45 / 99
エイマル・カラコル3
しおりを挟む
犯人は前触れも音もなく侵入してきた。
張本人らしき人間の頭が液体混じりに変形。
その顔は見覚えのある、昴峰学園の生徒。
去年から見かけなかった同級生だった。
「お前・・・拓男か!?」
「聖夜・・・なんで・・・ここに!?」
正体は風見鳥拓男。
クラスメイトの生徒が現れた。
天然パーマの男は自分の姿を見て驚く。
鉢合わせで言い逃れもできない状況の中、
同級生の悪魔同化に自分も言葉を失う。
人が魔物と化すのは川上と同様。
言い方が悪いが、拓男は場違いだと思うくらい
ホストクラブと無縁な性格にみえた。
休校からほとんど顔を出さず、こんな繫華街で
常軌を逸した行為を繰り返していた。
それがどうして?
部屋の背景と人物像のズレをみながら問い出した。
「意外だった、まったく想像もつかない事を・・・。
去年から学園にも来ないで、なんでこんな所で?」
「こっちの勝手だろ、どこで何をしようと。
おれだって、カッコよくなりたいんだ・・・」
「身成りの問題か? お前はハッキリとものを言わないし、
どちらかと性格によるものじゃないのか?」
「ちがうゥ! 顔だ!
リアルもアニメも顔こそ最重要ファクトォ!」
「たかが見た目くらいで、ここまでやらかす程?
殺人なんて起こそうと思うか普通?」
「顔はカンタンに変えられやしない!
化粧なんていう低レベルな誤魔化しじゃなく、
骨格、肉付き、整った形相だ」
「なら、単純に整形すれば良いだけじゃないか?」
「整形する金もないけど、それでもいずれは劣化する。
ある日、道端で結晶を見つけたんだ。
拾うと、中から聴こえてきた。
“変わりたくないか”と」
「声が聴こえてきただって?
お前もACを!?」
「外見を変えてくれると言った。
相手に気付かれずに頭を濾しとる。
どれだけ年を取っても、若い顔のままでいられるって。
そこで思ったんだ、いつどこでも道を歩けるように
効率よく頭部まるごと変えてしまえって」
拓男は自身の外見にコンプレックスをもっていた。
ふとした事で通路に落ちていたACを拾い、
悪魔の力で変装できると知ると、そのまま鵜呑みにして
催涙効果の体液を散布して争乱もなく、
目標にすら気付かれないまま首を持ち去っていった。
しかし、ホストクラブを集中して襲う理由は分からない。
そこそこ良い顔の者なんて身近にいるのに、
同所ばかりこだわるのが不思議に思った。
「それで、なんで繫華街を狙うんだ?
お前は普段からあんな所には行かないだろう?」
「おれが・・・じゃないんだよぉ。
人が判断しているからだろぉ。
お前、張りぼて大国のここでそれ言うか?」
「そんな事で首を持っていく動機にならない!
人を殺してまで欲しがるものなのか?
何があったんだ!?」
「隣のクラスに好きな子がいた・・・。
いつも読書をして、周りと大きな声も出さずに
図書室でよく澄ましていた。
だけど・・・おれは買い物途中で見てしまったんだ。
実際、あいつは遊び人。
よりによってあんなチャラい場所、
ホストクラブに入り浸っていたんだよ!
お澄まし系じゃなく雄増し系、ビッチビッチィィ!」
彼女は黒髪ロングで清楚な子だった。
しかし、学園でみる外見とは裏腹に外では
様々な男と遊び惚けていた。
「でも、外見で判断してたのはおれも同じなんだ。
中身をみようともせず、ガワだけであの子を。
男も女も・・・見た目だけで目だけ、シュシュウ」
「・・・・・・」
「人間なんて、どうせ目先のビジュアルしか向けない
チンパンジーと同じ感性なんだ。
別じゃ、同じ穴の狢。
しょせん、人は見た目が10割。
外見で選ばれ、外見で弾かれる。
浮ついたポップな馬鹿ばかり。
男の場合、気取ったチャラそうな世界は?
その代表格がここ、ホストクラブだからさ」
「そうかもしれない。
でも、中身でしか通用できない世界もあるだろう?
何か成果を見せれば分かってくれるところもある」
「外見で先に判断するのがヲカシイだろぉ!?
世の中よく視てから言えよォ!
面接だって学院通った奴ですら数十社も落とされる。
見た目がキモイってだけでなぁ!」
男女不遇の葛藤の果てが拓男の行動原理だった。
見た目が最優先される世の中を疎ましく憎み、
結局は自分も変わろうとして凶行に及んだ。
「そんな訳だけで・・・お前は」
「人間平等、ビョウドウなんだ。
おれにも権利がある・・・イケメンになるケンリが。
自分が変われば、顔が変われば、ふりむいてくれる。
あの子はおれをミてくれるんだああァァ!」
「お前はただの犯罪者だ!
やってるのは平等どころじゃない。
顔面どころじゃ済まない事をやってるんだぞ!」
「おれが報われてないからイラプション不可避。
人間平等なら番も平等だ!
光一から聞いたぞ。
聖夜もずいぶん女子生徒と一緒にいるんだって?
あの3人と仲が良いそうじゃないかぁ?
モテてる奴、気に入らなひィ。
銀髪に色白肌・・・ホシイゾオォ。
次は・・・お前のカオだぁ!」
拓男はカタツムリ型悪魔に変身。
異能力を借りて自分の首を狙おうとした。
「拓男ォ!?」
「粘着ネンチャクウゥ! インドアアァァオ!!」
体内から射出した粘膜でドアを塞ぐ。
強力な粘着力で開きそうにない。
拓男は防音施設という仕様の裏をかいて
あえて人の少ない密室を狙っていた。
そして、あろうことか声優が演じるキャラクターの
ギャップに逆に招かれていた。
「お前は、非現実でも肩入れするんだな。
妄想が激しいのは前からそうだったが」
「オレハコレクションガスキナダケダ。
ナノニ、リカイシナイ。
ニンギョウヲアツメルノガナニガワルイ!?」
だが、レア物のフィギュアに釣られたのは
予想外で、ホストクラブの席に置いてあったのは
おかしいと思ったようだ。
始めは警戒するものの、確認と己の欲求混じりで
つい手を伸ばしにきてしまった。
「ACが関わっているなら見逃せない。
拓男、縄についてもらう」
「ブルアッ、ブチョチョ!」
カタツムリ型は壁を這って天井に着く。
拓男の顔が別の形状に変化して
ホストクラブ会員の頭に変わった。
「クビィ!」
雄叫びと同時に触手の様なものが伸びてきて回避。
ACで強化していなかったら、首が落ちていた。
「イケメン、イケメン、メンクライ。
アリノママ、ミナイナラ、カエルマデ」
性格に合わせたかの様な粘着質のある攻撃。
血が飛び散っていなかったのも、分かった気がした。
ドアに付着している液体で出血を抑えながら
大きな音をたてずに首を溶かしていたのだろう。
説得の余地もなく、こちらの攻撃も余儀なくする。
モーションは遅いが、殻が固くて剣を弾かれる。
クラーレでは上手に毒を回せられない。
「お前、剣持ってるのか!?
イヒヒ、おれに負けないくらいの中二だな」
「これは悪魔を斬る刃だ!
晃京を解放するために今、俺は戦っている!」
「シュシュシュ、この上なくファンタジーを極めてるな!
ま、主人公は剣っていうのもありきな設定だよなぁ。
でも、定番すぎても飽きられる。
だからな、これからの時代は裏方が表を制するんだ。
計算高く立ち回るコッソリ系なんだよぉ。
というのは・・・現代人が裏取り防止で、
本性を隠し持つ程狡猾だからだよォ!」
口から霧の様な何かを吐き出した。
催涙効果のガスでホストクラブ店員を奇襲した手口で
同じように行動を抑えにかかる。
(まずい・・・眠くなる)
拓男は倒れたのを確認。
歪んだ顔付きで体内から液体をにじませる。
聖夜の首に触手を伸ばした時であった。
バシュッ
「ゴォエアア!?」
カロリーナの置いたフィギュアから氷が発散する。
急激な冷気の放出に驚いて仰け反った。
人形に反応を示したのか、部屋の外から救援が来ている。
彼女も異変に気付いて加勢に入ろうとした。
「「聖夜、すぐに開けるから待ってなさい!?」」
「待ち伏せか、くそぉっ!」
拓男は今更囲まれていると気付き、脱出を図る。
しかし、氷漬けでダクトが塞がれて出られずに
おどおどしながら立ち往生し始めた。
さらに冷気で耐性が落ちたのか、
冷たさで目が覚めた自分は状況を再確認し直して
剣を握りしめた。
「「ううっ、危なかった。
拓男、もう諦めろ。逃げ場はない」」
リビアングラスの先端がカタツムリ型の前に
辿り着くように角度を調整して見やる。
拓男も複数反射する移動先は読めずに、
触手の伸ばす先が判断できないようだ。
ピエトラの先端が頭部の細長い接続部を斬り、
ホストクラブ会員の首が落ちる。
「おれの頭がない、ないいイイィィッ!?」
(まずい・・・)
頭を落とした光景に反吐が出そうになり、
罪悪感が自分の頭に返ってくる。
だが、拓男は苦痛の感覚もなく発言しながら
自身の体内でモゾモゾとしている。
そして、すぐに別の頭に交換した。
「もういい、カッコイイ頭に代えてやる!
あんな顔なんていらない、もう」
(平気なのか・・・?)
拓男は普通に意識をもってしゃべっているが、
頭部を入れ替えて何か対策しようとしている。
しかし、様子がおかしい。
額に所持しているであろう淡い白色ACが見えた。
本人を突き動かす根源を発見。
そして、白は石の様な灰色に変化する。
(色が変わった?)
「オギィッ、頭が取れない!?
硬い、取れろ・・・とれろおおおおオオオォォッ!!」
元の頭に戻ってゆく。
ピエトラの効果か、硬質化で軟体動物のぬめりけと
滑らかさを失っているようだ。
「おれはセメントなんかじゃない、
彼女をつくる権利、道理、筋合いがあるはずだ!
なのに、なんで、相手をしてくれないんだ!?
どうしておれをウケイレテクレナイ!?」
「もう諦めて投降しろ!」
苦しんでいるようでグネグネし始める。
中で代わりの頭を取り出そうともがくも、
石化で上手く引き出せなくなっていた。
ビジュアルに恵まれないゆえに、自身を変えたいという
願望の末路は石の塊で抑えられてゆく。
ACは所有者の意識で能力を引き出す仕組みで、
拓男ならではの悩み、コンプレックスが
自意識と結晶内の制御がとれていないのか、
天井に張り付く体制がグラついてきた。
「オレハカッコイイイケメン!
カワリ、カワル、カワレ!
モテタイ、モテタイ、モテ――」
グシャッ
拓男の体は粉砕してしまった。
肉体そのものを結晶と化す望みが強すぎたのか、
砕け散る最後を迎えてしまう。
首狩りを引き起こしたACを残しながら、
拓男の体はどこにもなく、石の欠片だけ散乱していた。
「拓男・・・」
張本人らしき人間の頭が液体混じりに変形。
その顔は見覚えのある、昴峰学園の生徒。
去年から見かけなかった同級生だった。
「お前・・・拓男か!?」
「聖夜・・・なんで・・・ここに!?」
正体は風見鳥拓男。
クラスメイトの生徒が現れた。
天然パーマの男は自分の姿を見て驚く。
鉢合わせで言い逃れもできない状況の中、
同級生の悪魔同化に自分も言葉を失う。
人が魔物と化すのは川上と同様。
言い方が悪いが、拓男は場違いだと思うくらい
ホストクラブと無縁な性格にみえた。
休校からほとんど顔を出さず、こんな繫華街で
常軌を逸した行為を繰り返していた。
それがどうして?
部屋の背景と人物像のズレをみながら問い出した。
「意外だった、まったく想像もつかない事を・・・。
去年から学園にも来ないで、なんでこんな所で?」
「こっちの勝手だろ、どこで何をしようと。
おれだって、カッコよくなりたいんだ・・・」
「身成りの問題か? お前はハッキリとものを言わないし、
どちらかと性格によるものじゃないのか?」
「ちがうゥ! 顔だ!
リアルもアニメも顔こそ最重要ファクトォ!」
「たかが見た目くらいで、ここまでやらかす程?
殺人なんて起こそうと思うか普通?」
「顔はカンタンに変えられやしない!
化粧なんていう低レベルな誤魔化しじゃなく、
骨格、肉付き、整った形相だ」
「なら、単純に整形すれば良いだけじゃないか?」
「整形する金もないけど、それでもいずれは劣化する。
ある日、道端で結晶を見つけたんだ。
拾うと、中から聴こえてきた。
“変わりたくないか”と」
「声が聴こえてきただって?
お前もACを!?」
「外見を変えてくれると言った。
相手に気付かれずに頭を濾しとる。
どれだけ年を取っても、若い顔のままでいられるって。
そこで思ったんだ、いつどこでも道を歩けるように
効率よく頭部まるごと変えてしまえって」
拓男は自身の外見にコンプレックスをもっていた。
ふとした事で通路に落ちていたACを拾い、
悪魔の力で変装できると知ると、そのまま鵜呑みにして
催涙効果の体液を散布して争乱もなく、
目標にすら気付かれないまま首を持ち去っていった。
しかし、ホストクラブを集中して襲う理由は分からない。
そこそこ良い顔の者なんて身近にいるのに、
同所ばかりこだわるのが不思議に思った。
「それで、なんで繫華街を狙うんだ?
お前は普段からあんな所には行かないだろう?」
「おれが・・・じゃないんだよぉ。
人が判断しているからだろぉ。
お前、張りぼて大国のここでそれ言うか?」
「そんな事で首を持っていく動機にならない!
人を殺してまで欲しがるものなのか?
何があったんだ!?」
「隣のクラスに好きな子がいた・・・。
いつも読書をして、周りと大きな声も出さずに
図書室でよく澄ましていた。
だけど・・・おれは買い物途中で見てしまったんだ。
実際、あいつは遊び人。
よりによってあんなチャラい場所、
ホストクラブに入り浸っていたんだよ!
お澄まし系じゃなく雄増し系、ビッチビッチィィ!」
彼女は黒髪ロングで清楚な子だった。
しかし、学園でみる外見とは裏腹に外では
様々な男と遊び惚けていた。
「でも、外見で判断してたのはおれも同じなんだ。
中身をみようともせず、ガワだけであの子を。
男も女も・・・見た目だけで目だけ、シュシュウ」
「・・・・・・」
「人間なんて、どうせ目先のビジュアルしか向けない
チンパンジーと同じ感性なんだ。
別じゃ、同じ穴の狢。
しょせん、人は見た目が10割。
外見で選ばれ、外見で弾かれる。
浮ついたポップな馬鹿ばかり。
男の場合、気取ったチャラそうな世界は?
その代表格がここ、ホストクラブだからさ」
「そうかもしれない。
でも、中身でしか通用できない世界もあるだろう?
何か成果を見せれば分かってくれるところもある」
「外見で先に判断するのがヲカシイだろぉ!?
世の中よく視てから言えよォ!
面接だって学院通った奴ですら数十社も落とされる。
見た目がキモイってだけでなぁ!」
男女不遇の葛藤の果てが拓男の行動原理だった。
見た目が最優先される世の中を疎ましく憎み、
結局は自分も変わろうとして凶行に及んだ。
「そんな訳だけで・・・お前は」
「人間平等、ビョウドウなんだ。
おれにも権利がある・・・イケメンになるケンリが。
自分が変われば、顔が変われば、ふりむいてくれる。
あの子はおれをミてくれるんだああァァ!」
「お前はただの犯罪者だ!
やってるのは平等どころじゃない。
顔面どころじゃ済まない事をやってるんだぞ!」
「おれが報われてないからイラプション不可避。
人間平等なら番も平等だ!
光一から聞いたぞ。
聖夜もずいぶん女子生徒と一緒にいるんだって?
あの3人と仲が良いそうじゃないかぁ?
モテてる奴、気に入らなひィ。
銀髪に色白肌・・・ホシイゾオォ。
次は・・・お前のカオだぁ!」
拓男はカタツムリ型悪魔に変身。
異能力を借りて自分の首を狙おうとした。
「拓男ォ!?」
「粘着ネンチャクウゥ! インドアアァァオ!!」
体内から射出した粘膜でドアを塞ぐ。
強力な粘着力で開きそうにない。
拓男は防音施設という仕様の裏をかいて
あえて人の少ない密室を狙っていた。
そして、あろうことか声優が演じるキャラクターの
ギャップに逆に招かれていた。
「お前は、非現実でも肩入れするんだな。
妄想が激しいのは前からそうだったが」
「オレハコレクションガスキナダケダ。
ナノニ、リカイシナイ。
ニンギョウヲアツメルノガナニガワルイ!?」
だが、レア物のフィギュアに釣られたのは
予想外で、ホストクラブの席に置いてあったのは
おかしいと思ったようだ。
始めは警戒するものの、確認と己の欲求混じりで
つい手を伸ばしにきてしまった。
「ACが関わっているなら見逃せない。
拓男、縄についてもらう」
「ブルアッ、ブチョチョ!」
カタツムリ型は壁を這って天井に着く。
拓男の顔が別の形状に変化して
ホストクラブ会員の頭に変わった。
「クビィ!」
雄叫びと同時に触手の様なものが伸びてきて回避。
ACで強化していなかったら、首が落ちていた。
「イケメン、イケメン、メンクライ。
アリノママ、ミナイナラ、カエルマデ」
性格に合わせたかの様な粘着質のある攻撃。
血が飛び散っていなかったのも、分かった気がした。
ドアに付着している液体で出血を抑えながら
大きな音をたてずに首を溶かしていたのだろう。
説得の余地もなく、こちらの攻撃も余儀なくする。
モーションは遅いが、殻が固くて剣を弾かれる。
クラーレでは上手に毒を回せられない。
「お前、剣持ってるのか!?
イヒヒ、おれに負けないくらいの中二だな」
「これは悪魔を斬る刃だ!
晃京を解放するために今、俺は戦っている!」
「シュシュシュ、この上なくファンタジーを極めてるな!
ま、主人公は剣っていうのもありきな設定だよなぁ。
でも、定番すぎても飽きられる。
だからな、これからの時代は裏方が表を制するんだ。
計算高く立ち回るコッソリ系なんだよぉ。
というのは・・・現代人が裏取り防止で、
本性を隠し持つ程狡猾だからだよォ!」
口から霧の様な何かを吐き出した。
催涙効果のガスでホストクラブ店員を奇襲した手口で
同じように行動を抑えにかかる。
(まずい・・・眠くなる)
拓男は倒れたのを確認。
歪んだ顔付きで体内から液体をにじませる。
聖夜の首に触手を伸ばした時であった。
バシュッ
「ゴォエアア!?」
カロリーナの置いたフィギュアから氷が発散する。
急激な冷気の放出に驚いて仰け反った。
人形に反応を示したのか、部屋の外から救援が来ている。
彼女も異変に気付いて加勢に入ろうとした。
「「聖夜、すぐに開けるから待ってなさい!?」」
「待ち伏せか、くそぉっ!」
拓男は今更囲まれていると気付き、脱出を図る。
しかし、氷漬けでダクトが塞がれて出られずに
おどおどしながら立ち往生し始めた。
さらに冷気で耐性が落ちたのか、
冷たさで目が覚めた自分は状況を再確認し直して
剣を握りしめた。
「「ううっ、危なかった。
拓男、もう諦めろ。逃げ場はない」」
リビアングラスの先端がカタツムリ型の前に
辿り着くように角度を調整して見やる。
拓男も複数反射する移動先は読めずに、
触手の伸ばす先が判断できないようだ。
ピエトラの先端が頭部の細長い接続部を斬り、
ホストクラブ会員の首が落ちる。
「おれの頭がない、ないいイイィィッ!?」
(まずい・・・)
頭を落とした光景に反吐が出そうになり、
罪悪感が自分の頭に返ってくる。
だが、拓男は苦痛の感覚もなく発言しながら
自身の体内でモゾモゾとしている。
そして、すぐに別の頭に交換した。
「もういい、カッコイイ頭に代えてやる!
あんな顔なんていらない、もう」
(平気なのか・・・?)
拓男は普通に意識をもってしゃべっているが、
頭部を入れ替えて何か対策しようとしている。
しかし、様子がおかしい。
額に所持しているであろう淡い白色ACが見えた。
本人を突き動かす根源を発見。
そして、白は石の様な灰色に変化する。
(色が変わった?)
「オギィッ、頭が取れない!?
硬い、取れろ・・・とれろおおおおオオオォォッ!!」
元の頭に戻ってゆく。
ピエトラの効果か、硬質化で軟体動物のぬめりけと
滑らかさを失っているようだ。
「おれはセメントなんかじゃない、
彼女をつくる権利、道理、筋合いがあるはずだ!
なのに、なんで、相手をしてくれないんだ!?
どうしておれをウケイレテクレナイ!?」
「もう諦めて投降しろ!」
苦しんでいるようでグネグネし始める。
中で代わりの頭を取り出そうともがくも、
石化で上手く引き出せなくなっていた。
ビジュアルに恵まれないゆえに、自身を変えたいという
願望の末路は石の塊で抑えられてゆく。
ACは所有者の意識で能力を引き出す仕組みで、
拓男ならではの悩み、コンプレックスが
自意識と結晶内の制御がとれていないのか、
天井に張り付く体制がグラついてきた。
「オレハカッコイイイケメン!
カワリ、カワル、カワレ!
モテタイ、モテタイ、モテ――」
グシャッ
拓男の体は粉砕してしまった。
肉体そのものを結晶と化す望みが強すぎたのか、
砕け散る最後を迎えてしまう。
首狩りを引き起こしたACを残しながら、
拓男の体はどこにもなく、石の欠片だけ散乱していた。
「拓男・・・」
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説


異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
常世の守り主 ―異説冥界神話談―
双子烏丸
ファンタジー
かつて大切な人を失った青年――。
全てはそれを取り戻すために、全てを捨てて放浪の旅へ。
長い、長い旅で心も体も擦り減らし、もはやかつてとは別人のように成り果ててもなお、自らの願いのためにその身を捧げた。
そして、もはやその旅路が終わりに差し掛かった、その時。……青年が決断する事とは。
——
本編最終話には創音さんから頂いた、イラストを掲載しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる