crystal of Latir

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      空間の窓2

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 同時刻、郷はバイクでツーリングして休憩と
ファーストフード店で食事をしていた。
暖かくなってきた今で、家にいたくもなく
友人も皆用事でそれぞれ違う行動をしていたから
今日は1人旅でまったりと過ごす。
自分はまばらに人がいるような場所を好む。
普段から街中で群れていたから、たまにはこんな雰囲気も
晃京の見た目治しみたいで悪くない。
そして、時たま単独行動して今にいたっているが、
話し相手がいないから都会さながらの雑音に満ちるのは
別に構わないと思う。
リア充のしょうもない話すら、話題のきっかけ。
隣り合わせの席でカップル同士の会話も耳に入ってくる。

「「ヘヴンズツリーで出たんだってよ。
  やっぱ、悪魔があそこにもいたって」」
「「え~、何かと見間違えたんじゃない?
  動画にあったものだって光ってただけじゃん」」
「「確かに何かいたんだよ。
  誰か戦っていたところに落ちてきたらしくて、
  自衛隊が数十人、包囲してたって」」
(ん?)

電波塔の怪が噂になっていた。
自衛隊がヘヴンズツリーで悪魔と交戦していたらしい。
自分も悪魔の一部で、なにをいまさらと
冷ややかに口に出さず内心ふくしているが、
世間にとっては常に未知の存在。
聖夜もそんな話をしていたのを思い出していた。
高所という、新たな活路を手に入れたから
次の行動も決めていないがてら、ちょっと気になる。

(高いとこねぇ、ちっとは暇つぶしできっかもな)


 というわけで、趣向を変えてシティ・クライミングへ
しゃれこもうと決めた。
駐輪場にバイクを置いて人気のない場所を選ぶ。
地上だと通行人にすぐ見つかってしまうから、
ビル群の高所足場を跳んで伝っていけば大丈夫と
人気ひとけがほとんどない路地裏で変身。
自衛隊も昼間では巡回がめっぽうに緩いので、
襲撃される心配もほとんどない。
ヒョウはジャンプ力も異常に高く、
少しくらい高い所から落ちても命に支障がないので、
爪を引っ掛けて低所から平然と登りつめていく。
実は前から密かにマイホビー、マイブームとばかし
絶景スポットを一人探しで回っていた。
道路で風を切る感覚もたまらなくやめられないが、
地上にはない高所ならではの景色も得られやすいからだ。

(しめしめ、うひょひょ)

女性が窓付近で着替えをしている。
ただ、寄り道する感性の程度が知れているので、
時には人間の方に気をついつい回してしまう。
時たま高所による人間の開放的な行事が
デバガメの如く観られる時もあった。
仮に見つかっても悪魔の姿なので簡単には特定されない。
最初はあれだけおびえていた悪魔化でも、
利用の幅が多いと分かればこんなに便利な手段はない。
ちょっとのぞいてやろうと視野を拡大させた瞬間、
異形なものが目に入ってきた。



(んだアリャ、モニター!?)

空中のあらゆる所からTVの映像が現れた。
新技術でも投入されたのかと勘繰かんぐるが、
そんな噂もなにも聞いた事がない。
もしかしたらこれが噂の正体なのかと考えるも、
ただ、映っているだけで他に変わったところがなく、
画面が邪魔になり、場所を移そうと他のビルに跳ぶと
今度は異様な怪音波が耳を通ってきた。



「TVィきょきょくはァ、オワオワィエア″ア″ァァ!」
「やめろーっ!」
(ナンだよ、あいつら!?)

地上から五月蠅うるさい爆声が聴こえてきた。
デモ行進をしている行列が真下を歩いていて
先頭で箱をせた台車に乗った女の凄まじいボイスで、
高度100mのここまでとどいてくる。
まだ4月にすらなってないのに、虫をもしの
重高音で何を主張してるのか意味不にクレームを放出。
従者も操られているかのように、引っ付いているだけ。
地上の連中は耳が平気なのか?
次から次へと目まぐるしく代わって遭遇する
パフォーマンスが観られるのも晃京の特徴だが。

(ったく、今日は変な事ばっかりだわ)

絶景どころか殺風景の方が大きく勝ってくる。
気が付けば着替えも終わっていた。
超常現象の類は聖夜達に聞けば良いだろう。
謎のモニターも気になるが、あまりにもやかましいので
バイクを置いた駐輪場へ帰ろうと跳んだ時だ。

「体が!?」

急に跳躍力が鈍り、ビル端への勢いを失ってゆく。
下の声の影響か、ヒョウの身体が思うように利かなくなり
そのまま地上に向かってゆく。

ドスン

「ギャッ!?」

自分は段ボール箱の中に落下。
反動で板の端に乗っていた陰子もせり上がり、
同じ台車の中に転倒してしまう。

(やっべえ・・・)

よりによってデモ行進の直下へ突っ込んでいた。
地上に落ちたのは分かっていたが、地上のどこなのか。
人の姿に戻す事を忘れてしまって
うっかりとひょっこり頭を出してしまい、
箱の中にいた自分と陰子ははち合わせ。
顔面がドアップにお互い向き合っていた。

「うわああああ!?」
「ギャアアアァ!?」

彼女は凄まじいスピードで走り去っていく。
同時にキャッツ・アンド・ドッグスのメンバー達は
紫色の塊が上から落ちてきたというだけで、
何が起きたのか分からず。
自分はヒョウ型のままでいた事に気付いて
あわてて人の姿に戻すも、周囲の同行者にとって
何が起きたのか理解できるのは1人もいなかった。
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