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第36話 地下墓地
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2012年3月9日
自衛隊の陣中は射撃の手を止めていた。
謎の節足型は一向に地上へ下りる様子もなく、
ヘヴンズツリーを巣のように立てこもるのみで、
武田は現段階の対処では不可と判断。
監視体制を継続しつつ、様子を観る事を決定した。
自分と厘香の出番はここで終わる。
(何もできなかった・・・)
悪魔の姿もろくに確認できず、剣先も覚束ない。
少なくとも、今の自分一行では攻略しようがないので、
後ろめたい視線を浴びる間を通りながら帰った。
そして翌日。
「そんな事があったのね」
「あんな電波塔にまで悪魔がいたなんて。
もう、なんでもありね」
喫茶店のテーブルでマナとカロリーナと合流。
昨日の事を話し、ヘヴンズツリーの状況を伝えた。
「見えない悪魔か・・・」
「確かに剣は当たったんだ。
でも、ダメージをくらってる様には思えなかった」
「私も数発の風矢を打ち込んだけど、弾かれていた。
そこに何かがいるのは本当みたい」
「昨日はまったくもってサイアク。
両方しくじりなんて、若者メンツ丸潰れね」
「大人ですら、どうにもならないのに俺達だけなんて。
これは練習、練度不足と言うしかないのか・・・。
そういえば、お前達はどこに行ってたんだ?」
「墓地よ、東妙霊園にあるACを調査しに行ってた。
こっちも結局回収できなかったけど」
2人は某所にある墓地に行っていたらしく、
結局のところそっちも回収に失敗したらしい。
二手に分かれて展開するのも分かるが、
自分と厘香、マナとカロリーナの2組構成の理由とか
細かい事まで聞いていなかった。
話の成り行きはマーガレット主任による情報だという。
2日前、マナは主任から以下の内容を聞いていた。
「墓地にACですか?」
「ええ、東妙霊園地下で新たに見つかった。
場所は都内一角にある一般墓地。
林内に設置されているジャパニーズセメテリィーよ」
「都庁で拡散した物以外ですか。
地下にX線がとどいたのは意外ですけど」
「それなんだけど、発見したのはあたしらじゃないわ。
今回の情報はあたしらの特定じゃないの。
タレコミで匿名から知らされた情報」
「そうなんですか?」
「それにACもターコイズが収められてるって言うから、
明らかに一般情報提供者じゃない。
地下施設の関係者かもしれない」
「罠の可能性も・・・」
「だから念のために、2人ずつに分けて展開する。
聖夜君、厘香ちゃんはヘヴンズツリーに行かせるから、
カロリーナちゃんと東妙霊園の方をお願いね」
「承りました」
という訳で、今に至るところ。
万が一を考えて采配を与えられた。
教会としては管轄外の場所だが、移動特化した厘香の
能力なら聖夜を高所に活かせられるとの事。
落下を防がせる結論に至るというオチだ。
というわけで経過を省いて現地に到着する。
都内最大級の墓地であり、都民に大半利用されている
霊園の1つで肝試しにも使われる広さがあった。
先に来ていたマナと合流してさっそく潜入。
ここの中心は土地が少し高く、雑木林が生えている。
全て墓地というわけでもないようで、
通路以外は手入れをしてない箇所もあるようだ。
土地的に凸凹の起伏があって見えにくい死角もあるが。
「あそこに入口があるのか?」
「限られた者しか入れない地下があるんです。
一部の壁がそうなので、これから開封します」
丘の上の林の方を指す。
霊園の管理者専用と思いたげな人1人が通れる程の
狭い石塚が動いた。
当然開けたのはマナだけど、並べられた石の配列が
いかにも目を欺かせるような造り。
開いて入ると、湿気の多そうな雰囲気に変わる。
カビ、植物の様な繊維質の臭いが充満していて、
手で壁に触れる事すらためらいがちになった。
「うわっ!?」
棺が壁に埋められている。
が、朽ちて中が剥き出しに遺体が目に入る。
なんだか構造が日本と違う気もあうるけど、
火葬が主のこの国にしては珍しい埋葬だ。
「壁に埋めてるのか・・・コレ?」
「フランスにも似た構造の施設があります。
日本で設計されているのは分かりませんけど」
「葬儀も交わるものなのか、文化っていうのは!?
声が出るな」
「アンタ、けっこうよく叫ぶわよね?
学園の時といい、見た目通りに女じゃない?」
「うぐっ・・・」
悪魔を見慣れている彼女達だからこそいえるが、
男の度胸をあまり示さない自分も自分。
ここも素人と玄人の差なのだろうけど、
陰りばかり見てきた3人との心臓の違いなのか。
郷が来ていたらもっとうるさくなるだろう。
夜に来なくて良かったけど、
できるだけビクつかずに歩こうとした。
少し広い場所に出た。
正方形の部屋でヒエログリフ文字らしき柱で支えられた
最奥に他と異なる仕様の棺がある。
これが問題の目標だが、マナとカロリーナも
こなせる課題に及ばない物であった。
「一応中を確認し・・・開かない」
「実は開かないんです、強度に密封されていて
警察がドリルでこじ開けようとしましたが、
亀裂の1つも入れられずに」
「誰よ、こんな物をここに持ってくるなんて!?」
「・・・・・・」
厘香はジッと棺を見つめている。
指先で触れてフレームの何かを確かめるような
動かし方をして発言した。
「もしかしたら、私なら開けられるかも」
「えっ!?」
実は厘香は封印された異物を開ける能力をもっていた。
とはいっても能力開花は最近の事で、
実行できるまでは誰にも言わないつもりだったらしい。
そんな彼女がヘヴンズツリーの方へ調査。
つまり、ちょっとした人配ミスを起こしていた。
厘香が最初にここへ来ていれば事は進み、
いざこざもなくスムーズに箱を開けられた。
「開封の能力なんて、あたしらも知らなかった。
厘香をこっちに来させれば良かったのよ」
「なんというか、主任も間違えるもんだな」
「プロフェッショナルエラーという言葉もあります。
どんな経験者であろうとも、人ですから」
「う~ん」
厘香は持っていたACをかざすと反射光に触れた途端、
棺が動き、ふたが開き始めた。
中には白い衣を着た亡骸と複数のACが詰められている。
「外国の人か?」
「シェンティね、中東で着ていた衣装です」
「日本の墓地でこんな服装なのか?」
「中東って言ってるんだけど・・・」
これだけ棺桶は木製でなく石製のようで、
あたかも、どこかから持ち運んだ可能性もある。
少々不謹慎な気もするが、仕事は仕事なので
ターコイズをACに収納しようとした瞬間。
ガバッ
「うわああぁぁっ!?」
亡骸、ガイコツが起き上がる。
かつて、最初に遭遇した悪魔と同じアンデッド系と
思わしいと確信しそうになるが。
「学園に来たのと違うな!?」
「位の高い者の亡骸のようです!
学園で襲ったものとは違います!」
青い球体を放ってきた。
射出は緩やかなものの、魂のイメージ的な濁った色の
光に魅せられたのか、近寄ってきたネズミが光源に留まる。
すると、老化した様な皮膚に変わり急速に衰えていく。
「間合いを開けて下さい!
呪詛が含まれています!」
「な・・・呪い!?」
どういった仕組みなのか、怨念すら形にして
命を削りにくる。
防ぐ方法はあるのか、マナがゴールドルチルクォーツを
手にしながら詠唱を始めた。
「雷よ、悪しき怨念から守りたまえ!」
雷の壁を発生させて阻害を試みる。
呪の球体は通り抜けていない。
同質なのか、青の侵食は黄のエネルギーを
越えてくることはなかった。
マナの護衛が整った後にカロリーナも反撃をとる。
「氷弾ッ!」
しかし、氷の塊で関節を狙っても倒れない。
打撃的な効果のみで冷気が効くように見えなかった。
追って雷、風、氷、3人の属性が放たれて当たる。
同様にエネルギーはカルシウム金属に通用する
状態がうかがえない。
元々どこかで操られているかのように、
宙を舞っていると言った方が正しいだろう。
「この年でまだおばあちゃんになりたくないわよ!
聖夜ッ、前衛やりなさいッ!」
「え、ああ!」
飛び道具もさして効き目があるように見えない。
相手が死骸なら破砕すれば倒せるのでは?
どんな時でも近接戦闘は自分。
リビアングラスで霊球を回避しながら接近し、
胴体を狙って横薙ぎする。
だが、死骸同然の体である相手の前に
クラーレ、ピエトラも効果がないようだ。
「死体相手じゃ、毒も石も効かない!」
属性どころか、斬撃でも砕けられない。
操り人形の糸を狙わない限り意味をなさないようだ。
カロリーナは傀儡ばかりに気を取られて
いた事に省みて改めて出元を観察。
すぐ身近にあるACが動かしているはず。
それらを抑えれば動かなくなると、
エンジェライトを発動し、凍結させた。
「凍れ!」
一度抑えさせようと氷点下の捕縛で、
アンデッド型のボディが霜に包まれる。
青のACで青の呪いを止められたかに思えた。
グググ
「!?」
だが、まだ動いていた。
どこからもたらされるのか、死骸の動力は張力を無効化。
氷のガラスを打ち破ってゆく。
「ダメ・・・動くわ、どうなってんの!?」
「動力が死骸のところにないのかも。
ACが間接的な作用で送っているみたい。」
「墓地から一旦外に出ましょう!」
相手はゆっくりとした浮遊で移動は遅く、
すぐには追いついてこない。
それに、地下に潜んでいた悪魔に対して
戦闘配置を変える手段も思い浮かぶ。
アンデッド型に日光を浴びさせたら?
郷や拓男とRPGゲームをしていた時の事を思い出して、
この長い間陽の目を浴びていない骸に地上の
息吹を与えてやろうと考えた。
が、絹の衣服を着た黒髪の子が出て行こうとしない。
「いいえ、私はまだここにいる」
「何ッ!?」
厘香は最奥の部屋に残ると言いだした。
たった1人で対抗するのは危険すぎると警告するも、
何かを始めようと姿勢を表す。
「私が封印を試してみる、囮役をお願い!」
「本当に大丈夫か!?」
考える余裕もないまま、実行を再開。
功を期したのか、アンデッド型はマナを追尾し始める。
低スピードを逆手に、呪球を盾にしながら
入口へ向かっていった。
3人が外に出て、太陽光の射す場所まで誘き寄せようと
図るが、予想外な行動を目にする。
「出てこない!?」
相手は外に出なかった。
日光を嫌い、入口日影の所でピタリと止まる。
それどころか、また地下墓地へ戻ろうとした。
「厘香が危ない!」
一方で厘香は棺の前で玉手箱の様な入れ物を
手の上にのせて詠唱を始める。
正倉院家にはかつて収納の性質をもつACがある。
聖夜にもわたした物を収める効果は同様に者も収まる。
もしかしたら、今回の棺も開く力の逆で、
閉ざす力もアンデッド型に効くのではと考えたからだ。
「還れ、己が或るべき界へ」
厘香の所持していた箱に向かってターコイズが浮かび、
唱え終わるとアンデッド型はACの中に流されて、
戻されていった。
封印は成功、こちらの任務は機転とばかり達成できた。
「どうも、厘香!」
「えへへ」
厘香とカロリーナがハイタッチ。
今回は天藍会の秘術が決め手となった。
やはり、厘香がここに来たのは正解だったようだ。
討伐というより封印。
倒す手段以外でもACを先に塞ぐという、
悪魔の放つ無線機の術を断つ能力を備えていた。
意外な攻略法がみえたところで、目標の結晶に近づく。
墓地とは無関係に思える程の装飾を目に映した。
「これは何の?」
「ターコイズよ、さっき言った中東で有名な結晶。
なんでこの中にいっぱいあるのかは分かんないけど」
水色と茶色の混じる無数の鉱石は石棺に詰められて
同化といわんばかりに入っていた。
情報提供者はここにACがあるのを前もって知っていた。
連絡先は結局明らかにならなかったが、
目標物を無事に手に入れていつもの科警研に運び、
主任の鉱物という好物を閲覧する時間となる。
「待ってたわ♪」
「ええ、はい」
間を開けずにわたす。
こういう時だけ上機嫌に見えるのは気のせいか、
素材を加工する直前は顔付きが変わるのは分かった。
理系の楽しみというべきか、物作りする行為は
経験者ならではの愉悦を味わう何かがあるのだろう。
若い今の自分には逸脱の沙汰にしか見えない。
余計な節を言うと怒られるから、もちろん黙っておくが。
「今回、新たな新事実も発見したわ!
これ、モース硬度を軟化させる効果があるのよ」
「この結晶で倒すのか、どんな力を?」
「これも剣に加工して、呪いを付与した状態で斬ると
物質を老朽化させられる」
「の、呪い!?」
「つまり、硬そうな敵を倒すという事!」
「硬そうな敵を・・・そうか!」
おぞましく不明なワードが飛んでくる。
呪いというものが属性の1つというのも、
もう何でもありというしかない。
しかし、硬い敵を脆くさせられるのなら
以前の失敗を挽回できる機会を与えられた。
ヘヴンズツリーにいる悪魔を討伐できる。
ここは主任の腕の見せ所だから、
またしばらくの待機を猶予とする時であった。
「ぐっ、あ″あ″あ″あっ!」
「主任、大丈夫ですか!?」
「何が起きたんだ!?」
主任が突然叫びだした。
誤って腕がACに触れてしまったらしい。
部下はすぐに銀を混ぜた純水を用意して浸す。
火傷の様に痛々しく、片腕で完成品をもってきた。
「はあっ、危なかったわ・・・はい」
「これは・・・」
呪剣ラーナ。
狭心の孤剣、呪いによって斬ったものを老衰化。
硬度に関係なく目標を鈍らせ、衰弱させる。
あのアンデッド型の能力がそのまま内部に宿し、
加工より自分の手に納めてゆく。
対して、主任の手に茶色の痣ができて痛々しい。
「かなり危ないみたいですけど、主任は――」
「へーき、構わないで。
でも、今回はちょっと応えたわね。
その分、頑丈な相手にはかなり効くはずよ。
思いっきりやりなさい」
自分は刃に触れても何も起こらない。
これも適性だから、という性質で体内の調和できる
科学を超えたものが備えられている。
自身も早く使ってみたい欲求が否定できなかった。
今度こそ、とどくのか。
効果はあの高くそびえる塔に棲むモノに
青の侵食を与える。
「行ってきます!」
これより再びヘヴンズツリーに戻り討伐する。
塔の頂上に寄生する正体不明の解明と討伐に出戻り、
高度の硬度に再び挑みに向かった。
自衛隊の陣中は射撃の手を止めていた。
謎の節足型は一向に地上へ下りる様子もなく、
ヘヴンズツリーを巣のように立てこもるのみで、
武田は現段階の対処では不可と判断。
監視体制を継続しつつ、様子を観る事を決定した。
自分と厘香の出番はここで終わる。
(何もできなかった・・・)
悪魔の姿もろくに確認できず、剣先も覚束ない。
少なくとも、今の自分一行では攻略しようがないので、
後ろめたい視線を浴びる間を通りながら帰った。
そして翌日。
「そんな事があったのね」
「あんな電波塔にまで悪魔がいたなんて。
もう、なんでもありね」
喫茶店のテーブルでマナとカロリーナと合流。
昨日の事を話し、ヘヴンズツリーの状況を伝えた。
「見えない悪魔か・・・」
「確かに剣は当たったんだ。
でも、ダメージをくらってる様には思えなかった」
「私も数発の風矢を打ち込んだけど、弾かれていた。
そこに何かがいるのは本当みたい」
「昨日はまったくもってサイアク。
両方しくじりなんて、若者メンツ丸潰れね」
「大人ですら、どうにもならないのに俺達だけなんて。
これは練習、練度不足と言うしかないのか・・・。
そういえば、お前達はどこに行ってたんだ?」
「墓地よ、東妙霊園にあるACを調査しに行ってた。
こっちも結局回収できなかったけど」
2人は某所にある墓地に行っていたらしく、
結局のところそっちも回収に失敗したらしい。
二手に分かれて展開するのも分かるが、
自分と厘香、マナとカロリーナの2組構成の理由とか
細かい事まで聞いていなかった。
話の成り行きはマーガレット主任による情報だという。
2日前、マナは主任から以下の内容を聞いていた。
「墓地にACですか?」
「ええ、東妙霊園地下で新たに見つかった。
場所は都内一角にある一般墓地。
林内に設置されているジャパニーズセメテリィーよ」
「都庁で拡散した物以外ですか。
地下にX線がとどいたのは意外ですけど」
「それなんだけど、発見したのはあたしらじゃないわ。
今回の情報はあたしらの特定じゃないの。
タレコミで匿名から知らされた情報」
「そうなんですか?」
「それにACもターコイズが収められてるって言うから、
明らかに一般情報提供者じゃない。
地下施設の関係者かもしれない」
「罠の可能性も・・・」
「だから念のために、2人ずつに分けて展開する。
聖夜君、厘香ちゃんはヘヴンズツリーに行かせるから、
カロリーナちゃんと東妙霊園の方をお願いね」
「承りました」
という訳で、今に至るところ。
万が一を考えて采配を与えられた。
教会としては管轄外の場所だが、移動特化した厘香の
能力なら聖夜を高所に活かせられるとの事。
落下を防がせる結論に至るというオチだ。
というわけで経過を省いて現地に到着する。
都内最大級の墓地であり、都民に大半利用されている
霊園の1つで肝試しにも使われる広さがあった。
先に来ていたマナと合流してさっそく潜入。
ここの中心は土地が少し高く、雑木林が生えている。
全て墓地というわけでもないようで、
通路以外は手入れをしてない箇所もあるようだ。
土地的に凸凹の起伏があって見えにくい死角もあるが。
「あそこに入口があるのか?」
「限られた者しか入れない地下があるんです。
一部の壁がそうなので、これから開封します」
丘の上の林の方を指す。
霊園の管理者専用と思いたげな人1人が通れる程の
狭い石塚が動いた。
当然開けたのはマナだけど、並べられた石の配列が
いかにも目を欺かせるような造り。
開いて入ると、湿気の多そうな雰囲気に変わる。
カビ、植物の様な繊維質の臭いが充満していて、
手で壁に触れる事すらためらいがちになった。
「うわっ!?」
棺が壁に埋められている。
が、朽ちて中が剥き出しに遺体が目に入る。
なんだか構造が日本と違う気もあうるけど、
火葬が主のこの国にしては珍しい埋葬だ。
「壁に埋めてるのか・・・コレ?」
「フランスにも似た構造の施設があります。
日本で設計されているのは分かりませんけど」
「葬儀も交わるものなのか、文化っていうのは!?
声が出るな」
「アンタ、けっこうよく叫ぶわよね?
学園の時といい、見た目通りに女じゃない?」
「うぐっ・・・」
悪魔を見慣れている彼女達だからこそいえるが、
男の度胸をあまり示さない自分も自分。
ここも素人と玄人の差なのだろうけど、
陰りばかり見てきた3人との心臓の違いなのか。
郷が来ていたらもっとうるさくなるだろう。
夜に来なくて良かったけど、
できるだけビクつかずに歩こうとした。
少し広い場所に出た。
正方形の部屋でヒエログリフ文字らしき柱で支えられた
最奥に他と異なる仕様の棺がある。
これが問題の目標だが、マナとカロリーナも
こなせる課題に及ばない物であった。
「一応中を確認し・・・開かない」
「実は開かないんです、強度に密封されていて
警察がドリルでこじ開けようとしましたが、
亀裂の1つも入れられずに」
「誰よ、こんな物をここに持ってくるなんて!?」
「・・・・・・」
厘香はジッと棺を見つめている。
指先で触れてフレームの何かを確かめるような
動かし方をして発言した。
「もしかしたら、私なら開けられるかも」
「えっ!?」
実は厘香は封印された異物を開ける能力をもっていた。
とはいっても能力開花は最近の事で、
実行できるまでは誰にも言わないつもりだったらしい。
そんな彼女がヘヴンズツリーの方へ調査。
つまり、ちょっとした人配ミスを起こしていた。
厘香が最初にここへ来ていれば事は進み、
いざこざもなくスムーズに箱を開けられた。
「開封の能力なんて、あたしらも知らなかった。
厘香をこっちに来させれば良かったのよ」
「なんというか、主任も間違えるもんだな」
「プロフェッショナルエラーという言葉もあります。
どんな経験者であろうとも、人ですから」
「う~ん」
厘香は持っていたACをかざすと反射光に触れた途端、
棺が動き、ふたが開き始めた。
中には白い衣を着た亡骸と複数のACが詰められている。
「外国の人か?」
「シェンティね、中東で着ていた衣装です」
「日本の墓地でこんな服装なのか?」
「中東って言ってるんだけど・・・」
これだけ棺桶は木製でなく石製のようで、
あたかも、どこかから持ち運んだ可能性もある。
少々不謹慎な気もするが、仕事は仕事なので
ターコイズをACに収納しようとした瞬間。
ガバッ
「うわああぁぁっ!?」
亡骸、ガイコツが起き上がる。
かつて、最初に遭遇した悪魔と同じアンデッド系と
思わしいと確信しそうになるが。
「学園に来たのと違うな!?」
「位の高い者の亡骸のようです!
学園で襲ったものとは違います!」
青い球体を放ってきた。
射出は緩やかなものの、魂のイメージ的な濁った色の
光に魅せられたのか、近寄ってきたネズミが光源に留まる。
すると、老化した様な皮膚に変わり急速に衰えていく。
「間合いを開けて下さい!
呪詛が含まれています!」
「な・・・呪い!?」
どういった仕組みなのか、怨念すら形にして
命を削りにくる。
防ぐ方法はあるのか、マナがゴールドルチルクォーツを
手にしながら詠唱を始めた。
「雷よ、悪しき怨念から守りたまえ!」
雷の壁を発生させて阻害を試みる。
呪の球体は通り抜けていない。
同質なのか、青の侵食は黄のエネルギーを
越えてくることはなかった。
マナの護衛が整った後にカロリーナも反撃をとる。
「氷弾ッ!」
しかし、氷の塊で関節を狙っても倒れない。
打撃的な効果のみで冷気が効くように見えなかった。
追って雷、風、氷、3人の属性が放たれて当たる。
同様にエネルギーはカルシウム金属に通用する
状態がうかがえない。
元々どこかで操られているかのように、
宙を舞っていると言った方が正しいだろう。
「この年でまだおばあちゃんになりたくないわよ!
聖夜ッ、前衛やりなさいッ!」
「え、ああ!」
飛び道具もさして効き目があるように見えない。
相手が死骸なら破砕すれば倒せるのでは?
どんな時でも近接戦闘は自分。
リビアングラスで霊球を回避しながら接近し、
胴体を狙って横薙ぎする。
だが、死骸同然の体である相手の前に
クラーレ、ピエトラも効果がないようだ。
「死体相手じゃ、毒も石も効かない!」
属性どころか、斬撃でも砕けられない。
操り人形の糸を狙わない限り意味をなさないようだ。
カロリーナは傀儡ばかりに気を取られて
いた事に省みて改めて出元を観察。
すぐ身近にあるACが動かしているはず。
それらを抑えれば動かなくなると、
エンジェライトを発動し、凍結させた。
「凍れ!」
一度抑えさせようと氷点下の捕縛で、
アンデッド型のボディが霜に包まれる。
青のACで青の呪いを止められたかに思えた。
グググ
「!?」
だが、まだ動いていた。
どこからもたらされるのか、死骸の動力は張力を無効化。
氷のガラスを打ち破ってゆく。
「ダメ・・・動くわ、どうなってんの!?」
「動力が死骸のところにないのかも。
ACが間接的な作用で送っているみたい。」
「墓地から一旦外に出ましょう!」
相手はゆっくりとした浮遊で移動は遅く、
すぐには追いついてこない。
それに、地下に潜んでいた悪魔に対して
戦闘配置を変える手段も思い浮かぶ。
アンデッド型に日光を浴びさせたら?
郷や拓男とRPGゲームをしていた時の事を思い出して、
この長い間陽の目を浴びていない骸に地上の
息吹を与えてやろうと考えた。
が、絹の衣服を着た黒髪の子が出て行こうとしない。
「いいえ、私はまだここにいる」
「何ッ!?」
厘香は最奥の部屋に残ると言いだした。
たった1人で対抗するのは危険すぎると警告するも、
何かを始めようと姿勢を表す。
「私が封印を試してみる、囮役をお願い!」
「本当に大丈夫か!?」
考える余裕もないまま、実行を再開。
功を期したのか、アンデッド型はマナを追尾し始める。
低スピードを逆手に、呪球を盾にしながら
入口へ向かっていった。
3人が外に出て、太陽光の射す場所まで誘き寄せようと
図るが、予想外な行動を目にする。
「出てこない!?」
相手は外に出なかった。
日光を嫌い、入口日影の所でピタリと止まる。
それどころか、また地下墓地へ戻ろうとした。
「厘香が危ない!」
一方で厘香は棺の前で玉手箱の様な入れ物を
手の上にのせて詠唱を始める。
正倉院家にはかつて収納の性質をもつACがある。
聖夜にもわたした物を収める効果は同様に者も収まる。
もしかしたら、今回の棺も開く力の逆で、
閉ざす力もアンデッド型に効くのではと考えたからだ。
「還れ、己が或るべき界へ」
厘香の所持していた箱に向かってターコイズが浮かび、
唱え終わるとアンデッド型はACの中に流されて、
戻されていった。
封印は成功、こちらの任務は機転とばかり達成できた。
「どうも、厘香!」
「えへへ」
厘香とカロリーナがハイタッチ。
今回は天藍会の秘術が決め手となった。
やはり、厘香がここに来たのは正解だったようだ。
討伐というより封印。
倒す手段以外でもACを先に塞ぐという、
悪魔の放つ無線機の術を断つ能力を備えていた。
意外な攻略法がみえたところで、目標の結晶に近づく。
墓地とは無関係に思える程の装飾を目に映した。
「これは何の?」
「ターコイズよ、さっき言った中東で有名な結晶。
なんでこの中にいっぱいあるのかは分かんないけど」
水色と茶色の混じる無数の鉱石は石棺に詰められて
同化といわんばかりに入っていた。
情報提供者はここにACがあるのを前もって知っていた。
連絡先は結局明らかにならなかったが、
目標物を無事に手に入れていつもの科警研に運び、
主任の鉱物という好物を閲覧する時間となる。
「待ってたわ♪」
「ええ、はい」
間を開けずにわたす。
こういう時だけ上機嫌に見えるのは気のせいか、
素材を加工する直前は顔付きが変わるのは分かった。
理系の楽しみというべきか、物作りする行為は
経験者ならではの愉悦を味わう何かがあるのだろう。
若い今の自分には逸脱の沙汰にしか見えない。
余計な節を言うと怒られるから、もちろん黙っておくが。
「今回、新たな新事実も発見したわ!
これ、モース硬度を軟化させる効果があるのよ」
「この結晶で倒すのか、どんな力を?」
「これも剣に加工して、呪いを付与した状態で斬ると
物質を老朽化させられる」
「の、呪い!?」
「つまり、硬そうな敵を倒すという事!」
「硬そうな敵を・・・そうか!」
おぞましく不明なワードが飛んでくる。
呪いというものが属性の1つというのも、
もう何でもありというしかない。
しかし、硬い敵を脆くさせられるのなら
以前の失敗を挽回できる機会を与えられた。
ヘヴンズツリーにいる悪魔を討伐できる。
ここは主任の腕の見せ所だから、
またしばらくの待機を猶予とする時であった。
「ぐっ、あ″あ″あ″あっ!」
「主任、大丈夫ですか!?」
「何が起きたんだ!?」
主任が突然叫びだした。
誤って腕がACに触れてしまったらしい。
部下はすぐに銀を混ぜた純水を用意して浸す。
火傷の様に痛々しく、片腕で完成品をもってきた。
「はあっ、危なかったわ・・・はい」
「これは・・・」
呪剣ラーナ。
狭心の孤剣、呪いによって斬ったものを老衰化。
硬度に関係なく目標を鈍らせ、衰弱させる。
あのアンデッド型の能力がそのまま内部に宿し、
加工より自分の手に納めてゆく。
対して、主任の手に茶色の痣ができて痛々しい。
「かなり危ないみたいですけど、主任は――」
「へーき、構わないで。
でも、今回はちょっと応えたわね。
その分、頑丈な相手にはかなり効くはずよ。
思いっきりやりなさい」
自分は刃に触れても何も起こらない。
これも適性だから、という性質で体内の調和できる
科学を超えたものが備えられている。
自身も早く使ってみたい欲求が否定できなかった。
今度こそ、とどくのか。
効果はあの高くそびえる塔に棲むモノに
青の侵食を与える。
「行ってきます!」
これより再びヘヴンズツリーに戻り討伐する。
塔の頂上に寄生する正体不明の解明と討伐に出戻り、
高度の硬度に再び挑みに向かった。
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