Crystal of Latir

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      壁の中のエステティック3

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「深夜に学園を徘徊するとは不届き者。
 オシオキが必要だなァ。
 でよ、我が愛しきゴーレムよ!」

白い柱が浮遊し始めて人型に変わってゆく。
ゴーレムとよばれる悪魔と対峙たいじ
彫刻像が立ちはだかった。

「教師がこんなモン出すかふつう!?」
「操られているのかも、目が怪しすぎてなんというか」

彫像に宿る心に惑わされたのだろう。
この地下室も、マーブルの保管場所として
隠蔽いんぺいしていたようだ。
マナはまだ来ない。
訳が分からなくも、AC回収だけは目的として
変わらないので、先生を討伐しても達成しようと挑んだ。

入口が白く染まり、塞がれる。
監禁者とばかりに退路を断って
3人は教師の追い込みをせばまれた。

「特別授業と指導をしてやろう!
 私の芸術、しかと味わうと良いィ!」
「ちょ、芸術って!?」

ヒト型は拳らしい先端部で殴りつけてきた。
体罰にしては度が過ぎるが、お構いなしに戦闘態勢を
とらせる状況にもちこさせようとする。
ゴーレムはパンチ、リビアングラス発動でかわす。

「聖夜ァ、いつも髪を伸ばしおって!
 女みたいな格好して、なんだ!?」
「この間に切りました!」

ゴーレムはパンチ、ヒョウに変身してかわす。

「郷ォ、いつも赤点スレスレ、バイクを乗り回して
 校風を乱してばかり! 退学されたいのか!?」
「チクショー!」

ゴーレムはボディプレス、何故かカロリーナには殴らず。
あまりにも動作が遅いのでACも発動せずに避ける。

「カロリーナッ、いかがわしい雑誌などに出おって!
 学園イメージガー、体裁ガー!」
「読者モデルだし! 肌見せてないし!」

日頃の生活態度を指摘しながら迫る教師。
それにしても、このゴーレムはパンチと体当たりしか
繰り出してこない。
悪魔を召喚できる割にはあまり戦闘に特化した
モーションをこなせてないような気がした。
ここぞとばかり郷はヒョウ型に変身。
さっさと終わらせようと白い巨体を砕きにかかる。
だが、咬みつきや引っ搔きで鉱物にダメージは与えられず、
クラーレもマーブルという無機質に生物的な神経毒を
伝わらせる効果が見込めない。
リビアングラスとヒョウの流動で攪乱かくらんを狙い、
戦闘、とはよべない舞に攻略を模索する。

「どうすんだよ!?
 また殴られなきゃなんねえのか!?」
「どうするったって、担任が相手じゃあどうにも!」
「ぼうりょくきょおしいいいぃぃ!」
「ムダな抵抗は止めて、大人しく罰を受けろ!
 停学処分を下すぞ!」

素直に停学させれば良いものの、これ見よがしに
持ち結晶をふるいにかざす。
やはり操られているのか、危害を加えるわけにはいかず。
一端離れて根源を見つけようと変更。
ここで厘香から借りたクリアクォーツを思い出した。
一定時間のみ姿を消せる効果のACで、
本当なら見つかる前に使いたかったが、
不意打ちに地下の一室で体力温存のかくれんぼ。
どうにかやり過ごせないかと使ってみる。

「んんっ、いない?」

先生が自分達の姿が消えたのを躊躇ちゅうちょする。
だが、慌てる素振りもなく白い球体を再び構え始めた。

「物質は決して消滅する事などありえん。
 消えたのではなく、視えなくなっただけだ。
 なら、教えてやらねばならんな。
 白日の下にさらすとはこういう事だと」

その言葉と同時に床が白く染まってゆく。
部屋の全てに満ちた後、透明の足跡が6つくっきりと
型取りして表れた。
言うまでもなく自分達の足だ。

「脚が!?」
「動けない!?」

居場所が見つかって脚をとられてしまう。
先生は床の下にも仕込んでいたようで、
単調な操作しかできないとあなどっていた。
戦闘に長けてなくとも、行動心理には長けた人生経験者。
後は折檻せっかんが待っているのみ。

「・・・・・・」

カロリーナは教師の持つACの性質を視察する。
マーブルは硬直に特化しているようで、
骨折した部分を石膏せっこうで固めるのと同じ仕組みで、
構成されたのは同じ成分だと気付いた。

「悪いけど先生、ACの硬質としてはイマイチですよ。
 濁流せよ、水女の涙gonungisggraphdon!」
「!?」

彼女のシーブルーカルセドニーから水が放出、
軟化して泥になった。
自由に操れるといえど、質は軟性のある物と同じなので
水分を吸って液状化してしまった。

「ゲイジュツウウウゥゥン!!」

白きヒト型は砕け、いや、溶けて散る。
何故か倒れていた福沢先生は血の気が失せて
グッタリとしていた。
自分達は当人に一切危害を加えていない。
常軌をいっした教師との交戦は終わった。

「福沢先生!」
「本体はあの白い方よ。
 ACの彫刻悪魔は洗脳で先生を招いたんだと――」
「「いいや・・・私は操られてなどいない。
  自らの・・・意思イシだ」」
「先生・・・」

校長よりも熟知していた先生は転在されたこの学園に、
り所を求めていたのだろう。
人は誰しも、過去の栄光にすがる時がある。
1人の女性の喪失で何もかも変わっていった。

「私は、ACにおぼれたわけではない。
 自身で築いてきた・・・が、それも・・・もう」
「・・・・・・」
「戻りたい・・・あの時の輝かしい白に・・・また」

先生は気絶した。
何度も言うようにまったく危害を加えていないが、
召喚操縦に精力尽きて失神したようだ。
マナに入口を解体してもらい、自分と郷で
福沢先生を保健室に連れていって寝かせる。
学園七不思議の1つは真実だった。
人生の所縁ゆかりによってここに流れ着いた
学園の魔術師による奇妙な境遇を感受され、
こうして今回の事件は幕を閉じた。


「お役御免やくごめんね」
「す、すみません~」

 翌日、マーブルはいつもの科警研へ運ばれる。
マーガレットは学園を視察した警官達に勘当かんどう
プロフェッショナルエラーもあるもんだと、
横からすり抜けて入手したACをわたす。

「というわけで、これを」
「さっそく、預からせてもらうわ。
 さ、今回はどんな逸品となるのやら」

主任はまた目を光らせる様な感じでマーブルを引き取った。
この人といい、先生といい、こだわりの境地というものは
若人わこうどには理解できないところがある。
大人というものは自分の世界をつくる傾向があるから。
いつも不思議に思っているけど、
主任はどんな過程で剣を構築しているのだろうか。
ACの性質がそれぞれ特性をもっているのは分かるが、
斬るという道具に当てはめる根端こんたんがまだよく分からない。
ただ、個人的な魂胆こんたんなのだろうが、
武士道、騎士道精神の一貫なのかもしれない。
科警研に持ち帰り、つるぎ・・・という代物に変形。
なにかなにかと今回も待っていると、
完成された品は自分にわたってきた。

「名付けて、ピエトラ。
 静止を強要されし者の凝視剣」
「これまたスゴイ異名だな」

石剣せっけんピエトラ、刻んだものを石化させる不動の剣。
つかまでマーブルですべすべした手触りの良さに
彫刻刀といわんばかりの外装で、
斬り付けたものを固める恐ろしい性質だ。
色合いも福沢先生のと同じく、白い長身の得物は
純白に固められた芸術品と見間違えそうなものだった。
マナの目からすり抜けるくらいで、無地に溶け込むような
滑らかさは壁の中に入る感じに錯覚させられそうだ。

「先生が持っていたのと同じ色」
「これも効果があるのは生物型。
 あんたの先生もこれを用いて
 精密な彫像を造っていたんでしょ」
(恐ろしい、だけど)

あまり口に出したくないが、
これもまた気分が晴れるような感じがする。
先生が憧れていた理由が分かる気がした。
学園での遭遇は悪印象だったけど、
結果はオーライと恩に着ると感謝した。

後に福沢先生は逮捕され、懲戒解雇。
ACを手にした経緯により、身元を調べ上げられた。
しかし、実際ヨーロッパに行った経歴があったものの、
現地で接触したといわれる女性は実在していなかった。
在籍していた芸術家協会の管理下の1つである家屋で、
倉庫を掃除中にたまたまマーブルを入手したが、
昴峰学園を建てた資産家周囲に、
芸術に携わった女性は1人もいなかったという。
手掛けた品から証拠も見つからなかった。
1つ解明された不可思議な話はまた追加されてしまい、
これが新たに代わる七不思議の1つとなる。
先生の件については世代間の幅が離れすぎて、
事件性は古すぎて深い重要さもなく、
さすがにこれ以上追及する気が起こらなかった。
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