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第33話 地下の箱
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2012年2月22日
正倉院家の寺の販売所で厘香は精算をしている。
御守りや御札など、どこの寺でも販売する形式も
同様に一般と交わしている。
もちろん、ACは入っていない。
刻印のない普通の鉱石を売っているだけだ。
ここでの女性の立場は巫女としてなので、
見栄えの良い受け付け的な立場をまとめているのも
当家である自分の役目だ。
バイトの巫女達も全員帰宅して残るは家内の者だけで、
今日の行事を締めくくった。
「お疲れさんッす!」
「お疲れ様」
いつもの男達に挨拶。
構成員はこれから政府の要人の警護にいくところだ。
普段から気合の入った者ばかりの出計らいに、
反動で少しだけ静かになる。
竹林から通る風も季節さながらに細く、
まだふくよかな暖かさを運んでこないようだ。
しかし、家内には最も静かな男がいる。
そんな重鎮の1人が竹刀を持ちながら庭にいた。
「お父さん」
父の無影が素振りをしていた。
言葉に出せないけど、剣道馬鹿と言いたくなるくらいに
普段から年の瀬を案じさせられる。
仕事というわけではないが、どれだけ年を取っても
体を動かさずにはいられないのだろう。
だからといって、自分は止める権利も道理もない。
元旦の騒動の時も、何1つ勘当を起こさなかった。
自分の仕事だからと、黙認するように示す。
「今日の上がりはこれ」
「生活費に入れておけ、バイトの配分が済んだのなら
今後に使用する。また行事に必要になるぞ」
「今は兄さんの方が大変でしょう?
引き受ける数が減ったら、まかなえなくなるわ」
「脱退だろうと、ここで可能な依頼を成すだけだ。
だが、数が減った分、維持費よりも消費の方が偏る。
残った人員を丁重にしなければならん」
「なら、広報費用に充てる?
悪魔に備えようと元気な人達が尋ねに来ると思うけど」
「少々防犯を強化する。
和式の風貌だけではわずかな隙間も油断できん」
「悪魔対策じゃなく、人の?」
「そうだ、出入りの激しいここは人の目からして
物欲の発生源にもなる。儂の風も万能ではない。
あの無様を二度とさらすような真似はできんからな」
「・・・・・・」
父は防犯にと、費用の捻出を提案する。
実は天藍石が何者かによって盗難されていた。
外部の仕業を懸念しても、侵入された形跡がほとんど無く
足跡のアの字すら追っていけずに無心。
悪魔に侵入されようものなら外のモーシッシが
反応するはずで、異界からの魔の手には思えず。
感知できないモノが中に忍び込もうものなら、
私も独自に懐の鞘へ治めるしかなかった。
父はACも限界があると判断して、文明の利器を
当てにする方針で費用を賄う決定を下す。
「でも、外庭に見張り番がいるのに意味あるかな?
防犯カメラやブザーも役に立てば良いけど、
元技術者が来たら、それすら突破されそうよ」
「警護については空に任せておく。
鉱石の回収はまだ終わってないだろう?
引き続き、お前のそっちの任務をこなせ」
「そうだ、今度聖夜君も――」
「いい、あいつと会う気はない。
儂の晶とは無関係だ」
「・・・・・・」
父は拒否した。
元はあまり人と会いたがらない性格なのは知っているが、
余計なお世話だったようだ。
母はもういないので、自分が世話役として
構成員の皆に炊き出しをしたり、ACのサポートも
欠かさずに日々を過ごしてきた。
そんな父も、直に警護をしているわけでない。
もう58の年を迎えて現場に出られる年でもなく、
御払い箱とばかり、放ってほしいような感に思えた。
しかし、竹刀や木刀はまだ振り続ける。
武道精神は終わっていないと言わんばかりに、
自らの道を探しているのだろう。
女の自分にとって、そう見えるだけ。
会話はそこで終わり、自分の持ち場に戻ってゆく。
気が付けば深夜となっていた。
今日は珍しく途中で目が覚めてしまい、
眠れずに意識が戻ってしまう。
家の者は皆寝静まっているのに、自分だけは
暗い時の中を視界に入れさせてゆく。
本来なら、そのまま二度寝をするつもりが、
どういう事か、起き上がってしまった。
一度部屋から出て縁側の廊下奥にある階段に向かう。
電灯を点けないと数m先も見えず、
普通なら光を必要とするが、そのまま下りてゆく。
実は暗闇でも自由に歩く事ができる。
ACの可視能力で光源がなくても動けるのだ。
「・・・・・・」
ここには地下室がある。
今はただの物置部屋で、普段から人が出入りする所でなく、
ある意味、外より寒いかもしれないここで、
自分は無意味に脚を踏み外さないように下りていく。
室内に電気は通していない。
元々設置されてないここは和風さながらの古風な
湿度が溜まりやすい場所で、
部屋隅の角に縦横斜め1㎥の木箱が置いてあった。
自分は座り込み、中に向かって話しかけた。
「「よく頑張ったね」」
己の発言は小さく、外には響かないどころか
室内に跳ね返る押韻もない。
暗闇の中での呟きは内に籠る。
そう言うだけで、再び1階へ上がっていった。
正倉院家の寺の販売所で厘香は精算をしている。
御守りや御札など、どこの寺でも販売する形式も
同様に一般と交わしている。
もちろん、ACは入っていない。
刻印のない普通の鉱石を売っているだけだ。
ここでの女性の立場は巫女としてなので、
見栄えの良い受け付け的な立場をまとめているのも
当家である自分の役目だ。
バイトの巫女達も全員帰宅して残るは家内の者だけで、
今日の行事を締めくくった。
「お疲れさんッす!」
「お疲れ様」
いつもの男達に挨拶。
構成員はこれから政府の要人の警護にいくところだ。
普段から気合の入った者ばかりの出計らいに、
反動で少しだけ静かになる。
竹林から通る風も季節さながらに細く、
まだふくよかな暖かさを運んでこないようだ。
しかし、家内には最も静かな男がいる。
そんな重鎮の1人が竹刀を持ちながら庭にいた。
「お父さん」
父の無影が素振りをしていた。
言葉に出せないけど、剣道馬鹿と言いたくなるくらいに
普段から年の瀬を案じさせられる。
仕事というわけではないが、どれだけ年を取っても
体を動かさずにはいられないのだろう。
だからといって、自分は止める権利も道理もない。
元旦の騒動の時も、何1つ勘当を起こさなかった。
自分の仕事だからと、黙認するように示す。
「今日の上がりはこれ」
「生活費に入れておけ、バイトの配分が済んだのなら
今後に使用する。また行事に必要になるぞ」
「今は兄さんの方が大変でしょう?
引き受ける数が減ったら、まかなえなくなるわ」
「脱退だろうと、ここで可能な依頼を成すだけだ。
だが、数が減った分、維持費よりも消費の方が偏る。
残った人員を丁重にしなければならん」
「なら、広報費用に充てる?
悪魔に備えようと元気な人達が尋ねに来ると思うけど」
「少々防犯を強化する。
和式の風貌だけではわずかな隙間も油断できん」
「悪魔対策じゃなく、人の?」
「そうだ、出入りの激しいここは人の目からして
物欲の発生源にもなる。儂の風も万能ではない。
あの無様を二度とさらすような真似はできんからな」
「・・・・・・」
父は防犯にと、費用の捻出を提案する。
実は天藍石が何者かによって盗難されていた。
外部の仕業を懸念しても、侵入された形跡がほとんど無く
足跡のアの字すら追っていけずに無心。
悪魔に侵入されようものなら外のモーシッシが
反応するはずで、異界からの魔の手には思えず。
感知できないモノが中に忍び込もうものなら、
私も独自に懐の鞘へ治めるしかなかった。
父はACも限界があると判断して、文明の利器を
当てにする方針で費用を賄う決定を下す。
「でも、外庭に見張り番がいるのに意味あるかな?
防犯カメラやブザーも役に立てば良いけど、
元技術者が来たら、それすら突破されそうよ」
「警護については空に任せておく。
鉱石の回収はまだ終わってないだろう?
引き続き、お前のそっちの任務をこなせ」
「そうだ、今度聖夜君も――」
「いい、あいつと会う気はない。
儂の晶とは無関係だ」
「・・・・・・」
父は拒否した。
元はあまり人と会いたがらない性格なのは知っているが、
余計なお世話だったようだ。
母はもういないので、自分が世話役として
構成員の皆に炊き出しをしたり、ACのサポートも
欠かさずに日々を過ごしてきた。
そんな父も、直に警護をしているわけでない。
もう58の年を迎えて現場に出られる年でもなく、
御払い箱とばかり、放ってほしいような感に思えた。
しかし、竹刀や木刀はまだ振り続ける。
武道精神は終わっていないと言わんばかりに、
自らの道を探しているのだろう。
女の自分にとって、そう見えるだけ。
会話はそこで終わり、自分の持ち場に戻ってゆく。
気が付けば深夜となっていた。
今日は珍しく途中で目が覚めてしまい、
眠れずに意識が戻ってしまう。
家の者は皆寝静まっているのに、自分だけは
暗い時の中を視界に入れさせてゆく。
本来なら、そのまま二度寝をするつもりが、
どういう事か、起き上がってしまった。
一度部屋から出て縁側の廊下奥にある階段に向かう。
電灯を点けないと数m先も見えず、
普通なら光を必要とするが、そのまま下りてゆく。
実は暗闇でも自由に歩く事ができる。
ACの可視能力で光源がなくても動けるのだ。
「・・・・・・」
ここには地下室がある。
今はただの物置部屋で、普段から人が出入りする所でなく、
ある意味、外より寒いかもしれないここで、
自分は無意味に脚を踏み外さないように下りていく。
室内に電気は通していない。
元々設置されてないここは和風さながらの古風な
湿度が溜まりやすい場所で、
部屋隅の角に縦横斜め1㎥の木箱が置いてあった。
自分は座り込み、中に向かって話しかけた。
「「よく頑張ったね」」
己の発言は小さく、外には響かないどころか
室内に跳ね返る押韻もない。
暗闇の中での呟きは内に籠る。
そう言うだけで、再び1階へ上がっていった。
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