Crystal of Latir

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第37話  塔を守護する甲殻

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2012年3月10日

 翌日、4人はヘヴンズツリーに向かう。
呪剣を手に入れた自分は新たな能力を試そうと
再び高所に潜む悪魔に挑もうとした。
肝心の相手だが、目ではっきりと見えないので
武器を作成してもヒットさせる保証はない。
悪魔の証拠も分からずに剣で打ち倒せるのか、
先通りを見いだせず覚えがなかった。
しかし、マナは過去のケースで覚えがあると、
姿を捉える可能性はあると言う。

「教会の歴史によると、かつては創造物に
 依り代が人知れずに宿ると聞いています。
 ACそのものでなく、他で刻印されたオブジェから
 完全にこの世界に出られず媒介のみで活動する
 伝記がありました」
「消えたんじゃなくて、隠れていたのか?」
「ええ、現実に存在する物体と同化したもの。
 考えられるとしたら、主に知能の低い悪魔が
 環境適応として固形憑依ひょういしたもので
 擬態していると推測します」
(同化・・・)

ステンドグラスの風貌でガラス体の悪魔が
歴史の中で記載されていたようだ。
同化という言葉を耳にして目をつむる。
人であれ、物であれ、あらゆる塊にりつく現象に
胸が少し脈を打った。

「お前の持つクォーツ、教会のACは
 見えないものがみえるんだな」
「科学の分野としてはX線という名称ですが、
 私達の世界ではトゥルーリフレクトといいます」
「科学が発達する前からACはあるんだったな。
 そんなすごい能力があるなら、
 ばらまかれたACは見つけられるだろ?」
「それは私達がまだ未熟だからです。
 教会の力をもってしても世界の全てまでは不可で、
 透子さんの件でも、この法術はこなせませんでした」

反応リフレクションも、ACがACを都合よく
探せるなんて芸当はできない。
種類や性能も全て判明していない中、
いつどこで世界から生まれてくるのか予想もつかず。
オリハルコンオーダーズもあらゆる手段で隠蔽しながら
ACを回しているはず。
とはいえ、1ケースに調べていけばいずれ見つけられる。
厘香と同様、マナがここに来ていれば見えない悪魔の
正体を突き止められるのだ。
今回も同行する陸将補の誠はすんなりと事情を聞き、
若者の自分達の先導を受け持っていた。

「未知の敵性がもしやってきたら?
 国会でも一応ちょっとした議論を交わしてきたんだ。
 我々自衛隊員も行き当たりばったりで、
 備えてはきたんだがな。中々上手くいかん」
「ええと、つまり?」
「携帯電話なんてのも、昔じゃ信じられてなかった。
 それが今じゃ、若僧でも扱ってるくらいだからな。
 時代はどこまでいくんやら」
「ですね」

確かに、知らない素性にキッチリ対応なんて無理がある。
本当は大人が対処してほしいけど、黙っておく。
常識はあくまでも集団の中から決めつけられると
しっとりとした目でエレベーター内でやりすごした。


 一同は展望台に到着。
プロミスにより采配がズレで失敗に終わった作戦も、
今度こそ成功するべく結晶と面子を備え直す。
自衛隊員達の顔も見ようとしないように入り、
マナは窓際に近づいてクォーツをかざした。

御光みひかりよ、空に真実を映し給え。
 不透の一閃dongraphorurgraphvehgisggonmeddrux!」

水晶からマナ以外、視覚できない光が放出。
外周へ照らされたそれは正体を現した。
体長30mはある節足のサソリ型。
教会のステンドグラスの模様をした悪魔が
ヘヴンズツリーに巣食っていたのだ。

「でかい!?」
「こんなのがいたのか!?」

自衛隊達が間もなく一斉に銃を構える。
人と悪魔が同化するだけあり、人工物と悪魔が同化する
現象もありえるとマナの発言は実際に発現させた。
何故、ここで籠城しているのかは不明であるが、
話によるとヘヴンズツリーから降りて離れる行動を
一切せずに、謎の籠城とばかり留まり続けているらしい。
ただ、この塔は三角状の基礎杭で支えられ、
サソリ型の重量は定かではないが、
簡単に崩落はしなかった。
カロリーナとマナも敵と距離がありすぎるので、
遠距離戦は自衛隊共々期待に及べそうにない。

「ダメ・・・冷気が向こうまでとどかない!」
「雷も反応がないです、」

雷の本体内部までにはとどかず、氷も動きを止められない。
マナやカロリーナ達も崩せる突破口を見出せずに、
属性射出だけでは物足りず。
浸蝕しんしょくという結晶を内にまで染み込ませる
伝達こそこの不安定な足場を解決する糸口。
だから、このために新たな刃をこしらえてきたのだ。

「これでカタを着ける!」

悪魔確定で剣をふるう機会を得る。
外の支柱に瞬間移動してパイプをつかむ。
リビアングラスもやみくもに使うのも危険だ。
悪魔の固体表面は反射しやすく、乱反射を起こして
どこに飛ばされるか分からない。
以前は何も反応しなかったが、
巨大なはさみが展望窓を破った。
やはり、生物型に基づいて攻撃性をもっている。
誠は尻尾に向けて射撃を指示。
直接ダメージを与えるのでなく、胴体をできるだけ
下部に寄せて聖夜に近づけさせるためだ。
理由はもちろん、地下墓地より手にした古代の呪いを
頑丈なステンドグラスにひたさせる事。
どういった効果なのか、今回はハッキリと見える敵に
一撃を与えた。

「とどけッ!」

手応えとしては前回同様に弾かれる感覚。
しかし、サソリ型は確実に鈍くなる。
ラーナの呪いは浸透したようで、塊の中へにじませて
固体を支える生物としての神経を衰弱。
負けじと鋏が自分にもとんでくる。
展望台で待機していた厘香はサポートで風を放出した。

「遅れてごめん、下に降ろすわ!」

尻尾の先で突いてくるタイミングを図る。
だが、ここでサソリ型を討伐したところで落下はまぬがれない。
出直ししようと皆の所に行こうとした。

「くっ、これ以上は無理だ・・・そっちに戻る!」

展望台に戻りたいが、リビアングラスの光線の先が
ブレすぎてよく見えないから、空に放り出される
危険を避けてここから下へ降りようとした。
地上から100mくらいか、一度上を向いて
パイプを掴んで上部の様子をうかがった。
マナから通信がくる。

「「聖夜さん、大丈夫ですか!?」」
「そっちに行けそうにない!
 支柱越しで地上に戻る!」
「「自力で戻れそうですか!?」」
「リビアングラスがそっちにとどきにくいんだ!
 下には横向きの支柱が複数あるから先に降りてるぞ!」

ここから直に展望台まで行けそうになかった。
サソリ型もすでに動きを止めて沈静化。
彼女達に動向を伝えて無事だと言い聞かせる。
討伐は成功したらしく、ようやく成果を示せた。
足場と悪魔の特殊な性質に浮足立つ。
後は自衛隊に任せて移動を始めようとした途端、
カロリーナが通信しに叫んだ。

「「何かが来るわよ!?」」
「アイツは!?」

カラクリ兵だ。
川上沫刃を襲ったサイボーグが再び眼下を映す。
支柱づたいへ次々と跳び、同じく悪魔に向かって
鋭い得物を振ってゆく。

(こんな所まで来て・・・何をしに?)

自分達を襲いにきたようではないみたいだ。
ACがここにもあるのか、他の組織なのかもしれない。
おかげでサソリ型のパーツの方を解体してもらい、
代わりにトドメを刺してもらったので難を逃れた。
と、思った途端に自分の足が滑って落下した。

「うわあああああああああああああああああああ!!」


 対する上部では床が揺れ動き、隊員も悲鳴を上げる。
ヘヴンズツリーから警報器が鳴り響く。
巨体が地上に向けて加速していき、最も重い部分となる
胴体は周囲の目を引きつけさせていた。


「落下する! 地上班、退避しろ!」
「マスコミ、邪魔だ!」

地上で様子を観ていた自衛隊や観客達が慌てて
異界の物体が落ちる場所から退散。
厘香は聖夜を優先してモーシッシの能力を発動した。

舞い上がれ、風よvanmalsgaldonunorgisg!」


 聖夜は人生の終わりがくると思考する間すら失う。
悪魔ではなく落下死で人生の幕が閉じるなんて
予想すらしきれなかった。しかし、身体に何かが圧する。
自分の体は風に支えられて浮き上がる。
と思いきや、また浮力を失って落下したが
衝撃は死を免れるくらいに小さく、
致命傷なく無事に着地できた。が、なんだか奇妙な感じだ。

「あ、あれ!? いつの間にかここへ!?」

まだ地上から100mくらいいたはずが、
一瞬でここに降りた感じもする。
異世界に移されたとしか言いようになく、言葉で表せず。
多分、厘香のACのおかげで助かったのだろう、
彼女がいなかったらとっくにこの世から去っていた。

「聖夜君、大丈夫!?」
「ああ・・・死ぬかと思った」

地べたで仰向けになる。
心臓も動いてるのか、ギュウギュウに固められた感じで
50年くらい寿命が縮んだ気がした。
落下しすれば元も子もないけど、
相手のサソリ型も動かずに完全沈黙して戦闘は終了。
カラクリ兵はまた姿をくらまして去っていった。
高度ある戦闘は十分に慣れていないから、
疲れたのも否定しない。
だけど、以上に何かに満たされる様な感覚も
また同時に体の中を伝わってゆくような気がした。

「・・・・・・」
「どうしたの?」
「何本か剣を手にしてから思ったんだ。
 時々、ふわっとした感覚になる」
「胸の中に馴染なじむ・・・ような?」
「まるで宇宙の中にいるような感じがするんだ。
 清々しいというか、心地良いというか」

厘香の問いに追々おいおい合わせるような表現で語る。
属性というのか、今まで手にした剣を握る度に
侵略せんとばかり力が高まるのが分かる。
毒、石、呪、人にとっては縁起の悪い要素であるけど、
何と言えば良いかはよく分からない。
とにかく、使役させるような一体感をもっていた。

「ここ数ヶ月でたくさんのACを使ったからかも。
 相当、適性のある人なんだね、聖夜君って」
「それ、めてるの?」
「そのつもりで言ったけど、悪い?」
「いや、別に」

からかいと褒める意味が交じるやりとりに場は終わる。
元から彼女達の導きから始めた事だ。
ここしばらくの活動でやはり結晶が馴染んでいるのだろう。

後に、サソリ型は処理された。
今回はACを見つけられなかったが、
根源はどこかにあると捜索は続行のようだ。
他方面から次々と手に入れてゆく。
剣だけでどこまで続けられるのか。
ヘヴンズツリーのライトに照らされた体と剣の下部には
ぐっと伸びるように影が映っていた。
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