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第18話 教会の長
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2012年1月2日
マナの家、アヴィリオス教会に一台の車が停止。
大使館員の運転手が後部のドアを開けると、
男が杖を突き出してから出てくる。
数人のシスター達が通り道の両脇に立ち、
偉人を待つ様式で出迎えの声をあげた。
「お帰りなさいませ」
「うむ」
長く白い髭を生やした老人が聖堂に入る。
すでに扉が開かれた奥にはマナが待っていた。
「お父様」
「元気にしていたかい、マナ?」
ロストフ・アヴィリオス。
マナ、ジネヴラの父であり、ロザリアの夫である。
司教の1人でヨーロッパから来日。
もちろん、晃京事変で視察をするべく
ありのままの現状を理解するのが父のモットーの1つ。
応接室のソファーに腰を据えて姉の様子を聞いた。
ここでマナの視点に切り替わる。
「生活には慣れたのか?」
「お陰様で、純然たる生活を送れています。
悪魔討伐もできる範囲で取り組んでおります」
「うむ、これが粛清というものなのだな。
目立ちすぎず速やかな対処が我々の国とは異なる。
極東ならではの不動たる静けさだ。
ジネヴラはどうした?」
「今は都心で巡回しています。
悪魔の死骸駆除も欠かさずに行っていて、
後片付けをしていると」
自分とは違って直に行動するのが多い姉の代わりに
店番や庭番をするような立場だ。
父は普段、ここにはいない。
本籍はイギリスに置いたままなので、
実質的な責任者としてはロザリアに任せていた。
司教という高い立場の者が極東支部まで
脚を運ぶのは行事や一大事な時。
父がここに来たのはもちろん、
晃京に蔓延した悪魔の対処であった。
しかし、海外とは異なる出現方法について懐疑する。
「一部の報告にもあったが、首都を占拠された場所は
防壁として差し支えないようだ。
だが、悪魔生成時が条件成立でも腑に落ちん。
夜間にしか現れないというのは本当か?」
「そのようです。
水完公園は私のルアーに反応して出現したので、
昼間でも活動できる性質のものばかりと推測します」
「意図的に射出させて目標を襲わせる。
どこの国でも同じ手口だ。
ACの出元を抑えない限り、何度でも通用させる」
「しかし、都庁規模の解放なら先の件で
強硬かつ確固たる可能性を目の当たりにしました。
見込みある人が現れたのです・・・適性者が」
「誰なのだ?」
「神来杜聖夜さんです。
同じクラスの生徒で、昨年の12月24日に
本人目前に悪魔が侵入したのを機にAC発現、
及び扱いの指導を始めました」
「同級生の者だな」
紅茶を飲み、テーブルに置くと落ち着いた物腰で
新たな適性者を吟味する。
聖夜が挙げられたのは、占領下における晃京都庁の打開。
警察も自衛隊もまったく介入できない聖域の様な
エリアへ立ち入る可能性をもつ希望の星だと候補した。
精査はすでに昴峰学園で起きた事件で図っている。
「実は学園に数体の悪魔が襲来してきたのですが、
銀ナイフで結晶体を難なく破壊していました。
力の発現を直接見たので、確信しています」
「・・・そうだな。
虚の兆しのある力で、亀裂を与える見込みはある」
「彼ならば、必ず解放してくれると思います。
いずれあの障壁をも突破できると」
「絶対防壁、いずれの有無も取り込む不壊の領域。
結晶の最奥は再び星の一端より如実に生成。
そして今回、日本の主要都市にも現れた。
結末はどうなるのか・・・」
七色に張り巡らされた破壊不可能とされる謎の結晶体は
都庁上層階を守る役割をもつ性質として、
教会の者達にとって覚えのある現象であった。
何かしらの建築物に張り付き、他を寄せ付けない
強固な障壁においそれと侵入を許さない領域。
ただ、科学を重んじる政府にとって一宗教団体のここを
訪れようとする者はほとんどいない。
「警察や自衛隊は来たのか?」
「いえ、元からここは宗教関連ゆえ頼られていないので。
ただ、AC研究者がすでに配置されておりますが」
「相も変わらず信頼の薄さだ。
この国の自衛組織は満足に成せておらんだろう?」
「はい、既存の武力行使でどうにかこなそうという
方針で解決を図る動きが強まっています。
密接に関わるのは科学警察研究所の方くらいです」
「そうか、まあ介入する気がないのならそのままで良い。
この国で云うメンツもあるのだろう。
あの結晶もいつまでも長くは張り付けん。
オリハルコンオーダーズは必ず正体を現すはずだ」
自分はクォーツを取り出して父に聖夜の姿を見せる。
銀髪と色白肌の男を凝視して、
表情を変えずに彼について説明した。
「私の所有するACもいくつか彼にわたしましたが、
全て難なく能力を発動させています。
その、適性の潜在予想値ですが・・・私には」
「・・・測り知れなくて当然だ。
この男、潜在底値がまるで読めん」
「そこまであるのですか!?」
父は聖夜の適性力を不明と示す。
自分の知る限りでは、父は肌に浮く血管を診て
ACの何と相応しいのか読めるという。
限りなく白い聖夜の姿に、底という終着地が
長年の経験でも捉えきれなかったようだ。
目を瞑り、余計な情報を視界に入れないよう
精神を模索したように発言した。
「ううむ、やはり観えん。さらに硬く、刻印すら不透明に
若い外様であろうと、心から奥底へ通じる可能性がある。
奴はかなり深く、濃い」
「・・・・・・」
「この様なら、すぐヨーロッパには戻れん。
いずれ、私も彼と接しよう。
そうだな、ACをある程度回収した後に。
直に伝えねばならない事がある」
「はい、よろしくお願いします」
父は個室へ向かってゆく。
横にかけてあった杖を掴み損ねて、
きちんと握り直すのを自分は見逃さなかった。
マナの家、アヴィリオス教会に一台の車が停止。
大使館員の運転手が後部のドアを開けると、
男が杖を突き出してから出てくる。
数人のシスター達が通り道の両脇に立ち、
偉人を待つ様式で出迎えの声をあげた。
「お帰りなさいませ」
「うむ」
長く白い髭を生やした老人が聖堂に入る。
すでに扉が開かれた奥にはマナが待っていた。
「お父様」
「元気にしていたかい、マナ?」
ロストフ・アヴィリオス。
マナ、ジネヴラの父であり、ロザリアの夫である。
司教の1人でヨーロッパから来日。
もちろん、晃京事変で視察をするべく
ありのままの現状を理解するのが父のモットーの1つ。
応接室のソファーに腰を据えて姉の様子を聞いた。
ここでマナの視点に切り替わる。
「生活には慣れたのか?」
「お陰様で、純然たる生活を送れています。
悪魔討伐もできる範囲で取り組んでおります」
「うむ、これが粛清というものなのだな。
目立ちすぎず速やかな対処が我々の国とは異なる。
極東ならではの不動たる静けさだ。
ジネヴラはどうした?」
「今は都心で巡回しています。
悪魔の死骸駆除も欠かさずに行っていて、
後片付けをしていると」
自分とは違って直に行動するのが多い姉の代わりに
店番や庭番をするような立場だ。
父は普段、ここにはいない。
本籍はイギリスに置いたままなので、
実質的な責任者としてはロザリアに任せていた。
司教という高い立場の者が極東支部まで
脚を運ぶのは行事や一大事な時。
父がここに来たのはもちろん、
晃京に蔓延した悪魔の対処であった。
しかし、海外とは異なる出現方法について懐疑する。
「一部の報告にもあったが、首都を占拠された場所は
防壁として差し支えないようだ。
だが、悪魔生成時が条件成立でも腑に落ちん。
夜間にしか現れないというのは本当か?」
「そのようです。
水完公園は私のルアーに反応して出現したので、
昼間でも活動できる性質のものばかりと推測します」
「意図的に射出させて目標を襲わせる。
どこの国でも同じ手口だ。
ACの出元を抑えない限り、何度でも通用させる」
「しかし、都庁規模の解放なら先の件で
強硬かつ確固たる可能性を目の当たりにしました。
見込みある人が現れたのです・・・適性者が」
「誰なのだ?」
「神来杜聖夜さんです。
同じクラスの生徒で、昨年の12月24日に
本人目前に悪魔が侵入したのを機にAC発現、
及び扱いの指導を始めました」
「同級生の者だな」
紅茶を飲み、テーブルに置くと落ち着いた物腰で
新たな適性者を吟味する。
聖夜が挙げられたのは、占領下における晃京都庁の打開。
警察も自衛隊もまったく介入できない聖域の様な
エリアへ立ち入る可能性をもつ希望の星だと候補した。
精査はすでに昴峰学園で起きた事件で図っている。
「実は学園に数体の悪魔が襲来してきたのですが、
銀ナイフで結晶体を難なく破壊していました。
力の発現を直接見たので、確信しています」
「・・・そうだな。
虚の兆しのある力で、亀裂を与える見込みはある」
「彼ならば、必ず解放してくれると思います。
いずれあの障壁をも突破できると」
「絶対防壁、いずれの有無も取り込む不壊の領域。
結晶の最奥は再び星の一端より如実に生成。
そして今回、日本の主要都市にも現れた。
結末はどうなるのか・・・」
七色に張り巡らされた破壊不可能とされる謎の結晶体は
都庁上層階を守る役割をもつ性質として、
教会の者達にとって覚えのある現象であった。
何かしらの建築物に張り付き、他を寄せ付けない
強固な障壁においそれと侵入を許さない領域。
ただ、科学を重んじる政府にとって一宗教団体のここを
訪れようとする者はほとんどいない。
「警察や自衛隊は来たのか?」
「いえ、元からここは宗教関連ゆえ頼られていないので。
ただ、AC研究者がすでに配置されておりますが」
「相も変わらず信頼の薄さだ。
この国の自衛組織は満足に成せておらんだろう?」
「はい、既存の武力行使でどうにかこなそうという
方針で解決を図る動きが強まっています。
密接に関わるのは科学警察研究所の方くらいです」
「そうか、まあ介入する気がないのならそのままで良い。
この国で云うメンツもあるのだろう。
あの結晶もいつまでも長くは張り付けん。
オリハルコンオーダーズは必ず正体を現すはずだ」
自分はクォーツを取り出して父に聖夜の姿を見せる。
銀髪と色白肌の男を凝視して、
表情を変えずに彼について説明した。
「私の所有するACもいくつか彼にわたしましたが、
全て難なく能力を発動させています。
その、適性の潜在予想値ですが・・・私には」
「・・・測り知れなくて当然だ。
この男、潜在底値がまるで読めん」
「そこまであるのですか!?」
父は聖夜の適性力を不明と示す。
自分の知る限りでは、父は肌に浮く血管を診て
ACの何と相応しいのか読めるという。
限りなく白い聖夜の姿に、底という終着地が
長年の経験でも捉えきれなかったようだ。
目を瞑り、余計な情報を視界に入れないよう
精神を模索したように発言した。
「ううむ、やはり観えん。さらに硬く、刻印すら不透明に
若い外様であろうと、心から奥底へ通じる可能性がある。
奴はかなり深く、濃い」
「・・・・・・」
「この様なら、すぐヨーロッパには戻れん。
いずれ、私も彼と接しよう。
そうだな、ACをある程度回収した後に。
直に伝えねばならない事がある」
「はい、よろしくお願いします」
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横にかけてあった杖を掴み損ねて、
きちんと握り直すのを自分は見逃さなかった。
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