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第28話 晶膜剝離
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2012年2月6日
内閣総理大臣官邸に正倉院蓮が呼び出されて訪問。
晃京一帯における状況を行政に報告していた。
悪魔は今だに出現を続け、夜明けまで小規模ながら
ビルディングの隙間で人々を襲い続ける。
都庁周囲500m範囲内は警戒態勢を続けるが、
上の命令は火器の過剰使用を禁ずるもの。
2次災害を考慮の上に具体的な話し合いを議論している。
ただ、部屋にいるのは総理だけでなく、
3人の女性議員の姿もあった。
「都庁を占領されてから1ヶ月が経ちました。
未だに解決できないとはどういう事ですか?
正倉院大臣?」
「悪魔とよばれる当該敵性体への対処は
金属性を含む体質をもっているのが判明しております。
形状も既存する生物型が多いのが特徴ですが、
区画の都合、戦車や装甲車も縦横に回れず、
銃器による方法が最適だという見解です。
よって、人員のみ厳戒態勢で当たっております」
「イヤァオ、鉄砲などという蛮器なんて!
一般人に当たったらどうするつもりザマスか!?」
「現実問題として近接戦闘は非効率的で、
遠距離射撃で対処する他にありません」
悪魔を処理しろ、だけど銃は使うな。
現場の実情に目を背けるだけの絵空事ばかりの訴えに、
いつまでも膠着ばかり。
無理難題な解決法を押し付けられて、
最適解に近い言い分を与えるしかなかった。
3人の内にいた山田陰子は最も口数が少ない中で、
合間を縫うように要求をする。
「そうですね、国民のために尽力していると
あなたの御顔を見て察します。
軍事色を大きく表さない配慮は評価に値します」
「はい」
「しかし、安全面というものは脅威と同時に
平行して取り組む事がとても重要。
よって、的確かつ速やかな対処でお願いします。
女性の立場も十分に視野を入れて考えて下さい。
一刻も早く歩けるような道にしたいのですから」
「はい、結晶の溶解方法が明らかになるよう、
防衛プランが立案されるまでお時間を頂きたい」
という流れが続く。
総理も後ろ盾とばかり3人の意見に同調し、
大した結論も出せないままに議論は終わり、
蓮は執務室から顔をそむけるように出た。
「失礼します」
ACに関しても深く関与する素振りもみせず、
内閣総理大臣との答弁は典型的な議事録劇で幕。
当人たちに理解しやすそうな結論で外に出る。
今に始まったわけではないが、政治の世界は
言葉の相撲の連続で押し問答ばかりの
ディベート試合のようなものだ。
計画の見通しは未だに明らかにはできず。
都庁の結晶はあまりにも頑丈で、介入は不可能。
今は監視あるのみと横眼にしつつ公共場を後にすると、
公用車の前に1人の男が待っていた。
「お疲れさんです、大臣」
「武田君」
武田誠がわざわざ出迎えにきた。
陸将補という重役なのに、よく護衛役として
自ら防衛省や自宅まで同行してもらっている。
大臣と直に会うのは恒例だが、
部下への指示は1級陸佐にほとんど任せて、
自分のボディーガードの身で置いている。
もちろん理由がある故での参上だったが、
内容は以下の会話で明らかとなる。
「あれから20年経ちましたね」
「ああ」
「俺は自衛隊に残りましたが、皆は散り散りに
自身を振り返りながら今を送り続けています。
忌まわしき経験が他で活かせられれば良いですが」
「執念はどこまでも憑いて回る。
ここにいる事が正解といえるだろうか。
事務職に就いてからは、ひたすら書類という
面の塊と向き合うのみだ。
私に合っているのかは未だに判明しきれん」
「ACというのは人によって適性の各があるんですよね?
悪魔なんてモノが実際に目で見える相手なんて
まだ分かりやすい方です。
それこそ、念の押し合いである国会はどうだか。
官邸に行くのも億劫ですからね。
幽霊が出る噂に堪えてしまいました?」
「何を云うか。
会えるものなら会ってみたいくらいだ」
ずいぶんと馴れ馴れしい口調だが、𠮟責もせずに受け流す。
理由は彼が先に発言した20年前。
2人共々、自衛隊に所属して部隊長を務めていた。
凄惨極まるあの出来事があたかも
昨日の出来事の様に脳裏に焼き付いている。
内の1人である自分は当時の状況を語った。
「私のいた部隊は130人。
人はあっけなく消費されてゆく現実を思い知らされた」
海岸からの奇襲は十分な想定していたものの、
縦浜湾岸で陣取り、防衛ラインを敷いたが、
巧妙な突破口を突かれ、80人が戦死。
事態を重くみた武田の部隊から10人応援に来る。
後でタンク設置場所に20人が駆けつけてくれたが、
海岸からの敵がいなかったのでただちに帰還。
残存していた武田君の部隊に移して身を固め直し、
生き残る事ができた。
「それが、今度は悪魔と対峙するとは・・・」
「今だに日本に執着してるというか、何というか」
「あの時は本当に終わるのかと思っていた。
今でも君の助力には感謝している」
「当然の行動をしたまでですよ。
味方が次々と奇襲を受けて、砲撃の衝撃で
思わず倒れそうになりましたから」
「だが、失ったのも決して少なくはなかった。
我々はただ、運良く生存できただけの事。
残る者が示しを与えてゆかねばならないが、
私が本当の意味で適正者と云えるだろうか・・・」
「逝った者は還ってこない。
昨日まで隣にいた者があっさりと消えてしまって。
本物の幽霊なら、まだマシかもしれませんね」
「・・・まあ、そうだな」
今はテロリストの代わりに悪魔が台頭しにきた。
相手が変わろうとも守るものは変わらない。
生活という場のために飛来した凶行を防ぐ事が
どこまでも生きている側の使命なのか。
それ以上に会話は続かず、沈黙となる。
2人は顔をフロントガラスに向けながら
そのまま防衛省へ一直線に向かった。
内閣総理大臣官邸に正倉院蓮が呼び出されて訪問。
晃京一帯における状況を行政に報告していた。
悪魔は今だに出現を続け、夜明けまで小規模ながら
ビルディングの隙間で人々を襲い続ける。
都庁周囲500m範囲内は警戒態勢を続けるが、
上の命令は火器の過剰使用を禁ずるもの。
2次災害を考慮の上に具体的な話し合いを議論している。
ただ、部屋にいるのは総理だけでなく、
3人の女性議員の姿もあった。
「都庁を占領されてから1ヶ月が経ちました。
未だに解決できないとはどういう事ですか?
正倉院大臣?」
「悪魔とよばれる当該敵性体への対処は
金属性を含む体質をもっているのが判明しております。
形状も既存する生物型が多いのが特徴ですが、
区画の都合、戦車や装甲車も縦横に回れず、
銃器による方法が最適だという見解です。
よって、人員のみ厳戒態勢で当たっております」
「イヤァオ、鉄砲などという蛮器なんて!
一般人に当たったらどうするつもりザマスか!?」
「現実問題として近接戦闘は非効率的で、
遠距離射撃で対処する他にありません」
悪魔を処理しろ、だけど銃は使うな。
現場の実情に目を背けるだけの絵空事ばかりの訴えに、
いつまでも膠着ばかり。
無理難題な解決法を押し付けられて、
最適解に近い言い分を与えるしかなかった。
3人の内にいた山田陰子は最も口数が少ない中で、
合間を縫うように要求をする。
「そうですね、国民のために尽力していると
あなたの御顔を見て察します。
軍事色を大きく表さない配慮は評価に値します」
「はい」
「しかし、安全面というものは脅威と同時に
平行して取り組む事がとても重要。
よって、的確かつ速やかな対処でお願いします。
女性の立場も十分に視野を入れて考えて下さい。
一刻も早く歩けるような道にしたいのですから」
「はい、結晶の溶解方法が明らかになるよう、
防衛プランが立案されるまでお時間を頂きたい」
という流れが続く。
総理も後ろ盾とばかり3人の意見に同調し、
大した結論も出せないままに議論は終わり、
蓮は執務室から顔をそむけるように出た。
「失礼します」
ACに関しても深く関与する素振りもみせず、
内閣総理大臣との答弁は典型的な議事録劇で幕。
当人たちに理解しやすそうな結論で外に出る。
今に始まったわけではないが、政治の世界は
言葉の相撲の連続で押し問答ばかりの
ディベート試合のようなものだ。
計画の見通しは未だに明らかにはできず。
都庁の結晶はあまりにも頑丈で、介入は不可能。
今は監視あるのみと横眼にしつつ公共場を後にすると、
公用車の前に1人の男が待っていた。
「お疲れさんです、大臣」
「武田君」
武田誠がわざわざ出迎えにきた。
陸将補という重役なのに、よく護衛役として
自ら防衛省や自宅まで同行してもらっている。
大臣と直に会うのは恒例だが、
部下への指示は1級陸佐にほとんど任せて、
自分のボディーガードの身で置いている。
もちろん理由がある故での参上だったが、
内容は以下の会話で明らかとなる。
「あれから20年経ちましたね」
「ああ」
「俺は自衛隊に残りましたが、皆は散り散りに
自身を振り返りながら今を送り続けています。
忌まわしき経験が他で活かせられれば良いですが」
「執念はどこまでも憑いて回る。
ここにいる事が正解といえるだろうか。
事務職に就いてからは、ひたすら書類という
面の塊と向き合うのみだ。
私に合っているのかは未だに判明しきれん」
「ACというのは人によって適性の各があるんですよね?
悪魔なんてモノが実際に目で見える相手なんて
まだ分かりやすい方です。
それこそ、念の押し合いである国会はどうだか。
官邸に行くのも億劫ですからね。
幽霊が出る噂に堪えてしまいました?」
「何を云うか。
会えるものなら会ってみたいくらいだ」
ずいぶんと馴れ馴れしい口調だが、𠮟責もせずに受け流す。
理由は彼が先に発言した20年前。
2人共々、自衛隊に所属して部隊長を務めていた。
凄惨極まるあの出来事があたかも
昨日の出来事の様に脳裏に焼き付いている。
内の1人である自分は当時の状況を語った。
「私のいた部隊は130人。
人はあっけなく消費されてゆく現実を思い知らされた」
海岸からの奇襲は十分な想定していたものの、
縦浜湾岸で陣取り、防衛ラインを敷いたが、
巧妙な突破口を突かれ、80人が戦死。
事態を重くみた武田の部隊から10人応援に来る。
後でタンク設置場所に20人が駆けつけてくれたが、
海岸からの敵がいなかったのでただちに帰還。
残存していた武田君の部隊に移して身を固め直し、
生き残る事ができた。
「それが、今度は悪魔と対峙するとは・・・」
「今だに日本に執着してるというか、何というか」
「あの時は本当に終わるのかと思っていた。
今でも君の助力には感謝している」
「当然の行動をしたまでですよ。
味方が次々と奇襲を受けて、砲撃の衝撃で
思わず倒れそうになりましたから」
「だが、失ったのも決して少なくはなかった。
我々はただ、運良く生存できただけの事。
残る者が示しを与えてゆかねばならないが、
私が本当の意味で適正者と云えるだろうか・・・」
「逝った者は還ってこない。
昨日まで隣にいた者があっさりと消えてしまって。
本物の幽霊なら、まだマシかもしれませんね」
「・・・まあ、そうだな」
今はテロリストの代わりに悪魔が台頭しにきた。
相手が変わろうとも守るものは変わらない。
生活という場のために飛来した凶行を防ぐ事が
どこまでも生きている側の使命なのか。
それ以上に会話は続かず、沈黙となる。
2人は顔をフロントガラスに向けながら
そのまま防衛省へ一直線に向かった。
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